レディバードブックス100点セット
 

 

長靴をはいたねこ

 昔、3人の息子を持つ粉屋がいました。彼はたいへん貧乏で、死んだとき残したものは、水車小屋とろばと猫だけでした。
もちろん、水車小屋は長男に残されるべきものでした。ろばは次男にいきました。それでいちばん末の息子に残されたのは、父親の猫だけでした。
「あーあ」 と末の息子はため息をつきました 「猫は私には何の役にも立たないし、私は貧乏なので、猫に餌を与えることもできない」

「くよくよなさるな、ご主人様」 と、猫は言いました。「私に1足の長ぐつと袋をください、そうすれば、あなたが思うほどみじめな暮らしにはならないとわかりますよ」
粉屋の息子は、猫が話すのを開いてたいへんびっくりしました。「話すことのできる猫は、たぶん利口で約束どおりできるだろう」 と、彼は考えました。
そこで、彼の最後の数枚の貨幣で、粉屋の息子は猫に1足の長ぐつと袋を買ってやりました。

 猫は長ぐつに大喜びでした。彼は長ぐつをひっぱってはくと、主人の前を行ったり来たりふんぞりかえって歩きました。彼はたいへん誇らしげだったので、粉屋の息子は笑いをおさえることができませんでした。
そのときから以後、粉屋の息子はいつも彼を 「長ぐつをはいた猫」 と、呼びました。
それから猫は、袋を肩にして庭へ出ていきました。そこで、彼は新鮮なレタスの葉を摘んで、それを袋の中に入れました。

 次に、長ぐつをはいた猫は野原へ出かけました。彼はうさぎの穴につくと止まりました。それから、袋の口を開けたまま、彼は近くに静かに身を横たえました。
むくむくふとったうさぎが、やがて穴から顔を出しました。それは新鮮なレタスの葉のにおいをかぎ、近づいてきました。葉っぱはとてもおいしそうでした。最初うさぎの鼻が袋の中にはいり、それから頭も入りました。
猫はすばやく袋のひもを引っ張り、うさぎをつかまえました。

 うさぎを袋に入れて、長ぐつをはいた猫は宮殿へ繰り出し、王さまに面会を求めました。
彼は王様の前に連れてこられると、深々とおじぎをして言いました。
「陛下、私の主人カラバス侯爵からの贈物として、このうさぎをお受けとりください」
王さまは、長ぐつをはき、話をする猫をおもしろがりました。「おまえの主人に言ってくれ」と、彼は言いました 「私は彼の贈物を受けとり、おおいに感謝していると」

 別の日、猫はまた野原に、まるで死んでいるかのように横たわりました。
袋は彼のそばで口を開けていました。こんど彼は、2羽の立派なやまうずらを捕えました。
再び、長ぐつをはいた猫は、彼の獲物を王様のところへ持っていきました。前と同じように、王様はカラバス侯爵からの贈物を受けとりました。
王様はやまうずらがたいへん気に入ったので、猫を王室の台所に連れていて食べものを与えるようにと命令しました。

 たまたま、王様には世界じゅうで一番美しいと言われる娘がいました。
さてある日、長ぐつをはいた猫は、王様と彼の娘が川沿いの道を馬車で遠出すると聞きました。猫はすぐに、粉屋の息子のところへ走っていって一言いました 「ご主人様、もしあなたが私の言うとおりにやってくだされば、前途が開けますよ」
「私に何をさせようというのだ」 と、粉屋の息子はたずねました。

 「私といっしょにきてください、ご主人様」 と、猫は答えて、彼を川の堤へと連れていきました。
「あなたにしていただきたいことが2つだけあります」 と、猫は言いました。「まず、この川の中で水浴びをしなければなりません。次に、あなたはあなた自身ではなくて、カラバス侯爵だと思いこまなくてはなりません」
「私はカラバス侯爵なんて聞いたことがない」 と、粉屋の息子は答えました。「しかし、おまえの言うとおりにしよう」

 粉屋の息子が川で水を浴びている間に、王様の馬車が見えてきました。
王様は娘をそばにおいて馬車に乗っていました。貴族たちが馬に乗って、後からついてきていました。
突然、彼らは 「助けて、助けて、私の主人のカラバス侯爵がおぼれています」 という叫びに、びっくりしました。
王様は馬車から外を見ましたが、川のそばを走りまわっている長ぐつをはいた猫以外に、誰も見えませんでした。

 しかし、王様は貴族たちに、おぼれている男を助けにすぐ走っていくように話しました。
猫は、貴族たちが川から彼の主人を引き上げるとすぐに、王様のもとへかけもどりました。深々とおじぎをして彼は言いました。「陛下、私の主人をどうさせたらよいでしょう。泥棒が彼の服を盗んでしまったのです」
さて本当は、長ぐつをはいた猫が彼の衣服を大きな石の下にかくしてしまっていたのです。

 「それはたいへん運が悪かったな」 と、王様は言いました。「われわれは彼をここに服を着ないまま置いておくことはできない」 そこで、王様は家来に宮殿から服を持ってくるようにと命令しました。
粉屋の息子は上等な服を着ると、たいへん立派な男に見えました。
王様はいっしょに遠出をしようと、彼を招待しました。そこで、粉屋の息子は馬車に乗り、王女のそばにすわりました。

