レディバードブックス100点セット
 

 

ギリシア神話2

〈ヘラクレスの仕事〉

 古代ギリシアの英雄のなかで一番有名だったのは、ヘラクレスでした。ローマの人びとは、彼のことをハーキュリーズと呼んでいました。
ヘラクレスはギリシアで生れました。彼の両親はアンフィトリオン王とアルクメネーでしたが、本当の父親は、神々の王であるゼウスであったとも伝えられています。
ゼウスの妻へラは、ゼウスがアルクメネーを愛してしまったことに怒り、しっとしました。そして同時に、ヘラクレスをも憎むようになりました。まだヘラクレスが赤ん坊だったころ、ヘラはオリンポスから降りてきて、彼のゆりかごの中に2匹のへびを入れました。しかし、ヘラクレスは両手に1匹ずつへびをつかむと、その恐ろしい生き物をあっという間に、にきりつぶしてしまいました。
ヘラクレスが大きくなるにつれて、彼の偉大なる強さと勇気は、ギリシアじゅうに有名になっていきました。彼は結婚をし、彼の妻は子どもを産み、彼はその子どもたちをたいへんかわいがりました。彼に対するヘラの憎しみは、忘れさられたかのようにみえました。

 しかし、オリンポス山に住む、不死身の神々は、人間への愛や憎しみを忘れたりはしなかったのです。へラは今度こそヘラクレスに恐ろしい一撃を加えました。
ある晩、ヘラクレスが自分の宮殿で寝ているとき、ヘラは彼に気ちがいの発作を起こさせました。夢の中で彼は、敵がおそってくるのを見ました。彼はこん棒をつかむと、敵が全部死んでしまうまで打ち続けました。発作がおさまったとき、彼は恐ろしい事実を知りました──彼は、自分の妻と子どもたちを殺してしまっていたのです。
これがヘラのひどい仕打ちとも知らず、ヘラクレスは自分のしたことにぞっとしました。この罪から、どうしたら逃れられるでしょうか? 彼は、デルフォイにあるアポロの神殿に行き、助けを求めました.
神殿の暗闇の中から、声が彼に語りかけました。「おまえが12年間、ユーリステウス王の前につかえたなら、その罪から逃れることができるであろう。彼の言うことは何でもききなさい」

 そこでヘラクレスは、ユーリステウス王の前にやってきました。「私は、あなたに12年間つかえるためにやってきました。あなたのおっしゃることは何でもきくように、というのが神々のいいつけです」 と、彼は言いました。
ユーリステウス王は残忍で、どん欲な人間でした──王は、ヘラクレスがあまりに強く、有名なので、彼を憎んでいました。これでどうやら、王はヘラクレスを死に追いやるチャンスを持ったように思いました。
「おまえの最初の仕事は、ネメアのライオンを殺すことだ」 と、王は残忍な笑いをうかべながら言いました。

 ミセナエ(ミケーネ) の王の宮殿からほんの少し行ったところに、ネメアの町がありました。ヘラクレスは、弓矢と重いこん棒を用意し、ライオンのすみかへと向かいました。
ライオンは、ヘラクレスを見ると飛びかかってきました。ヘラクレスはライオンに傷を負わせることはできましたが、殺すことはできませんでした。しかし、とうとう最後には、彼はライオンを締め殺してしまいました。その皮で立派なマントを作り、彼は冒険に出かけるとき、たいていそれを着ていきました。

 ヘラクレスがユーリステウス王のもとにもどったとき、王は、彼を見ておどろきました。「よかろう」 と、王は言いました 「おまえの次の仕事は、レルナにすむ恐ろしい水へび、ヒドラを殺すことだ」
この仕事がたいへん危険であることがわかっていたので、ヘラクレスは、彼のおいである勇気ある若者、イオレイウスを連れていきました。彼らはいっしょに、南にある大きな沼、レルナへと向かいました。ヘラクレスは、ヒドラの吐く息にも、恐ろしい毒があることを知っていました。恐怖におびえながら、2人は沼を探しまわりました。そのとき、不気味にシューシュー音をたてながら、ヒドラが水から姿を現わしました。

 ヘラクレスはぎょっとしました。いくつもの大きなへびの頭が、とぐろをまいた崩の上でくねっていたからです。
ヘラクレスは、剣を引きぬいて頭の1つを切り落としても、切り口からは2つの頭が生えてきました。そのとき、イオレイウスがあることを思いつきました。彼は、燃え盛る木でたいまつを作りました。首を切り落とすたびに、イオレイウスは切り口をたいまつで焼いていきました。とうとうヒドラは、死んでしまいました。
そのとき、ヘラクレスはいいことを思いつきました。ユーリステウス王のところへ帰る前に、彼は矢を、ヒドラの、毒のある血にひたしておきました。あとで、それが役に立つかもしれなかったからです。

