レディバードブックス100点セット
 

 

親指トム

 昔、子どもがいないのをたいへん悲しく思っている、きこり夫婦がいました。
「私は子どもがたったひとりだとしても、かまいませんわ。あなたが1日じゅう外に出ているときには、私はたいへんさびしいのです」 と、妻が言いました。
「そうだろうね。まわりに子どもがいれば、すばらしいことだろうよ」 と、きこりは言いました。
「その子が私の親指ほどの背たけだとしても、私はかまいませんよ。私は愛し、世話をする子どもがいればいいと思うだけです」 と、妻は言いました。
しばらくして彼らの頭いがかなえられて、彼らに小さな息子が生まれたとき、2人がどんなに喜んだか、みなさんにも想像がつくことでしょう。
不思議なことに、彼は大人の親指ほどの大きさでした。そして、彼らは彼のことを親指トムと呼びました。

 きこりと妻は、若いトムを彼らが買える最上の食べもので育てましたが、彼はまったく大きくなりませんでした。背は伸びないのですが、彼は活発な賢い若者に成長しました。彼らは話しかける子どもがいることは楽しみでしたが、彼がどのように自分たちの役に立つようになるかは、わかりませんでした。
しかしある日、彼にチャンスがやってきました。
「トムがもう少し大きければ、私のために馬と荷車を御してくれるだろうに」 と、木こりは言いました.
「できますよ、できますよ」 と、若いトムは叫びました.
「馬鹿を言いなさんな。おまえは手綱さえ握れないじゃないか、それに、荷車から落ちて死んでしまうよ」 と、妻は言いました。

 「お母さん、馬具をつけてくれれば、私がどのようにして馬を御すか見せてあげましょう」と、トムは言いました。
「いいですよ。しかし、私にはおまえがどうやってそれをするかわかりません」 と、母親は言いました。
トムの父親は、森へ出かけました、その間に母親は馬に馬具をつけ、荷車の心棒にそれをつけました。
「さて、賢い子どもさん、どうやっておまえはこの大きなものを御そうというのかい」 と、トムの母親はたずねました。

 「私を馬の耳の中に入れてください、そうすれば馬にいつ出発し、いつ止まるかを教えられます。私はそこでまったく安全ですし、またその中で暖かくしていられます。森に着いたら、お父さんがおろしてくれます」 と、彼は言いました。
「そうかね、私はそれに満足ではないけれど、お父さんにとっては大違いでしょうね、それじゃあ、やってみましょう。十分注意しなさいよ、道の悪いところでは、しっかりつかまってね」 と、母親は言いました。

 トムが安全に馬の耳の中に入った状態で、馬車は出発しました。馬は命令どおりに動きました。トムが 「もっと早く」 と言うと、馬は道の良い部分を大またに歩きました。道の悪いところにさしかかると、トムは 「落ち着いて」 と言い、馬は車輪の跡のついた地面の上を、注意深く進むのでした。
行く途中で、彼らは2人の男がいっしょに歩いているのに行きあいました。たまたまその男たちに近づいたとき、トムが 「落ち着いて」 と言いました。男たちは御者のいない馬と荷車を見てびっくりしました。誰かが馬に話しかけているのを聞いて、彼らはさらに驚きました。

 「きみに、誰かが馬に話しかけていたのが聞こえたかい」 と、1人の男が別の男に言いました。
「うん、聞いたように思うよ。しかし御者はいないし、まわりには誰もいないよ」 と、彼の友人は答えました。
「馬のあとをつけて、また同じことが起るかどうかみてみよう」 と、最初の男が言いました。

 そこで彼らは、馬と荷車の後をつけて森に入りました、たしかに、誰かが馬に話しかけているのを彼らは聞き続けました。ついに、馬と荷車は木こりが働いている場所に着きました。
「もしもし、お父さん、私は荷車をひけるって言ったでしょう。どうか私をここからおろしてください」 と、トムは言いました。

 「よくやった、トム。私はおまえがどのようにしてうまくやったのか見なかったが、おまえの賢い考えはたしかに成功したね」 と、父親は言いました。
きこりはトムを注意深く馬の耳から取りだし、自分の肩の上にすわらせました。2人の男はなぜ御者もいないのに馬が進んでこられたのかを、すぐにさとりました。彼らはまた、声がどこからしていたのかもわかりました。

