レディバードブックス100点セット
 

 

ラ・フォンテーン寓話

〈オオカミになったキツネ〉

 キツネがある日、オオカミに言いました 「わたしはあなただったらなぁとよく思いますよ、この小高い山々のなかで立派に安全に暮し、食べたいときにはいつでも、丸まるとしたおいしい羊が食べられるんですもの。わたしときたら、農場のあたりをうろつきまわって、やせこけて年老いた雌鶏や雄鶏を手に入れるために、命がけの危険をおかさなければならないんですよ。あなたのやり方を教えてくれませんか。わたしも、丸まると太ったおいしい羊の肉にがぷっとくらいつきたいですよ」
「いいとも」 と、オオカミが言いました。「たまたま、わたしの叔父さんが死んだばかりだ──かなり年とっていたがね──おれたちが彼の毛皮を使っても、きっと気にしないよ。その毛皮をかぶれば、羊の番犬もびっくりして逃げだしてしまうさ」
そこで彼らはオオカミの毛皮をみつけ、少し教わり訓練もうけて、キツネは、まもなくすっかりほんとうのオオカミらしく見えるようになり、オオカミの仕草も身につきました。彼は新しい生活を始める準備ができたのです。
羊の群が丘を越えてやってきました、それで、キツネは羊の群の中に走りこみました。(キツネを見ると) ほんとうのオオカミだと思って、びっくりし恐れおののいて、羊飼いも番犬も羊も散りぢりになって逃げ去り、ご苦労賃に、太ったおすの羊がキツネの手に残りました。

 しかし、この物音すべてが谷間の下の農場まで聞こえ、年とった雄鶏がびっくりして鳴きだしました。

 キツネは動きをとめて、このききなれた鳴き声にきき入りました。それは彼の頭の中に鳴りひびきました──食欲をそそるなつかしい鳴き声でした。キツネは新しく身につけた狩猟用の毛皮や、狩猟のための教えや、太った羊のことを忘れ去って、全速力で農場へ、そして昔の生活へとかけもどっていきました。

● きみは上着を変えるようにたやすく、その性格を変えることはできない。

 

〈どちらの主人の方が?〉

 年とったラバが重い主人を背中に乗せて、丘を越えて歩いていました。彼らは緑の草がたくさん茂っている小さな牧草地にさしかかりました。男が自分の腹をいためず、ただでやせたラバに草を与えるまたとない好機でした。
彼はラバから下りて、彼を放してやりました。ラバはあたりをはねまわり、喜んでいななき、そのいななきが丘じゅうにひびきわたりました。
彼の鳴き声は盗賊の一団の耳にとどきました、彼らは逃してはならない好機だと思いました。

 男は盗賊が自分の方にやってくるのを見ると、ラバに呼びかけました 「急いでこっちへ来て、わたしを乗せてくれ、手遅れにならないうちに逃げだそう!」
「わたしは逃げませんよ」 と、ラバが言いました。「なぜわたしが逃げなければならないんですか。彼らだって、わたしに鞍を2つは置けませんよ。彼らだって、あなたが運ばせていた重さの2倍を選ばせることはないでしょう」
「たぶんそうだろうよ、しかし……」 と、彼の主人は言いました。
「だから、誰がわたしの主人になっても、かまわないんです。あなたは逃げて命が助かった方がいいですよ、わたしはあなたにはつかまりませんからね。わたしのようにつらい仕事をしてきたものにとっては、どんな主人でも同じようなものなんですよ!」

 

