レディバードブックス100点セット
 

 

地底探険

 私の名前はアクセル。何年か前、私の両親が死んだとき、私はおじさんのリーデン・ブロック教授とその娘グラウベンといっしょに住むために、ハンブルクを訪れました。おじさんは知らなかったのですが、グラウベンと私はいつか結婚するつもりでした。私のおじさんは有名な科学者で、大学で岩石や鉱物について教えていました。彼は背が高く、やせて落ち着きのない、短気な人でした。私は彼の助手として働いたのです。彼は私を気に入ってくれていて、私が彼の言うことを何でもきいてさえいれば、2人はうまくいっていました。
ある日おじさんは、アイスランドについての古い本を家に持って帰りました。彼がパラパラとページをめくると、小さな紙きれが落ちてきました。それには、よくわからないルーン文字で記号が記されており、私たちは長いこと、それについて考えこんでいました。と、突然、私は記号を逆に読むことで、それが意味を成すことに気づいたのです。それにはこう書かれていました。
「スネフェルス火山へ行け。毎年、6月の最後の日に、その噴火口の1つだけが形になる。その噴火口をおりていけば、地底の中心へ行ける。私は行ってきたのである」
「こりゃあ、アルネ・サクヌッセンムだ!」 おじさんは署名を指さしながら叫びました。「彼は、16世紀のアイスランドの偉大なる科学者だった。最も偉大だったさ! 彼がこんな探検をしてきたのなら、我々だってできるだろう!」
「私たちも、地底の中心まで探険できるんですか?」 私はおどろいてききました。
「そうだとも、アクセル」 彼は答えました。「彼と同じ道をたどればいいんだ。しかも、さっそく旅立たなければならないな。7月前には、その火山についていなければならんのだから」

こうして、2、3日のうちに、道具、器具、そして服をつめて、私たちはハンブルクを後にしました。グラウベンと私は、離れはなれになるのがつらかったのですが、彼女は、私がもどったときに結婚すると約束してくれたのです。私は、果して帰ってこられるのだろうか、と悩んでしまいました!
アイスランドの首都、レイキャビクまで行くのに、船で10日ほどかかりました。おじさんは、航海中ずっと船酔いで、ただスネフェルス火山を見たときだけ元気づきました。レイキャビクでは、私たちはある校長の世話になり、彼は私たちを火山へ連れていくよう案内人を手配してくれました。
その案内人の名はハンスといいました。ハンスはのっぽでがっしりしていました。彼は賢そうな青い目をしており、くり色の髪は広い肩までとどいていました。彼の静かな物腰が、私に信頼感を与えてくれました。彼は、私のおじさんともうまくいっていました、これはたいへん大切なことだったのです。
私たちは、6月の10日に出発することにしました。荷物を運ぶために、馬をやといました。それから、道具、銃、火薬と綿火薬、救急箱、そしてじょうぶなブーツを買いこみました。おじさんは、方位磁石を2つと、旅に必要な他の器具をつめました。おじさんが、持ち運びのできる、電気でつくランプを2つつめたのは、うれしいことでした。食糧は6か月分あったのですが、おどろいたことに. 水は水筒に入っている分だけだったのです。
「地下水がわきでているのをみつけて、必要に応じて水筒に入れればいいさ」 私がきいたときに、おじさんはこう言いました。

 私は、そうであればいいのだが、と思いました。アイスランドのわき水のほとんどが、沸騰するくらい熱いのを知っていたからです。それから他にも、私はこの探険について心配なことがありました。
「なぜその火山がもう噴火しないと言えるんですか?」 私はききました。
「ただ、1229年以来噴火していないというだけで、もう絶対噴火しないとはいえないじゃないですか」
「別に恐れることはないさ」 と、教授は答えました。「火山が噴火するという兆候はまったくないんだ。我々は、完全に安全なのさ」 彼が、議論しあえるようなタイプの人間ではなかったので、私はもうそれ以上、何も言いませんでした。こうして私たちは出発したのです。
スネフェルス火山にたどり着くまで、1週間かかりました。のぼりは前へ進むのがたいへんで、風はさすように冷たく吹いていました。頂上に着いたのは夜で、私は疲れ果ててしまいました。でもその晩、私たちはぐっすり眠り、朝にはもう、3つの大きな穴のあいた噴火口をおりていく用意ができていました。火山が最後に噴火したときには、この3つの大きな穴から吹きだしたのです。
おじさんは、穴から穴へと走っていきました。今はもう6月の終りで、1つの穴だけが影になっていました。それが地底の中心への入口となるはずでした。

