レディバードブックス100点セット
 

 

クリスマスキヤロル

〈クリスマスを嫌った男〉

 このお話は、ビクトリア女王が位についたばかりのころでした。ジェイコブ・マーレイさんという人が亡くなって、7年たっていました。彼とずっといっしょに会社をやってきたエピニーザ・スクルージさんは、ロンドン一のけちんぼうでした。
スクルージさんはお金がもったいないので、マーレイさんが亡くなった後も、会社の看板を書きかえようとはしませんでした。それで看板には今でも“スクルージ アンド マーレイ”と書いてありました。
ある年のクリスマス・イブのことです、霧がたちこめた寒い日でした、鼻の頭が赤くなった男の子が、ドアの鍵穴のところに顔を近づけてクリスマスの歌をうたいました。
「みなさんに神の恵と安らぎのありますように……」

 スクルージさんは長い木のものさしをつかむと、男の子の頭をひっぱたこうととびだしました、でも男の子はさっさと逃げてしまいました。スクルージさんはクリスマスが嫌いでした。クリスマスと関係のあるものは何もかも気に入りませんでした。彼は、欲ばりでけちな意地の悪い老人でした、人に親切にしてやろうとも思わなければ、びた一文めぐんでやろうと思ったこともありませんでした。
彼は心の中がまるで氷のように冷たい人でした。唇はむらさき色でした。鼻はとがってしわが寄っています。まゆ毛や、針金のような髪の毛、それに短いあごは霜が降ったように白くなっていました。
スクルージさんは心の底から冷たい人でした。そのため夏でも事務所はうすら寒いのでした。クリスマスの季節にはもう凍りつくような寒さです。
暖炉の火はいつも消えそうなほど小さく、石炭バケツを自分のそばに置いていました。事務員がことわりなしに石炭をくべられないようになっていたのです。

 事務員の名前はボブ・クラチットといいました。ボブは、横の事務室で丈の高いいすにすわって厚い帳簿をつけていました。
ボブはミトン(指先の出た手袋)をしていましたが、それでも指先が冷たくて羽根ペンがうまく持てません。インクはビンの中で凍っています。
首には、ボブが 「ぼくのカンフォーター」 と呼んでいる、長いえり巻を3回ぐるぐると巻きつけ、寒さをしのいでいました。このえり巻は、奥さんの手編みでした、オーバーが買えなかったからです。スクルージさんの払ってくれる給料は、たった週15シリングでした。
エビニーザ・スクルージー──名前までけちん坊そのものといった響きがします。
人びとはせきをしたり、息をぜいぜいさせながら、霧の町のロンドンを通りすぎていきました。空気はくすんでいて、まだ午後の3時だというのに外はうす暗くなっていました。スクルージさんの事務所から通りをへだてた向い側の建物もはっきりとは見えません。町じゅうの事務所には、すでにろうそくがともっていました。ボブ・クラチットは手をろうそくの炎にかざして暖をとろうとしましたが、ほとんどうまくいきませんでした。
町は暗く霧にけむっていましたが、人びとはみな楽しそうでした。だって明日はクリスマス、どこのお店でもクリスマスの楽しさに光りかがやいていました。七面鳥にガチョウ、山のように積んだオレンジとリンゴ、木の実、ケーキ、それにアメ──でも、お金がなくてそれを買えない人たちもいました。

 うす暗い町かどには、貧しい身なりの子どもたちが、こうこうと燃えている鉄火鉢のまわりに集まっていました。それは、さっきまで工場の人たちが暖をとっていたものでした。
いきなりスクルージさんの事務所のドアが開き、陽気な声が響きました 「メリークリスマス、スクルージおじさん」
入ってきたのは甥のフレッドでした。急いで歩いてきたので赤い顔をしています。目をかがやかせ、はく息は寒さでけむりのように見えます。
「ふん。くだらない。おまえが楽しい理由は何じゃい。貧乏ぐらしのくせに」 と、スクルージさんは言いました。
フレッドはにっこりしました。「でもおじさんは金持なんだから、そんな不機嫌な顔をすることはないじゃありませんか」
「メリークリスマス」 と、スクルージさんは無愛想に答えました。「できることならメリークリスマスなどと言いに来るばか者どもを、1人残らず内臓ごとゆでて、心臓にヒイラギの杭を打って埋めてやりたいもんじゃ」
「そんなにくまれ口をきかないで、おじさん。明日うちに来ていっしょにクリスマスの夕食なんていかがですか」
けれども、スクルージさんはことわりました。
「そうですか、でもおじさん、機嫌を直して。楽しいクリスマスとお正月を迎えるよう願ってますよ」