 次に王は、ヘラクレスを、アルチミスの聖なる鹿をつかまえに行かせました。この美しい動物は、金の角を持っていました。その鹿は、たいへんおく病で、ヘラクレスはまる1年間追いかけていなければなりませんでしたが、とうとう最後には王のもとへ連れて帰りました。
ギリシア南部のエリマントス山の上には、大きな野生のイノシシがおり、ヘラクレスはそれをユーリステウスのところへ連れて帰らなければならなくなりました。激しい争いの後、ヘラクレスは、野生のイノシシを生きたまま頭の上にかかえて、宮殿に帰ってきました。恐れおののいた王は、ヘラクレスがイノシシを連れ去るまで、大きなつぼの中にかくれていました。
腹立たしく思いながら王は、牛の大群を持っている彼の友人、アウゲイアスの手助けをさせるため、ヘラクレスを彼のところへやりました。アウゲイアスはなまけものの農夫で、牛小屋などそうじしたことが一度もなく、牛小屋の中は汚物が山のようにたまっていました。ヘラクレスは、それをきれいにするようにと言われました。
英雄はたいへん利口でした。彼は、近くの川の流れを牛小屋の方に向け、中を通りぬけさせ、きれいに流してしまいました。

 こうして難なくヘラクレスは、5番目の仕事を終えました。彼があまりにたやすく仕事を成し遂げるので、ユーリステウスは腹を立てていました。
「スティンファルス湖へ行け」 と、王は言いました 「そして湖にすみついている悪い鳥たちを殺してこい」
ヘラクレスは弓を持って出かけ、湖をみつけました。彼は、鳥の群が、岸辺のアシの草むらにいることを知っていました──その鳥たちは、鉄のくちばしと鉄のつめを持っていました。鳥たちはときどき、ひとり旅の人たちをおそっては八つ裂きにしていました。

 ヘラクレスはあたりをながめましたが、彼らの影も形も見えませんでした。
とうとう彼は辛抱しきれなくなりました。彼は木ぎれでガサガサと大きな音をたて、それをにぎってゆさぶりました。この音が、山の中の湖に大きく響きわたり、何百という鳥が、わめき声をあげながら空へ舞いあがりました。
それからヘラクレスは弓をとると、矢を次から次へと空へ放ちました。1日じゅう彼は、終わることのない流れのように、矢を放ち続けました。矢にはヒドラの血がつけてあったので、鳥たちはみんな、たちまちに死んでいきました。

 ギリシアの南に、クレタという大きな島がありました。クレタの王はミノスで、彼は海の神、ポセイドンを崇拝していました。ある日、ポセイドンはミノスに、白く美しい雄牛を授けました。「これを贈物として受け取りなさい」 と、ポセイドンは言いました 「しかし、まもなくそれをいけにえとして、私に捧げ返さなくてはいけない」
ミノスは、どん欲な人間でした。その牛は、それはそれはすばらしい生き物だったので、彼はそれを自分のものにしておくことにしました。かわりに、ポセイドンには別の白い雄牛をいけにえとして捧げました。しかし、神をだますことができる、と信じている人間はおろか者です。ポセイドンは怒り、白い雄牛の気を狂わせてしまいました。牛は島じゅうを歩きまわり、物をこわし、人びとを殺しました。
ユーリステウスは、ヘラクレスにその雄牛をつかまえに行かせました。牛が突進してきたとき、ヘラクレスはしっかり足を踏みしめていました。彼は、ものすごい力で牛の角をねじっていき、地面にねじ伏せました。そしてすぐに、その牛を飼いならしてしまいました。
ヘラクレスが牛を生きて連れて帰ったので、またもやユーリステウスはおどろいてしまいました!

