レディバードブックス100点セット
 

 

宝島

 あの年寄りの船乗りが、うちの宿に住むようになった日のことは、まるで昨日のことのように覚えています。編んだ黒い髪を肩までたらした、背の高い強そうな男でした。ごつい手をしていて、片方の額に青白い傷がありました。ビリー・ボーンズという名のこの男は、しょっちゅう酒を飲んでは私たちをふるえあがらせました。うちに立寄る船乗りたちと話をすることは決してなく、私は月4ペンスもらって、万一片足の船乗りを見たら知らせることになっていました。
当時父は病の床にあり、私はビリー・ボーンズの世話を任されていました。彼が大酒を飲むので、医者のリブゼイ先生はラム酒で命を落とすぞと警告していました。しかし、彼は自分のやり方を変えようとはせず、それで、次第に弱ってどうしようもなくなったとき、自分の生い立ちをほんの少し私に語ってくれました。
ビリー・ボーンズはフリント船長の海賊船航海士でした。船長は死に臨んで、財宝の埋めてある場所をしるした地図を彼に与えたのでした。その日以来、フリント船長の古い部下だった他の男たちが、地図を自分のものにしようとねらうようになりました。彼は地図を自分の衣服箱の中にかくしていました。

 ある霜の降りた日の午後、ブラインド・ビュウという目の見えない年寄りの船員が宿にやってきました。彼は帰りぎわに、ビリー・ボーンズの手をつかむと、なにか手わたしました。ビリーが手の中のものをのぞきこんだとき、その目に恐怖が走るのを私は見ました。
「黒い丸だ」 彼は叫びました 「ジム・ホーキンス、おれの話を開いてくれ。この黒い丸は昔の仲間がおれをつかまえにくるという意味だ。やつらはおれの地図をねらっているんだ、ジム! おれは殺される!」 彼は話しながらとび上るように立ちあがりました、緊張とショックが相当なものだったのでしょう、私の足元に倒れると、息をひきとりました。

 ビリー・ボーンズは宿代を払わずに死んでしまいました。私は母といっしょに彼のふたつきの箱から、いくらかのお金をもらって彼の宿代にあてました。箱の中には、他にひと巻の紙束が入っていましたが、それは私がなくならないようにあずかることにしました。
まさにその夜、一団のならず者が宿を襲いました。母と私は外にかくれ、そいつらがビリー・ボーンズの箱をさがすのを見ていました。目当てのものがみつからず、彼らは叫び、暴れまわりました。私は、ポケットに入れてある紙の巻物が、やつらのねらっているものだということに気づきました。

 私は医者のリブゼイさんと弁護士のトレローニさんのところへ行って、2人にすべてを話しました。巻紙をひろげてみると、フリント船長の宝の地図でした、トレローニさんはたいへん興奮して 「フリントといえば、船乗りのなかでも、もっとも残忍な海賊だった」 と、彼は叫びました。「ブリストルに船の準備をしよう。先生、あなたもいっしょに連れていきましょう、きみもだよ、ジム・ホーキンズ、それに私の配下の者も何人か連れていこう。宝を我々のものにしよう」 と、言いました。トレローニさんはその言葉どおり、ヒスパニオラ号を買い、航海ができるように準備したのでした。優秀な乗組員が必要だったトレローニさんは、ロング・ジョン・シルバーという名の片足の船乗りをコックとして雇いました。この男はたいそうトレローニさんの役に立って、船で働く屈強な男たちをみつけだしてくれました。数週間でヒスパニオラ号の出航準備は整いました。私たちはスモーレット船長の指揮のもとで船出しました。私は水夫見習でした。操舵手のイズラエル・ハンズは有能な男で、ロング・ジョン・シルバーは名コックでした。彼は枝をひもで首から下げていたので両手が自由に使えました。彼は壁を使って身をささえ、陸上にいるようにゆうゆうと料理するのでした。みな率先してよく仕事をこなしました、私は、よく水夫たちが働きながら歌うのを耳にしました。それは、あの老ビリー・ボーンズからきいたことのある歌でした。
 亡者の箱に15人──ヨイショ、それラム酒ひとびん!

