レディバードブックス100点セット
 

 

ロビンフッド

 あるたいへん早い朝でした。ディコンはロビン・フッドをさがしに、シャーウッドの森にやってきていました。彼はしし鼻で、そばかすだらけで、うす黄色の髪の8歳の子どもでした。木に登ったため、彼の長い靴下の一方のひざのところには穴があいており、上着もやぶれていました。
ロビン・フッドは彼のあこがれの的でした。彼は、ロビン・フッドがノッティンガムの長官にした、いたずらについて歌った、たくさんの歌を知っていました。ディコンの父親は、ロビンがイングランド一番の弓の使い手であると彼に話してくれたことがありました。ディコンは無法者の一味に加わって、自分でも弓矢で射ってみたいと思っていました。
そこで、彼は番をしていた父親のガチョウを森のはずれで餌を食べさせたままほったらかしにして、シャーウッドの森深くに分け入りはじめました。それは危険なことでした。もし長官の部下に捕えられたら、むちで打たれるでしょうから。

さて、彼はがっしりしたカシの木の高いところまで登って、葉のよく茂った枝の間にかくれていました。彼は空地を見下ろしました。はん点のある鹿とその子鹿が、縁の木陰で静かに草を食べていました。
シャーウッドの森は、しし王リチャードのものでした。彼は今、十字軍に加わって遠征していました。彼の弟、ジョン王子と勢力の強いノルマン人の貴族たちが国をのっとってしまったのです。彼らは一般の人たちを森に入らせようとはしませんでした、たきぎをとるのでさえもだめでした。
彼らは鹿を狩るために、森を自分たちだけのものにしていたのです。ディコンは、食べるために鹿を殺した罪で手を切り落とされた、飢えた農夫のことを聞いたことがありました。ディコンの父は絞首刑にならなかったのが幸運だと言っていました。
シャーウッドの森には、ジョン王子の残酷な法律から身をかくした男たちがいました。彼らはリチャード王に忠実でした。彼らの頭のロビン・フッドは、王さまの鹿を殺したと不当に告訴されたのでした。

 彼の土地は没収されました。彼が森に逃げこむのが遅れていたら、彼は絞首刑になるところでした。
「ロビンは私たちの味方だ」 と、ディコンの父親は言いました。「彼は金持から金を奪って、それを貧乏人にやっている。しかし、彼は正直者には決して手を出さないもの」
これらの話をきいて、ディコンは無法者たちに会いたいという決意をさらに固めました。しかし、彼が木から見下ろしたところでは、彼らのいる様子は見えません。森は静まりかえっていました。

〈ロビンフッドと無法者たち〉

 突然、下ばえの茂みで大きな音がしました。鹿はびっくりして耳を立て、逃げ去りました。ディコンもたいへんびっくりして、あやうく木から落ちるところでした。

 緑色の服を着、帽子に羽をつけ、矢のはいったえびらを背負った強そうな背の高い男が空地に身軽にとび出してきました。
「こっちだ」 と、彼は肩ごしに叫びました。
弓と矢を持ったほっそりした少年が、彼のすぐ後についていました。
「遅すぎた」 と、その若者はかん高い声をあげました。

 その声で、ディコンはそれが少年のかっこうをした少女だとわかりました。これはロビン・フッドと少女マリアンにちがいありませんでした。ロビンは、マリアンが父親に金持の老人と結婚させられようとしていたのを救ったのでした。それからロビンは彼女を 「緑の森」へ連れてきたのです。
ゆるやかな茶色のローブを着た太った陽気な坊さんが、よたよたと出てきました。彼の後から7フィートぐらいの背の高さの、乱暴そうな大男がやってきました、その男は太い6尺棒を持っていました。
彼ら4人は草の上にすわって休みました。

 「私たちに鹿の肉のパイをひとつくれよ、マリアン」 と、坊さんが帯にさした水筒から飲みながら言いました。
「タックお坊さん、あなたはいつもお腹がすいているのね」 と、少女は笑いました。「もっと狩をうまくやらなくちゃだめじゃないの。私たちの食物蔵はほとんどからっぽよ」
「今日、ノッディンガムから何か知らせはあるかね、リトル・ジョン」 と、ロビンがたずねました。

 「あなたが喜ぶようなことがあるよ、ロビン」 と、大男が言いました。
「長官が、明日のガチョウ市での弓試合の優勝者にほうびを出すと言ってる。ほうびは銀の矢だよ。郡のすべての弓術家が、それを目当てに弓を射るということだ」
「それでは、私もそこに行こう」 と、ロビンは陽気に言いました。
「いいえ。行ってはだめよ」 と、マリアンは叫びました。「もしもつかまったら、絞首刑になってしまうわ」

