レディバードブックス100点セット
 

 

ソロモン王の洞窟

 この年になって──この前の誕生日で55歳になったのですが──物語を書いているというのもおかしなものです。果してどんな物語になるのでしょうか、もし書き終えればの話ですけれども。
私の人生は、旅行や南アフリカでの狩猟や採鉱などによって、刺激に満ちたものでした。私がこれからする話は、不思議な話なのです、それではそろそろ物語を始めましょうか。
私の名はアラン・クォーターメン、ナタール州のダーバンにいます。18か月前、私は象狩りの後、ケープタウンから家に向かってダンケルド号という蒸気船に乗っていました。同乗者の中には2人のイギリス人がいました。
1人はヘンリー・カーティス卿でした。彼は、これまでに私が会ったことのある最も大きな男の1人で、黄色い髪に、黄色の濃いひげを生やしていました。彼のつれのジョン・グッド大佐は、海軍士官でした。彼は身だしみよく、きれいにひげをそっており、いつも右目に片眼鏡をかけていました。後でわかったのですが、彼はその眼鏡を、寝るときだけは、はずすそうです。入歯といっしょに!
私はこの2人の男と、とても親しくなりました。彼らは、私の今までの人生のなかで、一番すごい冒険を共にすることになったのです!

 海での最初の晩、夕食のとき、私は2人といっしょになりました。私がヘンリー卿に自分の名前を告げると、彼は前に身をのりだしました。
「クォーターメンさん、あなたは去年、トランスヴァールの北にいたそうですね。そこでネヴィルという男に会いませんでしたか?」
「ええ、会いましたよ。彼は奥地へ行く前の2週間、私といっしょだったんです」
「彼がどこへ行こうとしていたか、ご存じですか?」

 「聞いたには聞いたのですが」 私はそう答えてから口ごもりました。
ヘンリー卿とグッド大佐は顔を見あわせ、ヘンリー卿が口を開きました。
「クォーターメンさん、あなたに助けていただきたいのです。ネヴィルは私のたった1人の弟、ジョージなんです」
「ほう!」 私はおどろいて言いました。
「5年ほど前」 へンリー卿は説明しはじめました 「私たちはけんかをしたんです、兄弟がよくやるようなものでしたがね。その後すぐ、遺言状を残さずに父が亡くなりました。長男の私のところに全財産が入ってきたんです。弟には1ペニーも残されませんでした。もちろん、私は彼にも分けてやるつもりでした、でもけんかがあまりに激しかったもので」
彼はため息をつきました。
「私に何も言わずに、弟はネヴィルと名のり、ひと財産作ろうという野望を持ってアフリカに来たのです。その後、どうなったかはまったくわかりませんでした。グッド大佐と私は、彼を探しにきたのです」
「私の聞いたところでは、彼はソロモンの洞窟に向かっているということでした」 私はそう言いました。
「ソロモンの洞窟!」 2人は叫び声をあげました。「それはどこにあるんですか?」
「どこにあるかということを知っているだけですがね」 私は話しながらパイプに火をつけました。「私がとても若かったころ、最初、ある年老いた猟師からソロモン王のダイヤモンド洞窟の伝説を聞いたのです。洞窟は大砂漠を越えた、スリマン山脈のはるか向うのどこかにあるというのです。
そこの国にはスールー族が住んでいます、『光る石』の秘密を知る、体の大きい立派な一族ですがね。そのときは、そんな話は笑いとばして忘れてしまっていたのです」
私は2人の男をまじめになって見ました。

 「ところが20年後、私はシタンダズ・クラール (「シタンダー族の村」の意味) というところにいたのですが、そこでホセ・シルベスターというポルトガル人の男に会いました。彼は砂漠を渡ろうとしていたところで、もどってきたときには世界じゅうで一番の金持になっているだろうと言っていました。
「1週間後、彼は疲れきって私のキャンプに這ってもどってきました。私は面倒をみてやったのですが、もう彼は死にかけていました。死ぬまぎわに彼は、古びた地図を私に渡しました、それは、ソロモンの洞窟への道筋を示すものだったのです。その地図は、彼の家に300年もの間、伝えられてきたものでした。彼はその地図のとおりに行こうとしたのですが、砂漢に屈してしまったのです。私はまだその地図を持っているのですよ」
私の船室で、ぼろぼろの地図を鞄から取りだし、3人でのぞきこみました。へンリー卿はカルカエ河から砂漠を渡って、シバ山の2つの山頂の間を通り、ソロモンの道に沿って秘宝の洞窟までの道を指でたどっていきました。
「あなたは、私の弟がそこへ行ったとおっしゃるんですね?」
「それは確かです」 私は言いました。「彼のお伴をした猟師が私にそう言ったのです」
「クォーターメンさん」 へンリー郷が立ちあがりました 「私は秘宝があううとなかろうと弟を探しにいくつもりです。私といっしょに来てくださいませんか?」
「私たちは生きて帰れないかもしれませんよ」 私は真剣に言いました。
「でも、もしあなたが運にまかせてやってみようという気なら、私もお伴しますよ」
ダンケルド号がダーバンに着くと、私は新しい友人たちを家に連れていって、そこで大旅行の準備をしました。備品や銃や弾薬なども買いそろえました。
私たちが出発しようという前日、妙な男が1人、不意に私に会いにきました。彼はとても背が高く、ズールー人にしては肌の色は濃くありませんでした。