 私は暇なときにはよく、シルバーの手入れのいきとどいた調理室に行きました、そこにはフリント船長という名のオウムがいて、カゴの中でブランコをゆらしていました。海賊フリントにちなんで名づけられたこのオウムは1日じゅう 「8レアル銀貨! 8レアル銀貨! 8レアル銀貨!」 と、叫んでいました。シルバーはおもしろい人で、航海や冒険にまつわる魅惑的な話をたくさん知っていました。彼はみんなに好かれていましたし、水夫たちは彼を頭目とみなしていました。

 甲板には水夫たちが好きなときに食べられるように、リンゴの入った樽が置いてありました。ある晩、私はリンゴ樽のところへ行きました、樽はほとんどからだったので、私は底の方に残っているリンゴを取るために樽の中に入りこみました。私は樽の中にすわりました、船は静かに波にゆられていました。だれかが甲板に腰をおろし、樽によりかかって話しはじめました。私が耳にした言葉は血が凍りつくようなものでした。シルバーとイズラエル・ハンズが、私たちが宝を発見したあとで船を乗っ取るための相談をしていたのです。彼らは、船長と彼らに従わない者を殺すつもりでした。私は自分の耳をうたがいました。

 突然、「陸だぞー」 という叫びが聞こえました。水夫たちはみんな、最初の島影を見ようとかけ出しました。そのすきに私は樽からとび出して、みんなのなかにまぎれこみました。スモーレット船長が水夫たちに島のことを話しているところでした。ロング・ジョン・シルバーは、前に船が給水のためにこの島へ立ち寄ったことがあると言いました。私は、彼がニヤリとしている頭を見てぞっとしました。今や私は.シルバーがただの陽気なコックではないことを知っていました。彼もまた残忍な海賊の1人だったのです。私はその場をぬけだせるとすぐに、船長と友人たち、つまり弁護士と医者に、私が聞いたことを話しました。みんなは宝がみつかるまで安全だと判断しました。海賊の一味は19人、私たちはたったの7人でした。我々の方の準備ができたらやつらに奇襲をかけ、やつらの準備が不十分なうちに押さえれば勝つことができるでしょう。
私たちは宝島の沖に停泊していました。宝島は薄暗く不気味な場所のように見えました。島の低い部分は森におおわれていて、その上の方にとがった岩山がいくつかつき出していました。太陽のもと、鳥が上空を飛びかっているというのに、私はこの島のことを考えただけでもいやな気がしました。私たちは木立が岸辺まで迫っている入江に錨を下ろしました。気温が高く風はありませんでした、水夫たちは落ち着かず不機様でした。スモーレット船長は彼らに上陸の許可を与え、それで彼らの意気は揚りました。ばかな連中は、上陸したとたんに宝の山につまずいて足を折るとでも思っていたにちがいありません。ロング・ジョン・シルバーの指図により、13人の男たちが2そうのボートで上陸しました。私は、船に残っていてもたいして役に立たないと思って、自分も上陸することにしました。

 私は浜を走って森にかけこみ、うまいことに自由で1人きりになりました。私はしげみの中にすわり静かに隠れていました。人の声がしたので、よく聞こえるよう近づきました。シルバーが水夫の1人を、一味に加われと言って、おどしているのが見えました。水夫は怒ってそれを断りました。
それに対して、シルバーは水夫をナイフで刺しました、水夫は森の中に倒れて死んだまま、残されてしまったのです。私は気が遠くなり、すべてのものがうずまく霧のようになって私から外へ出ていってしまったような感じでした。気をとりなおしたとき、シルバーは杖をこわきにはさんで、ナイフを草でふいていました。もし万一みつかったら、自分の命も危ないと感じ、どこを走っているのかわからないまま、ひた走りに走ったのでした。

 私は石だらけの丘のふもとまできて足を止めました。私の目は丘の中腹を動くものにくぎづけになりました。人間なのか動物なのかよくわかりませんでした。ここにも私の手におえない危険があると感じて、私は海岸の方へ走りはじめました。ところがそいつは私よりも足が速く、木から木へと飛び移りながら近づいてきます。今やそれが人間であることがわかりましたが、あまりに野蛮人みたいで奇妙なので、私は恐怖を感じました。その男は私のすぐそばまで来ると地面に降り、まるで助けてくれとでも言うように両手を差し上げました。

