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宮沢賢治


宮沢賢治
(1896−1933)
農民たちの幸せを願って、やさしく清らかに生き、多くの名作を残した詩人・児童文学者。

「宮沢賢治」読書の手びき

宮沢賢治が亡くなる前夜のこと。姓もわからない農民が、肥料のことを教わりにやってきました。すると賢治は、病床からよろよろとはいだし、いやな顔ひとつしないで、その農民の質問に答えてやりました。そして1時間ほどで話が終わると「今夜の電燈は暗いようだなあ」と言って床につきました。もう、視力がおとろえ始めていたのです。賢治が息をひきとったのは、つぎの日の昼すぎでした。賢治は、死ご、詩人として童話作家として高く評価されるようになりました。しかし、ほんとうは、詩人や作家であるまえに、大地に足をつけて生きた自然人でした。だからこそ、死の前夜でも、農民となら語ろうとしたのではないでしょうか。賢治は「私のお話は、みんな林や野はらや鉄道線路やらで虹や月明かりからもらってきたのです」と言っています。ほんとうにそうです。自分で作ろうとしたのではなく、自然のなかに立っているときに心に生まれてきた心象風景。それが、賢治の詩や童話です。詩にも童話にも、人間の心の会話と美しい音楽と、そして、宗教と科学と文学がとけあった独自の光があるといわれるのは、すべてが心象であるからです。また、生きるものへの愛そのものだからです。短いことばを並べた詩は、賢治の精神の骨格、童話は、その骨格を包む血や肉だといってよいでしょう。おとなも、子どもも、楽しめる童話のいくつかを読めば、賢治がどういう「デクノボー」だったのか、すぐわかります。

文:有吉忠行
絵:鮎川万
編集プロデュース:酒井義夫

 
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