 ヘラクレスは次の仕事で、ギリシアのもう一方の端──北の国スライスに行きました。ユーリステウスが、ディオメデス王のすばらしい雌馬を欲しがったからです。
この馬たちは、風のように速いといわれていました。飼い主のディオメデスは残忍な王で、彼のところへ客として来た人たちの肉を、えさとして馬に与えてしまいました。
ヘラクレスはスライスに着くと、見張りの者たちを殺し、ディオメデスが近づいてきたときには、馬たちを連れていこうとしていました。王はヘラクレスに飛びかかり、英雄の腰をつかんで馬に投げ与えようとしました。ヘラクレスはこん棒をふり上げ、デイオメディスを激しく打ち、気絶させました。
ヘラクレスは、敵に情けをかけませんでした。ディオメデスは馬に投げられ、馬は自分たちの主人をむさぼり食いました。それからヘラクレスは、馬を連れてユーリスデウスのところへ帰りました。

 ギリシアには、アマゾンとよばれる、好戦的で風変りな種族についてのいろいろな話がありました、アマゾンは女性ばかりで、ヒッポリテという女王によって支配されていました。この女王は、神からの贈物として金のベルトを持っていました。ヘラクレスはそれをとってくるように言われたのです。
ヘラクレスは、アマゾンの国に着くと、ヒッポリテに近づいていってこう言いました 「私はミセナエのユーリステウス王のもとから、あなたの金のベルトをもらうように言われてきました、戦いに来たのではありません」

 ヒッポリテは、ヘラクレスの勇気に満足し、また、戦争はさげたかったので、ベルトをわたすことにしました。
しかし、神々の女王、ヘラは怒りました。彼女は、激しい争いを彼らの間に引き起こさせました。ヘラクレスは、アマゾンの人たちにとってあまりに強すぎました。たくさんの人が殺され、ヒッポリテも殺されました。
悲しみに沈んで、ヘラクレスは彼女のベルトをどん欲な主人のところへ持って帰りました。

 ヘラクレスの10番目の仕事は、ゲリオンの牛をとってくることでした。この巨人は、ギリシアのはるか西の国に住んでおり、美しい赤牛の群を持っていました。
ゲリオンは、腰でつながった3つの体と6本の腕を持ち、彼の番犬オルスラスは、2つの頭を持っていました。ヘラクレスが牛を集めようとしたとき、オルスラスがすさまじくうなり、ほえながら彼に飛びかかってきました。ヘラクレスは犬を投げ飛ばすと、こん棒で激しく打ちました。
このさわぎをききつけて、ゲリオンが突進してきました。3つの体を持つ怪物が近づいてくるのを見て、ヘラクレスは弓に矢をつがえて、慎重にねらいを定めました。矢はあまりに強く標的に向かって飛んでいったので、ゲリオンが逃げようと横を向いたとき、3つの体を全部つらぬいていきました。巨人は死んでしまいました.
ヘラクレスは牛を連れて、勝ち誇ってユーリステウスのところへ帰りました。

 ユーリステウスは、ヘラクレスがまたもや成功したのに怒り、世界の西の端にある、ヘスペリデスの園から金のりんごを取ってくるようにいいつけました。
そのりんごは、竜によって守られていました。そばには、天を支えることが仕事である巨人のアトラスがいました。ヘラクレスは、竜を矢で殺し、それからアトラスに、手をのばしてりんごを彼のために取ってくれるよう頼みました。
アトラスがりんごを取っている間、ヘラクレスが天を支えていました。しかし、アトラスは、もとの仕事にもどりたくはありませんでした。「もう少しそうしていたまえ」 彼はずるそうに誓いました。「私が、ユーリステウスのところにりんごを持っていこう」
彼がもうもどってこないことが、ヘラクレスにはよくわかっていました。
「いいでしょう」 彼は言いました 「でも、天の重さは相当なものです。私がライオンの皮と剣をとる間、少しもどっていてください」
アトラスはもどって、天を支えました──そしてヘラクレスは、りんごをひろうと笑いながら逃げていきました。

 ヘラクレスが金のりんごを持ってもどると、ユーリステウスはすっかり困ってしまいました。王は、あと1つしか仕事を考えつくことができませんでした。「死の国の番犬、セルベロスを連れてこい」 と、彼は言いました。
生きた人間は、誰も死の国に足を踏み入れることは許されず、また、頭を3つ持った大セルベロスはどう猛で、恐ろしい生き物でした。しかし、ヘラクレスは少しも恐れてはいませんでした。彼が死の国の入口である暗いほら穴を降りていくと、ほら穴の番人たちは彼を見て、みんな逃げていきました。

 死の国の王ハデスは、ヘラクレスに、素手でセルベロスをつかまえなければならないと言いました。英雄は、その犬と激しく戦い、犬の3つの首は、彼を八つ裂きにしてしまおうとしていました。しかし最後には、ヘラクレスはその犬をひきずって、ユーリステウス王のところへ持って帰りました。
王はそれを見て恐ろしくなり、すぐにセルベロスをハデスのところへ帰すよう、ヘラクレスに頼みました。「おまえはもう自由の身だ」 と、彼は言いました。「もう私には、おまえに仕事をいいつけることはできない」
こうしてヘラクレスは、彼の仕事を終えて旅立っていきました。──さらに冒険を求めて!