 そのときおじさんが私に呼びかけました。「見ろ!」 彼は叫びました。彼は穴の近くの砦のかたまりを指さし、私はそこに、かすかにルーン文字がほられているのを目にしました。
「アルネ・サクヌッセンム」 と、私は読みとりました、これでこの穴にまちがいなさそうです。

 6月30日、私たちは背中に荷物をしょって、不思議な旅を開始しました。穴をのぞきこんだら、私はくらくらしてしまいました。壁はまっすぐ下にのびていましたが、ところどころ、岩が壁面から突きでていました。ロープを使ってゆっくりと、私たちは岩から岩へおりていきました。休み休み進みながら、10時間半後に穴の底に着いたのです。今や私たちは、850メートル下にいました。その晩、私は寝ようと横になったとき、暗い穴の上方にある、空のごく小さな部分に、1つの星を見ました。
次の朝、私達はまた荷物を背にしょいました。おじさんが電気のランプをつけ、暗い通路に向かって出発しました。その通路は急な下り坂になっていて、すべらないようにするのに苦労しました。ずいぶんたってから、おじさんが休憩しようと呼びかけました。私たちはむさぼるように食べ、水を少し飲みました。今のところまだ、地下水をみつけてはいませんでした──すでに私たちの持ってきた水は、半分はなくなっていたのです.
次の日、今度は上り坂になっているのに気づき、私はびっくりしてしまいました。それはもう、たいへんくたびれることで、私はだんだん、また外へ出られるといいのにと思いはじめていました。そうすれば、すぐにでもグラウベンといっしょに、ハンブルクで暮せるのです! けれどもその次の日、その通路はまた私たちを徐々に下に連れていきました。私たちはまだ水をみつけていませんでした。私はいらだちました。もうあと、水筒半分しか水がないのです。
それでも私たちは進んでいきました。ちょうど私が、水なしでどのくらい生きられるのだろうなどと考えていたとき、ランプの光が、目の前の壁を照らしました。私達は横道を探しました。しかし、前へ行ける道はありませんでした。そこでひき返して、正しい道を探さなければなりませんでした。

 また1日が過ぎ、私たちはとうとう最後の水を飲みきってしまいました。2日後には、私たちはすっかり弱ってしまい、これ以上進めなくなったので、止まって休みました。私はおじさんに、地上へもどるよう頼みました。でも彼はまだ、水をみつけられると確信していたのです。私はハンスに、もどるよう頼みましたが、彼は喜んでおじさんについていくつもりでした。
「私を信じなさい、アクセル」 と、おじさんは言いました。もうこれ以上、私にできることはありませんでした。少し眠ると元気がでて、私たちは、また別の曲がり道を下へおりていきました。1日たつと、私はだんだん弱ってきてしまいました。なんだか、絶対逃げだせない岩にとじこめられているような気がしてきたのです。私は気が遠くなって、たおれていきながら、おじさんに向かって悲鳴をあげました。
私が気がついたとき、おじさんが私の横で寝ているのがかすかに見えました。ふと、ある音に私は起きあがりました。ハンスが、ランプを持ってどこかへ消えようとしているところでした。まさか、あの正直な案内人が、私たちを残していくはずはありません! 私は寝苦しいまま眠りにつき、ハンスがもどってきたのに目がさめました。彼はおじさんをゆり起こし、水がほら穴の下で流れているのがきこえたと言いました。急いで私たちは服を着ました。
私たちはゆっくりと下へおりていきました。水の音は私に新しい生命を吹きこんでくれました。ところが水の気配はなく、進むにつれ、音はだんだん小さくなっていくのです。私たちは一番音が大きかったところまでもどりました。ハンスは、岩の壁に耳を着けました、その岩のうしろでは、地下水が流れているのがきこえていました。ハンスはつるはしを取りだすと、岩がくずれるまで打ち続けました。水が勢いよくトンネル内に吹きだし、ハンスはその水に打たれた痛みで声をあげました。それは沸騰するほど熱かったのです! それが水筒の中で冷えると、私たちは待ちこがれて水を飲みました。水は今や通路に沿って流れ出て、小さな流れをつくりました。私たちはそれを、命の恩人である案内人の名をとって 「ハンス川」 と名づけました。

 水を得た今、私はまた元気がでて、期待に満ちていました。川が常にわきを流れており、下へ導いてくれるのです。今度は、通路はあらゆる方向に曲がりくねっていました。おじさんがはじきだしたところによると、私たちは地下11キロ、レイキャビクから南西に120キロのところにいました。
しかし彼はもっと深く入りたがり、急傾斜の通路に来たときには、喜んでいました。それは最初におりた穴くらい急だったのですが、大きな岩の階段をおりることができました。ここを過ぎると、おじさんはもっと喜びました。私たちは大西洋の下、30キロのところにいて、出発点より200キロも来ていたからです。