 「私の名はウンボパ」 彼は、握り玉のついた杖をあげてあいさつしました。
「あなたは、白人のだんなたちを北方の奥深くへ連れていくそうだな。それは本当なのか?」
私たちの旅行の目的は秘密にしてあったのに! 私はいぶかしそうに彼を見ました。
「なぜそんなことを聞くんだ? それがおまえにどんな関係があるんだ?」
私は詰問しました。
「おお、白人よ、それはこういうことなのだ。私はあなた方といっしょに行こうと思う」
「我々はおまえのことは何も知らん」 私は、彼の言葉と態度に現れている威厳にとまどいながら言いました。彼は普通のズールー人とは違うように見えました。
「私はズールー人のなかにいるが、彼らとは違うのだ」 と、彼は私に言いました。「私は子どものころ北からやってきて、何年間も放浪をした。もうそれにも疲れてしまったので、また北へ帰りたいのだ」
私は彼の言葉をヘンリー卿とグッド大佐に通訳しました。へンリー卿は彼の横に立ちました。ウンボパは、豹の毛皮を着てライオンの爪のネックレスをつけた、堂々たる風貌の男でした。
「この2人は恰好の組あわせじゃないかね?」 グッドが言いました。「同じように大きくてね」
「おまえの容貌が気に入ったよ、ウンボパ」 へンリー卿が英語で言いました。「おまえを私の使用人として使おう」

 ウンボパには明らかに、それがわかったようでした、というのは、ズールー語で 「それはありがたい」 と答えたからです。
これで話がまとまりました。その翌朝、私たちの長くて危険な旅の第一歩が始まったのです。
私たちは1月の終りにダーバンを出発しました。5月の中ごろには、もう1000マイル以上も旅をしていました。ウンボパは陽気な男で、私たちが疲れてきたとき、元気づけるこつを心得ていました。
ようやく私たちは砂漠のはしにたどりつき、砂漠の果てを見渡して立ちました。日は沈みかけ、空気はとても澄んでいました。はるか遠くの方に、スリマン山脈の薄青い輪郭が見えました。
「あれがソロモンの洞窟を囲んでいる壁なんだ」 私は指さしながら言いました。
「弟はあそこにいるはずだ」 へンリー卿の声は静かでした。「きっとみつけるぞ」
ウンボパが私たちの背後に現れました。
「山の向うで私も兄弟をみつけることになるかもしれない」 彼は言いました。「あそこには不思議な国があるのだ、勇敢な人びとの国がな、それから長く白い道もあるのだ」

 私は疑いぶかく彼を見ました。この男は、たしかにもっと何かを知っているのです。
「私を恐れることはない」 彼は私の不安をよみとって言いました。「私の知っていることをすべてお話ししよう──あの山脈を越えたらな。だが、あの山脈には死が居すわっているのだ」
へンリー卿は、ウンボパがスタスタ行ってしまうのを見ていました。
「不思議な男だ」 と、彼は言いました。
次の日、1日じゅう私たちは休みました。そして月がのぼり、荒野にその光が満ちると、砂漠に向かって出発しました。日中の焼けつくような暑さを避けるため、夜移動することにしたのです。
私たちは影のように黙々と、重い足どりで進んでいきました。夜が明けはじめ、まもなく日がのぼると、刺すような光が砂漠を包みました。私たちは急いで炎熱から逃れるべく、隠れ場所を探しました。こうして、昼と夜が同じように過ぎていったのです。それから、とうとう貴重な水がなくなるときがやってきました。
「水を探さなくては」 私は、しわがれ声で言いました。
ちょうどそのとき、シルベスターの地図に示されていた水飲み場をみつけたのです、それは砂の上にあったスプリングボック (南アフリカ産ガセルの1種) の、まだ新しい足跡をたどっていったらあったのです。大喜びでぞんぶんに水を飲み、水筒もいっぱいにすると、また私たちは出発しました。
スリマン山脈はだんだん近づいてきました。私たちは砂漠を背に、シバ山脈の左の山頂を、溶岩層の斜面をつたってのぼっていきました。また水がなくなっていたのですが、思いがけず、野生のメロン畑をみつけたのです。それらはだいぶできの悪い果物でしたが、私たちの命を救ってくれました。
さらにどんどんのぼり続け、やがて雪のなかを進むことになりました。
そしてついに、私たちは大きな山の頂上に立っていたのです、疲れきってお腹をすかせて。

