レディバードブックス100点セット
 

 

火の鳥

 ずっと昔、ロシアに、強い勢力を持った王さまがいました。この国の王さまは、ツァーと呼ばれていました。このツァーの宮殿をとりまく庭園には、美しい木や花がたくさんありましたが、ツァーのいちばん大切な宝物は、金のりんごがなる1本の木でした。ツァーはこの木がことのほか自慢で、毎日ながめに行っていました。

 ところがある日、りんごが1個なくなっているではありませんか。そしてその次の日には.また1個なくなっているのです。3個目のりんごがなくなったとき、ツァーはかんかんに怒りました。りんごの木に見張りをつけましたが、だれもどろぼうをつかまえることはできませんでした。

 ツァーには息子が3人おりました。長男はピーター、次男はワシーリー、末っ子はイワンという名前でした。ある日、ツァーは息子たちを自分の部屋に呼びました。
「どろぼうがわしの金のりんごを盗んでおる」 と、ツアーは言いました
「それで、その悪者をつかまえた者には、わしの王国の半分をやることにしよう」 と、ツァーは言いました。
長男が前へ進み出ました。「父上、できるかぎりのことをやってみます」
と、彼は言いました 「私が最初に行きます。今夜、果樹園を見張りましょう」

 というわけで、ピーターが庭に行き、金のりんごの木のそばで見張りをしました。ピーターは目を覚していようと一所懸命がんばりましたが、だめでした。朝になって彼は、自分が眠ってしまった間にまた1個、りんごがなくなっていることがわかったのです。

 ピーターは父親に、どうぼうをつかまえられなかったと報告しなければなりませんでした、そしてツァーは、次男に向かって、次の夜、果樹園に行くよう命じました。ワシーリーもピーターと同じような運命でした。彼も一所懸命目を覚していようとがんばったのですが、眠りこんでしまったのです。朝日がのぼったときにはまた1個、りんごがなくなっていました。

 ツァーは息子たちにがっかりしてしまいました。イワンが、次の夜は自分が木の上で見張りたいと言ったとき、あまり期待はしませんでした。
「行きたいなら行ってみるがいい」 と、彼は言いました 「だが、おまえの兄たちと同じようにうまくいかないだろうよ」

 イワンは(りんごの)木のそばに来ましたが、すわらないことにしました。何時間も歩きまわり、眠くなると露で目を洗いました。そしてとうとう、その努力がむくわれるときがきました。突然金色の光がきらめき、光る羽をもった、光り輝く鳥が1羽、木の上に舞い下りたのです。その生きものが宝石のようなくちばしで金のりんごをつつくようすを、イワンはじっと見守りました。彼は静かに鳥の方に忍びより、鳥の尾をつかみました。
鳥はイワンをふりはなし、つばさをひるがえして飛んでいってしまいましたが、イワンの手には光り輝く1本の美しい羽根が残されました。

 次の朝、イワンがその羽根を父親のところに持っていきますと、ツァーはたいへん喜びました。そして、イワンが昨夜起ったことを話しますと、「それは火の鳥にちがいない」 と、言いました。それからツァーは、火の鳥なら金のりんごよりもりっぱな宝物になるぞと考えはじめたのです。

 ある日ツァーは、息子たちを呼びよせました。「わしは火の鳥をわしのものにすることにしたのじゃ」 と、彼は言いました 「おまえたちの馬にくらをつけて、火の鳥をさがしに行ってこい。忘れるな、もしうまくいったら、わしの王国の半分をやるぞ!」
ピーターとワシーリーはすぐに出発しましたが、イワンはツァーに、まだ若すぎるからと止められてしまいました。イワンはとてもがっかりしてしまいました。彼は父親に嘆願し、彼がもう火の鳥を見ていることを思い出してもらいました。

 ようやくおしまいにはツァーも承知しましたので、イワンはよろいかぶとを着け、馬に乗って森の中へ入っていきました。数日間旅を続けるうちに、大きな石に出会いました。イワンは馬を下りて、石の片側にほられた文を読みました。そこにはこうほられていたのです。
まっすぐ進んだら、飢えるだろう
左に進むと、死ぬだろう
右に進むと、馬を失うだろう

 イワンはしばらく考え、右に向かう道を進むことにしました。1日じゅう馬を進ませていくと、突然大きな灰色のおおかみが、やぶからとび出てきたのです。おおかみはイワンにとびかかり、イワンは馬からころげ落ちてしまいました、馬は森の中へ逃げていきました。「石の上の文を読んだだろう」 おおかみはそう叫び、走り去りました。