〈ネズミと猫と雄鶏〉

 はじめてひとりで外に出て、若いネズミはやっとのことで難を逃れました──いわば危機一髪でした──そして彼女は家にかけもどって、お母さんに一部始終を話しました。
「わたしは農家の庭に入っていったんです」 と、彼女は言いました 「すると2匹の大きなものがわたしのところへやってきました。1匹は静かで親切でしたが、もう1匹は恐ろしくて──大きく乱暴そうで、大きなしっぽをゆらし、鳴き声も大きく、頭も赤くて大きく、大きなはばの広い腕をぱたぱたやっていました。お母さん、彼はとても恐ろしく、わたしをたいへんおどしたので、わたしは家までずっと走って帰ってきたんです。でも、わたしはもう1匹とはずっといっしょにいたかったんです、やわらかなべルベットのような毛皮で、かわいい長いひげを生やし、わたしと同じような耳を持ち、低いころころとのどを鳴らすような声をし、かわいい大きな目を持った、あのりっぱな生きものといっしょにいたかったんです」
「おまえが家にかけもどってきたのは運がよかったんですよ」 と、お母さんネズミが言いました。「おまえのかわいい友だちは、ネズミを食べてしまう恐ろしい猫だったんです、お父さんも、おじいさんも、お兄さんも猫に食べられてしまったんです。もう1匹の大声を出す方は、私たちの古くからの友だち、雄鶏さんです。彼は、おまえの命を助けて家に帰らせようと、大きな音をたてたんですよ」

● 外見にまどわされてはならない。

 

〈反省〉

 終生の友だちで仲間でもある2人の男が、つまらないことで意見が分かれました。それはある論争で、よくあることですが、どちらもゆずろうとはしませんでした。
論争はだんだんとこみいっていき、2人はますます感情が激してきて、声も大きく怒り声になってきました。とうとう、けんかを止めさせようと、3番目の友だちが2人の話を中断させました。
「わたしといっしょにいらっしゃい」 と彼は言い、彼らを小さな静まりかえった池に連れていきました。そこへ着くと彼は、池に映っている自分たちの姿をじっと見なさい、と彼らに言いました。
次に、彼は棒を持って、池の水を激しくきかまわしました、水はこい泥水になりました。

 「さて、自分たちの姿が見えますか。もちろん見えないでしょう、こんな泥水では。しばらくここを離れて、水を静まらせなさい。それからもどっていらっしゃい、そうすれば、きみたちのほんとうの顔がまた見られますよ」
そこで怒った2人は、いったん別々に離れました。2人はそれぞれに、この教訓の意味を考えはじめました。
しばらくの間静かに反省すると、彼らは2人とも、そのけんかがおろかだったと意見が一致し、各自が他の1人を古くからのほんとうの友だちだとまた認めたのでした。

 

〈ライオンの病気〉

 すべての野獣の王、ライオン陛下が、自分は病気ですみかを出られないから、どの動物も、仲間の1頭を彼のもとに訪問によこすよう、すべての動物の家来におふれを出しました。

 ライオンはまた、どんなけものも、雄牛でも、ロバでも、馬でも、鹿でも、彼を訪れるどんな動物も、いかなる種類の被害もこうむることはないことを、王さまの言葉として約束するとのおふれも出しました。
それで、毎日毎日訪問者がやってきて、王さまのすみかに入りました──キツネ以外のすべての動物が。
1匹のキツネが仲間のキツネに言いました 「王さまに会いにきたすべての動物の足跡が洞穴の中に続いているが、ふたたび出てきた足跡はないんだ」

● 約束はパイの皮のように、破られやすい。

 

〈戦う雄鶏〉

 2羽の雄鶏が (彼らはかつてはとても仲よしでした) 農家の庭の雌鶏たちの支配者になるために戦いました。彼らは1日じゅうはげしく戦いました、とうとう、小さい方の雄鶏が、打ちのめされ、打ち負かされ、羽を血に染めて降参しました。彼は逃げ去り、傷の手当をして勇気と力を取りもどそうと身をかくしました。
勝った雄鶏は、勝利に得意になって、垣根の上のとまり木で、大声で長いときの声をあげました。何日もの間、彼はありったけの声をあげて、自分がいかに強く、いかに勇敢で、いかに無敵であるかをあたりに知らせました、とうとう、負けた雄鶏はがまんできなくなりました。

 しかし、この鳴き声と騒ぎが庭の外にも聞こえました。お腹をすかせたワシが、彼がふたたび、ときの声をあげようとしたまさにそのときに、この勝利者におそいかかり、夕食に食べようと彼を運び去りました。
わたしたちの友だち、もう1羽の雄鶏は、すぐさまこの急な変化を利用しました。
彼はふたたびかくれ場所から出ることができ、挑戦するものも拒むものもないまま、自由に農家の庭と雌鶏小屋を支配できるようになって、ほめたたえてくれる多くの雌鶏の支配者および夫として、長い間楽しい生活を送りました。