 フレッドがボブ・クラチットにもあいさつして出ていくと、スクルージさんは 「ふん」 と言いました。
フレッドが帰ると、入れかわりにふとった2人の紳士がにこやかな顔をしてやってきました。恵まれない人たちに少しでも安らぎを与えようと、クリスマスの募金に来たのです。

 「マーレイさんでいらっしゃいますか」 と、1人がたずねました。
「マーレイは死んじまったよ。わしはスクルージの方じゃ」 と、スクルージさんはどなりました。
スクルージさんは寄付をことわりました。「わしらの税金でまかなわれている刑務所や救貧院とかいうものがあるじゃろうが。貧乏人はそこへ行きゃあいいんじゃ」 と、彼はきつく言いました。
「でも、そこへ行けない人がたくさんいるのです、たくさんの人が、今にも死にそうな暮しをしているのです」
「そんなやつらは死なせてやればいいんじゃ。まったく貧乏人なんて掃いて捨てるほどおるんじゃから」 と、スクルージさんは言いました。
スクルージさんがこう言うと、2人の紳士はがっかりして帰りました。
霧がますます濃くたちこめ、午後は、ますます暗くなりました。やがて事務所を閉める時間です。ボブはろうそくの灯を消しました。

 「おまえさんは、明日休みなんだろうな。その休みの分もわしは給料を払わなきゃならんのだな」 と、スクルージさんはぐちを言いました。
ボブはひかえ目に 「でも1年に1度だけですから」 と言いました。
スクルージさんは 「その1回がよけいなんじゃ」 と、まだ文句を言いましたが、それでもボブを帰してやりました。
白いマフラーを巻いたボブは、さながら授業から開放された小学生のように走って外に出ました。彼は、子どもたちの列の最後にくっついて、凍ったスロープを20回すべり降りました。それからいちもくさんに家に帰りました、家族そろって 「目隠し鬼」 をして遊ぶことになっているのです。
スクルージさんは、 そまつな居酒屋で一人夕食をとったあと、金融新聞に目を通します。

〈マーレイさんの幽霊〉

 スクルージさんは一人暮しでした、今住んでいる古めかしい家は、共同経営者だった友人のマーレイさんのものでした。入口のあたりが暗かったので、スクルージさんは手さぐりで玄関のところまでのぼらなくてはなりませんでした。鍵をさしこんでふと、ノッカーに目をとめました。それはなんのへんてつもない昔風のノッカーでした。でも今夜は違っていました。
いつものノッカーではありません。なんとそこにマーレイさんの顔が見えるのです。
マーレイさんの顔は気味の悪い緑色で、ややもすれば腐った魚のように暗やみに浮き上がってきます。眼鏡をひたいの方にあげた不気味な顔で、髪が風にふかれているかのようにゆっくりとゆれました。目は一点をじっと見ています。スクルージさんが目をこらす間もなく、それはまたふつうのノッカーに戻っていました。
スクルージさんは、べつにこわがったりしませんでした。幽霊がいるなんて信じていなかったからです。家へ入ってろうそくに灯をともすと、ドアの内側を見ました。古めかしく結ったぶたのしっぽのような髪をたらしたマーレイさんの頭のうしろが見えるかと思ったのですが、ただノッカーのねじがあるだけでした。
スクルージさんはドアをバタンと閉めると、広い階段を上っていきました。前をだれかが上っていくようです。マーレイは7年も前に亡くなったのだ、と彼は自分に固く言いきかせました。

 2階はいつもと変りありませんでした。ベッドの下にもテーブルの下にも何もいませんでした。石炭の炎が小さくおこっている暖炉には、おかゆの小さななべがかかっています。スクルージさんはスリッパにはきかえてガウンをはおりナイトキャップをかぶると、腰をおろしておかゆを食べようとしました。でもその前にしっかり戸締りを確かめました。