 「なんて賢い小さなやつだろう」 と、1人が言いました。「彼を我々に売ってくれませんか。我々は彼を厚遇し、自分の子どものように面倒をみますよ」

 「しかし、彼は私の子どもだよ」 と、きこりは言いました 「私は世界じゅうの金を積まれても彼を売る気はない。その上、母親が悲嘆にくれるだろう。いいや、彼を売ることはできない。行っておくれ」
トムは父親の耳を引っ張って、ささやきました 「お父さん、私を彼らといっしょに行かせて、お金をもらってよ。私は彼らのところから逃げだして、1、2日すれば戻りますから」
いやいやながら、きこりはトムに説得されて、トムを多額のお金で売りました。男たちはくすくす笑いながら去っていきました。
「私たちは彼を町から町へと連れていき、彼を見世物にしよう」 と、最初の男が言いました。「そんなふうにして、私たちはすぐ大金持になれるだろう」

 「そうだね、彼にはたいしてお金はかからないだろう」 と、彼の友人が言いました。「あんな小さなやつはそんなに食べないだろうし、あんたのポケットに入って旅をし、夜はそこで眠れるのだから」
こうして、トムは1人の男のポケットに入って旅をしました、進みながらそこから彼は外を見、田園風景を眺めました。男たちは次の町に着けるようにと、1日じゅう歩きました。夕方になると、トムは男に呼びかけました 「どうかおろしてください。足がけいれんしてしまって、伸ばさなければなりません」 そこで男たちは休もうと足をとめ、トムをおろし、その間2人は土手によりかかりました。トムはけいれんした足を伸ばすふりをしましたが、ほんとうはどこか、かくれるところを探していたのです。

 不意に、トムは土手にうさぎの穴を見つけました、そして、素早くとんでいって、その入口に立ちました。「さよなら、おともだち」 と、彼は呼びかけました。「ポケットに入れてくれてありがとう。こんどはもっと注意しなさいよ。小さな物はなくなりやすいですよ」 そう言って、トムは一走りでうさぎの穴の中に消えてしまいました。

 男たちはたいへん怒りました。彼らはステッキで穴を突っつき、穴をじっとのぞきこみ、叫びましたが、まったくむだなことでした。多くのうさぎの穴と同じように、この穴にも土手のずっと向うの方に他の入口がありました。トムはすぐに穴から出て、背の高い草の中を苦労して進みました。
2人の男は言いあらそったり、不平を言ったり、土手を探しまわりましたが、むだに終りました。まもなく暗くなって何も見えなくなり、彼らは不機嫌のまま、行ってしまいました。

 トムは2人の男から自由になって喜びました。もう暗くなっていたので、彼はどこか安全に眠れるところを探しました。つまずきながら道に戻ってくると、たまたまからの貝殻がありました。彼はすぐにその中に入って体を丸め、まさに眠りにおちようとしたそのとき、何人かの声がしました。

 2人の泥棒が話をしていたのです。「どうやって牧師の金と銀を盗もうか」 と、1人が言いました。
「教えてあげよう」 と、トムが大声で言いました。
「誰かがしゃべったのが聞こえたかい」 と、2人目の泥棒がたずねました。
「私を連れていってください。そうすれば、どうやってお金をとったらいいか教えてあげますよ」 と、トムは言いました。

 2人の男は当惑しました。声はするのですが、誰も見えません。
「おまえはどこにいるのだ」 と、最初の男がたずねました。
「地面の上にいますよ。私の声のする方を探せば、すぐに見つかりますよ」 と、トムは言いました。

 2人の男は手と膝ではって探し、すぐにトムを見つけました。彼をつまみあげて、1人が言いました 「おれたちを助けるために、一体どんなことが、おまえみたいな小さなやつにできるのだ」
「私は窓の桟の間から入って、お金をあなたのところへ投げおとすことができますよ」 と、トムは言いました。
「よし」 と、男たちは言いました 「おまえを連れていって、おまえに何ができるのか見よう」

 牧師の家にやってくると、トムは約束したように行動しました。家の中に入るやいなや、彼は叫びました 「ここにあるものをみんなほしいですか」
「シーツ。みんなを起してしまうではないか」 と、泥棒が言いました。
トムは聞こえないふりをして、さらに大きな声で叫びました 「どれくらいほしいのですか。みんな外へ投げだしましょうか」
隣の部屋に寝ていた料理人が目をさまして、ベッドの中で起きあがり、耳を傾けました。
トムが叫んだとき、逃げさった泥棒たちが戻ってきて 「叫ぶのをやめろ、そしてお金を投げてよこせ」 と、ささやきました。