 猫は馬車の前を急いでかけていきました。彼は草刈人たちが草を刈っている牧草地に着くと止まりました。
彼は草刈人たちに話しかけました。「王様がこちらへやってくる、彼はこの牧草地が誰のものかとたずねるだろう。カラバス侯爵のものだと答えないと、おまえたちをみんなひき肉のように切り刻んでしまうからな」
草刈人は愚かな男たちで、猫がそんなに荒々しい声で話すのを聞いて恐ろしくなりました。

 数分後に、王様と貴族たちが通りかかりました。王様は大きな美しい牧草地にさしかかると、馬車を止めて草刈人たちに話しかけました。「このすばらしい牧草地を所有しているのは誰なのか教えておくれ」 と、彼はたずねました。
「カラバス侯爵のものでこぎいます、陛下」 と、草刈人たちは答えました。
それを聞くと、王様は粉屋の息子の方に向きました。「侯爵、あなたはたいへん立派な牧草地をお持ちなのですね」 と、彼は言いました。

 一方、猫は道をどんどん先に走って行きました。彼は刈り手たちが忙しく小麦を刈っている麦畑に着きました。
「王様がすぐにお通りになる」 と、猫は刈り手たちに言いました。「王様はこれが誰の小麦畑かおききになるだろう。もしカラバス侯爵のものだと答えないと、おまえたちをひき肉のように切り刻んでしまうからな」
刈り手たちは、草刈人たちと同じように、猫がそんなに荒々しい声で話すのを聞いて恐ろしくなりました。

 数分後に、王様と貴族たちが見えてきました。再び王様は馬車を止めました。
「この立派な小麦畑を持っているのは誰なのか教えておくれ」 と、王様は刈り手たちにたずねました。
「カラバス侯爵のものでこぎいます」 と、刈り手たちは答えました。
「彼は金持にちがいない、それに、なんとハンサムであることか」 と、王様は粉屋の息子を見ながらひとりごとを言いました。「私は、彼が私の娘のよい夫となるだろうと信じる」

 さて、この畑はほんとうは人食い鬼のもので、この人食い鬼は少し先の城に住んでいました。
長ぐつをはいた猫は、その城に着くまで道を急ぎました。城に着くと、彼はドアをノックし、人食い鬼自身がドアを開けました。
「だんな様」 猫は言いました 「私は旅の途中の者ですが、あなたがとてもすてきなお方であると、しばしばお聞きしましたので、失礼もかえりみず、お目にかかりにやってまいりました」

 人食い鬼は、猫が話すのを聞いてびっくりしました。しかも、彼がたいへんすてきだと猫が聞いたと知って大喜びでした。彼はすぐに猫を城に招き入れました。
「私はお聞きしました」 と、猫は言いました。「あなたは、自分が選んだどんな動物にも身を変えることができると」
「それは本当だ」と、人食い鬼は答えて、すぐにライオンに姿を変えました。猫はたいへん恐ろしくなりました。彼は急いで害をうけないように、たいへん高い食器棚のてっぺんにかけ登りました。

 すぐに人食い鬼は、ライオンからまた人食い鬼に姿をもどしました。そのあとで、猫はとび下りました。
「だんな様、あなたはたしかに私をびっくりさせました」 と、猫は言いました。「しかし、あなたのような大きい方が、ライオンのような大きな動物に姿を変えることはそんなに難しくないに違いありません。巨大な人食い鬼さんがちっぽけな動物に姿を変えることができれば、さらにすばらしいことでしょうね」

 「たとえば、ねずみに姿を変えることなんか、あなたにだってできっこないと私は思いますが」 と、猫は続けました。
「できっこないって」 と、人食い鬼は叫びました。「俺は自分が選ぶどんな動物にも姿を変えることができる。見ておれ」 すぐに彼は、小さな灰色のねずみになり、ねずみは長ぐつをはいた猫の前で床の上を走りまわりました。
一とびで猫はねずみにおそいかかり、それをがぶりと呑みこんでしまいました。それが人食い鬼の最期でした。

 このときまでに、王様の馬車が城に着いていました。長ぐつをはいた猫は、馬車の車輪の音を聞いて、門にかけていきました。深々とおじぎをして彼は言いました。「陛下、ようこそカラバス侯爵のお城にお出でくださいました」
「なんと、侯爵」 と、王様は粉屋の息子を振り向いて言いました。「このお城もあなたのものなのですか。私の王国じゅうにも、こんな堂々としたものはありません」

 粉屋の息子は一言もしゃべらず、王女が馬車から下りるのを助けようと、手をさしのべしました。
彼らはみんなお城に入り、そこにすばらしいごちそうがならんでいるのを見ました。それは人食い鬼が待ち設けていたお客さんたちのために用意されていたものでした。幸い、人食い鬼の友だちは、王様がお城にいるという知らせが彼らに届いていましたので、やってきませんでした。

 王様、王女、貴族たちと粉屋の息子は、みんな宴会の席にすわりました。
長ぐつをはいた猫は、ご主人のそばに立ちました。
刻一刻と、王様は粉屋の息子にますます魅力を感じました。宴会が終ると、王様は彼に言いました 「私の義理の息子にほしいと思う人は、この世の中に他にはいません。私は今あなたを王子にします」

 それから王子は、王女ほど妻にしたいと思う人はこの世にいないと言いました。
それから王女は、王子ほど夫にしたいと思う人はこの世にいないと言いました。
そこで2人は結婚し、その後ずっと、人食い鬼の城で幸せに暮しました。

 長ぐつをはいた猫は、 お城に住み、とても幸せでした。彼はいつも王様、王子様、王女様の大のお気に入りでした。
猫は二度と食事のために狩りをすることはありませんでした。彼は死ぬまでぜいたくに暮しました。


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