● わざわいは、自慢するものにしばしばやってくる。

 

〈こぼれたミルクの話〉

 乳しぼりの女が、クリーム分の多い牛乳を売りに市場へ行こうと、陽気に野原を歩いていました、彼女は牛乳を大きなつぼに入れ、頭に乗せて運んでいました。
歩きながら、彼女の頭の中は牛乳を売って得られる代価のことで、幸せでいっぱいになりました、そして彼女は将来の計画を立てはじめたのです。このすてきなお金でどうしようかと。
「そのお金で」と、彼女は考えました 「わたしは卵を100個買うことにするわ。卵をかえすために何羽かの雄鶏を借りましょう、ひよこが庭の中を走りまわるでしょうね。ひよこが大きくなったら、売ってブタを買うわ」

 「ブタはすぐに大きくなるわ、ブタが大きくなり、太ったら、きっといい値段で売れるでしょう」
「そうしたら、ブタを売って茶色の雌牛を買うことにしましょう。わたしはずっと自分の雌牛がほしかった。もちろん子牛が生れるでしょう──かわいい茶色の子牛が。おお、なんと楽しげに子牛がとんだりはねたりすることでしょう」

 そんなことを考えて、とても楽しくなり、彼女はとんだりはねたりしはじめました。そして石につまずいてころんでしまいました。
つぼは地面に落ちて割れてしまいました。牛乳はなくなってしまい、それとともに、子牛、雌牛、ブタ、ひよこ、卵など、彼女の楽しい夢も消えてしまい、あとに残ったのは、家に持ち帰る悲しい物語だけでした。

しかし……こぼしたミルクをなげいても役には立ちません。(後悔先に立たず)

 

〈ライオンの分け前〉

 ライオンとオオカミとハイエナとジャッカルが、いっしょに狩に出かけ、いっしょに鹿を殺しました。ライオンが言いました 「これを4等分しよう」
彼らはみんな公平だと思いました。
「最初の部分はわしのものだ」 と、ライオンはつづけて言いました 「わしは王さまのライオンだからな」
他のものたちにも、それはもっともなことに思われました。
「2番目の部分もわしのものだ」 と、彼は言いました 「わしが一番勇敢だからな……そして、3番目もわしがとる、一番強いからな……おまえたちの誰かが4番目の部分にふれたら、そいつをすぐに殺すぞ」
その言葉に対して、他の3頭は実際うまい答をみつけることができませんでした。

● 偉大な権力はそれ自身の法律を作ることができる。

 

〈4人の漂流者〉

 激しい風のなかで難破した船から、4人の男が岸にながれ着きました、彼らは空腹で寒くて、持ちものはなにもなく、見知らぬ土地にはじめて上陸したので、土地のことは何もわかりませんでした。
彼らは、どうしたらもっともよく生活できるか、どうしたら体と心を維持するにたりる十分なものが得られるか──言いかえれば、どうしたらお金がかせげるかについて考えはじめました。

 1人が言いました (その男は金持の銀行家でした) 「わたしは算数と会計を教えよう、それでお金をかせぐのだ──わたしはそう思う」。 もう1人が言いました (その男はほんとうの侯爵でした) 「人びとに自制する方法を教えればお金を払うだろう──たぶん」。 3人目の男が言いました (彼は司教でした) 「宗教的な問題について教えを説いてあげられる人びとがきっといるだろう」
3人はみんな、自分の考えがとても気に入りました、しかし、農夫であり実際的なたちである4人目の男が言いました 「いいでしょう。みんないい考えですね、しかし、教えてもらってお金を払うかもしれないし、払わないかもしれない、そんな人たちをみつける間、あなたたちはどうやって食べるんですか。わたしですか、わたしはたきぎを取りに森に入り、それを売って食べものを買いますよ、わたしたちみんなが飢死しないうちに、すぐ始めようと思います」

● ちょっとした行動は、しゃべってばかりいるよりは価値がある。(不言実行)

 

