オンラインブック せかい伝記図書館
ソクラテス 1/6

目だけは美しいはだしの男

 いまからおよそ2400年まえ、ギリシアの中心地アテネに、いつも、そまつな衣類を身につけ、寒い冬の日もはだしで町を歩いている男がいました。大きな鼻の穴が上をむいた顔はみにくく、歩きかたは、アヒルににていました。でも、目だけは美しく光っていました。

 男は、ときどき立ちどまっては、目をとじて考えます。ときには、なん時間でも考えつづけます。

 また、町かどで、だれとでも議論をします。自分の考えを、人に教えたり、おしつけたりするのではありません。議論をしながら自分も考え、相手にも考えさせるのです。

 ある日、男は、ひとりの青年に問いかけました。

 「人間は、幸福になるために、どんなものをほしいと思っているのだろうか。健康や、お金だろうか」

 「どちらも、ほしいと思うでしょう」

 「地位や、権力や、名誉はどうだろうか」
 
 「どれも、あったらよいにちがいありません」

 「では、健康なからだも、お金も権力も、使わなかったらどうだろうか」

 「使わなければ、なにもなりません」

 「そうか、使えば幸福になれるのだな」

 「幸福になれると思います」

 「では、人がそれを不正に使ったらどうだろう」

 「不正はだめです。正しく使わなければいけません」

 「なるほど、そうすると、正しく使う知識をもっていないと、だめだということだな」

 「そのとおりだと思います」

 「そうすると、人間が幸福になるためにいちばんたいせつなものは、お金や地位や権力ではなく、ゆたかな知識だということになるわけだ」

 やがて、男と青年は、肩をたたきあって別れました。

 この男こそ、古代ギリシアの大哲学者ソクラテスです。


もどる
すすむ