 すばらしい景色が私たちの目の前に広がっていました。はるか下の方には美しい田園風景が見えました。こちらの方には深い森、そして向うの方には大きな川が平野を横切って、銀色に光りうねって流れていました。
近くでは、アンテロープがひなたぼっこをしていました。やっと食べものにありつけたのです! 銃が発砲され、大きなアンテロープの雄が仕留められました。食事が終ると、私たちはまた、いきいきとしてきました。
「見ろ!」 突然ヘンリー卿が叫び声をあげました。「あそこにソロモンの道があるぞ」
グッドと私は、彼の指さす方を見ました。それは私たちの眼下、遠くないところに横たわっていました。丘をおりていって、私たちはその道へ足を踏みだしました。そしておどろいて道をみつめました、それは、がっしりした岩を切り離してできているように見えたからです。道の滑らかな表面を歩くのは楽だったので、私たちはそれに沿っていくことにしました。
何マイルか進んだ後、川のほとりで休みました。そうなんです、グッド以外はみんなが。いつもきちょうめんな彼は、清潔できちんとしていたかったのです。まず彼は、ズボンとコートに丁寧にブラシをかけ、川で水あびをしました。それからフランネルのシャツだけをまとうと、ポケットカミソリを取りだしてひげをそりはじめました。私はぼんやりとそれをながめていたのです。
突然、何かが彼の頭をかすめて通りました。それは槍でした!

 次に、何人かの男たちが現れました。みんな背が高く褐色の肌をして、豹の毛皮をまとい、黒い羽飾りをつけていました。そのうちの1人の若者が槍を投げたのでした、彼の手がまだあがっていたからです。彼らはみんな、年老いた軍人のような戦士を先頭にして、近づいてきました。
「こんにちは!」 私はズールー語で話しかけてみました。
「こんにちは」 と老人は答えました、それはまったく同じ言葉の調子ではありませんでしたが、とてもよく似ていて、ウンボパと私はすぐに理解できました。「おまえたちは誰だ? なぜおまえたちの顔は白くて、彼の顔は我々のようなのだ?」
男がウンボパを指さしました、そしてウンボパの肌が、たしかに彼らと同じようであるのを見てとりました。
「我々はよその国から来た者で、戦いにやってきたのではない」 と、私は答えました。
「よその国の者? ククアナ国に来たよそ者は死ぬのだ! それが王のおきてだ」
「我々は殺されるようだぞ」 恐ろしげに、私は他の人たちに通訳しました。
「なんてこった」 グッドはうめきました。そしていつも困ったときにやるように、彼は手を入歯に当てました。上の歯を引っぱりおろすと、またカチッと上あごにはめたのでした。次の瞬間、堂々としていた戦士たちは恐怖の声をあげて後ずさりし、逃げだしたのです!

 「歯を動かしたんだ!」 へンリー卿は興奮してささやきました。「それをはずすんだ、グッド」
グッドは言われたとおりにしてから、入歯をそでにすべりこませました。
彼らはまた、前にそろそろと出てきました、好奇心の方が恐怖感よりも強かったようです。
「ああ、よその国の人、いったいどうしてあなたの歯は動くのだ?」 と、老人は聞きました。
グッドはさっそくニヤリと笑い、からっぽの歯ぐきを見せました。見物人たちは息をのみました。グッドは手で口をなでるとまた二ヤリとして、美しい二列の歯を見せました。