〈キツネとヤギ〉

 キツネがいなかを歩いていました。友だちの雄ヤギといっしょでした、ヤギには、りっぱな長い角と美しい長いあごひげがありましたが、鼻さきより遠くは見えませんでした、言葉をかえていえば、彼はいわば、ばかだったのです。(キツネがばかだという人はいないでしょう)
その日は暑くて、彼らはのどがかわいてきました。古い井戸をみつけると、彼らは冷たい水を飲もうと、とび下りました。
とび下りてからやっと、彼らはどうやってまた外に出ようかと考えはじめました。
「そうだな」 と、キツネが言いました 「ぼくたちは1日じゅうここにいるわけにはいかないぞ。いいことを思いついた。きみが前足と角をまわりの壁にかけてうしろ足で立ってくれれば、ぼくがきみの背中に乗り、角に登って、そこから外にとび出せるよ。そうしたら、もちろん、きみを助けて外に出してあげるよ」

 「ぼくのあごひげにかけて」 と、ヤギは言いました 「きみは頭がいいと言わざるを得ないね。ぼくはそんなこと思いもつかなかったよ」 そこで、キツネはヤギの背中に乗り、角に乗って井戸の外へ出ました。しかし、ヤギを助けて外に出してやるかわりに、キツネは短い演説をしたのです。

 「きみのあごひげにある毛ほどの知恵が頭にあったら、まず井戸の中にとびこむようなばかなことはしなかっただろうね。ぼくは外に出たよ、だから、きみも外に出るために最善をつくせよ。ぼくはどうかというと、これでさよならだ、ここできみと話すことよりもずっとましなことがいろいろあるからね」

● 誰かほかのもののうまい考えは、そのものだけにとってうまい考えなのかもしれない。

 

〈天文学者〉

 昔、空の星についての知恵と知識をいっぱい持って、夜歩きまわるのがつねである天文学者、すなわち、星を眺める人がいました。彼は空を見上げて、夜の驚異について考えをめぐらせていました。
不運にも、彼は自分がどこを歩いているのか気をつけないで、井戸に落ちてしまいました。

● きみは眺めているところへ行けなければ、歩いているところを見るべきである。(足もとをきちんと見よ)

 

〈滝と川〉

 山賊から逃げようと一所懸命馬を走らせていた男が、水量豊かで、うなりをあげ、山腹を泡立ちながら落下している滝にさしかかりました。どんなときでも、その滝を越えようとする者はほとんどいないことでしょうが、馬上の男は、とらえられ、強奪され、殺されるよりは、その恐ろしい滝を危険をおかして越える方を選びました。彼は馬に拍車をかけて、その怒り狂う水の中に乗り入れました、すると、おどろいたことに、その中を進んで向う側にわたることができました。その滝は水流も速くものすごいものでしたが、そんなに深くもなかったのです。彼は岸にのぼり、馬を走らせました。馬上の男がわたったのを見ると、山賊も同じようにわたって、彼の後を追い続けました。
疲れ果て絶望的になって、馬と乗り手は川にさしかかりました、その川は、穏やかに静かに、のんびりとのどかに流れているように見え、土手も低く平らでした。ためらわずに、彼は馬をまっすぐ乗り入れました──しかし、流れは彼が思ったよりも深く、速く、はばも広かったのです。馬と乗り手が水中に沈んで姿が見えなくなり、いつまでたっても向う岸に着かないので、山賊たちはついていくのがこわくなって、引き返しました。深くて外見とはちがう恐ろしい川の水は、馬と乗り手を死へと運び去ったのです。川は彼らを山賊から救いましたが、今度は川自らが彼らの命をうばったのでした。

● 音を立てない危険物こそ、もっとも恐ろしいものなのだ。

 