 

〈ジェイソンと金色の羊毛〉

 昔、ギリシアに、フリクサスという男の子とその妹のヘレという、2人の子どもが住んでいました。2人とも王の子どもだったのですが、彼らは幸福ではありませんでした。2人の母親、ネフェレはどこかへ行ってしまい、父親が再婚してしまったのです。新しいまま母イノーは、2人を憎んでおり、殺してしまおうとしていました。

 ある日、2人がしょげて家の近くを歩いていると、突然大きな羊が2人の前に姿を現しました。それは普通の羊ではなく、彼らを助けるために神からつかわされてきたものでした。羊の毛はきれいな金色をしており、おどろいたことに、その羊は2人に話しかけたのです。
「私の背中に乗りなさい」 羊は言いました 「そうすれば、あなたたちを、冷たいまま母からつれ去ってあげましょう」
2人は従い、羊は海をこえて彼らを連れ去りました (その羊は、飛べたのです)。
ヘレはバランスを失って海に落ち、おぼれてしまい、その海はヘレの名を取って、ヘレスポントと名づけられました。フリクサスは無事飛び続け、世界の東のはて、黒海の対岸にあるコルチスに着きました。フリクサスは神に感謝して、羊をいけにえとして捧げ、その金色の羊毛を、コルチスの王、アイエーテスに捧げました。
アイエーテスは、それを宮殿の近くの木につるし、大きなへびに見張りをさせました。

 何年か後、ギリシアの北方でチサレ王の息子として、ジェイソンが生まれました。彼が生れてまもなく、彼のおじベリアスが、ジェイソンの父親の王国をうばってしまい、かわって自分が王になりました。彼は、おいのジェイソンを殺すとおどしたため、ジェイソンは王国から追いたてられました。
ジェイソンはケイロンという不思議な生き物に育てられました。ケイロンは、下半身が馬で、上半身が人間というケンタウロス族でした。ジェイソンは強い若者に成長し、ついにペリアス王のところへ、父親の王国をうばい返しにいきました。
ペリアスは、神から不思議なお告げをうけていました。それは 「片足だけはきものをはいた男に気をつけなさい」 というものでした。ジェイソンがある日彼のところに来るまで、ペリアスにはこのお告げの意味がわかりませんでした。
ペリアス王に会いに行く途中、ジェイソンは流れの早い川を渡らなければなりませんでした。川のまん中で彼はすべってしまい、はきものを片方なくしてしまったのです。ペリアスはこれを見て怒り、そして恐れました。

 ジェイソンはペリアスに、父親の王国を返してもらいに来たのだと告げ、王はますます恐ろしくなりました。しかし、彼はずる賢い人間でした。
「もし、おまえが王になりたいのなら、おまえの勇気を私に示しなさい」 と、彼はほほえんで言いました。
ジェイソンは大胆に 「あなたの好きな方法で、私の勇気を示そう」 と、答えました。
「それでは」 と、ペリアスはゆっくりと言いました 「私に、金色の羊毛を持ってきなさい」ジェイソンは、とまどいと恐ろしさでいっぱいになりながら、宮殿を出ました。どうやってこの難しい仕事を成し遂げたらいいのでしょう?

 そのとき、彼は何をすべきかがわかりました。彼は、国じゅうで一番腕のいい船大工のアルゴスのところへ行き、アルゴーという名の、50のオールを持つすばらしい船を作ってもらいました。
大勢の勇士が、ジェイソンといっしょに行きたいと志願してきました。そのなかには、音楽家のオルフェウス、ゼウスの双子の息子のカストルとポリデュウセス、そして北風の息子のゼーテスとカライスがいました。力持のヘラクレスや、舵手のティフイスもいました。アルゴーに乗っていた50人の人たちは、アルゴノッツと呼ばれました。