 「それでもやめるものか」 と、大胆なロビン・フッドは言いました。「私は前に長官をだしぬいてやった、今度だってそうできるさ。覚えているかい、リトル・ジョン、私が絞首刑執行人に変装したときのことを」
「覚えているとも。あなたは長官をしばりあげて、囚人たちをみんな解放したんだったな」と、リトル・ジョンはくっくっと笑いました。
「恐れることはないよ、マリアン」 と、ロビンは言いました。「明日の夜、銀の矢を持ち帰るさ。そしたら、お祝いの宴をひらこう」
そして彼らは、翌日の計画について静かに相談しながら、木々の間に去っていきました。

 彼らが去って、森がまた静かになると、ディコンは木からすべり下りました。彼の父親は、ご主人のガチョウを明日の市に連れていくことになっていました。もしディコンもいっしっしょに行ければ、彼は銀の矢をかけた競技を見ることができるでしょう。
「ロビン・フッドが勝つのだと、ぼくにはわかっている」 と、彼は家に急ぎながら、わくわくしてひとりごとを言いました。

〈ガチョウの市で〉

 ディコンはそれまで、市に行ったことはありませんでした。市場は人がいっぱいで、ざわつき、人びとは興奮していました。彼はパン屋の屋台で足をとめて、蜂蜜でべとべとする、香料のよくきいたしょうが入りのおいしいパンを買いました。
彼はパンをむしゃむしゃ食べながら、奇術師が口でナイフを受けるのに見入りました。赤と黄色の服を来た軽業師もいて、マットの上で宙返りしていました。少年少女が笛と太鼓の音楽に合わせて踊っていました。乞食が道にうずくまって、お金を入れてもらう茶わんを差し出していました。
市場の片隅では、炭火で牛をまるまる1頭焼き串にさして焼いている人びとがいました。それはたいへんおいしそうな匂いがしていたので、ディコンはごくりとつばをのみました。

 近くの民謡うたいが、ハープを強いて歌いました。「これから勇敢なロビン・フッドの物語をきかせよう」 と。
ロビン・フッドだって! ディコンはとびあがりました。彼は自分が何のためにやってきたのか忘れていたのです。
「急げ、銀の矢の競技会に遅れてしまうぞ」 と、ひとりの少年がお城の中庭をさして言いました。「場所はあそこだ」
ディコンは、彼の後を追いかけました。

〈ノッティンガムの城の中で〉

 銀の矢を争う競技会は、市の催し事のなかで、もっともわくわくさせるものでした。中庭にはやっと立見ができる余地しかありませんでした。灰色の石の城壁のてっぺんに腰をかけている人たちさえいました。ディコンがつくとすぐに、重い木のとびらが閉められました。

 ノッティンガムの長官は、長い赤のローブを着、地位を示す金の鎖を首からたらし、おもだった友人たちに囲まれて、桟敷の中央の一段高い席につきました。
彼の前の紫のベルベットのクッションの上に、宝石がきらきら光る銀の矢がのっていました。

 ディコンは体をよじって、最前列までどうにかこうにか進み出ました。彼は卵のはいったかごをかかえた、太った市場の女の人の隣に席を占めました。競技会の最初の部は終っていました。残った競技者はたった3人でした。
家来たちが、色のついた輪をかいた大きな丸い的をいそがしそうにはずしていました。そのかわりに、彼らは細い白い木の棒を3本立てました。それは柳の皮をむいた細い棒で、たいへん当てにくいものでした。

 ディコンは、ロビン・フッドとその部下を熱心にさがしました。だれもみつかりませんでした。門のそばや、群衆の間にいかめしい兵士が立っていました。彼らはなにか騒ぎが起ることを期待しているように見えました。
長官もあたりを見まわしていました、そして、隣の貴族になにかささやいていました。
「あればだれですか」 と、ディコンは卵売りのおばさんにたずねました。
「あれはギズボーン郷だよ、私たちのロビン・フッドを無法者にした張本人よ。彼はまた長官の親友なのさ」 と、彼女は言いました.

