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みみなしほういち

表紙
みみなしほういち
●日本の伝説

「みみなしほういち」について

   この悲しい伝説は、壇の浦の合戦という、歴史的悲劇を背景に、盲目の一琵琶法師の痛ましいエピソードを浮き彫りにした、山口県に伝わる話です。
 この話が有名になったのは、明治の文学者小泉八雲が『怪談』という英文の本に著わしてからなのです。小泉八雲という名は、ラフカディオ・ハーンが日本人に帰化した後の名です。ハーンは1850年にギリシアで生まれました。3歳の時、両親は離婚し、みなし子のような、さびしい身の上になりました。19歳の時、単身アメリカにわたり、さまざまな仕事をやりながら、苦しい放浪生活をつづけたのです。しかし、暇さえあれば町の図書館に行き、むさぼるように本を読みつづけました。中でも、インド・中国・日本など東洋について書いた書物が好きで、やがて日本へ、強い憧憬を持つようになりました。
 そして1890年、40歳の時、のぞみかなって、島根県の松江にきて、英語の教師になりました。さらに、この年の末に、もと武士の娘小泉節子と結婚し、節子から聞いた日本の昔ばなしや伝説などをもとに、異常な熱意をもって、短篇の創作をはじめたのです。そして、文字通り粉骨砕身の努力の末、書きあげたのが『怪談』でした。
 「耳なし芳一」は、まさに、ハーンの文学的手腕が、ひさしく塵にまみれていた陰惨な幽霊物語を、かくも香り高い、人間味あふれる作品に仕あげた好例といえそうです。
 あわれな芳一の不安におびえる姿、お墓での不気味な風景、住職や寺男たちの心づかい、経文の功徳―それらが形づくってゆく怪談の味は、かくべつです。
 世界の人々は、ハーンの筆(「怪談」「知られぬ日本の面影」等多数)によって、日本の美しさを知るようになり、日本人はハーンからかえって、日本の美しさを教えられたといっても過言ではありません。

(渋木健太郎)

ぶん:しぶき けんたろう
え:ひらの ていいち
画材:石こう・日本画絵の具
編集プロデュース:酒井義夫

 
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