 「あなた方は精霊に違いない」 老人はたじろいで言いました。「どうして人間が、額の片方だけに毛を生やし、透明の目と美しく白い足を持ち、とけてまた生える歯を持ち得ようか?失礼しました、おお、ご主人様」
グッドの外見が私たちを救ってくれたのでした。やっと運が向いてきたのです、私はその運にとびつきました。
「我々は星からやってきたのだ!」 私は叫びました。「我々の力を見せてやろう。音で殺せるのだぞ」
ウンポパはこの危機を脱出すべく、気をきかせて、私に銃を渡して深々とおじぎをしました。
「魔法の筒でこざいます、おお、ご主人様」 と、彼は言いました。私は近くに小さなアンテロープがいるのに気づいていました。それを撃つのはたやすいことでした。バン! アンテロープは死んで倒れました。
「わかったか、私はうそは言わない」
「そのとおりです!」 老人は息をのんでいました。
「お聞きくだされ、星の落し子たちよ」 老人は言い続けました。「私は、かつてククアナ人の王であったカファの息子のインファドーズというものです。この若者はスクラッガといって、あの黒く恐ろしいツワラ王の息子です」
「そうか!」 私は言いました。「我々をツワラのところへ連れていけ。だがおかしなまねはするな。もしそんなことをすれば、透明な目の光がおまえたちを滅ぼし、消える歯がおまえたちにかみつくであろう──そして我々の魔法の筒が高らかに鳴り響くであろう。心していくがいい!」
このすばらしい演説に、インファドーズは大いに恐れ入ったようでした。
彼は深々とおじぎをし、「クーム! クーム!」 とつぶやいたのです、後で知ったのですが、それはククアナの王族のあいさつの言葉でした。このことで、王の息子のスクラッガは怒ったように見えました。
私たちは、大きな白い道に沿ってふたたび歩きはじめました。

 「誰がこの道を作ったのだ?」 私は歩きながらインファドーズに聞きました。
「いつ誰によって作られたかは、誰も知らないのです」 彼は答えました。
この道は月で教えて1万回も以前に、まるで嵐の息吹のように、我々の種族が北からやってきたときにはもうあったのです。この国をとりまく山々のために、人びとはそれ以上行くことはできませんでした。魔女をかぎわける、年よりのガグールがそのように言っていました」
彼は片方の腕であたりをぐるっとさし示しました。
「我々の種族はここに落ち着き、強力な民族となりました。ツワラ王が戦士隊に召集をかければ、その羽飾りがこの平野をおおいつくすほどです」
「ツワラのことを教えてくれ」 私は言いました。
「私の父が亡くなったとき、兄のイモツが王となりました」 インファドーズは悲しい顔をしました。「彼はとてもよい王で、イグノシという小さな息子がいました。イグノシが3つのとき、飢きんがこの国をおそい、人びとは不平をこぼすようになったのです。そして賢くて恐ろしい女ガグールが『イモツは王ではない』と言いました。彼女は、私のもう1人の兄のツワラを人びとの前に出し、彼の腰に巻きついていた聖蛇の印を見せたのです。そして『おまえたちの王を見よ』と叫んだのでした」
インファドーズはしばらく黙っていましたが、ふたたび話を続けました。
「ツワラはイモツを殺して、自分が王におさまったのです」
「少年のイグノシはどうなったのだ?」 へンリー卿が聞きました。
「国王の妻が連れだし、この国から逃げていったのです。それ以後2人を見た者はありません。きっと死んでしまったのでしょう」
ウンボパはずっと聞いていました。彼はとても妙な顔つきをしていました。
話をしているうちに、インファドースの住む村に着いていました。

 先に知らせてあったので、私たちはククアナ戦士の軍勢をはじめて見ることができました。何千もの人びとが私たちを待っていたのです。1人1人が頭に黒い羽飾りをつけ、腰には牛の尾の輪飾りを巻いていました。私たちが通り過ぎると、彼らは槍をあげて「クーム!」 と、王族のあいさつをしました。
私たちはその村で、快適な夜を過ごしました。翌朝、ツワラの中心地、ルーへ向かって、また大きな道を歩き続けました。歩いていると、何人もの戦士が追いついてきました。彼らは、年に1度の大観兵式に出席するためにルーへ急いでいるのでした、インファドーズがそう説明してくれました。それは今までに見たこともないようなすばらしい軍勢でした。
ルーが見えてきました。そこは、川が貫き流れている広大なところでした。その何マイルも向うには、平原から、にょっきり3つの大きな山がとびだしていました。
「この偉大なる道はあそこで終っているのです」 インファドーズは山々をさしながら言いました。「あの山は『3人の魔女』と呼ばれています。あそこにはたくさんのほら穴があるのです。大きな穴が『沈黙の神々』に見守られて、あの中にあります。昔の賢者たちが、探し求めてきたものを手に入れるために、あそこへ行きました」