 その後、毎日数キロずつ深く進んでいきました。私がランプを前にさしだして、先頭を歩きました。そして突然、私は自分1人しかいないことに気づいたのです。私はもどって呼んだのですが、誰の返事も返ってきませんでした。もう一度私は叫びました。何の返事もありませんでした。でも小川がわきに流れているので、私は簡単にもと来た道をひき返せると思っていました。私はかがんで水を飲もうとしました。ところが恐ろしいことに、水はなかったのです。私は道をまちがえてしまったのです!
もどるのはたいへんでした。たくさんの通路や曲がり角があり、どこから来たのか、私は覚えていませんでした。
ある角を曲がったとき、私は岩の壁にぶち当たりました。そしてころんだとき、ランプを落としてしまったのです。ランプは消え、暗やみの中でたった1人で道に迷ってしまいました。私は突然の恐怖に取りつかれてしまいました。ころんだり叫んだりしながら、壁から壁へ走りまわりました。が、とうとう疲れ果てて、たおれてしまいました。

 しばらくして、私は切り傷や打ち身に気がつき、何をしていいのかわからずに絶望してすわりこみました。静けさのなかで、私は雷のような音をききました。それから声もしたのです。確かに私は気が狂っていたに違いありません! 私は壁に耳をつけてみました。やはり声がきこえるのですが、何を言っているのかはわかりませんでした。私はありったけの声を出して 「助けて!」 と叫びました。しばらく待ちましたが、何の返事もありませんでした。私は岩に耳をおしつけました。やっと、おじさんが私の名を呼んでいるのがきこえたのです。
「どこにいるんだ、アクセル?」 と、彼は呼びました。
「わかりません、迷ってしまったんです!」 と、私はどなりました。

 「今、こっちへ出してやるからな」 彼は答えました。「我々は今、大きなほら穴にいる。たくさんの通路がここへ出ているんだ。おまえが下に向かって歩いてくれば、ここへ出られるだろう」
私は、すべったりころんだりしながら、急な坂をおりていきました。すぐに坂はもっと急傾斜になり、私は落ちていきました。私の下にあったはずの地面が消えてしまいました。私は深い穴に落ちてしまったのです。私は頭に鋭い痛みを感じ、後はもう、何もわからなくなってしまいました。

 私はゆっくりと目をあげました。おじさんが横にひざまずいており、私が生きているのを見て喜びの声をあげました。
「もうだいじょうぶだよ、アクセル」 彼は言いました。「すぐによくなるからな。眠って休んで、早く元気になるんだよ」

 私は、何が起こったのかをたずねるにはあまりに弱っていました。そして深い眠りにおちてしまいました。朝になって、包帯をまかれた頭が痛んだのですが、少し元気になっていました。朝食をとりながら、おじさんが、私のいた通路で岩くずれがあったのだと教えてくれました。私は落ちてくる岩といっしょに、今こうしておじさんとハンスが手当をしてくれたほら穴に、まっさかさまに落ちてきたのでした。私が死ななかったのは、奇跡でした。
気分がよくなってきたところで、私はほら穴を見まわしました。ランプがついていないのに、物がはっきり見えるのです。何か物音もしていました。それは波と風の音でした。私は自分が単にそう思いこんでいるのだと思い、おじさんにこのことをたずねました。
「そうだよ、おまえの思っていることは本当なんだよ」 と、彼は言いました。
「私たちは地上にもどったんですか?」 と、私はきき返しました。
「いや」 彼は私に自信ありげに言いました。「もうすぐ自分の目で確かめられるだろう。おまえが元気になったら、航海を始めるのだ」
「航海」 なんて、一体どういうことなんでしょう? 私は知りたくて、もう待ちきれませんでした。「おじさん」 私は言いました 「私はもう元気だし、だいじょうぶです。何をみつけたのか教えてください」