 暖炉のタイルには、聖書の物語に登場する人物の絵が描かれていました──カインとアベル、シバの女王、アブラハムとイザク。スクルージさんには、それがみんなマーレイさんに似ているように思えました。
「ばかばかしい」 と、スクルージさんは言いました。
すると、暖炉の方についている、今はもう使っていないはずのベルが鳴りわたりはじめました。そして家じゅうのベルというベルが、1分間ほどけたたましく鳴り続けました。
やがて床下から重い鎖を引きずるような音が聞こえてきました、それは地下室からだんだん上の方へ上ってきます。
「まさか! そんなことがあるもんか」 と、スクルージさんは叫びました。
しかし地下室のドアが開いて、音は階段をのぼり、重いドアを通りぬけて部屋の中へ、そしてスクルージさんの前へ……

 暖炉の炎が 「マーレイだぞ。マーレイの幽霊だぞ」 と言っているかのように燃え上がります。
と、目の前にマーレイさんがいました、例のぶたのしっぽのような髪をたらし、普段着のチョッキを着て、ぴったりしたズボンとブーツをはいています。マーレイさんの胴体にはしっぽのようにとても長い鎖がぐるぐると巻きついていました。その鎖には銭箱、鍵束、南京錠、帳簿、重い金属製のさいふなどがぶら下がっていました。スクルージさんには、マーレイさんの体を通して、上着の背中についている2つのボタンまですけて見えました。
「おまえさん、わしのことを目のまよいかなんかだと思っているようだね」
と、マーレイさんの幽霊は言いました。-
「あたりまえじゃ。おおかた胃の具合が悪いせいじゃろう。あんた、もしかして、わしの腹にもたれとる牛肉かチーズのかけらじゃないのかね」 と、スクルージさんは言いました。

 幽霊はスクルージさんのつまらない冗談にニコリともしませんでした。
かわりに世にもおそろしい叫び声をあげ、鎖をじゃらじゃらと鳴らしました。
「その体に巻きつけている鎖はいったい何だね」 と、スクルージさんはたずねました。
「わしが、生前、鎖の輪を1つ1つ、1ヤード1ヤード自分で作ったんだよ。おまえさんだって、わしのと同じような太くて重いものをひきずっているじゃろうが。もっともそっちの方がわしのより7年分長いがね」
スクルージさんは自分のまわりを見ましたが、べつにそんな鎖が巻きついているようには見えませんでした。
「わしはお金をもうけることしか頭になかった。それでよいことをするチャンスをずいぶん逃したもんだ」 そう言って幽霊はため息をつきました。
「しかしおまえさんは立派に仕事をしてきたじゃないか、ジェイコブ」
「仕事だって? 人間であることこそわしの仕事だったんじゃよ。その人間をわしはずっとおろそかにしてきた、今、わしはその償いをしているのだよ」    
「なぜわしのところへあらわれたのかね」 と、スクルージさんはたずねました。
「おまえさんに警告しておこうと思ったからじゃ、わしと同じ目にあわんようにのう。これから3人、精霊がおまえさんのところにやってくる、教会の鐘が1時を打ったら来るからのう」
「そんなのはお断りしたし、もんじゃ」 と、スクルージさんは言いました。

 けれども、マーレイさんの幽霊は鎖を腕に巻きつけると、窓の方へあとずさりを始めました、すると窓はひとりでに大きく開きました、幽霊は窓から夜の空へ浮かび上がりました。スクルージさんは、そのとき、悲しげに叫ぶたくさんの声を聞きました、見上げると、空にはマーレイさんと同じような幽霊が、たくさん浮かんでいるのでした。幽霊たちには、生前援助をしてやらなかった人たちの困っている様子が見えるのです、けれども今となっては助けてあげることはできません、それでみんな嘆き悲しんでいるのです。
スクルージさんは突然、ひどく疲れを感じました。そして、ベッドに入ると、すぐに眠りこんでしまいました。