 「何を取りにきたのだ?」 私はせかすように聞きました。「光る石か?」 「そのことはお話しできません」 インファドーズが答えました。「老女、ガグールに聞いてください」
私は他の人たちの方を向きました。「あの山にソロモンの洞窟があるんだ!」
ウンボパが口を出しました。「ダイヤモンドは必ずあそこにある」
「どうしておまえにそんなことがわかるんだ?」 私は厳しく問いただしました。
彼は笑いました。「夜、その夢をみたんだ、白人さん!」 そしてきびすを返すと去っていきました。

私たちはルーに着き、王の大きな小屋の前にある広場に連れてこられました。目の前には、何千人もの戦士たちがまるで影像のようにじっと立っていました。ツワラが自分の小屋から、大またに歩いて出てきました。彼は虎の皮を着た大男でした。その後からは、スクラッガと毛皮のマントをまとった何やらしわくちゃのしなびた猿のようなものが続いて出てきました。これがガグールでした。
「クーム!」 王族のあいさつが響きわたりました。その後、しんと静まりかえっていましたが、1人の戦士が盾を落としてしまいました。
「やつを殺せ!」 ツワラが激しい怒りに満ちた声でどなりました。

 恐ろしいことに、ニヤリと笑ったスクラッガが槍を投げつけたのです。
哀れな戦士は倒れて死にました。いったい、この男はどういう王なのでしょうか?
ツワラはその残忍な顔を私たちに向けました。「なぜおまえたちも同じように殺してはいけないのだろうね? 星から来た者たちよ」 彼はそう詰問しました。

 「これがその理由だ!」 私は銃を取りあげると、彼の持ち牛の1頭を撃ちました。彼はおどろいたようでした。
突然、ガグールがマントをはねのけ、年老いたしわだらけの頭を出しました。彼女はそこらじゅうをとびまわりはじめました。
「血のにおいがする!」 彼女は金切り声をあげました。「おまえたち白人は、ダイヤモンドを取りにきたんだろう。だがこっちの高慢な態度をしているやつは誰だ?」 彼女はウンボパにくってかかり、いっそう甲高い声を出しました。「おまえを知っているぞ──そのマントを取るのだ……」

 でもその努力は彼女にはあまりにきつ過ぎたようで、彼女は地面にひっくり返ってしまいました。
「そのまま行くがいい」 ツワラが不安そうに言いました。「あす、ガグールの言ったことを考えよう」
その後、あてがわれた小屋の中で、私はインファドーズに聞きました。
「ツワラは残酷な王のようだな」
「そうなのです、ご主人様」 インファドーズは頭をさげました。「今夜、盛大な魔女狩りをご覧になることでしょう。ツワラが、誰かを恐れたり、その男のものをほしいと思ったりすると、ガグールがその男を魔法使いとして『かぎ出し』、その男は殺されるのです。誰一人として安心していることはできません。人びとはツワラの残忍なやり方にうんざりしているのです」

 「なぜ、やつを王座から引きずりおろさないんだ?」 と、グッドが聞きました。
「スグラッガが、かわりに支配することになるからです。彼の心は父親よりも邪悪なのです。イモツが、あるいはその息子のイグノシが生きていてくれたらよかったのに……」
「イグノシは死んではいない!」 ウンボパが即座にインファドースに言いました。「あなたにお見せしよう、ああ、私の叔父」
彼は豹の毛皮を脱ぎすてました。1匹の大きな蛇が青く入墨されて、腰に巻きついていたのです。インファドーズはそれをみつめていましたが、やがてひざまずきました。
「クーム! クーム!」 彼は叫びました。「私の兄の息子だ。彼が王だ!」 「立ってください、叔父さん」 ウンボパは手を差しのべました。「私はまだ王ではない。だが、この暴君を引きずりおろすのを手伝ってくれますね、叔父さん、そして勇敢なる白人の方がた?」
「もちろんだとも!」 私たちはみんな叫びました。インファドーズは、その夜の魔女狩りの後、2万人の槍持ちを呼び集めると約束しました。
ウンボパ、いやイグノシと呼ばれるべきであったのですが、彼は私たちの方へ向きました。「白人の方がた、もし私の手助けをしてもらえたら、何をあげたらいいのだろう? 光る石──あれをあげよう」

 へンリー卿が声を張りあげました。「ダイヤモンドをもらおうがもらうまいが、我々は君を助けるよ、ウンボパ。我々は君も知っているとおり、弟を探しにきたのだ。弟はこの辺で見かけられただろうか?」
「白人は誰もこの国に足を踏み入れてはいません」 インファドーズが言いました。「もしそうなら、私が耳にしているはずです」
へンリー卿は悲しそうに首を振りました。
「かわいそうなやつだ! これで我々の旅もむだになってしまったわけだ」

