オンラインブック かしこい子どもに育てるための15章
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第2部 絵本のすすめ

(11)絵本やビデオは間接体験の宝庫

イラスト たとえば、山にかこまれた地方に育った子どもたちは、海を知りません。海をゆく大きな船も、魚がどうやって海でとれるかも知りません。いっぽう海辺に育った子どもは山を知りませんし、山で採れる木の実も知りません。また、ふつうライオンやぞう、新幹線や高速道路、飛行機などがどういうものか知らないはずです。

 こういうものを知るためは、実際に海岸や山につれていったり、動物園に行ったり、新幹線に乗ったり、自動車で高速道路を走ったり、飛行場を訪れたりして体験しなくてはなりません。

 ところが、海や山や船、ライオンやぞう、新幹線や飛行機などをテーマにした絵本を与えれば、容易に体験させることができます。ただし、これは、直接の体験ではないので〈間接体験〉です。絵本やビデオの世界はまさにそんな〈間接体験〉の宝庫だといってよいでしょう。

 この点では、テレビでも間接体験することが可能です。ただし、テレビは、見たいものが見たい時に必ずしも画面にあらわれるわけではなく、もっと見ていたい、もう一度見たいと思っても画面は一瞬にして消えてしまいます。子どもにとって、興味をそそられた時が最も精神の充実している時なのですから、時間に左右されるテレビのこんな宿命は、致命的な欠点だといってよいでしょう。

 たとえば、カブトムシを〈知っている〉という3人の子どもがいるとします。そのうちの1人はテレビで知った子ども、1人は絵本やビデオを見て知った子ども、もう1人は実際に手にしたことのある子どもです。この中でカブトムシに対し最も印象の弱い子どもはテレビで知った子どもなのだそうです。もっと見ていたいと思っても、映像はすぐに消えてしまうし、刺激の強い映像が次に出てくれば、それだけでもカブトムシの印象はたちまち弱くなってしまうせいでしょう。

 3人のうちで、いちばん印象の強い子はいうまでもなく、実際にカブトムシを手にしたことのある子どもです。しかし、印象は強くてもカブトムシがどのように育ち、どのようにくらし、何を食べて生きているのか、どんな種類がいて、どんな仲間がいるのかというようなことを知ることはできません。

 大切なことは、ひとつのテーマ、ひとつの体験から興味を持続させ、関心を深めさせることだと思います。その点、適切な絵本やビデオは、そこまで導いてくれます。そして、絵本は、いつまでもじっと眺めていることができるし、繰りかえし取り出して見ることができます。だから、カブトムシを手にしたことのある子どもにそういう絵本を与えたり、絵本やビデオでカブトムシを知って興味をおぼえた子どもに、実際のカブトムシを見せれば、その印象はさらに深いものになることでしょう。いずれの場合でも、絵本のなかだちが必要だということです。

 昔から、よちよち歩きをはじめた子どもに、危険なものを教えるとき、熱いアイロンや、やかんをさわらせてきました。そういう〈あつい〉という体験が、子どもの感覚にしっかり覚えこまれるために、「アツイ!」といえば、ストーブにも近づかなくなるし、アイロンをかけているじゃまもしなくなるわけです。そして、「おふろのお湯が熱い」「みそ汁が熱い」とか、「かぜをひいて熱がでた」とか、「ひざしが暑い」というように、日常的な体験をつみ重ねて〈あつい〉という言葉と、自分の感覚が結びついて、〈あつい〉という概念を形成します。さらに大きくなると、「物事に熱中する」とか、「勉強に熱がはいらない」「熱狂する人々」「熱弁をふるう」というようなことへの理解へと発展していきます。

幼児期から少年期、青年期になるにしたがって、世界はどんどんひろがっていき、言葉だけで間接体験をつみ重ねていかなければなりません。そんな意味からも、幼児期につちかわれた絵本やビデオでの間接体験をつむ訓練は、とても大切だということがおわかりいただけるでしょう。

情報を、知識を、生活の空間を、いつまでも、どこまでもひろげてくれる絵本やビデオの世界は、まさしく幼児の成長にとって欠くべからざる存在であり、〈幼児に絵本を与えないのは、まっ暗な部屋にとじこめておくようなもの〉といわれる所以だといえます。


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