〈過去のクリスマスの精〉

 真夜中に教会の鐘が鳴りだすと、スクルージさんはびっくりしてとび起きました。あれは夢だったのでしょうか、それとも本当に1時になったら精霊がやってくるのでしょうか。スクルージさんはベッドに横になったまま、じっと耳をすましていました、そして、ついに教会の鐘が1時を打ったのです。
ぱっと部屋の中が明るくなると、4本の支柱のついたベッドのカーテンが引かれました。
そこには見たこともない小さな人影が立っていました、顔は子どものようにすべすべしていますが、髪は老人のように真白でした。白い衣をまとい、手にはヒイラギの枝を持っています。頭のてっぺんからは明るく澄んだ光がさしていました。そして、ろうそく消しのような帽子を持っていました、たぶんこれで頭から出ている光を消すことができるのでしょう。
「あんたはいったいだれで、何をしにきたんだね」 と、スクルージさんはたずねました。
「私は過去のクリスマスの精霊です」
「ずっと昔のかね」
「いいえ、あなたの過去のですよ」
「それで何を持ってきたのだね」
「あなたに考えなおしてもらおうと思って。あなたのためなのですよ。さあ、起きて私といっしょにおいでなさい」
スクルージさんは寝間着のままベッドから起き上がると、クリスマスの精の手を取りました。
あっという間に、2人は田舎の小さな市場に来ていました。子どもたちが馬に乗って道を行きます。ポニーに乗っている子もいれば、農夫の荷車に乗っている子もいます。みんなうれしそうに叫び合っています。クリスマスを祝いに家へ向かっているのでした。スクルージさんはその子どもたちに見覚えがありました──学校のときの友だちだったのです。
スクルージさんは涙を流しはじめました。クリスマスに、誰からも忘れさられて、冷えびえとした教室に、1人とり残されていたことを思い出したからです。スクルージさんは、 そこにすわって本を読んでいる子どものころの自分を見ました。うしろの窓の外では、物語の登場人物が現実の人となって動いています。

 「ロビンソン・クルーソーがいる、オウムとフライデーを連れて砂浜を走っているぞ」 スクルージさんは夢中になって叫びました。でも、その姿はすぐに消えてしまいました。スクルージさんは涙でそでをぬぐいました。
「わしは……」 と、彼は言いました。
「えっ」クリスマスの精が聞き返します。
「今日の夕方、外でクリスマスキャロルを歌っていた子どもがいたっけ。わしは、その子に何かやればよかった」

 クリスマスの精はさっと手を振りました。
「さあ、また別のクリスマスを見てみましょう」
またさっきの教室です。少年は少し大きくなっていましたが、でもやっぱりひとりぼっちです。いきなりドアが開いて小さな女の子がかけこんでくると、男の子にだきつきました。それはスクルージさんの妹でした。彼女は彼をクリスマスに迎えにきたのでした。
「あの子は病弱じゃった。ずいぶん昔に死んでしまったんじゃ」 と、スクルージさんが言いました。
「たしか子どもが1人いましたね、あなたの甥にあたる」 と、クリスマスの精が言いました。
「そうじゃ」 と言って、スクルージさんは考えこんでしまいました。
2人は学校を後にして、今度は大きな町にやってきました。クリスマスイブの通りは光にあふれています。2人はある店の前に足をとめます。
「ここはご存知ですか」
「知ってるとも。わしが見習いで勤めていた店じゃ」 と、スクルージさんは興奮して言いました。
楽しそうなパーティが、今やたけなわです。スクルージさんの雇い主だった老フェジウィッグさんが、家族や雇い人たちといっしょにクリスマスのお祝いをしているところです。すばらしいごちそうが用意されています。大きなローストビーフや肉の煮込み、ミンスパイ、ケーキにビール。
そして、なかでもすばらしいのは、田舎の踊りを演奏するバイオリン弾きでした。

 フェジウィッグ夫妻の踊ったサー・ロジャー・ド・カヴァリーは、みごとなものでした。老フェジウイッグさんはここかしこと軽やかにみごとなステップで踊り、夫人はそれにぴったりとついて踊ったのでした。スクルージさんは大喜びでした。昔よりもっともっと楽しく感じました。終りにスクルージさんはクリスマスの精の方を見上げました。
「どうかしましたか」
「なに。わしのとこの事務員に、ひとこと声をかけてやればと思っただけじゃ」 と、スクルージさんは言いました。,
次の場面は、あまり楽しいものではありませんでした。スクルージさんはもう少し年をとっていて、前よりもけちな感じに見えました。恋人と話をしています。スクルージさんがお金もうけのことばかり考えて恋人を大事にしないので、結婚の約束を取り消したいと、その人は言いました。
スクルージさんは気が動転しました。次は、その恋人が他の人と結婚して幸せになり、一方スクルージさんは。 ろうそく1本の他は誰もいない事務所にさびしくすわっていたのでした。
「よそへ連れていってくれ」 スクルージさんは叫ぶと、クリスマスの精ともみ合いました。彼はクリスマスの精の頭から出ている思い出の光に、ナイトキャップをかぶせてしまおうとしました。気がつくと、スクルージさんは自分の寝室にいました。ベッドの上にいたので、やがてスクルージさんは深い眠りにおちていきました。