 その晩、私たちは恐ろしい魔女狩りに出席しました。何千人もの戦士たちがそこに集まり、月は、その槍の森に光をそそぎこんでいました。邪悪な老女、ガグールはそのまわりを踊りはじめました。
「悪人のにおいがする」 彼女は金切り声をあげ、最初の犠牲者となるべき人間をさしました。彼女の踊りはだんだん速くなり、次々に男たちをさしていきました。彼らはみんな殺されたのです。そしてついに彼女は、私たちの方へ踊りながらやってきました。

 「我々にもやろうっていうのかい!」 グッドが恐怖で叫びました。
ところが、彼女が触れたのはイグノシでした。「こいつは悪に満ちている。殺すのだ!」
私は銃をまっすぐツワラに向けました。
「さがれ」 私は叫びました 「さもないとツワラは死ぬぞ」
「その魔法の筒をしまってくれ」 ツワラは完全におびえていました。「踊りはおしまいだ」

 私たちは、緊張から解放された安堵感に、ほとんど気分が悪くなって小屋へもどりました。インファドーズが、6人の堂々とした首長を連れてやってきました。イグノシが彼らに聖蛇の彫りものを見せると、みんなとっくりそれを調べました。ようやく一番年かさの首長が口を開きました。
「ツワラのむごたらしさに国じゅうが悲鳴をあげています。でも、この人が我々の王だとどうしてわかるのです? 聖蛇の彫りものだけでは十分な証拠とはいえない。もし我々がツワラと戦うことになるのなら、何かそれを示すようなものが必要です」
「それを示すものはあると思うよ」 私がみんなに首長の言葉を訳してやると、グッドがそう叫びました。彼は暦を取りだしました。「明日の晩、アフリカで月食が見られることに気づいたんだ。彼らに、我々が月を暗くしてみせると伝えてくれ!」
「日は確かだろうね?」 へンリー卿が聞きました。
「もちろんだとも。ちゃんと詳しくつけておいたんだから」

 「よし」 私は首長たちの方に向きなおり、ズールー語で話しかけました。
「明日の夜、我々は月を消してみせよう。イグノシが王であるというしるしに、深い暗闇がこの地をおおうであろう!」
「よろしいでしょう、ご主人様」 と、インファドーズは言いました。「日没の後、2時間ほどして、娘たちが踊りをはじめます。ツワラが『沈黙の神々』に、いけにえとして捧げるために、一番美しい娘を選びだすのです。そのとき、月を暗くして、その娘を救ってください。そうすれば人びとはたしかに信じるでしょう」
翌晩、私たちは年に1度の 「娘たちの踊り」 を見ていました。娘たちはみんな花の冠をかむり、月あかりのなかで美しい光景を作りだしていました。しばらくしてツワラが、1人の愛らしい少女を指さしました。
「ファウラタが一番美しい! 彼女が死ぬのだ」
「そうだ、死ぬのだ」 と、ガグールが声を張りあげました。
スクラッガが大喜びで槍を差しあげました。我慢しきれなくなったグッドは、おびえているファウラタの前にとびだしました。「やめろ!」
うれしいことに、月食の影が、じりじりと月をおおいはじめていたのです。私は空を指さしました。

 「見ろ!」 私は叫びました。「星から来た我々白人は、月を消しているのだ。その娘を放せ、ツワラ!」
そこらじゅうからうなり声が聞こえてきました。人びとは月の表面に暗い円が忍びよるのを見て、恐怖にうろたえました。恐ろしさのあまりか怒りのためか、スクラッガが槍を振りまわしてへンリー卿にとびかかりました。
「月が消えかけている!」 彼はそう叫びました。
しばらく争っていましたが、最後にはスクラッガが死んでいました。邪悪な影が月をおおっているところでした。ツワラでさえも逃げだしたのです。私たちは、インファドーズ、ファウラタ、そして6人の首長たちといっしょに取り残されていました。

 「さあ、こちらへ」 インファドーズが言いました。「しるしは見せてもらいました。いっしょになって敵に立ち向かうための場所を探さなくてはなりません」
私たちがルーを出るころには、月はすっかり隠れていました。
私たちは、大きな丘の上に戦士たちを落ち着かせました、その丘は、上は平らで蹄鉄のような形をしていました。そこで私たちは王の軍勢と戦うのです。日がのぼると、イグノシが戦士たちに話しかけました。
「私が本当の王だ。誰が私についてきてくれるか?」
「クーム!」 戦士たちは槍をあげて、王族のあいさつを叫びました。