 私は勇気をとりもどし、その男にこう問いかけました。「きみはだれだい」
「おれは哀れなベン・ガンだよ。もう3年も誰とも話をしていないんだ」 と、彼は答えました。彼のようにみすぼらしい格好をした生きものを見るのは初めてでした。端布やヤギの皮をつぎはぎして作った服を着て、真黒に日焼けした顔の中の青い目を見て私は、はっとしました。
彼は、おれは金持だぞと私に言いました、そしてかん高いキーキーいうような声で、片言の言葉を話すのでした。意味のあることを言ったかと思うと、まったくわけのわからないことを言ったりしました。私は、この男が長い間の孤独のために少しおかしくなっているように思いました。彼はかつてフリント船長の海賊船に乗っていたことがあり、3年前フリント船長の宝をさがしに、数人の船乗りといっしょにもどってきたのだと言いました。船乗りたちは宝をみつけることができず、彼1人島に置き去りにして行ってしまったのでした。彼は私たちの船を見て、フリント船長がもどってきたのだと思ったのです。
私は、フリント船長が死んだこと、しかしその部下たちが私たちの船に乗りこんでいることを話しました。私がシルバーのことを口にすると、彼の顔に恐怖の色が浮かびました。私たちが海賊と戦わなければならないのだというと、彼は、もしいっしょに国に連れて帰ってくれるなら協力しようと約束しました。

 大砲を撃つ音がしたので、私たちは話を中断して、砲声のした方へ走っていきました。木々の間に高い木製の柵が見えました、柵は森の中の空地をぐるりと囲んでいました。空地には、がんじょうそうな丸大小屋が建っていて、ユニオン・ジャックがはためいているのが見えました。私は弁護土や先生たちが船から離れなければならなくなって、この丸太小屋で防戦しているのだと悟りました。海賊たちとの戦いが始まっていたのです。ヒスパニオラ号はマストに海賊旗を揚げて入江に停泊しています。岸辺には、酒をあおった水夫たちが、だらしなく砂の上にたむろしていました。

 私はべン・ガンとわかれると防御柵によじ登り、丸太小屋の友人たちに加わりました。みんなは私を見て、たいそう喜びました、私の無事を心配していたからです。私が船をおりてからなにが起ったかを、リブゼイ先生が話してくれました。船長が、海賊たちと徹底的に戦うべきときがきたと判断したのでした。彼は、フリントの宝の地図で丸太小屋のことを知っていました。リブゼイ先生と我々の味方の1人がボートをこいで小屋をたしかめに行きました。小屋の近くには清水が湧いており、高い柵のおかげで戦いに絶好の場所になっていました。そこで2人は、ヒスパニオラ号にもどると残りの味方の水夫たちを集めました。彼らは小さなボートに食糧と武器を積むと、一目散に岸へ向かいました。

 海賊の一味がまだ少し船に残っていました。彼らは事に気がつくと、ボートに向けて発砲したので、ボートは浅瀬に沈みました。弁護士たちは浅瀬を歩いて上陸しましたが、食糧と火薬の半分がだめになってしまいました。先生は海賊たちがすぐに降参することを確信していました。やつらはラム酒の飲みすぎと、湿地に野営するのが原因で体をこわしてしまうだろうと先生が言いました。
私は自分の身に起きたこと、それにベン・ガンという男に出会ったことを話しました。リブゼイ先生はベン・ガンのことをくわしく知りたがりました、私たちは明らかに協力者を必要としていたからです。私たちのリーダーである3人は、どうしたらよいものか考えあぐねてしまいました。食糧は乏しく、海賊たちにすぐ兵糧攻めにされてしまいそうでした。いろいろなできことのあったその日が終ると、私はくたくたに疲れて、まもなく眠ってしまいました。
翌朝私は、あわただしく動く人の気配や話し声に、目を覚しました。ロング・ジョン・シルバー自身が、白旗をかかげて防御柵に近づいてきたのです。スモーレット船長はなにか裏があるかもしれないと思って、私たちにすぐ応戦できるようにしておけと命じました。シルバーは戦いをやめるために話をつけにきたのだと言いました。彼は防御柵の中に入ることを許されました。彼は杖をほうり投げると片足をあげ、器用に体を低くして、入りこみました。彼はこちらへやってきて、丸太小屋の外に腰をおろしました、そして船長に、自分たちは宝がほしいのだと告げました。宝の地図とひきかえに、私たちをこの島からどこか安全なところへ連れていってやると言うのです。