 かわいそうに、イワンはこれから歩いていかなければなりませんでした。
へとへとに疲れてきて、これではもう決して火の鳥をみつけられないだろうと思いました。
とうとうイワンは休もうとすわりこんでしまいました。ほとんど同時に、さきほどのおおかみがまた現われました。「あなたの馬をおどろかせ、逃してしまって申しわけありません」と、彼は言いました 「でもあの石にほってあった文を読まれたでしよう。もし、そんなにお疲れなら、どこへ行きたいか言ってください、私が運んであげましょう」
「ぼくは、父の金のりんごを盗んだ火の鳥をさがしているんだ」 と、イワンは答えました。
「火の鳥がどこに住んでいるかは、私だけが知っています。あの鳥は、アフロンと呼ばれるツァーのものなのです」 と、灰色おおかみが言いました。

 「私の背中にお乗りなさい、私が連れていってあげましょう」 イワンが乗るとすぐに、おおかみはたちまち森をかけぬけていきました。とうとうイワンとおおかみは、高い石のへいのところまでやってきました。

 「あなたはそこに火の鳥をみつけるでしょう」 と、灰色おおかみが小声でささやきました「でもこれだけは気をつけて。どんなことがあっても、火の鳥のかごにだけはさわってはいけません」
イワンがへいをよじ登ると、そこには本当に、美しい火の鳥が金のかごの中に入っていました。イワンは灰色おおかみの注意などすっかり忘れて、金のかごをつかんでしまいました。

 たちまち鐘が鳴りはじめ、番兵たちがあらゆる方向から走ってきました。
「止まれ、どろほうめ!」 番兵たちは、向きを変えて走ろうとするイワンに叫びました。

 兵士たちはイワンをつかまえ、アフロン王の前に連れてきました、アフロン王はかんかんです。
「どうしておまえは、わしのものを盗みにきたのじゃ」 王さまはほえるように言いました。
イワンは、はずかしくてたまりません。「王さま、あなたの火の鳥が、私の父の金のりんごを盗んだので、父が火の鳥をつかまえてこいと申したのです」 と、彼は言いました。

 「どうしておまえは盗もうなどとしたりせずに、正直にそう言ってわしに頼まなかったのじゃ」 と、王が聞きました。「おそらくおまえに火の鳥をやっただろうに。しかし、今となっては、おまえがどろぼうだとみんなに知らせなければならぬ」 そのとき、アフロン王には、イワンがとてもはずかしい思いをしていることがよくわかりました。「もし、おまえがわしの頼みをきいてくれたら、おまえのしたことを忘れてやってもいいぞ。となりの王国に、金のたてがみをもった馬が1頭いるのじゃ。その馬をわしのところに連れてきてくれたら、おまえに火の鳥をやろう」 イワンは喜んで承知しましたので、番兵たちはイワンを放してやりました。イワンは大急ぎで、外で待っていた灰色おおかみのところにもどりました。事のあらましを聞くと、灰色おおかみは言いました 「かごにさわってはいけませんと言ったんですよ。でも、いらっしゃい、となりの国まで連れていってあげましょう」
たちまちおおかみはイワンを乗せて森をぬけ、大きな城の中庭までやってきました。「静かにお行きなさい」 と、灰色おおかみは小声でそっとささやきました。「馬はあそこにいます、でも、どんなことがあっても、たづなにさわってはいけません」

 イワンがしのび足でうまやへ入ろうとすると、馬丁たちがとなりでしゃべっているのが聞こえました。うまやの中には、金色に光るたてがみをもった、りっはな馬が1頭、立っていました。イワンがどうすれば物音をたてないで馬を連れ出せるかと考えていると、壁にたづながかかっているのが見えました。イワンは何も考えないでたづなをとって、馬につけました。

 すると、そのとたんに大騒ぎになり、イワンは怒った召使たちに取り囲まれてしまいました。
「ご主人さまがおまえをこらしめてくださるだろうよ」 男たちはそう叫びました。「ツァーのクスマンさまは、一度つかまえた者は二度と逃したりしないからな!」 イワンはふるえながらツァーのところに連れていかれました、ツァーは恐ろしい顔でイワンをにらみつけました。

 「そのよろいかぶとを見ると、どうやらおまえは王子のようだな」 と、彼は言いました 「それがどうしてどうぼうのように、わしの馬を盗みにきたのじゃ」 イワンは、はずかしくて頭をたれました。すると、ツァーは話を続けました 「みんなにおまえの不名誉を知らせなければならぬところじゃが、ひょっとすると、わしの手伝いをしてもらえるかもしれんな」イワンはこれを聞いて、すくわれたような気持で目を上げました。
「となりの王国に、美しい王女が一人住んでおる、美しいへレナ姫といってな」 と、ツァーは言いました 「わしは、その王女を大好きなのじゃ、もし、その王女をここに連れてきてくれれば、おまえを許してやろう」
イワンはやってみますと言いましたので、クスマン王はイワンを自由にしてくれました。イワンは急いでおおかみのところに行き、今までのできごとを話しました。
灰色おおかみは、イワンのおろかさにがっかりしてため息をつきましたが、もう一度許してくれました。「私の背にお乗りなさい、ヘレナ姫をさがしに行きましょう」 と、彼は言いました。