 私たちはうす暗いほら穴から出て、明るいところへ来ました。私の目は、水面に反射している光でくらくらしました。
「私はこれを『リーデンブロック海』と名づけたんだよ」 おじさんは誇らしげに言いました。それは確かに海でした。波が浜にくだけちっていました。そして、がけが遠くまでのびていました。光は太陽のように暖かくなく、月のように冷たくもありませんでした。それは強く、常に同じ状態で照っていました。私はそれが、何らかの自然に発生した電気からきているものだと確信しました。
私たちは、それでもまだほら穴の中にいるようでした。でもどんなほら穴が、こんな大きな海を中に持つことができるのでしょうか? 空は、何キロメートルも高く見えました、私たちの上に見える雲は、普通の雲より高いところにあったからです。海は私の見える範囲よりもっと広がっていて、ほら穴の長さも幅も計り知ることはできませんでした。40日間も暗い地下道にいた後、海の空気を吸い、遠くをながめるのはうれしいことでした。
おじさんと私は、いっしょに浜に沿って歩きました。私たちは、10メートルから12メートルほどものびた大きなキノコが生えている広い森にやってきました。他にも植物はありましたが、すべて、何100万年も昔、地球上に生えていたものばかりでした。砂の上で、大昔の動物のかわいた骨をみつけました。それはまるで、宝物をみつけたようなものでした。
「見てくださいよ!」 私は叫びました。「マンモスのあごの骨ですよ」

 しかしそんなことより、おじさんは海を探険したがっていました。次の朝、私はふたたびすっかりよくなっていました。ハンスが作ってくれた朝食をとる前に、泳ぎにいったほどでした。それからおじさんが、私たちはアイスランドから1400キロ離れ、まだ南西に向かっているとはじきだしました。これでだいたい、スコットランドの山やまの下、約130キロのところにいることになります。
「でも、平たい海にいて、どうやって地球の中心へ行けるんですか?」 私は彼にききました。
「わからん。でも、海を渡れば、下へ続く穴がもっとたくさんあるに違いないんだ」 と、彼は答えました。
私は、ボートなしでどうやって海を渡るのかききました。ハンスは私に、もういかだを作りはじめていると言いました。
夜にはいかだは完成し、リーデンブロック海に浮いていました。
次の日の朝、いかだに乗りこみました。毛布が帆のかわりでした。ハンスを舵手にして、私たちは準備完了でした。ところで、出発前に、私たちはこの小さな港を、グラウベン港と名づけました。グラウベンのことを考えたら、家に帰りたくなってしまいました。でも今や、家へ帰るためには前進するしかないのです。私たちは海へと出ていきました。

 天気はよく、雲は高く、風が強く吹いていました。ハンスがつり糸を投げこむと、大きくて立派な魚がかかりました。おじさんが言うには.それは大昔に地球上から消えた魚だということです。ハンスは生きた化石をつりあげたのです! 何時間もたったのですが、陸がある気配はまったくありませんでした。おじさんは、だんだんいらだちはじめていました。彼は、もっと地底の深いところへ行きたかったので、もしかしたら、まちがった方向にきているのではないかと思いはじめているようでした。黙々と、私たちは航海を続けました。
おじさんが、海の深さを測ろうと、ひもをつけたつるはしを海に落としました。ひもは350メートル以上あったのですが、それでも底にとどきませんでした。つるはしをいかだに引っ張りあげたとき、鉄に歯型がついているのに気づきました。ばかでかい、ワニかなんかでなければ、こんな歯型をつけられるはずがありません! 私は、もしものときのために、銃を点検しておきました。あらゆるところから危険が来るのを感じていましたが、何も見えませんでした。私は見るのに疲れて、眠ってしまいました。と、ある激しい振動に、私は目を覚しました。いかだが持ちあがり、30メートル以上も飛ばされたのです。
ハンスは、少し離れたとこうで海から出たりもぐったりしている黒っぽいものを指さしました。それは、巨大なイルカのように見えました。
おじさんが、大きな海トカゲと、歯がずらっと並んだワニを指さしました。
「あそこに、おばけクジラもいるぞ」 彼は叫びました。「尾で水をはねているのをごらん!」

 私たちはこの光景に、おどろきと恐怖で見入りました。この生きもののなかで一番小さいものでも、このいかだをまっぷたつにしてしまえるのです。さらに、もっと恐ろしい生きものが現われました──巨大なカメと、波から首を突きだしている、10メートルほどもあるヘビでした。怪物たちは、すべて私たちの方へ向かってきており、私は銃をかまえました。ヘビとワニが近づいてきました。他の動物はどこかへ行く様子でした。私が撃とうとすると、ハンスがとめました。
怪物は、私たちをおそってきたのではなかったのです。そのかわり、お互い飛びかかり、水しぶきをあげ、泡だつ波間から飛びだしてきました。
そのときになって、もう2匹の生きものしかいないことがわかりました。1匹は、イルカの顔、トカゲの頭、そしてワニの歯を持っていました。私たちは、大昔の魚竜  (イクシオサウルス)と蛇頸竜 (プレシオサウルス) の戦いを見ているのです!