 スモーレット船長は、海賊と取引するような男ではありません。彼は怒って言いました、シルバーも仲間の海賊たちも、もうおしまいだ。地図がなければ、海賊どもは宝をさがしあてることはできない。宝がみつかってもみつからなくても、海賊どものなかに帰りの航海で針路を決められる者は1人もいないではないか。船長はシルバーに消えうせろと命じました。
シルバーの目に怒りの色が燃えあがりました、彼は呪いと脅しの文句を並べると、森の中に姿を消しました。
そこで私たちはきたるべき攻撃に備え、焼けるような暑さのなかで腰をおろして待っていました。突然、マスケット銃の弾が数発、丸太小屋に命中しました、すると、森の中から海賊どもがとび出してきて、防御柵をよじのぼりました。そこらじゅうで叫び声やうめき声があがり、あたり一面銃声と閃光で満ちあふれました。私は短刀をつかむと外へとび出し戦いに加わりました。少しして、私たちはやつらをくい止めました。海賊どものうち無傷の者は、避難するために森に逃げこみました。私たちは状況を確認するため丸大小屋にかけもどりました。やつらはまた攻めてくるはずです。味方の損害は死者2名と船長の重症でした。私たちはあたりに気を配りながら待ちかまえていましたが、なにごとも起りませんでした.

 この小康状態の間に、私はリブゼイ先生がこっそり柵の外に出ていくのを目撃しました。私は先生がベン・ガンをさがしにいくのだろうと思いました。一向に敵が攻めてくる気配はありません、私はだんだん待ちくたびれてきました。暑さと血とほこりのために、私はじっとしていられなくなりました、ここから逃げ出して、どこか涼しくて気持のよい場所に行きたくなりました。船長は私を柵の外に出してくれないにちがいありません。みんなの目を盗んで、2丁のピストルをポケットにつっこむと、私はそこをぬけ出しました。
私は海岸に向かって走りました、風が涼しく、岸に向かって寄せてはくだける波頭が白く見えました。丘にのぼると、ヒスパニオラ号が平たんな水面に浮かぶ、おだやかな入江が一望に見わたせました。船に横づけした小さなボートの上に、ロング・ジョン・シルバーの姿が見えました。船上の2人となにか笑いながら話しています。話はまるできこえませんが、シルバーのオウムの鳴き声は風にのってここまで聞こえてきました。日が沈みかけたころ、シルバーは岸に向かってボートをこぎ出し、船上に残った2人は下の甲板へ行きました。海賊どもは宝がみつからなかった場合、きっと私たちを置いて出帆する気にちがいないと私は考えました。私はある計画を思いつきました。
ベン・ガンは、手製のボートが岸辺近くに隠してあることを私に教えてくれていました。ヒスパニオラ号のところまで行くことができれば、錨のロープを切断することができます。船はどこかの岸へ流されてしまい、海賊たちは島から出られなくなるはずです。私はしげみの中をさがし、うまいぐあいに、隠してあるボートをみつけ出しました。それは木製のワクにヤギの皮をはって作ったものでした。あまりにもきゃしゃな感じがして、私が乗っても大丈夫なのだろうか、それにこの大きさで私が乗れるのだろうかと心配になりました。夜の闇とともに霧が入江に広がりました。私の計画に絶好の夜となったわけです。私は岸を離れると、ヒスパニオラ号に向けて静かにボートをすべらせました。

 船に近づくと、男たちのよっぱらった大声が聞こえてさました。イズラエル・ハンズが、もう1人の男に向かって怒鳴っていました。彼らは単によっぱらっているだけではなく、明らかに腹も立てていました。岸辺には、海賊たちの野営している火が見えました。私が以前しょっちゅう耳にした、あの歌をうたっている者がいました──
 「亡者の箱に15人──ヨイショ、それラム酒ひとびん!
 飲んだがために、みんな悪魔にだめにされ── ヨイショ、それラム酒ひとびん!