〈現在のクリスマスの精〉

 スクルージさんは、ふたたびとび起きました、時計が1時を打ったのです。隣の部屋から灯が近づいてくるような気がします。
すると、彼を呼ぶ声が聞こえます。「スクルージ、こっちへ来い」
スクルージさんはスリッパをはくと、足をひきずるようにして扉の方へ行きました。その部屋はまるで別の部屋のようでした。ヒイラギとツタと宿り木で飾られ、暖炉には大きな火がパチパチと音をたてて燃えさかっていました。床の上にはまるで王座を形づくるかのように、いろいろのものがならんでいました、七面鳥にガチョウ、ニワトリに骨付きの牛肉、鎖のようにつながったソーセージ、ミンスパイにクリスマス・プディング、そしてピラミッドの形に積み上げられた果物の山。
それらのごちそうの上に 「豊じょうの角」(ギリシア神話に由来し、豊かさを象徴する山羊の角の彫刻) の形をした松明をかかげた1人の大男がすわっていました。スクルージさんがドアのところに近づいて、じっと見ていると、大男は松明をかかげ、その灯でスクルージさんをてらしました。
「入ってきな、わしが誰だかおしえてやろう。わしは現在のクリスマスの精だよ」 と、大男は言いました。
現在のクリスマスの精は、すそに白い毛皮のついた深い緑色のローブをまとい、ヒイラギの冠がちぢれた茶色の髪の上にのっていました。
「クリスマスの精よ。わしのために来てくれたのじゃろう。さあ、わしを連れていっておくれ」 と、スクルージさんはていねいに言いました。

 クリスマスの精は、スクルージさんをクリスマスの最後の買物でにぎわう町に連れてきました。教会や礼拝堂の鐘が、ミサの始まりを告げて鳴りわたります。料理に使う燃料の石炭を買えない貧しい人たちは、ごちそうを手にしてパン屋さんに運んでいました。(注・貧しい人たちは材料をパン屋に持っていって、料理してもらう習慣がありました) クリスマスの精はパン屋の入口に立って、貧しい庶民の夕食の上に、松明からこぼれるひとふりの光で祝福を与えます。
2人は、あるとても小さな家へやってきました。スクルージさんのところで働いているボブ・クラチットの家です。ボブの給料は、たった週15シリングですが、現在のクリスマスの精は一家に特別な祝福を与えました。
クラチット家の人びとは、みんなクリスマスのために、せいいっばいおめかしをしていました。クラチット夫人や女の子のドレスはみすぼらしいものでしたが、はなやかな色のリボンがみんなを美しく見せていました。
息子のピーターは、お父さんに借りた、のりのきいた広えりの上着を着ています、でも、お父さんの上着はピーターには大きすぎます、ピーターは口をへの字にしていました。彼は、ぐつぐつのポテトのシチューなべをフォークでつついていました、その間に女の子がテーブルをととのえます。
別の2人の子ども、男の子と女の子が興奮しながらかけこんできて、パン屋さんのかまどでうちのガチョウを料理しているにおいがしたよ、ほんとだよ、と言いました。
「お父さんと、おちびちゃんのティムはどうしたの」 と、お母さんがたずねました。
「今着いたよ」 と、子どもたち。お父さんのボブは首に3フィートのカンフォーターを巻き、末っこのティムを肩にのっけて玄関にあらわれました。
ちっちゃなティムは松葉杖を持ち、片足に鉄のわくをはめていました。

 ちょうどそのとき、子どもたちが、ガチョウをお盆にのせていそいそと戻ってきました。お母さんは肉汁をあたためなおします。ピーターはジャガイモをマッシュポテトにします。女の子たちはアップルソースをもりつけ、あたためた皿をみんなに配ります。そして家族みんながテーブルを囲むと、お父さんのボブが食前のお祈りを唱えます。それからお母さんが長い包丁でガチョウのおなかを切ると、セージ(サルビアの一種) やタマネギの詰物の香りがほとばしり出ます。