 魚竜は、体長が30メートルほどあったようです。大きなあごは見るも恐ろしいものでした。蛇頸竜の体は厚いからでおおわれており、長い首は波から10メートルも突きでていました。2匹の巨獣は歯や尾を使って、激しく戦っていました。大波がいかだをひっくり返しそうになりました。2時間以上も2匹は争っていました。それから2匹の生きものは、海面から下へと沈んでいったのです。傷ついた蛇頸竜の頭が浮かんできて、身をくねらせたりよじったり、まるまったりのびたりしていました。そしてゆっくりと力がなくなり、動かなくなってしまいました。戦いは終ったのです。私たちはやっと息をつきましたが、まだ魚竜が海の下にいるので、恐れていました。でもしばらくの間は、私たちは安全でした。

 いかだに乗って6日目の昼ごろ、私たちはうなるような音をききました。
最初私は、波が岩にくだけ散っている音か、波の音かと思っていました。ハンスがマストにのぼり、たいへんな水しぶきが海からあがっているのを見つけました。私たちは、また別の海の巨獣かと思ってしまいました! その夜、8時ごろになって、海に横たわっている、1キロほどの長さの物体をみつけたのです。水しぶきがそれにふりかかっていました。私は恐ろしくなってしまいました。
「あれは、島だ」 ハンスが突然叫び声をあげました。
「でも、あの水しぶきは何なのですか?」 私はたずねました。
「間欠泉だよ」 おじさんが答えました。「アイスランドにあるのと同じようなものさ」
今度は、水しぶきは美しく見えました。光が水にきらめいて、虹を作りだしていました。私たちが島に上陸すると、地面が足もとでゆれていました。そして、島は焼けつくように熱かったのです。温泉の湯は沸騰していて、あたりを蒸気でつつんでいました。この熱は、地下深いところで燃えている火からきたものに違いありません。もっと深く行けば、燃え盛っているところへ行くことになるに違いないと私は確信していました。ところがおじさんは、私のこの不安をきくと、怒りだしてしまいました。私はもう、黙っていることにしました、なぜなら、今や私が確信を持てるものは、何もなくなったからです。

 島を離れる前に、私は航海しはじめたグラウベン港から1080キロ来ていることに気がつきました。イギリスの下のどこかにいるはずでした。次の日は風が強く、いっそう早く航海しました。雲が厚くなり、空がだんだん暗くなってきました。大気中には、まるであらしのために集まっているかのように、電気が充満していました。あらしが近づいてくることが、おじさんの怒りを増したようです。彼は、あらしによって足を阻まれたくなかったのです。そのとき風がやみ、何も動かなくなりました。
私は、あらしが来る前に帆とマストを下げるべきだろうかときいたのですが、おじさんはこれに 「いいや」 と答えました。
「風に運ばせてやろうじゃないか!」 彼は言いました。「そうすれば、もしかすると、この果てしない海の反対側へ着けるかもしれないからな!」
まるで、これに答えるかのように、風が起こり、ハリケーンがやってきました。いかだは、放りだされたり飛びあがったりしました。風が吹きあれている間、私たちはいかだにしがみついていました。ところがハンスは、へさきで静かにすわっていたのです。大気中の電気が、彼の髪できらめきました。彼はまるで、頭のまわりに不思議な光を持っているように見えました。風は私たちを猛スピードで連れていきました。雨もたたきつけるように降っていました。雷が鳴り、稲妻が私たちのまわり、いたるところで光りました。大量のあられも降っていました。それが道具や金属にあたると、明るい電光を放ちました。波のしぶきさえも、光にふちどられていたのです。

 まるで世界じゅうが、激しい爆発に吹きとばされたような感じでした。3日間もあらしに吹かれていたのです。私はマストにしがみつき、おぼれはしないかと恐れていました。そのとき、火の玉がいかだに命中しました。
マストと帆は、空へ飛ばされてしまいました。その火の玉は、半分白く、半分青く、直径25センチほどありました。それはロープから甲板へ、そして私たちの袋から箱へと、くるくる速くまわりながら飛びはねていました。一瞬、火の玉は火薬の袋にも触れました。が、奇跡的に、爆発しませんでした。
火の玉は私の足もとでころげまわり、私は逃げようとしました。でも、私の足は、甲板にしっかりとくっついていたのです。私は、いかだの上にあるすべての鉄が、火の玉によって磁石のようになっているのを見ました。
私のブーツの鉄のくぎが、甲板の鉄の板にくっついていたのです! 私は足を引っ張って、自由にしました。火の玉はぼっと燃えだしました。私たちは炎につつまれてしまったのです。その後あたりは、まっ暗になりました。私たちは休み、元気をとりもどそうと、体を甲板に投げだしました。風はまだ吹き荒れていましたが、私たちはあまりに疲れていて、それさえも気になりませんでした。私にわかっていたことはただ、今、猛烈なスピードで運ばれており、フランスの下も通りすぎたであろう、ということでした。