 すべての準備が整ったとき、アルゴーは港を出発しました。アルゴノッツは、エーゲ海を東に渡りながら、ふり返ってみました。彼らには、オリンポス山の、雲をかぶった山頂が見えました。彼らは、ふたたびギリシアを見ることができるでしょうか?
やっと彼らは、現在トルコとよばれている、アジアの海岸にやってきました。彼らが上陸したとき、そこの国の王、アミカスに会いました。アミカスは巨大で、残忍な人間であり、彼らを歓迎しませんでした。
「ここを出る前に、おまえたちギリシア人の1人は、私とボクシングの試合をしなくてはならない。どの国が、より優れた人間をうみ出すかみてみようじゃないか」 と、彼はわめきました。
この挑戦を、ゼウスの息子ポリデュウセスがうけました。試合は苦しく、残酷なものでした。最後にポリデュウセスは、ありったけの力でこぶしをふり、アミカスの頭を思いっきりなぐりました。この一打があまりにすごかったので、王は死んでしまいました。

 アルゴノッツは航海を続け、あるお寺の近くに船を着けました、そこで彼らは、フィネウスという盲人の牧師に会い、不思議な話をききました。
「私は、かつては有名な予言者でした」 と、彼は言いました。「私には末来をみる力があったのです。しかし、ばかなことに私は、神々の秘密を人にしゃべってしまったのです。ゼウスは私を罰しました。彼は私の目を見えなくし、ハーピィののろいをかけました。いつでも、私がすわって食事をしようとすると、この怪物たちが空から稲妻のように飛びかかってきて、私の食べものをむさぼり食ってしまうのです。彼らの残していくものは、とても食べられたものではありません」

 かわいそうになって、ジェイソンは、ハーピィを殺してあげようと申し出ました。勇士たちは、フィネウスが次の食事のしたくをしている間、待ち伏せていました。彼がすわって食べようとしたとき、大きなはばたきの音がし、鋭い叫び声がきこえました。人間の顔を持った大きな鳥、ハーピィが現われました。
北風の息子、ゼーテスとカライスが鳥たちを追いはらい、クレタまで鳥を追って飛んでいきました。神々は、2人の勇士にハーピィを殺させませんでしたが、もう鳥たちがフィネウスを困らせることはありませんでした。

 フィネウスは、アルゴノッツに助けてもらったことを感謝し、この先に待ちうける危険について教えました。「黒海の入口に、ぶつかり岩があります」 彼は言いました 「この砦は突然ぶつかり合って、間を通ろうとする船をみんな押しつぶしてしまうのです。あなた方が通りぬけようとする前に、鳩を岩の間に放しなさい。もし鳩が無事に通ったら、アルゴーも無事通りぬけられます」
アルゴノッツはフィネウスと別れ、せまい水路に向かって進んでいきました。前方に彼らは、左右に高くそびえる岩を見ました。ジェイソンは船のへさきに立って、鳩を先に飛ばしました。鳩が岩の間を通りぬけるとき、岩は激しくきしるような音をたてて、ぶつかってきました。それから、両方の砦はふたたび開き、鳩が通りぬけたのが見えました。
舵手のティフィスは、岩の間へとアルゴーを進めていきました。船が間をぬけたとき、また岩はぶつかってきましたが、勇士たちは無事でした。

 こうして彼らはコルチスまで航海し、宮殿のアイエーテス王のところへ行きました。彼らが金色の羊毛を欲しいと頼んだとき、王は怒りました。
「まず、おまえの勇気を示さなくてはならない」 王はジェイソンに言いました 「戦いの神、アイレスの野に行ってこい、そこでは、2頭の火を吹く牛をみつけるだろう。その牛に引き具をつけ、野を耕し、みぞにこの竜の牙をまけ。そして最後に、その刈入れをしろ。これを全部すれば、金色の羊毛は持っていってもいいだろう」

 ジェイソンは、友人たちと宮殿を出ました。この試練が、確実な死を意味するということで、みんな恐れていました。しかし、その夜ジェイソンは、予期していなかった味方から助けを得ることができました。アイエーテスの娘で、魔術に優れていたメディアが、ジェイソンを見て好きになってしまったのです。
彼女はひそかにジェイソンに会い、魔法の薬のびんを渡しました。「これを使えば、あなたは傷を負いません」 彼女は言いました。

 ジェイソンはメディアに礼を言って、試練のための準備をしました。彼は、体中に薬をぬり、よろいや武器にもぬりました。戦いの神、アイレスの野に向かいながら、彼は薬によってより強く、より勇気が出たような気がしました。
2頭の牛は彼がやってくるのを見て、火を吹きながら突進してきました。ジェイソンは、最初に来た牛の角をつかみ、大いに奮闘した後、地面にねじ伏せました。次に、2頭目も同じようにしました。