 私は、縄のよりを1つ1つ切って、錨のローブを切断しました、船は向きを変えながら、外海の方へ流されはじめました。船が私の横を流されていくときに、船室の中が見えました。イズラエル・ハンズと船の見張り番がけんかをしていました。彼らは争いに夢中で船が動いていることに気がつきません。私はとても危険なことをしていたわけです、そこで私はボートの中に平らにふせて、どうかやつらにみつかりませんようにと祈りました。

 数時間、と私には思われたのですが、私は波にゆられていて眠ってしまったようでした、なぜなら、私が目を覚したとき、陽がさんさんと降りそそいでいたからです。ボートは岸に沿って流されていましたが、岩だらけの崖の下には、上陸できそうなところは見当りませんでした。私はボートを流れるままにしておいて、砂浜がみつかるのを待つほかありませんでした。暑い太陽と波しぶきの塩分のせいで、私は猛烈にのどがかわきました。
私は陸に上って、涼しい木陰に入りたいと思いました。岬をまわったとき、目の前にあらわれた光景に、私はのどのかわきを忘れてしまいました。半マイルも離れていないところに、ヒスパニオラ号がいたのです。帆は張られていましたが、針路が定まらず流されていたことから、だれもかじをとっていないことは明らかでした。もし海賊たちがよっぱらっていて、それに私が船に上ることができるなら、船をこちらのものにすることができるかも知れません。
私は一所機命こぎましたが、風がヒスパニオラ号の帆をいっぱいにしているので、差はちぢまりません。ついに私はチャンスをつかみました。風が静まり、船は潮流で向きを変えて止まったのです。私は船に横づけにして、船上にとびつきました。風が帆をあおり、うねりを乗り越えた拍子に、船は私の小さなボートにぶつかって、ボートは沈んでしまいました。今や私の逃げ出す手段がなくなってしまったのでした。私は、酒の空びんがころがっている甲板を静かに移動しました。ひとっこ1人いませんでした。

 とうとう私は2人の海賊をみつけました。1人は明らかに死んで、血によごれた甲板に倒れていました。もう1人はイズラエル・ハンズでした、彼は負傷してうめいており、立ち上ることはできません。彼は私に気づくと、痛みをやわらけるためにブランデーをくれるよう頼みました。私はめちゃめちゃになった船室へ下りていって、ブランデーをみつけてきました、ハンズはブランデーを口にすると力を取りもどしたようでした。

 私は、もし彼が船を安全な港まで航行できるように、かじの取り方を教えてくれるなら、食料と後の手当をしてやることにしました。さし当り彼は私の助けを必要としていましたし、私も船を救うために彼の助けが必要だったのです。しかし、私をずるそうな目で見る彼の奇妙な笑いに気を許したわけではありませんでした。彼は船室からワインを取ってきてくれと頼みました、彼は私が下へおりていったと思うと、痛みをこらえてよろよろと甲板を横切ると、ナイフを拾い上着の中にかくしました。私はこれが知りたかったのです。ハンズは武器を手に入れました、私は、彼が岸についたらすぐに私を殺す気でいることを知りました。