〈鵜と魚〉

 1羽の鵜が、湖で魚をとって長い一生を申し分なくすごしていました。しかし、彼は年をとって、以前ほど楽に魚を捕らえることができないことがわかりました──事実彼は、ほとんど魚を捕えることができませんでした。彼は細く、やせこけてきました。どうかしなければなりませんでした。
彼は湖の岸辺で、ザリガニに会いました。「おやまあ」 と、彼は言いました 「聞いたかね。この湖の持主が友だちをみんな呼び、大きな網をたくさん使って魚とり大会を計画しているぞ、この湖の魚をみんな取るつもりだとさ」
ザリガニは湖の魚のところへ急いでいって、そのニュースを知らせました。魚たちはびっくりしましたが、逃げる方法を思いつくことができませんでした。そこで、彼らは鵜の助言を求めに、使者を彼のところへ送りました。
「鵜のだんな、わたしたちはどうしたらいいでしょう」 と、彼らはたずねました。
「わしにもひとつの方法しか思い浮かばない──おまえたちがどこか他の場所に移り住むことだ」 と、彼は言いました 「そういうことになれば」 と、彼はずるそうな声でつけ加えました 「わしはおまえたちを助けることができる。わしは丘をあがったところに、私有の池を持っている、きれいで気持のよい池だぞ、そこには人間が行くことはないのだ。わしはおまえたちを1匹ずつ運んでいってやる──そこにいれば、網でとられる心配はまったくない」

 たいしためんどうもなく、魚たちはみな承知しました。
そこで、1匹ずつくちばしにくわえて、鵜は魚たちを丘にある自分の私有の池に運び、やがて池はいっぱいになりました。そしてそこで、鵜は食べたくなると、朝食に、昼食に、夕食にと1匹ずつごくりと飲みこみました、彼がまた空腹になるまでには、何週間もかかりました。

● きみの不幸によって利益を得る人を信用してはならない。

 

〈ワシのまねをしたカラス〉

 羊の群れに、ワシが舞い下りておそいかかりました。彼は、子羊をつかまえて飛び去りました。
カラスくんがこれを見て、自分に同じことができるだろうと確信しました。事実、それはたいへんやさしそうだったので、自分だってもっと上手にやれるだろうと、カラスは思ったのです。彼は羊の群の上を飛びまわって、群の中で一番大きな羊、りっぱな太った雄羊を選びました。
雄羊の背中にとびおりて、彼は厚いもつれた毛皮につめを深く立て、その獲物を持ちあげようと懸命にはばたきました。もちろん、雄羊は彼には重すぎました。そればかりか、雄羊の毛皮はたいへん厚くて、カラスはつめを放すことができませんでした、そして彼がカアカア鳴いてもがいていると、羊飼いが彼をつかまえてかごの中に入れ、家に持ち帰ってしまいました。

● かむことができる以上のものを、決してかんではいけない。(力にあまる仕事をしようとするな)

 

〈オオカミと犬とくさり〉

 飢えてお腹がペコペコで、いわば 「骨と皮ばかりの」 オオカミが、大柄で太って強そうなマスチフ犬に会いました、その犬は、彼よりはずっと大きくて強く、とても太刀打ちできそうにない番犬でした。そこでオオカミは、ずるそうなにやにや笑いをうかべて、その犬に近づきました。「おいきみ、きみはなんて大きく、太っていて、強そうなんだろう、犬くん」
「そうだよ、オオカミくん、きみだってたやすくぼくのようになれるよ。
ここを見てごらん──暖かい火もやわらかい寝床もなく、しめった冷たい森じゃないか、それに、貧弱な食べものを手に入れるために毎日激しい戦いをしなければならないじゃないか。ぼくといっしょにおいでよ。ぼくと同じようにおいしいものが何でも食べられるような仕事をみつけてあげるから」
「しかし」 と、オオカミは言いました 「そのお返しにするぼくの義務は何なのかね。ぼくは何をしなければならないのかな」
「おお、猫とか年とったあわれな乞食をおどかして追いはらったり、しっぽをふってご主人と家族のごきげんをとることだけさ。その駄賃として、きみは残りもののおいしい肉とか、その他おいしいものが食べられ──十分世話もしてもらえるというわけさ」
オオカミは興奮して泣きださんばかりでした、そして、新しい友だちの後を急いでついていきました。やがて彼は、新しい友人の首のあたりに、毛がすっかりすりきれて、大きなはげになっている個所があるのに気がつきました。
「それはなんだね」 と、オオカミはたずねました。
「なんでもないよ─―いずれにしてもたいしたことじゃないよ」
「しかし、それはなんなの」 と、オオカミはききたがりました。
「おお、ぼくの重い首輪と鎖がこのちょっとしたしるしの原因となったのかもしれないね」
「きみの鎖だって。すると、きみは自由きままに出歩くことができないんだね。そうか、そんなのぼくはいやだ」 と、やせこけた骨と皮のオオカミは言いました。「きみはきみの楽な生き方をすればいいさ。ぼくは自由な生き方をするよ」
そしてオオカミは、森の中の自由な生活へとかけもどりました。

