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LとRの聞き分けは生後10か月

 日本人が大の苦手とする L と R の発音の聞き取り。日本人は何歳頃からこの二つの音を区別できなくなるのかという研究は、1990年代はじめからさかんになり、言葉をおぼえる能力の発達過程を解明するのに役立てられてきました。1996年秋には、ワシントン大学、東京大学、東京学芸大学の3大学で共同実験が行なわれました。対象は、日米両国の生後6〜8か月と、生後10〜12か月の赤ちゃん、それぞれ18人ずつの計72人です。
 実験方法は、聴力検査用の防音室で、お母さんのひざの上に赤ちゃんを乗せ、赤ちゃんの右側に動くおもちゃをおきます。スピーカーからル、ル、ル……と R の音を流し、一定時間後に突然 L の音に切り替え、それに気づいた赤ちゃんがおもちゃを見ると、おもちゃが動くというしくみにするそうです。これを何回か繰り返すうちに、赤ちゃんはおもちゃの動くしくみがわかり、R と L を聞き分けようとします。
 その結果、生後6〜8か月では R と L を聞き分けたのは、日本の赤ちゃんが64.7%、アメリカの赤ちゃんが63.7%と、日本の赤ちゃんに軍配が上がりました。ところが生後10〜12か月になると、日本が59.9%、アメリカが73.8%とその割合は逆転してしまいます。研究員のひとりは、「日本の赤ちゃんが日本語をおぼえるうえでは、R と L を聞き分ける能力は必要ないため、この段階で捨てられるのだろう」と分析しています。
 神戸市外語大学と、ボストン大学の共同研究でも、生後6〜12か月の赤ちゃん92人を対象に、L と R の音の刺激に対する差異を調べる実験をしています。防音室のテレビ画面にコンピューターで描いた人の顔を映し、同時にスピーカーから人工音声の単語を流して、反応時間の変化を探る実験です。まず RAK という音声を繰り返し流すと、はじめはびっくりして画面をじっと見つづけていた赤ちゃんは、次第に飽きて視線を画面からそらします。次に LAK という音声に切り替え、赤ちゃんが画面に注目していた時間を測定して、2つの音声への反応時間を比較するのです。
 その結果、生後6〜8か月では音声の違いを聞き分ける反応を示していたのに対し、10〜12か月に成長すると、反応がなく、同音として受け止めていたといいます。研究チームの代表は、「よく似た音でも、日本語にある W と Y を使った同様の実験では、全員が聞き分けている。なぜ、L と R は聞き分けられなくなるのか、低下した能力を学習でどこまで回復できるのかを、脳のはたらきと関連づけて探るのが、今後のテーマ」と語っています。
 また最近は、脳の画像診断装置が開発され、MRI(核磁気共鳴診断装置)や PET(陽電子放射断層投影法)という新しい技術を使って、脳の聴覚野(聴覚をつかさどる部分)のどの部分が、音素(最少単位の音)に反応するかを示す、聴覚マップの研究もすすめられています。赤ちゃんは周囲の話し声に耳を傾けるうちに、「パ」「マ」といった個々の音に反応するようになります。「ra」と「la」の音に関して、英語では2つの音はまったく別なので、それぞれに反応する部分は遠く離れて位置しています。一方、日本語のように両者を区別しない言語の場合は、ほぼ同じところに位置しているため、聞き分けがむずかしいということがわかりました。「聴覚マップは満1歳までに完成する。成長するにつれて新しい言語の習得がむずかしくなるのは、新しい音に対応できる脳細胞がごくわずかになっていくからである」と、研究者のひとりは結論づけています。
 以上のようなことから、英語を聞き分ける耳を育てるには、生後10か月までに身近に英語のある環境をつくり、維持することが重要だとわかります。


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