 船を浜にのり上げるのは簡単ではありませんでした。私は全神経を集中しました、船に損害を与えたくなかったからです、そのため、私はハンズを見張る余裕がありませんでした。突然私は危険に気がつきました。床のきしむような音がしたのか、それとも私の視野の片すみで影が動いたのか、とにかく危険を感じてあたりを見ると、ハンズがすでに半分も私の方へ近づいてきていたのでした。右手に短剣を持っています。私はかけ出すとポケットからピストルを取り出しました。私は向き直ると、ねらいを定めて撃ちました。不発でした。火薬が海水で湿っていたのです。船が岸に乗り上げ、突然ガクンとかたむいて、私たちは2人ともひっくり返ってしまいました。私は彼より早く立ち上がってマストに登りました。私は一応何事もなく、マストの横桁にのっかると、2丁のピストルにかわいた火薬をつめました。ハンズはゆっくりとマストに登ってきます。彼は短剣を口にくわえ、体をひきずるようにして追いかけてきます。
「そこで止まれ、ハンズさん。止まらないと頭をふっとばしますよ」 と、私は大声で言いました。彼は一瞬動きを止めたかと思うと、いきなり短剣を投げつけました。私は鋭い痛みを感じ、肩のところをマストにつき刺されていました。突然の痛みとショックで、私はピストルを2つとも撃ってしまいました。叫び声をあげて、イズラエル・ハンズは頭からまっさかさまに海に落ちました。私は気分が悪くなり、気が遠くなるような感じがしたので、しばらく目を閉じて落ち着くのを待ちました。肩のナイフをぬくと、腕をつたって流れた血のわりには傷がそれほど深くないことがわかりました。私は船室で包帯をみつけると傷をゆわきました。

 日暮になり、私は歩いて浜に上りました。私は仲間のところにもどりたいと願いました。ヒスパニオラ号を確保したことで、みんなは私がだまって出てきたことを許してくれるだろうと思いました。月が出ていたので、防御柵までたどりつくのが容易でした。私は注意深く音をたてないように歩いて柵の中へ降りました。物音ひとつしません。見張りは私に気がついていませんでした。私は丸太小屋まではっていくと中へ入りました。暗闇の中で、いきなり甲高い声がひびきわたりました。フリント船長のオウムがけたたましく鳴いたのです 「8レアル銀貨! 8レアル銀貨! 8レアル銀貨!」
味方どころか、私は海賊どもとはち合せしてしまったのです。赤々と燃える松明の火に私が見たものは、シルバーと生き残りの5人の海賊でした。

 先生や弁護士たちの姿は、影も形もありません。最初私は、みんなが殺されてしまったのかと思いました。しかし・ やがてそうではないとわかりました。
私がいない間にリブゼイ先生が海賊たちのところへ行き、船がいなくなってしまったので我々は宝さがしをあきらめたと告げたのでした。丸太小屋とその中にあったものすべて、宝の地図までも海賊どもの手にわたして、彼らは小屋を出、森の中へ歩いていったのです。
このことを知って、わたしはわけがわからなくなりました。なぜみんなが戦わないであきらめてしまったのか、理解できませんでした。
ロング・ジョン・シルバーは今も海賊どもの首領でしたが、前ほど陽気ではないように見えました。海賊たちがシルバーに心から従っているわけではないことは明らかでした。シルバーは、新しくリーダーになる者があらわれたら自分が殺されるということを知っていました。助かるにはスモーレット船長の側につくしかありませんでした。
もし、スモーレット船長にとりなしてくれたら、シルバーは私を海賊たちから守ってやると私に約束しました。しかし彼が鞍替えしたことに海賊たちが感づいたら、私たちは2人とも終りです。私たちの命はこのことを内緒にしておくことにかかっていました。

 翌朝、リブゼイ先生が病人やけが人をみに、丸太小屋にやってきました。先生は私が海賊どもといっしょにいるのにおどろいていましたが、なにも言いませんでした。先生は患者を見てまわり、薬を与えたり、傷に包帯を巻いたりしていました。手当が終ると、先生は私と2人だけで話せないかと言いました。できるかぎり早く、私は先生にこれまでの経緯を残らず話しました。ヒスパニオラ号が無事だと聞くと、先生はびっくり仰天して目を見ひらきました。私はシルバーの危険な立場についても話しました、先生は彼が私を守ってくれるならば、シルバーもいっしょに連れて帰ることに同意しました。私たちは身動きのとれない状況にあり、これを乗り切ることはできそうもないように見えました。先生は私の手をにぎると、助けを求めにもどると言いました。