 ディコンは、なぜロビンがここにいないのだろうと不思議に思いました。
彼にはどうしてなのかわかりませんでした。

〈銀の矢〉

3人の競技者は準備を終って立っていました。1人はフランス人で短い石弓を持った黒ひげの兵士でした。彼はギズボーンの家来でした。貴族たちは彼にかけていました。

 2人目はその土地の男サイモンで、イギリスの長い弓を持っていました。彼は背が低くてがに股でしたが、弓の名人でした。群衆は彼を応援していました。
3番目の男は見知らぬ老人で、灰色のあごひげを生やし、ぼろぼろの服を着てつばの広い帽子をかぶっていました。彼が的を射るわざには、みんながおどろきました。彼は射るたびに、的のまんまん中に当てたのです。

 長官は群衆を見渡しました。彼はギズボーンに小さな声で言いました。
「わしたちのわなは失敗した。ロビン・フッドはここにはいないぞ」
「彼は臆病風にふかれて、顔を見せられないのでしょう」 と、ギズボーンは冷笑しました。

〈弓くらべ〉

そのとき、角笛が鳴りました。群衆はぎわめきました。ディコンは爪先立ちで見物しました。
フランス人が最初に矢を射ました。彼の矢は的から大きくはずれました。
ギズボーンは顔をしかめましたが、群衆は大喝系でした。

 次は背の低いイギリス人サイモンの番でした。彼は弓を引き絞ってねらいを定めました。矢はまっすぐ飛んでいき、柳の細い棒にかすりはしましたが、地面に落ちてしまいました。群衆はうめき声をあげました。
つぎに、老人が進み出ました。彼は注意深く矢を選んで弦につがえました。それから、弓を引き絞りました。
長い弓を引くにはたいへん強い力が必要でした。その弓はがっしりした赤いイチイの木でできていて、その持主の背の高さと同じくらいの長さでした。それを引くには、ただ腕だけではなく全身を使わなければなりません。老人にそれだけの力があるのでしょうか。
ディコンは彼が力の強そうな肩をしており、目つきも鋭いのに気がつきました。
ピーン! 矢はものすごい速さで的に向かいました。矢は白い棒に当り、棒はまっぶたつに裂けてしまいました。それは、おどろくべき腕前でした。
老人が勝ったのです。群衆は狂わんばかりでした。

 しかし、ディコンはギズボーンのすぐ近くにいたので、彼が長官にひそひそ声で話すのが聞こえました。
「あんなふうに弓を射ることができるのは、ロビン・フッドだけですよ。彼の手と手首を見てごらんなさい。彼は老人ではありませんよ」
ディコンはとび出しました。
「逃げろ、ロビン・フッド」 と、彼はありったけの声で叫びました。「これはわなだ」

 ギズボーンは立ちあがりました。
「あの少年をつかまえろ!」 と、彼はわめきました。しかし、ディコンは群衆の中にもぐりこみ、彼らの足の間をはい進んで、中庭の裏手に出ました。

〈逃亡〉

門のそばの城壁のてっぺんに20人の射手が立ちあがり、矢を長官とその友人たちに向けました。それはロビン・フッドの部下たちが変装した姿でした。

 ロビン・フッドは、ぼろぼろの上着とつけひげをかなぐり捨てて、桟敷の上にとびあがりました。人びとは緑色の服を着たロビン・フッドを見て、だれなのかを知り、喝来しました。
長官にあざけるようなお辞儀をして、ロビン・フッドは銀の矢をつかみ、群衆の中へとかけもどりました。
「やつを追え」 と、長官は怒って叫びました。「やつをつかまえた者には金貸100枚やるぞ」

 長官は高い座席を下りはじめましたが、長いローブをふんでつまづいてしまいました。彼は、まっさかさまに地面に落ちてしまいました。
群衆のなかで争いが起りました。ロビンを助けようとする人もいたし、ほうびをもらおうと思う人もいたからです。
兵士たちが、ロビンと門の間に立っていました。すると、どこからともなく、6尺棒を持ったリトル・ジョンの大きな姿が現れました。

 1人また1人と、彼は兵士の頭をなぐりつけ、下から彼らの足をはらいました。長官の部下たちは中庭にのびてしまいました。
タック坊さんのたくましい姿が群衆のなかで戦っていました。ウィル・スカーレット、粉屋の息子のマッチその他の人びとが兵士を追い払い、ロビンと合流しました。彼は門にたどり着きましたが、門にはかんぬきがしてありました。ぐずぐずしている暇はありませんでした。

 城壁の上にいる仲間からロープが投げられました。ロビンは、それにつかまってよじ登りました。リトル・ジョンは負傷していましたが、多くの友人たちの助けをかりて、安全な場所へと引きあげられました。
ディコンも手伝いました。彼はロープをつかみ、ロビンに呼びかけました。兵士がディコンをつかんだとき、無法者 (ロビンの仲間) がすばやくディコンを押し上げました。彼は少年を城壁の上まであげました。