● 楽な生活には欠点もある。

 

〈カシの木とアシ〉

 がっしりしたカシの木が、川辺のほっそりしたアシに言いました 「わしはきみがかわいそうだ、ほんとうにそう思っているよ。きみはそんなに強くないね。きみはどんな小さい鳥にも、また、どんなそよ風にも頭をたれなければならない。自然の女神はほんとうにきみを不当にあつかっているね。さあ、わしを見てごらん。北風だろうが、西風だろうが、東風だろうが、どんなにひどい嵐だって──わしにはまったく同じことさ。わしは動かないし、頭もたれない。きみは風の強いそんな水辺にではなくて、わしの下に生れればよかったのに。わしはほんとうにきみを気の毒に思うよ」
「わたしのことを気の毒に思う必要はありませんよ」 と、アシが言いました 「ご親切はありがたいんですがね、風なんかわたしたちにはそんなに恐ろしくないんです。わたしたちは風の邪魔にならないように、ただ頭をたれます。あなたは背中を曲げもしないで、今まで風に立ち向かってきたかもしれません。しかし──まあ、少し待ってどうなるか見ていましょう」

 彼らはそんなに待つ必要はありませんでした。冬の嵐が吹き荒れたのです、ものすごい北風で、一番年とったものも覚えがないほどのものでした。
がっしりしたカシの木は、がんじょうな枝をたくましくしっかりと張り、太い根を地面にしがみつかせて、しっかりと立っていました。しかし、今度は風も負けてはいませんでした。風はさらにはげしく吹きました。たいへんはげしく吹いたので、最後まで抵抗していたカシの木もばらばらにされて、彼の誇りも力強さも地面に散らばっていました。
アシはどうかというと、どんなそよ風にも頭をたれる彼らは、そうです、彼らは前よりもう少し頭をたれただけでした、すると風はなんの害も与えずに、彼らの上を通りすぎていきました。

● 真の勝利者は、ゆずることができる人であることがしばしばある。

 

〈ロバ泥棒〉

 2人の泥棒がロバを盗みました。1人が言いました 「このロバを売ろう」
もう1人が言いました 「いや、これを飼おう」 彼らは意見が一致せず、なぐり合いになりました、彼らはこぶしとこん棒で戦ったのです。彼らがけんかに夢中になっている間に、別の泥棒が忍びよって、ロバを盗んでしまいました。

● 泥棒の間には道義心はない。

 

〈タカと王さまの角〉

 たか匠がタカを訓練して、王さまへの贈物にそのタカをさしあげようと、宮廷にやってきました、その王さまはりっぱな賢い王さまでした。たか匠が王さまの前にひざまずいて贈物をさしだしたとき、タカが彼の手を離れて王さまの鼻の上にとまり、爪をしっかりと立ててしがみつきました。
さて、王さまの鼻はかなり大きい鼻でした。王さまご自身もその鼻について冗談を言っていました。しかし、タカがその上に止まるなんて──いやはや。宮廷は大さわぎになりました。司教も、領主も、裁判官も──誰もどうすることもできませんでした。王さまは動きませんでした──王さまの威厳を保つためには、痛いとも言えせんでした──たか匠は、タカをなだめすかして自分の腕にもどそうと最善をつくしました。しかし、彼らにできることは、何もありませんでした--タカはまる一晩じゅう一 ずっと王さまの農にしがみつき続けました、朝になってやっと、タカはなだめすかされて離れました。
もちろん、たか匠は、タカが王さまを攻撃したので、きっと自分は命を失うことになるだろうと思いました。しかし、前にも言ったように、王さまは賢く忍耐強い人でした。
「彼らに害を与えてはならない」 と、彼は言いました。「彼らは両方とも、その義務に従って行動したのだ──男はわしを喜ばそうとし、タカはとびかかり、獲物の上にとまったのだ。それゆえ、わしは王としての義務を果し、無作法を許さなければならない」


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