 今や海賊どもは、宝さがしに出かけたくてうずうずしていました。しかし、シルバーの心にひっかかるものがありました。彼はなぜ先生たちが宝の地図をわたしたのだろうと自問しましたが、どうしてもそのわけがわかりませんでした。シルバーはなにか裏があるとわかっていましたが、そのことはおくびにも出しませんでした。海賊どもは、シルバーの考えを知るよしもありませんでした。私たちは、たき火を囲んで朝食をとりました。
シルバーは宝をみつけたら、みんな大金持になるぞとまくしたてました。シルバーが絵空事のようなことを生き生きと話すので、私は本当に彼がそう考えているのだと思いました。

 私たちは、つるはしやシャベルを持って、フリント船長の宝をさがしに出発しました。海賊どもは完全武装をしています。シルバーは銃2丁と短剣を身につけていました。私は捕虜なので腰にロープを巻かれ、シルバーがその端を握っていました。シルバーは私をずっと安全にすると約束してくれましたが、私は約束を信じてはいませんでした。歩きながら海賊どもは地図の話をしていました。地図の裏にはこう書いてありました。

  「高い木、遠眼鏡の肩、北々東より1ポイント北に位置する。
  ドクロ島の東南東の東寄り、10フィート」
それで私たちは丘に生えた高い木をさがしました。海賊どもは上機様で、ロング・シルバーと私は彼らについていくことができませんでした。シルバーの杖が石だらけの丘の斜面ですべるので、私はときどき彼の歩行を助けなくてはなりませんでした。

 私たちが半マイルほど歩いたとき、先頭にいた男が叫び声をあげました。他の男たちは期待に胸をふくらませて彼の方にかけ寄りました。しかし、彼が発見したのは宝ではありませんでした。1本の木の根元に人間の白骨死体が横たわっていたのです。男たちは怒っておそるおそるのぞきこみました。骨にひっかかっているぼろぼろの衣服の切れはしから、その男が船乗りだったことがわかりました。白骨はまっすぐに伸びていて、両足は一方向を示し、両腕は頭の上にあがっていて、足とは反対の方向に向いていました。「こいつはフリントのちょっとした冗談だぜ」 と、シルバーは叫びました。「この白骨死体は東寄りの東南東を指してるぜ。これはフリントが殺したうちの1人で、それを道標としてここに置いたんだ」
海賊どもは胸中ぞっとしました、なぜなら彼らはみんな、フリントを恐れながら生きてきたからです。「だがやつは死んだ」 と、1人が言いました。
「そうだ。たしかにやつは死んで地獄に落ちた。だがもし幽霊が歩いているとしたら、そいつはフリントの幽霊だぜ」
「そうだ」 と、別の1人が言いました。「まったく『15人』の歌は、今は聞きたくないぜ、フリントは、あれしか歌わなかったからな」 シルバーは海賊たちの話を止めさせて、それから私たちは出発しました、しかし今や男たちは荒々しく話すことをやめ、かたまって歩いていることに私は気づいていました。フリントのことを考えただけでも男たちは恐怖でいっぱいになりました。丘の上で私たちは休みました。海賊たちはまだ小声で何やらフリントのことを話していました。
「あーそうだ。おまえたちはやつがこの世にいないことを、運がよかったと思うことだな」と、シルバーが言いました。

 突然、前方の木々の間から、か細いふるえるような声が、例の歌をうたいはじめました。
 「亡者の箱に15人──ヨイショ、それラム酒ひとびん!」
男たちは、その場に立ちすくんでしまいました。彼らはびっくり仰天して、前方を見すえました。シルバーまでがふるえていました、しかし、彼が一番初めに我に返りました。
「おれは宝をいただきにここにきたんだ」 と、シルバーは大声で言いました。「おれは、生きているフリントだって決して恐れはしなかった、だから死んじまったフリントなんかちっともこわくねえぞ!」

 ロング・ジョン・シルバーは、海賊たちみんなの元気を取りもどさせました、彼らは道具を手に取ると、ふたたび進んでいきました。すぐに私たちは、前方にひときわ高い大木をみつけました。その木の根元に埋められている宝のことを考えると、男たちは恐ろしさも消えてしまい、早足になっていきました。シルバーは杖を使って不自由そうに歩いていきます。私はシルバーの邪悪な目の光から、もし彼が黄金を手にしたら、他の連中ののどをかき切って殺し、船に乗って逃げてしまうだろうと言いきれました。