 最初の攻撃がやってきて、争っている戦士の集団が丘の斜面をあちこちに揺れ動いていました。私たちの軍があまりにも勇猛に戦ったので、ツワラの兵士たちはたじろぎました。でもそのうしろには、兵士たちの長い列が前進してくるのが見えました。またこの次に起る戦いに備えて、何か策をねらなければなりません、さもないと私たちは負けてしまいます。イグノシにはそのための考えがありました。
「今日こそツワラを倒す!」 彼はそう叫び、どうしたらいいか説明しました。
インファドーズに率いられた一隊が、蹄鉄の形をした丘の2本の角のように出っ張った部分にはさまれた狭い谷に沿って進みます。ツワラはそれを倒そうと軍隊を送るでしょう。ところがその場所は狭くて、一度にほんの少ししか戦うことができません。私たちの他の軍隊は、その上の斜面に隠れているのです。そして敵の上に両側からだしぬけにとびかかり、つかまえるというのです。
「もし運がよければ、勝利は我々のものになるだろう!」 イグノシが叫びました。
その後に続いた戦いは、筆舌に尽くしがたいものでした。ツワラの戦士が谷底に沿っておそってきたとき、私はインファドースと彼の戦士たちの側で戦っていました。私が覚えていることといえば、足もとの大地の揺れと鈍いうなり声、そして、あたりにひっきりなしに起る槍のひらめきだけでした。

 敵から絶望の叫び声があがり、私は見あげました。そこは、右も左も攻撃してくる戦士の羽飾りで活気づいていました。ツワラの隊は包囲されたのです。ほんの5分で戦いは終りました。不意をつかれて、ツワラの戦士たちは散りぢりになって逃げていきました。
でも仕事はまだ終っていませんでした。イグノシは、とらえられたツワラの始末をしなければなりません。
「私はどうなるのだ、おお王様よ?」 ツワラはあざけるような調子で聞きました。
「おまえが私の父にしたのと同じようになるのだ」 イグノシが答えました。
「私は決闘で死ぬことを要求する!」 ツワラは怒ったようにへンリー卿を指さしました。「あいつは私の息子を殺した──私はあいつと戦いたい、もしあいつが恐がらなければな!」
「決闘しよう」 へンリー卿は答えました。
私たちは、2人の大男が激しく争うのを心配して見守りました。興奮がさらに高まり、私は見ていられなくなって目を閉じました。やっと争いが終り、恐怖の王ツワラはもういませんでした。イグノシが王となったのです!
戦いが終り、イグノシはククアナ国の人びとに王として迎え入れられました。彼は人びとに、もう魔女狩りは行われないし、裁判なくして人が死ぬこともないと言いました。

 その後私たちは彼に、ソロモン王の洞窟の謎をぜひ調べたいと言いました。
「国の者は、ダイヤモンドは山中の秘密の部屋にあると言っています」 イグノシは私たちに言いました。「それを教えられるのはただ1人──ガグールです! そのために彼女を生かしておきました」
数日後、私たちはソロモンの道のはしに立っていました。一行の者は私たち3人、インファドーズ、自ら私たちの召使になった少女のファウラタ、そして、しぶしぶついてきた邪悪なガグールでした。「3人の魔女」 の恐ろしいながめと、その間にある大きなほら穴を私は一生忘れないでしょう。

 「あの穴が何だかわかるかい?」 私は叫びました。「ダイヤモンド鉱山さ! ああいうのをキンバレーで見たよ」
ほら穴の入口には、3つの大きな像が立っていました──ソロモン王の洞窟への秘密の入口を守っている 「沈黙の神々」 です。ガグールはずる賢そうにニヤリとすると、山腹にある狭い裂けめに向かってびっこをひいて歩いていきました。
「光る石を見せてやろう」 彼女は笛のような甲高い声で言いました。
インファドーズは野営の準備をするために後に残りました。他の者はみんな、ガグールについていきました。
私たちは山の中心部に向かって長いこと歩き、ようやくガグールは、がっしりした砦の壁の前で立ち止まりました。それからガグールが何か秘密の仕掛を操作すると、大きな石のとびらが床から上がっていったのです。
さらに中の通路を進んでいくと、彫刻された木のとびらのところで行き止りになりました。ファウラタはそれ以上行こうとしませんでした。
彼女をそこに残して、私たちはその向うにある部屋に入っていきました。
へンリー卿がランプを高く差しあげて、石の箱のたくさんある部屋を照らしました。いくつかの箱は金貨でいっぱいでしたが、ほとんどの箱はダイヤモンドが入っていたのです。私は息が止まりそうになって言いました。
「我々は世界じゅうで一番の大金持ちだ」

