20世紀の初めころから,世界じゅうの子どもたちに読みつがれている虫の本があります。森や草むらや土の中にいる虫たちのふしぎな生活を,あたたかい心と,美しい言葉でつづった『昆虫記』です。
この『昆虫記』を書いたジャン・アンリ・ファーブルは,1823年に,南フランスのサン・レモンという小さな村で生まれました。家は,たいへん貧しい農家でした。
暮らしが苦しかったため,ファーブルは,5歳のとき両親と別れ,ひとりだけ,山の中にある祖父の家にあずけられました。
「ぼく,ちっとも,さみしくなんかないよ」
山へきたファーブルは,毎日,いろいろな昆虫がいる牧場や森へ行ってあそびました。
昆虫をみつけると,何時間でも,そばからはなれません。めずらしい虫の鳴き声が聞こえると,何日かかっても,その虫をさがします。
「あの子は,ほんとうに虫きちがいだ」
祖父も祖母も,あきれてしまいました。
昆虫にむちゅうになっただけではありません。ふしぎに思えることはなんでも調べたがりました。ある日,太陽に向かって,目をとじたり口を大きくあけたりして,祖父をびっくりさせたことがあります。
「ぼく,太陽の光が,目で見えるのか口でわかるのか,実験してみたんだよ。光は目で見えるんだね」
祖父は笑いました。でも,ファーブルは,自分でたしかめてみないと気がすまなかったのです。
やがて7歳になったファーブルは,小学校へ入るために,村へもどりました。
村の小学校は,教室がたったひとつしかない,ちっぽけな学校です。しかも,ブタやニワトリが教室に迷いこんで大さわぎになるので,勉強はちっともすすみませんでした。ファーブルは,あいかわらず野山をかけまわって,昆虫や動物たちとあそんでばかりいました。だから,いつまでたっても,文字をおぼえませんでした。
ある日,父が,食べものをけんやくしたお金で,1枚の大きな絵を買ってきてくれました。たくさんの動物が並んでいる絵です。ファーブルは,だいすきな動物の名前を知るために,またたくまに,文字をおぼえてしまいました。やがて教科書も読めるようになりました。よろこんだ父親は,ごほうびに,こんどは詩人が書いた動物ものがたりの本を買ってくれました。
ファーブルは,このときの父のやさしい心づかいを,いつまでも忘れませんでした。