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野口英世

表紙
野口英世(1876-1928)
左手のやけどの悲しみから立ちあがり、アメリカへ渡って世界に名を残した細菌学者。

「野口英世」読書の手びき

 野口英世は「幼いときからの不幸とたたかって世界の医学につくした」として、戦前、戦後を通じて多くの日本人に尊敬されてきました。とくに子どもたちには、日本の代表的な偉人として、あがめられてきました。ところが、伝記の見なおしが進むにつれて、その評価の質は変わってきています。それは、蛇の毒、破傷風、オロヤ熱、梅毒、黄熱病などについての研究の業績が、一部を除いて世界の医学史上に大きく残るものではなかった、ということが第1です。第2は、道徳教材になるほど、すぐれた人格者でもなかったということです。でも、これは英世自身に責任はありません。責任の多くは、既刊の伝記書にあります。偉人にしたてあげすぎたのです。英世が生存中に『発見王野口英世』という伝記を手にしたとき、英世自身が「これはつくり話だ、人間は、こんなに完全じゃない」と語ったということですから。では、英世は、もう偉人に値しないかといえば、そうではありません。英世が、少年時代に「学問で人をのりこえてみせる」と誓い、その目標をつらぬいた勇気ある生涯には、だれもが拍手をおくっています。日本の封建的な医学界に生きることも、外国で黄色人種への偏見とたたかうことも、たいへんなことだったはずです。英世はエリートコースをのぼっていったのではありません。むしろまったく逆です。意志と信念をまげなかった生涯にはやはり、偉人としてあおがれてよいものを、十分にもっています。

文:有吉忠行
絵:宮原 光
編集プロデュース:酒井義夫

 
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