ヒマラヤのふもとに、太陽の光が、まばゆくふりそそぐ春の日のことです。
たねをまくために、農民が牛にすきをつけて田をたがやしているのを、王と王子とけらいが、大きな木のかげでながめていました。
黒い土が掘りおこされると、土の中から小さな虫がでてきます。すると、まちかまえていたように飛んできた鳥が、かたはしから虫をひとのみにしてしまいました。ところが、これを見ていたけらいが、弓に矢をつがえて、あっというまに、その鳥を殺してしまいました。
王は、けらいをほめました。しかし王子は、そっと木かげをはなれて、ひとりで森へ入って行きました。
「やっと冬眠からさめたばかりなのに虫は鳥にたべられ、鳥は人間に殺されてしまう。生きているものどうしが、どうして、あんなことをするのだろうか」
王子は、たまらなく悲しくなってしまったのです。
王も、けらいも、元気のない王子のうしろすがたを見て心配しました。でも、王子の気持ちは、だれにもわかりませんでした。
この心のやさしい王子は、名を、シッダッタといいました。のちのシャカです。
シッダッタは、いまからおよそ2500年まえ、インドの北部にある釈迦国で生まれました。
「王子は、世界をおさめる大王か、すべての人びとを、苦しみからすくうお方になられます」
生まれたばかりの王子を見て、有名なうらない師がこういいました。ところが母のマーヤーは、わが子をしっかりとだきしめることもないまま7日ごに亡くなり、シッダッタは、マーヤーの妹のマハープラジャーパティーに育てられることになってしまいました。
シッダッタは、うらない師が予言したとおり、たいへんかしこく、12歳のころには国王になるための学問を、すべて習いおぼえてしまいました。武芸も、国じゅうのだれにも負けないほどになりました。でも、ほんとうは、弓をいることも剣をふりまわすことも、楽しいことではありませんでした。人と人が戦うことを学ぶよりも、ひとりで、しずかに考えごとをしているほうがすきでした。