オンラインブック せかい伝記図書館
松尾芭蕉

表紙
松尾芭蕉(1644−1694)
旅に生きて自然を愛し、人生のものさびしさを深くうたいあげた江戸時代の俳人。

「松尾芭蕉」読書の手びき

 さび、しおり、細み、かるみ。これが、芭蕉の発句の理念でした。しかし、それは、もの静かな趣や、人間と自然へのあわれみや、幽玄な美などを、たんに、ことばで句に盛り込むことを理想としたのではありません。まったく自然に湧きあがってくる発句の心の色あいを言い分けたものです。『野ざらし紀行』『鹿島紀行』『更科紀行』『奥の細道』など、39歳のときに母を失ってからの芭蕉は、そのごの生涯の殆どを旅に生きました。世俗にとらわれる心を断ち切り、風雅の理想をつらぬきとおすために、旅のなかに身を置いたのです。そして、最後に到達したのは、自分を大きな自然にゆだねて無私の境地に立ち、軽く浅く自然に発句することでした。「此の道や行く人なしに秋の暮」「秋深き隣は何をする人ぞ」などの句が、その無私の境地のきわみです。芭蕉の句と旅のあとをたどるとき、人生という旅を深く生きるための心のあり方を、自然のうちに悟らされます。

文:ワシオトシヒコ
絵:鮎川 万
編集プロデュース:酒井義夫

すすむ