 イワンとおおかみは、夜どおしまっしぐらに進みました。イワンたちがあまり速かったものですから、2人の通り道にいあわせた鳥や森の小さな動物たちは、すっかりおどろかされたくらいです。長い長い道のりを走ったあと、2人はりっぱな宮殿に着きました。「今度は私がやります」 灰色おおかみは言いました。「ここはドルマット王のお城です。このかしの木のそばで持っていてください」 そう言うと、灰色おおかみは壁をとびこえ、お城の庭にかくれました。
しばらくすると、美しいへレナ姫がお付きの女たちと現れ、花々の間を散歩しはじめました。灰色おおかみはすかさずとびかかって、ヘレナ姫をつかまえ、急いでかしの木のそばにもどってきました。「さあ、急いで!」 と、おおかみは叫びました。イワンはへレナ姫のうしろにとびのり、力の強いおおかみは2人を乗せて走りはじめました。お城からは怒った叫び声が聞こえ、馬に乗った男たちが追ってくる音も聞こえました。しかし、灰色おおかみは風よりも速く、イワンたちは逃げることができました。

 イワンとへレナ姫は、灰色おおかみの背中で抱き合っていました。おおかみは疲れもみせず1日じゅう、クスマン王の城へと森を走り続けました。イワンは若くりりしい王子で、ヘレナ姫は美しい王女でした。

 まもなく、イワンとへレナ姫は、深く愛し合うようになりました、お城が近づくにつれて、イワンはとても悲しそうなようすになりました。
灰色おおかみは肩ごしにふりむいて、どうかしたのかとたずねました。イワンはむせび泣きはじめました。「ああ、ぼくはへレナ姫と別れなくてはいけないけれど、別れることができないんだ。ぼくはへレナ姫を心から愛しているし、ヘレナ姫もぼくのことを愛している」と、彼は言いました。

 おおかみは少し足をゆるめ、しばらく考えました。「イワン、私は今までもあなたに忠実につかえてきましたが、もう一つあなたにしてあげられることがありそうです。私はへレナ姫の姿に変ることができるのです。彼女をここに残して、私をツァーのところに連れておいきなさい。あなたが私のことを思い出したときに、私はおおかみの姿にもどってあなたのところに帰ります」 と、彼は言いました。
イワンはこの友人にたいへん感謝し、灰色おおかみがへレナ姫とそっくりな姿に変るのを、おどろきの目で見守りました。本当のへレナ姫を森のはずれに残し、イワンと灰色おおかみはクスマン王の宮殿に行きました。

 クスマン王は有頂天になり、金のたてがみをもった馬を喜んでイワンにゆずってくれました。イワンは深々とおじぎをして立ち去りました。イワンはへレナ姫のところにもどり、すばらしい馬に乗って、火の鳥を取りに急ぎました。

 そのころクスマン王は、婚礼のしたくをしていました。王は美しいへレナ姫と結婚するつもりなのですが、もちろん彼女は、本当はイワンといっしょにはるか遠くにいました。婚礼の儀式がちょうど始まろうとしたそのとき、イワンが急に灰色おおかみのことを考えたのです──たちまち魔法がとけてしまいました。クスマン王が美しい花嫁にキスしようとしたとたん、花嫁はひげのはえた鼻づらと黄色く長いきばをもったおおかみに変ったではありませんか!

 おおかみが物音ひとつたてずにすばやく逃げ去ったのには、いあわせた人たちもびっくりしてしまいました。灰色おおかみはすぐに、イワンとへレナ姫に追いつきました。

 残った仕事はただひとつだけです。金のたてがみをもった馬を、火の鳥と取りかえることでした。しかしイワンは、この美しい馬を手ばなすのがいやになったのです。そこで灰色おおかみにこう言いました、「もしきみが王女に変れるなら、きっと馬にだって変れるだろう」

 さて、みなさんは、もう灰色おおかみはイワンをこれ以上助けてあげなくてもいいんじゃないかと思われることでしょうね。でも、灰色おおかみはイワンとへレナ姫が好きだったし、自分の魔法の力が自慢でもあったのです。ですから、おおかみはすぐに、イワンの乗ったりっぱな馬とそっくり同じ姿に変りました。「あなたが私のことを考えれば、すぐにあなたのとこうへもどってきます」 おおかみはこう言いました。

 イワンはとても喜びました。一行がアフロン王の宮殿に近づいたとき、イワンはへレナ姫を本当の馬といっしょに残し、灰色おおかみと共に宮殿に向かいました、おおかみは馬の姿でいななき、頭をふり立てます。アフロン王は、金のたてがみをもった馬を見てたいへん喜び、快く火の鳥をイワンにわたしました。