 みんなは口ぐちに、こんなやわらかくておいしそうなガチョウは見たことがないと言います。みんなで食べても食べきれないほどの量です。年下の2人は、セージとタマネギの詰物に夢中になってお腹がいっぱいになりました。
さて、今度はさっきから台所の銅製のおかまで煮えていた、クリスマスのプディングの出番です。清潔な洗濯物のにおいと、パンを焼くときの香ばしいにおいが入り混じったようなよい香りが、部屋じゅうに漂ってきました。やがて、ブランデーの炎につつまれ、てっぺんにヒイラギの小枝をかざったプディングを持って、お母さんが入ってきました。それはちょうど斑点のついたフットボールのようでした。(みんなで食べるには少し小さいんじゃない、などと言う人は誰もいませんでした!)
それからみんなは暖炉のまわりにすわって、焼栗をつまんだり、クリスマスの乾杯をしたりしました。
ボブが杯を(柄のついていないカスタードカップですが) かかげました 「クリスマスおめでとう! 神の御恵がありますように!」 すると、ちびっこのティムも 「みんなに神の御恵がありますように!」 と言いました。お父さんのボブはディムをわきにすわらせて、その小さな手を握りました。
「クリスマスの精よ、あのちっちゃなティムは、この先元気に育つのだろうか」 と、スクルージさんはつぶやきました。
「すわる人のいなくなった小さないすと、そのわきに置かれた小さな松葉杖の影が見える。このままだと、あの子は来年のクリスマスを迎えることはできないな。だがおまえさんが心配することではない。死なせてやればよいさ。貧しい人びとは掃いて捨てるほどいるのだから」 と、クリスマスの精は言いました。

 それは前にスクルージさんが言った言葉でした。スクルージさんは恥しくて、だまってしまいました。
それからクリスマスの精は、人里離れたさひしい場所にいる人びとにとって、クリスマスがどういう意味をもっているかをスクルージさんに教えてくれました。地面の下にもぐって働いている抗夫たちや、荒れ狂う海で灯台を守っている人びと、月のない夜に甲板で働きながらキャロルを歌う船乗りたち、このような人びとのクリスマスがどういうものか見せてくれたのでした。
突然、楽しげな笑い声があがりました。甥のフレッドです。フレッドたちがクリスマスパーティをしています。目隠し鬼遊びでさんざん笑いころげた後、今度は推理ゲーム 「イエス・ノーゲーム」 を始めていました。
まず、フレッドが何かを考えなくてはいけないのですが、フレッドはどの質問にもイエス)か、ノーでしか答えられません。そうです、フレッドが頭に思いうかべているのはある動物です──残忍でいやな感じの動物です。イエス、それはロンドンにいます。ノー、動物園にいるのではありません。ノー、馬じゃありません──ろばでもないし──牛でもないし──虎でも──猫でも──熊でもありません。スクルージさんの甥は、ソファーにひっくり返りそうになって笑っています。

 ぽっちゃりした義理の妹がとうとう悲鳴をあげるように言いました。
「わかったわ。あなたのおじさんの、ス、ク、ルー、ジ、さんっ!」
当りっ! みんなはスクルージおじさんのために乾杯しました、スクルージさんはお返しの乾杯をしようかと思いましたが、クリスマスの精がまた遠い国に住む別の人びとのクリスマスを見せるために、彼を連れていきました。
しかし、クリスマスの精はだんだん小さくなってきています。茶色の髪にはずいぶん白髪がまじってきました。
「もうあまり時間がないのですか」 と、スクルージさんはたずねました。
「そうだ。真夜中で私の時間は終りなのだ」
そのとき、スクルージさんは、クリスマスの精のローブの折り返しのところに誰かがかくれていることに気がつきました。それは2人の子ども、やせてがりがりのみすぼらしい男の子と女の子でした。
「父親も母親もいなければ、この子たちのためにクリスマスを祝ってくれる者もいない── こういう子供たちもいるのだ」 と、クリスマスの精はさびしそうに言いました。
「この子たちは行くあてもないのですか」 と、スクルージさんはたずねました。

 クリスマスの精は、また前にスクルージさんが言った言葉を使って答えました。「刑務所とか救貧院があるだろう」
時計が12時を打ちました。
スクルージさんはあたりを見まわし、さがしましたが、クリスマスの精はもうどこにもいませんでした。そのかわり黒いフード付きの外套を着たものものしい人影が、ちょうど霧が地表をはうように、こちらに近づいてきました。最後のクリスマスの精です。