 城壁の向う側では、少女マリアンが馬といっしょに待っていました。そして、無法者たちはシャーウッドのかくれ家へと引きあげました。彼らを追いかける長官の家来たちの怒鳴り声がかすかになりました。
「この少年をどうしたらいいだろう」、ロビンの副司令官のウィル・スカーレットがあえぎながら言いました。彼は馬で走り去るとき、ディコンを彼のくらの上にのせたのでした。

 「その少年は私の命を救ってくれたのだ!」 と、ロビンは叫びました。「その子が、われわれといっしょに去って今夜の祝宴に加わることを、その子の父親に知らせるんだ」

〈森の中の祝宴〉

無法者たちは静かなシャーウッドの森に入ると、馬の歩調をゆるめました。彼らは自由な森の空気を深呼吸しました。
しかし、ロビンはシャーウッドはもう危険だと知っていました。明日、夜が明けると、長官の家来たちが、森をすみからすみまでさがしまわることでしょう。

 「われわれは、よき友人、リーのリチャード卿の城に避難しよう」 と、ロビンが言いました「そしてリトル・ジョンとその他の負傷者の手当をしてもらおう。それから、バーンスデイルの森の冬の住居に行こう。しかし今夜はお祝いだ」
無法者たちは、ディコンを大きな木の間にある彼らの秘密のかくれ家に連れていきました。少女マリアンは、彼らが 「食物蔵のカシの木」 と呼んでいるものを見せてくれました。その木は中が空洞になっていて、鹿の肉の大きなかたまりが内部のかぎからぶら下がっていました。「今夜はこれを食べましょう」 と、彼女は約束しました。
ひとりの無法者がすわって矢を作っていました。「あれは矢作りのロブよ」 と、彼女は言いました。「彼は矢がまっすぐ飛ぶように、矢にガチョウの羽をとりつけているの」
ディコンは、自分の弓と矢が持てればなあと思いながらロブを見守りました。

 炭火がおこされ、大きな肉のかたまりがいくつも焼きぐしに刺されました。鳩の肉のパイと黒パンがありました。無法者たちは、おいしいイギリスのビールをひと樽ころがしてきました、そして祝宴は最高潮に達しました。
ディコンは、ロビンと少女マリアンの間の名誉ある席を与えられました。
彼らはみんな、彼の健康を祝って乾杯しました。

 「ディコン万歳!」 と、無法者たちが叫びました。
銀の矢は祝宴のまん中の古木の切り株の上に置かれて、きらきら光っていました。
無法者たちの楽しそうな顔が、火に照らされて輝いていました。彼らはアラン・ア・デイルに歌を所望しました。彼はハープをとりあげて新しい物語──「ロビン・フッドと銀の矢」を歌いました。

 「あなたがリトル・ジョンとはじめて会ったのは、橋の上だったというのはほんとうですか」と、ディコンはロビンにたずねました。
「そうだよ、私たちは6尺棒で友好的に戦った」 と、ロビンは言いました。
「この大男が私を通そうとしなかったのでね」
「いや、私はきみを川の中へほうり投げたのだ」 と、リトル・ジョンは負傷していたにもかかわらず、陽気に笑って言いました。
「なぜ、あなた方は彼をリトル・ジョンと呼んでいるのですか」 と、ディコンはたずねました。「彼は小さくなんかありませんよ(リトルは小さいという意味)」
「それが答えさ」 と、ロビンはにやにや笑いました。

 「疲れたようね、ディコン」 と、少女マリアンが言いました。火は消えて、あたりは暗くなりかかっていました。ディコンはしだをベッドがわりに寝かされ、羊の皮が上にかけられました。無法者たちは順番に見張りに立ちました。
夜が明けると、長官の家来がうろつきだす前に、無法者たちは出発するばかりになりました。

 ロビンは粉屋の息子のマッチに、市場に行く途中、ディコンを家まで送ってくれと頼みました。ロビンがこれで練習しろと小さな弓と教本の矢をくれたときには、ディコンはそれがほんとうだとは、ほとんど信じられませんでした。
「きみが上手になったら、私たちの仲間に入れてやるよ」 と、ロビンは約束しました。「緑の森にいつも仲間がいることを忘れないでおくれ」

 ディコンは彼らが馬に乗って立ち去るのをじっと見ていました。彼はそんなわくわくする冒険を経験をしたのでした。たぶんいつの日か、彼はロビン・フッドとその仲間たちに会うために、「緑の森」 にもどってくるでしょう。
たぶんリチャード王がそのときには王座にもどっていて、ロビンはもう無法者ではないことでしょう。
ふと、ディコンは靴下に穴をあげたので、お母さんに怒られるかしらと思いました。


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