 「さあ、これがおまえさんたちの大好きな光る石だよ」 ガグールはとびまわりました。「それを食べるがいい! それを飲むがいい!」
私たちはまったく注意を払いませんでした。彼女がこっそりその場を去るときに見せた、邪悪な顔に気がつかなかったのです。
「石がおりてくるわ!」 ファウラタが突然叫び声をあげました。「助けて! 彼女に刺されたわ」
私たちは急いで通路をおりていきました。石のとびらが閉まりかかっているそばで、ファウラタとガグールが争っていました。ファウラタはひどい傷を負っていて、もう持ちこたえることはできませんでした。ガグールは悲鳴をあげて、閉まりかかっている石のすきまを蛇のようにくねって、抜けでようとしていました。ああ、でも遅かったのです。石が彼女の上におりてきました。すべて4秒のうちにことが終りました。ファラウタも私たちの足もとで息絶えていました。
「生き埋めになってしまった」 へンリー卿がゆっくりと言いました。
へンリー卿の言ったことは正しかったのです。石のとびらの下敷になったガグールだけが、その秘密を知っていたのですから。私たちはとびらを操作するばねを探しましたが、だめでした。
「これはきっと外から動かすのだろう」 私はついにそう言いました。「そうでなければ、ガグールが石の下をはうような危険をおかすかい?」

 その後に続いた恐怖の日々を、私はどう説明したらいいのでしょうか。
ランプはすぐに消えてしまい、私たちは、役に立たない宝物でいっぱいになった部屋で、暗闇のなかに残されたのです。やっとガグールのあざけりの言葉、ダイヤモンドを食べて飲めと言ったことがわかりました!
かなりの時間が過ぎて、私たちは、空気が新鮮なままなのに気づきました。必死になって空気の流れを探すと、それは部屋の遠く離れたすみの方にあったのです。私は、残り少ない何本かのマッチのうちの1本をすり、石のはねぶたを照らしました。私たちはそれを持ちあげて開けました。もう1本のマッチによって、下に続いている石の階段が見えました。

 「私が先に行こう!」 へンリー卿が叫び、グッドがすばやく後に続きました。でも私は、宝物の部屋を出る前に、ポケットをダイヤモンドでいっぱいにしました.
命がけの旅がその後続きました。階段は、ひと続きの曲がりくねったトンネルにつながっていて、私たちは、その中を疲れきってつまずきながら進んでいきました。そしてついに、かすかな日の光をみつけたのです。トンネルはどんどん狭くなり、岩がなくなっていきました。体を押しこみ、もがいて、やっと無事外に出て、柔らかく湿った土の斜面をゴロゴロころがりおりていきました。

 インファドーズが大急ぎでやってきました。「ああ、ご主人様──生き返っておもどりになったのですね!」
私たちは、二度と宝物の部屋へもどる道をみつけることはできませんでした。やっと私たちは、ククアナの友人たちに別れを告げると、その美しい国を立ち去りました。
さて、これからが私の話の一番不思議なところなのです。インファドーズはククアナ国から出る別の道を教えてくれました──それは、彼の猟師たちがみつけた、山の中を通る道でした。砂漠を何マイルか行くと、大きなオアシスがありました。私たちがそこへ着くと、白人が1人いたのです!
「おお、神よ!」 へンリー卿が叫びました。「弟だ!」
そうだったのです。その男は叫び声をあげ、びっこをひいて私たちの方にやってきました。兄と弟は元気に手を握りあい、□論のことなどすっかり忘れられていました。
「私は山を越えようとしたのだが、足をけがしてしまったんだ」 ジョージ・カーチスは説明しました。「それ以来、進むことも、もどることもできなくなっていたんだ!」
この辺で私は話を終えることにしましょう。私たちは、ずっとジョージ・カーチスを助けていかなければなりませんでしたが、無事、砂漠を渡りました。そしてついに、私はダーバンの家に着き、友人たちはイギリスへ帰っていきました。
でも私はもうすぐまた、彼らに会うことになるのです、なぜなら、ヘンリー卿からちょうど手紙が着いたからなのです。私がソロモン王の洞窟からポケットに入れて持ち帰ったダイヤモンドは、ロンドンで値踏みされ、一番品質のよい物だとわかったのです。私たちはみんな大金持になるのです。ヘンリー卿は、私に加わってほしいと言ってきています。私は彼の言葉を信じて、イギリスへ船で向かおうと思っています。


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