〈未来のクリスマスの精〉

 今度のクリスマスの精は、何も言わず黙っていました。ただ黒い衣からさしのべられた片手だけ暗闇の中に浮かんでいるのが、スクルージさんには見えました。スクルージさんは恐ろしくなりました。
「あなたは未来のクリスマスの精なのですか。これから先に起ることを教えてくれるのではないのですか」 と、スクルージさんはおそるおそるたずねました。
クリスマスの精はうなずいたようでした、
「ずっと黙っているつもりですか」 スクルージさんはすがるように言いました。
そのかわり、クリスマスの精は、まっすぐ前方を指さしました。
2人は町に来ていました。商人たちがいくつかのグループに分かれ、ポケットの金貨をチャラチャラいわせながら立ち話をしていました。スクルージさんとクリスマスの精は、すぐそばに立っていたので、商人の話の内容が聞こえました。
「くわしくはわからないが、とにかく死んだそうだ」 と、ふとっちょの商人が言いました。
「遺産は誰のものになるんだろうな」 と、別の1人が大きなタバコ入れから出した、かぎタバコを吸いながら言いました。
「私は知りませんねえ、私は。私のものではないことは確かですがねえ」
と、赤ら顔の銀行家が言いました。みんなはこぞって笑いました。
「誰かやつの葬式に行く者がいるのかねえ。友だちは1人もいなかったんだろう」 と、さっきのふとっちょが言いました。

 スクルージさんは、いったい誰のことを話しているのだろうと思いました。自分はどこにいるのだろうとさがしたのですが、いつもの事務所にはいませんでした。
次にクリスマスの精が連れていったのは、ロンドンでも一番貧しい地区の、ものすごいスラム街でした。2人は天井の低いがらくただけの古くてみすぼらしいくず屋の店にいました。くず屋の主人は悪臭を放つストーブのそばにうずくまって、客が来るのを待っています。
2人の男の人と1人の女の人が、夜の闇からあらわれました、何やら包みをかかえています。シーツや衣服、それに古いカーテンを売りにきたのでした。
「こりゃあ、どっから手に入れてきたんでぇ」 くず屋のおやじは品物をひろげながら、しわがれ声でこうたずねました。
「もうこんなもんはいらなくなっちまった、じいさんのところからさ」 女の人がクックッと笑いながら言いました。
「そうだぜ、あいつはどっかにいっちまって、これから先シーツや寝巻なんかいりっこねえからな」 と、男の人が言いました。
「あのじいさん、意地悪のごうつくばりでなけりゃあ、誰か看取ってくれるやつがいたろうによ、いい気味だぜ」 と言って、その男の人は2つのカフスボタンを放り投げました。
スクルージさんは、それらの品物が数枚のコインと取りかえられるのをじっと見ていました。
「クリスマスの精よ。この人の死を悲しんでいる人はいないのですか。この人の死で、なにか人間的な感情をいだいている人を見せてください」 と、スクルージさんは言いました。

 クリスマスの精が黒い外套を翼のようにさっとひと振りすると、お母さんが小さな子どもたちにかこまれてすわっている部屋に変っていました。
お父さんが入ってきます、何か心配ごとでもあるのか、顔色がすぐれません。それなのに、お父さんの顔にはどこか安堵の色もうかがわれます。
「借りたお金を返すのは、もう少し後でいいことになった」 と、お父さんは言いました。
「あのおじいさんが急に親切になったの」 と、お母さんは真剣にたずねました。

 「いいや。死んだんだ」 と、お父さんが言いました。
お母さんは、ぱっと顔を輝かせました。これがその老人の死を知ったすべての人がしいだく、ひとつの感情だったのです──これで安心だ。
スクルージさんは、人の死から連想されるような思いやりのある気持について、もっと見せてくれるようにクリスマスの精にたのみました。
その答として、クリスマスの精は、スクルージさんをボブ・クラチットの家に連れていきました。