 牛は怒って、勇士に火の風を吹きかけたため、彼は炎につつまれてしまいました。しかし、魔法の薬が彼を救ってくれ、彼は何の傷も負いませんでした。
ジェイソンは、牛の首のまわりに引き具をつけ、くびきにつなぎました。そして野に行き、地面に深いみぞをほっていきました。そのみぞの中に、アイエーテスからわたされた竜の牙を入れました。

 ジェイソンが竜の牙をまき終わるのに夕方までかかりました。牛をふたたび放してやり、彼は友人たちのところへもどって休みました。それから、武器を持ってまた、アイレスの野に行きました。
彼は、自分の見たものにおどろきました。みぞからは、やりの先、剣、そしてかぶとが生えてきていました。それらは、だんだん武装した人間の頭や肩になっていき、地面から上がってきました。これらが 「地から生まれた人間たち」、つまり、ジェイソンが刈り取らなければならない収穫でした。
ジェイソンは、自分の盾にかくれて、しゃがみこみました。それから、大きな石を野のまん中に投げ入れました。即座に 「地から生まれた人間たち」 は、ときの声をあげて石に向かって飛びかかり、それを取り合って互いに戦いはじめました。
ジェイソンは剣をぬくと、彼らをたたき切っていきました。ある者は.地から出てくる途中で切られました。ようやく恐ろしい虐殺が終り、ジェイソンの試練は終りました。

 日が暮れて、ジェイソンは船にもどりました。しかしメディアは、彼がまた金色の羊毛をもらいに父親のところへ行けば、殺されてしまうのではないかと恐れていました。そこで、彼女は宮殿から逃げ出し、アルゴーへ行きました。
彼女はジェイソンに、もし彼女をいっしょに連れて逃げてくれるのなら、すぐにでも、金色の羊毛を取りにいく手助けをしてあげましょうと言いました。そこで、彼らは、金色の羊毛がつるされている森に入っていきました。
へびは起きていて、彼らがやってくるのを耳にしました。へびの巨大な頭は、ジェイソンの頭上で丸められ、攻撃しようとしていました。そのとき、メディアが前に進み出て、けしの種と魔法の粉をへびの目の中に投げ入れました。オルフェウスは、竪琴で静かな音楽を奏で、へびはだんだん頭をたれて眠ってしまいました。
すばやく手を伸ばすと、ジェイソンは羊毛を木から取り、船に持っていきました。アルゴノッツは、警報がなる前に、ギリシアに向かって出発していました。

 帰りの旅は、前よりもいっそう長く、危険でした。アイエーテス王の船が、ぶつかり岩のところからアルゴーをさえぎっていたので、新しい航路を探さなければなりませんでした。アルゴノッツが、長いドナウ川をいかに航海し、最後にイタリア西方の地中海への航路をみつけたかということが話に伝わっています。
自国に近くなってきたところで、彼らはクレタ島を通らなければなりませんでした。

 その航路は、青銅の巨人、タロスによってふさがれていました。彼は崖の上に立ち、通りかかる船に向かって、船が沈むまで石を投げるのです。
アルゴーがその近くに来て、おびえた船員たちが、石を持ち上げて彼らをつぶそうとしている大きな人影を見たとき、メディアが船の前へ出ました。彼女はタロスにのろいをかけ、青銅の巨人は海に落ちて死んでしまいました。
アルゴノッツは引き続き船を進め、とうとう、家のあるテサレに着きました。

  ジェイソンは、すぐに金色の羊毛をペリアスのところへ持っていきました。しかし、それでもまだ彼のおじは、王座をあげわたそうとしませんでした。ジェイソンがメディアにこのことを話すと、彼女は、また魔力を使って彼を助けようとしました。ところが今度は、彼女のまじないは邪悪なものでした、なぜなら、彼女は魔術で、ペリアスを残酷に殺してしまったからです。彼女はペリアスに、彼を若がえらせてあげましょうと言って、大がまの水の中に入れました。そして、生きたまま彼をゆでてしまったのです。
人びとは怒り、ジェイソンとメディアは国から追い出されてしまいました。2人はコリンスに身を落ち着け、そこでジェイソンは一生を過ごしました。彼はもはや幸福ではなく、ただ1つの楽しみといえば、いとしい船アルゴーのそばにすわって、彼の冒険の日々を夢みることでした。
時がたつにつれ、アルゴーはだんだん朽ちていきました。ある日、ジェイソンが船尾の下にすわっていると、材木が折れて、彼の上に落ちてきました。これが、金色の羊毛を追い求めるという、まさに最初の発見の旅をした男の最期でした。


もどる