 ぼう然として疲れきった私たちは、とうとう岩だらけの海岸にうちあげられました。ハンスが荒れくるった海から引きあげてくれなかったら、私は粉々になっていたところです。彼はおじさんを助け、それから難破したいかだから、取ってこられるものを取りにいきました。
目が覚めたときはすばらしく良い天気で、私たちはほっとしました。おじさんは海を渡りきってしまったことで、もう陽気に、楽しそうにさえなっていました。「さあ、これでまた本格的にもぐっていくことができるぞ」
と、彼は言いました。私は地底のさらに奥深く行くことを考えたら、心が沈んでしまいました。ハンブルクに、そしてグラウベンのもとに帰りたかったのです。

 ハンスは、難破したいかだから私たちの荷物を拾ってきてくれていました。銃はなくなっていましたが、火薬と綿火薬は無事で、ぬれてもいませんでした。方位磁石、他の器械、そして道具やロープも残っていました。
食糧の大部分も無事で、4か月分くらいはありました。朝食の後、私たちはすわりこんで、今どこにいるのか、そしてこれからどう進むかなどを考えたのです。
「ハンスがいかだを直している」 と、おじさんは言いました 「でも、もうそれも必要ないと思うんだ。今まで来た道をまた通って地上に出るのではないような気がするんだよ」
私は、彼の言っていることがどういうことなのか、どうしてそんなことがわかるのかと不思議に思いました。

 あらしが私たちを南東の方に吹きとばしたので、今地中海の下のどこかにいるんだろうということで意見が一致しました。私たちは、位置を確かめるために方位磁石を見たのですが、それを見て当惑してしまいました。
もう一度、確かめました。方位磁石によれば、私たちは出発したときと同じ側の海にもどっていたのです。悲しいことにあらしの間、風が変わって、私たちはもとにもどされたのだろうという結論がでました。
おじさんは始めおどろいていましたが、やがて腹を立てはじめました。
彼は荒れくるって憤慨しました。私は彼に引き返すよう頼みましたが、何ものも彼の決心を変えることはできませんでした。ハンスは静かに、主人の言うことに従いました。またもや、私にできることは何もなく、進むしかありませんでした。
ハンスがいかだを直している間、おじさんと私は探険に出かけました。
私たちは、大昔の動物のからでおおわれている浜に沿って歩きました。大きなカメの甲らもみつけました。やがて、骨がいっぱい積み重なったところへやってきました。そこには今まで生きてきた、あらゆる種類の動物の骨があったのです。
「アクセル、これを見ろ!」 教授がふるえ声で呼びました。「人間の頭蓋骨だ!」
私も、おじさんに劣らずおどろきました。もう少し歩いていくと、さらにもっとおどろくことがありました。ほこりにまみれて、大昔の人間の体があったのです。それにはまだ、肉や髪の毛、そしてつめまでついており、まるで生きているかのように見えたのです! 私たちは、恐竜の骨と、そして生きている恐竜も見てきました。ここに大昔の人間の体があるのです。果して、生きている人間も見ることができるのでしょうか?

 私たちはさらに歩き続けました。1キロくらい行くと、大きな森がありました。そこには、何100万年も昔の世界にあった木や植物が生えていました。ところが、これらの植物は緑色をしていませんでした。日の光がなかったので、全部くすんだ茶色をしていたのです。おじさんは茂みをかきわけ、森の中へ入っていきました。木の下で何かが動きました。私たちは立ちどまって、葉の間をすかして見ました。そこには目の前に、大昔の象である巨大なマストドンの群がいたのです。象は鼻で木からむしり取った葉を食べていました。
「さあ、おいで」 おじさんがささやきました。「行こう」
「象がおそってきたら危険ですよ」 私は彼に忠告しました。
「たぶんな」 彼は低い声で同意しました。「あそこを見ろ!」