 連中はもうほとんどかけ足になっていましたが、それも長くは続きませんでした。彼らは穴のふちにたどりついていました。穴の底には、枝切れと折れたつるはしの柄がころがっていました。宝が持ち去られてしまったことは、だれの目にも明らかでした。海賊たちは穴にとびこみ、手で掘りはじめました。シルバーは身の危険を感じました。いつ何どきやつらが襲いかかってきても不思議ではないことを、彼は知っていました。

 「こいつはまずいことになったぞ、ジム」 と、シルバーはささやきました。彼の目に敵意の光は失せていました。海賊たちが向かってきたので、彼はまた私の助けが必要になったのです。また彼はつく側を変えたわけです。
海賊どもは穴からはい出ると、シルバーと私に向き直りました。頭目が攻撃をかけようと腕をふり上げましたが、一撃が加えられるよりも早く、3丁のマスケット銃が火を吹き、2人の海賊が倒れました。残りの3人は命がけで逃げました。森の中から先生とベン・ガンがかけ出してきました、2人はうまいときに私たちを救ってくれたのです。

 シルバーと私はベン・ガンの洞窟へ連れていってもらいました、そこには他の仲閲たちが持っていました。全部の仲間たちと再会できて、私は幸福でした。そしてこのとき、シルバーと私の頭をなやませた疑問に対する解答がわかったのです。リブゼイ先生は長いこと島に1人でいたベン・ガンが宝を発見し、自分の洞窟に運んでおいたことを聞き出していたのでした。
それで宝の地図は用なしとなったのでした。仲間たちは喜んで丸太小屋から安全なベン・ガンの洞窟に移ったのでした。その朝、ベン・ガンは森から海賊たちが宝をさがしに出かけるのを見ていました。幽霊の出そうな歌で、海賊たちの胸中をぞっとさせた声の主は彼だったのです。

 その夜、まだ傷のいえない船長や、弁護士のトレローニさん、リブゼイ先生その他みんなは大いに楽しみ、笑い、そして休みました。ロング・ジョン・シルバーは静かに微笑をたたえて、はじめに会ったころの、つつましく好意的な船乗りにもどっていました。
翌日私たちは宝をヒスパニオラ号に積みこみはじめ、2、3日で出帆の準備を完了しました。まだ3人の海賊が島にいるのを知っていたので、私たちは食料と道具を残し、彼らがそのうちどこかの船をみつけられるまで生きていけるようにしておきました。

  こうして私たちは船出しました。宝島を後にしたこのときの私の喜びは、とても言薬では表せません。私たちの頭数では、船を進めて帰るのに十分ではなかったので、南米の一番近い港に向い、何人かの船乗りを新たに雇いました。錨を下ろすと.私たちは陸に上りました、またふたたび華やかな、人びとが活発に行き来する世界にもどれたことは、なんとすばらしいことでしょう。先生と弁護士、それに私がヒスパニオラ号にもどったのは夜明け近くでした。ベン・ガンは私たちと顔をあわせると、シルバーが船を下りたことを告げました。彼はほんの少しの宝をもらって、姿を消してしまったのです。私たちはシルバーから解放されて、みんな喜びました。
私たちの唯一の願いは今、無事にブリストルに帰りつくことでした。
帰りの船旅は、平穏無事でした。国に帰りつくと、私たちは宝を分けて、それぞれの生活にもどっていきました。ベン・ガンは千ポンドの分け前にあずかりましたが、それを3週間たらずで使い果してしまいました。弁護士が彼に村で、ちょっとした仕事を与えてくれました、彼は今も教会の聖歌隊でうたっています。
ロング・ジョン・シルバーは私の人生から姿を消してしまいました──それでも、ときどき夢にうなされて、シルバーのオウム、フリント船長の甲高い鳴き声をきいたような気がすることがあります 「8レアル銀貨! 8レアル銀貨! 8レアル銀貨!」


もどる