 イワンは宮殿を出て、すぐにへレナ姫といっしょに本当の馬に乗り、全速力で、父王の城をさしてかけていきました。
しばらくしてイワンは、灰色おおかみのことを思い出しました。そのとき、アフロン王は手に入れたばかりの馬に乗って狩に出かけていたものですから、その馬が突然きばをむきだしたおおかみに変り、すぱやく逃げ出したのを見て、腰をぬかしてしまいました。

 今ではイワンは、火の鳥も、すばらしい馬も、美しいへレナ姫も、手に入れました。おおかみは2人に追いついて、横を走っていましたが、一行は、以前灰色おおかみがイワンの馬をおそったところにさしかかりました。
その場所で灰色おおかみは足をとめ、こう言ったのです。「私の仕事は終りました。もうここでお別れしなければなりません」 イワンは、この忠実な友人と別れるのを、とても悲しく思いました。
「さよならを言わないでください」 おおかみは言いました。「また私の助けがいることがあるかもしれませんから」 そう言っておおかみは向きを変え、あっという間に森の中へ消えていきました。

 イワンとへレナ姫は、イワンのふるさとへと旅を続けました。2人は旅の疲れと暑さで、休みたくなりました。イワンは馬をつなぎ、2人は草の上に横になるとすぐにぐっすり眠ってしまいました。

 イワンたちが眠っているときに通りかかったのは、ほかでもない、イワンの2人の兄さんたちでした。兄さんたちは、火の鳥をずっとさがしていたのですが、もちろんみつけられなかったのです。

 ピーターはたづなをひいて馬の歩みをゆるめ、ワシーリーに話しかけました。「見ろ、イワンが火の鳥をみつけたぞ、その上、ほら、金のたてがみをもった馬も、美しい女の人もだ。これじゃ、あんまりだ、だって父さんは、王国の半分もあいつにやってしまうんだから」 ピーターは怒りがこみ上げてきて、剣をぬき、かわいそうにイワンを殺してしまいました。おどろいて目を覚したヘレナ姫ののどに、ワシーリーは剣をつきつけ、こう言いました。「もし、このことを一言でも父王に話したち、おまえも死んでしまうぞ」

 かわいそうなヘレナ姫にはどうすることもできません。ワシーリーは金のたてがみをもった馬にヘレナ姫を乗せ、よこしまな兄弟は、父王の宮殿へとヘレナ姫を連れていきました。

 イワンは死んで、森の中に横たわっています、からすがイワンの体の上で円をえがいて飛びはじめました。数日たって、灰色おおかみがそばを通りかかり、イワンがからすのひなに取り囲まれているのが目に入りました。
おおかみはすばやくひなの1羽をつかまえると、母鳥がすぐに舞い下りて、ひなの命を助けてくれるよう、頼みました。「もし、私の頼みをきいてくれるなら、おまえの子どもの命を助けてやろう」 灰色おおかみは言いました。「あの山々を越えて、“命の水“ をもってくるんだ」 ひなのことが心配でたまらない母親は承知し、すぐに飛びたっていきました。しばらくすると母鳥は、くちばしに小さなびんをくわえてもどってきました。
灰色おおかみは、その水をすぐにイワンの上にふりかけました、すると、イワンはゆっくり目を覚ましたのです。「長い間、眠ったな」 イワンはこう言いました。
「私の背中にお乗りなさい」 灰色おおかみが言いました。「時間がありません!」

 おおかみの背中に乗ったイワンが父王の宮殿に近づくと、旗がひるがえっているのが見えました、そして人びとが、とっておきの衣装をつけて、宮殿の門へと向かっているのです。灰色おおかみは、イワンに何があったかを話してくれました。「兄さんたちがあなたの眠っているところをみつけて、あなたを殺しました、それから、2人は火の鳥と金色のたてがみをもった馬を連れて、ヘレナ姫を盗んでいったのです。今日、ヘレナ姫はワシーリーと結婚することになっています、そして、あなたの兄さんのピーターの方は、王国の半分をもらうのです!」

  イワンは宮殿の中へと急ぎました。そこには、花嫁衣装を着たヘレナ姫が立っており、彼女はイワンを見ると、喜びの叫びを上げました。2人の兄たちは、恐ろしさのあまり、声も出ませんでした。
ツァーはイワンの話を聞いて、よこしまな兄たちを罰しました、そして、王国の半分を末っ子のイワンにゆずってくれました。イワンとへレナ姫は結婚し、それからずっとしあわせに暮しました。

 灰色おおかみはどうなったかですって?  きっとロシアのはてしない暗い森の中で、今でも人びとを助けていることでしょう!


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