 私は、自分の目が信じられませんでした。木によりかかっている、1人の人間がいたのです。その男は、自分の持っているマストドンの群を見張っているのでした。彼はおそらく4メートルはあり、マストドンより背が高いのです。そしてその男の頭は野牛のように大きく、たてがみのように厚くもつれた髪をしており、手には木の枝を持っていました。

 ここにぐずぐずしてはいられないと思い、私たちは急いで逃げてきました。森から出ると今度は、浜の方へ走っていきました。それから、グラウベン港の近くにもどっているという目じるしを探したのですが、何もみつけられませんでした。浜を歩いていて私は、砂の中に何か光るものをみつけました。私はさびた剣を拾いあげました。そしてそれを慎重に調べました。剣は古く、長い間砂の中にあったということを、さびが物語っていました。
「これは、我々より以前にここに来た人のものだ!」 おじさんは言いました。「もしかしたら、地球の中心への道を示してくれる何かをみつけられるかもしれない」

 私たちはがけを探しまわり、とうとう暗いトンネルをみつけました。その入口には、岩にルーン文字が刻まれていました。
「A.S.! アルネ・サクヌッセンム!」 と、おじさんは大声をあげました。
ふたたび、私たちは正しい道にいるんだということがわかりました。
「どうやって我々が北へ来たのかわからん」 おじさんは言いました。「私は南東に向かっていると確信していたのに。でも、こうして正しい道にいるんだ。それが大切なのさ!」
私たちはハンスのところへもどりました。そして、いっしょにいかだで岸に沿って、アルネ・サクヌッセンムのトンネルまで行きました。私たちは岩の上におりたちました。私は通路を探険したくて仕方がなかったので、おじさんが電気のランプをつけたとき、先頭を行きました。
穴はまっすぐトンネルの奥に向かっていたのですが、少し行くと、道が大きな岩でふさがれていました。
「サクヌッセンムはどうやって通ったんだろうか?」 私は腹を立てながらききました。
「この岩は彼が通った後、落ちてきたんだろうよ」 と、おじさんが答えました。
「それじゃあ、綿火薬を使って、吹きとばしてしまいましょう」 私は提案しました。

 ハンスはつるはしを取りだすと、岩に穴をあげました。そして、そこに綿火薬をつめこみました。それからおじさんと私とで、筒上の袋に湿った火薬を入れて、導火線を作りました。夜中にはすべて準備ができていました。
次の朝早く私たちは目をさまし、仕度をしました。私が導火線に火をつけ、それからいかだの上の一行に加わるということになりました。導火線がもえている間、いかだを海に出しておくのです、そうすれば爆発したとき、危険から遠ざかっていられるからです。
私は導火線を取りあげ、火をつけようとカンテラをあげました。それから導火線に点火し、よく燃えているかどうか確かめました。私はいかだに走ってもどりました。ハンスがいかだを押しだしました。私たちは浜から安全な距離のところで待ちました。コチコチと時間が過ぎました。突然、岩が爆発しました。私たちは、底なし穴の中を目を丸くして見ていたのです。海は大きく波立ち、いかだは狂ったように放りあげられました。私たちは甲板に投げだされ、あたりはまっ暗になりました。暗闇のなかで、水のとどろきが私の耳に響いていました。どうやら私たちは、地球の中心へ続いている穴の入ロをふさいでいた岩を、吹きとばしてしまったようです。岩がなくなった今、海が流れこみ、いっしょに私たちを引きこんでいるのでした!

 私たちは、ゴーゴーうなっている水に乗って、地球の中へと流れこんでいました。私たちはお互いしがみつき、いかだにしっかりつかまっていました。まったくの暗闇のなかで、猛スピードで下へ下へと流れていきました。それからハンスが何とかカンテラをつけ、方位磁石と少しの食糧の他は、荷物がみんな、なくなっているのがわかりました。水は急激に落ちていき、ときどきいかだは回転しました。カンテラが燃えつきたとき、私は目をつぶって待ちました。流されていくスピードが増していきました。傾斜もより急になっていました。まるで、時が永遠になったかのように思われたのです。そのとき、突然衝撃を受け、いかだはほとんど止まってしまいました。
いかだは放水口にぶつかり、水がいかだの上に流れ落ちてきていたのです。私はもう、確実におぼれてしまうと思っていました。しかし、なんとか水面に出ると、あたりはすっかり静かになっていました。あの水のとどろきの後では、妙に静かに思われました。
「いかだが持ちあがってるぞ!」 と、おじさんが叫びました。
ハンスがたいまつをつけました。私たちは、狭い煙突のようなところの中で、水面と共に上昇していたのです。もはやここから逃れるのは不可能でした。水面が上がるにつれて、温度が上がってきました。まもなく、いかだの下の水は沸騰してきました。煙突の壁は、焼けるように熱くなっていました。たいまつの光のなかで、わたしは岩が動いたように思いました。
どこかで大きく爆発する音がしました。煙突の壁がゆれました。私は恐ろしくて、おじさんを見ました。おどろいたことに彼は落ち着いていたのです。
「地底が動いているんですよ!」 私は彼に叫びました。
「アクセル、これは地震ではないんだよ」 彼は言いました。「我々は、吹きだそうとしている火山の煙突の中にいるんだ! こうなるのが一番ありがたいんだ! これで地上へ運びだされるぞ!」