 できるだけ大きな声でトムは叫びました 「いいですよ、手をさしのべなさい、さあ投げますよ」
料理人はそれを聞いてがまんできずに、ベッドからとびだしました。彼女はドアにかけよりましたが、泥棒たちは逃げてしまっていました。彼女がローソクをとりに出ていった間に、トムは逃げだして納屋へ行きました。
彼は疲れていて、寝るところがほしかったのです。

 料理人はローソクをつけて戻ってきて、すみからすみまで探しましたが、誰も見つけることができませんでした。「私は夢をみていたに違いない。しかし、声をきいたのはたしかだわ」 と、彼女はひとりごとを言いました。
まだ思いまどいながら、彼女はローソクを消してベッドに戻りました。

 納屋の中の乾草は柔らかくて暖かでした。「明日は家に戻る道を見つけよう」 と、トムは思いました。その日、興奮しどおしだったので、彼はすぐ限ってしまいました。
料理人は牛に餌をやったり、牛乳をしぼったりするために、早く起きました。彼女は乾草を求めてまっすぐ納屋へ行き、そして、トムがその中に眠っている乾草の束を、牛の食料に選んだのです。

 トムが目をさますと、自分が牛の口に投げこまれるところでした、そして、その大きな歯で押しくだかれそうになりました。突然、下に落ちていく感じがして、彼は乾草に囲まれて、牛の胃袋の中に着陸しました。

 「ここはずいぶん暗いな」 と、トムはもがきながら立ちあがり、みじめな気分で言いました。「それに場所もせまいや」
牛が食べるにつれて、乾草が後から後からころがりこんできて、トムは息がつまりそうになりました。「これ以上乾草を食べないでくれ、ここにはもうすき間がないよ」 と、彼はできるだけ大きな声でわめきました。

 料理人は、牛の口から声が出てくるのをきいてたいへん驚いて、バケツを落してしまいました。家にかけ戻って、彼女は牧師に呼びかけました 「だんな様、だんな様、牛がしゃべっていますよ」
「おまえ、気が狂ったんじゃないか。牛がしゃべるものか」 と、牧師は言いました。
しかし、ちょうどそのとき、トムがまた叫びました 「これ以上乾草を食べないでくれ、息ができない」

 牧師は牛が魔法にかかったと確信して、それを殺さなければならないと決めました。
牛を殺すと、胃袋はトムを中に入れたままで、庭に投げだされました。
「今がチャンスだ。逃げられるうちに逃げなくては」 と、トムは言いました。

 彼はもがきもがきして、とうとう新鮮な空気の中に頭を出しました。
「ありがたや、ずっとましだ」 と、彼は言いました。
しかし、彼の苦労は終りではなかったのです。通りかかったお腹をすかした狼が胃袋を見つけ、それをひったくって、ひと飲みにのみこんでしまいました。
「おやまあ。また困ったことになった」 と、トムは言いました。突然、彼はある考えを思いつきました。

 「狼さん、狼さん、まだお腹がすいていますか」 と、彼は呼びかけました。
「おれはいつもペコペコだ」 と、狼は言いました。
「ここからそう遠くないところに、あなたの食べられる食べものがいっぱいの家があります」 とトムは言って、彼の父の家のありさまを述べ、そこにどうやったら行けるのかを告げました。

 「排水孔をはっていけば台所に入れますよ。そこには牛肉やハムやその他おいしいものがたくさんありますよ」
狼はそのたくさんの食べもののことを考えて、すっかり楽しくなりました。暗くなるとまもなく、その家を見つけに出発しました。そこに着いて、排水孔を見つけ、その中をはって台所に入り、食べはじめました。

 狼は満腹になるまで食べまくりました。それから、彼は排水孔を通って戻ろうとしましたが、あんまり食べすぎてふとってしまいました。彼は、いくらがんばっても外に出ることはできませんでした。

