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紫式部


紫式部
(975?−1016?)
すばらしい文才に恵まれ、宮廷生活を鮮やかに描いた世界最古の長編『源氏物語』の作者。

「紫式部」読書の手びき

紫式部が書きのこしたものには『源氏物語』のほかに、『紫式部日記』と家集『紫式部集』があります。式部は無口でひかえめだったと伝えられていますが、日記には赤裸々な式部の素顔がのぞいています。宮廷にあがった式部が、そこで見た貴族の生活をどう感じとっていたか。宮廷生活が華やかであればある程、沈みこんでいく式部の心情が、日記の行間からにじみ出ています。誰もがあこがれる宮中に身をおきながら、きらびやかな生活に冷徹なまでの距離を保ち得たのは「ほんとうのもの」が、そこにないことを早くも見ぬいていたからでしょう。こうした内省的性格は、資質として式部にそなわっていたともいえます。しかし、式部の生きた平安中期という時代と、母や夫にあまりにも早く死別した薄幸な境遇も無視するわけにはいきません。『源氏物語』は美しい物語であると同時に、おそろしい物語でもあります。栄華を極めた光源氏も、物語半ばになるとしだいに精彩を失っていきます。作者は、その経過をまるでそれが必然であるかのように容赦なく描いていきます。結末はもっとあわれです。光源氏の子孫がくりひろげる愛憎の世界と、そこから逃がれ出ようとするあがきの果ての遁世。けれども、世を捨てたからといってそう簡単に救われはしない人間の業を、式部は「浮舟」に具現しています。この物語世界が、道長の隆盛期に書かれたことを思うと、その卓越した作家の目に驚嘆させられます。

文:浜祥子
絵:鮎川万
編集プロデュース:酒井義夫

 
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