 いかだが上に持ちあげられている間、私たちにできることと言ったら、ただすわって待つことだけでした。
水の下には、燃え盛っている岩がありました。もし私たちが地上に出れば、岩も、焼けただれた溶岩が爆発するとき、投げだされるでしょう。

 朝になって、大気はより暑くなり、私たちが上昇するスピードも増しました。わたしは、煙突の壁に向かってきているたくさんの通路を見ました。
煙と炎がそこから流れこんできていました。いかだは赤く燃える溶岩の上に浮いていました。その熱さといったら、たいへんなものでした。いかだは熱い灰の降るなか、くるくる回りました。私たちのまわりのそこらじゅうで、炎が噴きでていました。すべてが失われてしまうような感じでした。私は気絶してしまいました。

 気がついたとき、私はハンスが力強く手でささえてくれているのを感じました。私たちは火山のわきに横たわっていました。みんな切り傷やうち身を受けていましたが、ひどいけがはしていませんでした。地球の表面で、日の光のなかに横たわっているなんて信じられませんでした。
「一体私たちは、どこにいるんですか?」 と、私はききました。
「方位磁石を見ればわかるかもしれない」 と、おじさんが言いました。
私は方位磁石を見てみました。「もし方位磁石が正しいとすれば」 私は彼に言いました 「私たちは北極にいるんですよ!」
私たちは、まわりの田園風景をながめました。下のほうには木も見えていました。オリーブの木、イチジクの木、そしてブドウの木もありました。日の光も暖かかったのです。これがアイスランドであるはずがありません!
私たちは火山の斜面をおりていって、村を探すことにしました。私たちは疲れてよごれて、服もぼろぼろでした。小川をみつけて、喜んで体を冷し、ゴクゴクと水を飲みました。
小さな男の子が私たちをみつけて、逃げようとしましたが、ハンスがつかまえてきました。おじさんが男の子に、ドイツ語、そしてフランス語で話しかけてみましたが、男の子は返事をしませんでした。それから、イタリア語できいたとき、その子は 「ストロンポリ」 と答えました。私たちは地中海にあるストロンポリにいたのです。アイスランドの火山から、地中海のストロンポリまで来ていたのです。地球の中を通って、なんと遠くまで来ていたのでしょう!

  私たちが海岸の方までおりていったところ、人びとは、私たちが難破したものと思いこみました。彼らは食べものと着るものをくれて、2日後には、家へ帰れるように手配してくれました。ボートや汽車の中で静かにすわって、私たちは方位磁石のなぞについて考えました。でもハンブルクに着くと、こんなことはみんな忘れてしまいました。
グラウベンは、私に会えてたいへん喜びました。私たちの不思議な旅のニュースは、国じゅうに広まりました。そして、すぐにそれは世界じゅうにも広がりました。偉大な科学者たちが、有名になっリーデン・ブロック教授と彼の助手と話すためにやってきました。もの静かなハンスは、まもなくホームシックになってしまい、私たちは彼がアイスランドへ帰るのを、さびしく見送らなければなりませんでした。こうして、やっとみんなが幸せになりました。すべてがうまくいきました。でもまだ、方位磁石のなぞは残っていたのです。
ある日、私は書斎で方位磁石を取りあげて、よく見ました。答はそこに歴然と現れていました。
「おじさん、見てください」 私は言いました。「針が、北を指すかわりに南を指していますよ。あらしのなかの、あの火の玉が針を全部磁石にしてしまったんです。そして方位磁石の極も変えてしまったんですよ。北じゃなくて、南を指すようにしてしまったんです!」

 「そうだろうとも」 教授は言いました。「あまりに簡単で、そんなことは思いもしなかったよ」
この最後のなぞが解けてから、おじさんはたいへん満足していました。私は、もうこれ以上ないくらい幸せでした。約束したとおり、グラウベンと私は結婚し、3人はハンブルクで幸せに暮しました。


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