 これこそトムが期待していた、そのとおりのことでした。彼は自分の計画がうまくいったのでたいへん楽しくなり、叫んだり歌ったりしはじめました。「静かにしろ。家の中の人をみんな起してしまうではないか」 と、狼は不機嫌に言いました。
「私はかまわないよ。おまえはおまえで楽しんだじゃないか、今度は私の番だよ」 とトムは叫びました。そして、さらに大きな声で叫び、ありったけの声で歌いました。

 トムが大声で叫んだり、歌ったりした騒ぎに、きこりとその妻は目を覚ましました。彼らは台所のドアのところにやってきて、ほんの少しドアを開けました。
きこりはびっくりしてとびさがりました。「狼だ。たいへん怒っているようだ。斧を持ってこなくては」 と、彼は妻に言いました。
すぐに、彼は斧を持って戻ってきましたが、妻は言いました 「狼があなたをとびこしたらどうなるかしら。私も武器を持ってこなくては」
「それでは草刈りがまを持っておいで」 と、夫が言いました。「私が斧で狼の頭を打ったら、おまえが草刈りがまで、やつを切りきざめ」

 トムは父親が言ったことを聞いて、たいへんびっくりしました。両親が台所に入ってくる音を聞くと、彼はできるだけ大きな声で叫びました 「お父さん、お父さん、ぼくはここ、狼の中にいるんだ」
きこり夫婦は、長いこと聞かなかった息子の声をふたたび聞いて、びっくりしました。「私たちに何ができるのでしょう」 と、妻がたずねました。
「狼を切りきさめば、あの子を殺してしまうかもしれませんよ」
「私が斧で狼を殺してしまう。そうすれば危険をおかさないで、トムを外に出せるだろう」と、きこりが言いました。

 きこりは狼をすみに追いつめ、斧をその頭上にはけしく打ちおろしました。狼は床にたおれて死んでしまいました。

 狼が死んだのを確認すると、きこりはナイフを使って注意深くそのお腹を切りさきました。トムはふたたび自由になって大喜びでした、また両親はトムが無事だったのを見てうれし泣きしました。
「またおまえに会えるなんて思ってもいませんでしたよ」 と、母親は涙をぬぐいながら言いました。「何が起ったのだい。また、どうして狼のお腹の中にいるようなことになったのだい」
「2人の男がおまえを隣の町へ連れさってから、おまえに何が起ったのかから話しはじめておくれ。おまえは逃げて、1、2日たてば戻ってくると言っていたよ」 と、父親は言いました。

 トムは母親の膝にすわって、彼の冒険についてすべてを語りました。
「あなたがたのところを去ってから、私は、いろいろなたいへん不思議な場所へ行きました」と、彼は言いました。「男たちが私を連れさった最初の晩、私は足がけいれんしたからおろしてくれと頼みました。彼らがちょっと目を離したすきに、私はうさぎの穴にかけこんで逃げたのです」

 「恐ろしくはなかったのかい」 と、母親はたずねました 「暗やみの中に、たったひとりで」
「後に起ったことの半分ほども恐くなかったよ」 と、トムは言いました。
「私は泥棒の手助けをするふりをして、牧師さんの家に行きました。そのとき、料理人が私が中で眠っていた乾草の束ごと私をつまみあげ、(牛に与えたので) 私は牛に食べられてしまったのです」

 「一体どうやって逃げたのかね」 と、母親がたずねました。
「私が叫ぶと、人びとは牛が魔法にかけられたのだと思って、それを殺してしまいました。私はその胃袋からやっと頭を出したときに、狼がやってきて、胃袋をひとのみしてしまったのです、私がまだ中にいるのに」
「排水孔から狼を中にはいらせたのは賢い計画だったね」 と、父親が言いました。「おまえが大声で叫んだのもうまかった、さもなければ、草刈りがまで狼を切りさいてしまっただろうし、おまえも死んでしまっただろう」

  「おお、そんなことは言わないで」 と、母親は叫びました。「今やおまえが無事に戻ってきたのだから、いくらお金を積まれたって、二度とおまえを売るようなことはしませんよ」
トムの服はすっかりぼろぼろになってしまっていたので、母親は新しい服を何着か作ってやりました。すぐに彼は、もとのように身ぎれいで活発に見えるようになりました。両親は彼においしい食べものや飲みものをたくさん与えました、そしてまもなく、彼らはトムの経験した恐ろしい冒険の数々をすっかり忘れさってしまいました。


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