 子どもたちは静かに持っています。お母さんは編物をしています。
「お父さんはまだかしら。おそいわねえ」 と、お母さんが言いました。
すると、ピーターが 「ちびっこのティムが、肩にのせて歩いていたころよりも歩き方がゆっくりになったみたいだよ、このごろ」 と言いました。
「お父さんはティムがお気に入りだったからねえ、それにティムったらちっちゃくてさ」 と、お母さんが言いましたd
ちょうどそのとき、ボブが帰ってきました、首にあのカンフォーターを巻いています、子どもたちはお母さんといっしょになって、お父さんに温かいお茶をいれてあげます。お父さんは墓地に行ってきたのでした。
「美しい場所だったよ。日曜日ごとにみんなであの子に会いにいくって約束してきたよ」 と、ボブは言いました。
ボブは通りで、スクルージさんの甥に出会ったのでした。フレッドはおくやみを言い、何かできることがあれば何なりとお役に立ちますからと、言葉をかけてくれました。
「ちいさなティムのことを、私たちはずっと忘れないようにね。我慢強い、いい子だったティムのためにも、おまえたちは仲よく暮していかなければならないよ」 と、ボブは家族みんなに言いました。
みんなは、お互いに抱き合ってキスを交して約束しました。
「お父さんは、とっても幸せだよ」 ボブは家族を見わたして、こう言いました。
「私はどうなるのか、私の未来を見せてください」 と、スクルージさんは心配そうにクリスマスの精にたのみました。

 クリスマスの精はスクルージさんを彼の事隣所へ連れていきました、でも、彼の机にすわっていたのは知らない人でした。スクルージさんはぞっとしました。
背の高い黒ずくめのクリスマスの精は例によって前方を指さしながら、スクルージさんを鉄の門の前へ連れていきました。門の中は、雑草が生い茂る荒れはてた墓地でした。クリスマスの精は足をとめると、立ちならぶ墓石の中の1つを長い指でさし示しました。

 「クリスマスの精よ、これは必ずこうなるということなのですか、それとも今ならまだ、まにあいますか」 と、スクルージさんは言いました。
けれども、クリスマスの精はだまったまま、ずっとその墓石を指さしています。スクルージさんはそこに自分の名前が書いてあるのに気がつきました──
「エピニーザ・スクルージ」

 「いやじゃ、いやじゃ。こんなはずはない。わしはこんな死に方をするものか。もう手遅れなのですか。今見たことはもう変えられないのですか」
スクルージさんはクリスマスの精の外套を引っぱって叫びました。
クリスマスの精の手が震えました。
「約束します、クリスマスのことを1年じゅう忘れずに心の中で思っています。あなたがた3人のクリスマスの精が教えてくれたことは、決して忘れません──過去、現在、未来のクリスマスの精よ。この墓碑名を書きかえさせてください」
彼がクリスマスの精にこう願うと、クリスマスの精は外套の中で何かに変っていきました、縮んで小さくなって、それはベッドの支柱になっていました。

〈神よ、我々みんなに祝福を!〉

スクルージさんは自分の寝室のベッドで目を覚しました! さあ、これから昔のことをつぐなうのです。
ベッドからはい出して、カーテンを開けました。ベッドのカーテンは、はずして売りとばされたりしていません! スクルージさんは泣いたり笑ったり大さわぎをしながら、服装をととのえました。
「メリークリスマス、みなさん。世界じゅうのみなさん、あけましておめでとう!」 と、スクルージさんは大きな声で言いました。

 そのとき、教会の鐘が鳴り響くのが聞こえました。ジャン、ジャン、ハンマー、ディン、ドン、ベル! 霧はすっかり晴れていました。金色の日の光がさすさわやかな朝でした。スクルージさんは窓をいっぱいに開けました。
下の通りにいた男の子に 「今日は何日だね」 と、彼は呼びかけました。

 「いつだって、今日はクリスマスにきまっているじゃないか」
あれから1日もたっていなかったのです。クリスマスの精たちは、たった一晩であれだけのことをスクルージさんに見せてくれたのでした、今日はまだクリスマスの朝なんです。スクルージさんはお金をとり出しました。
「すまないが、次の通りの肉屋へ行って、店で一番大きな七面鳥を買ってきてくれんかね。そうだ、一等賞のやつだぞ、届け先を言うから店の人にいっしょに来てもらってくれ──そうしたらお駄賃に半クラウンあげよう」
男の子は、わき目もふらずに通りを走っていきました。半クラウンというのは、当時としては大金だったのです。

 「ボブ・クラチットに贈ってやるんじゃ。わしの名は明かさずにおこう。ちびっ子のティムの2倍の大きさはあるな」 と言いながら、スクルージさんはほほえみました。
七面鳥の送り先を配達人に告げると、スクルージさんは玄関のノッカーをしげしげと眺めました。「なんと素朴な造りじゃろう。すばらしいノッカーじゃわい」 と、彼は言いました。
スクルージさんはひげをそり、一番良い服に着がえると町に出ました。
スクルージさんはみんなにほほえみかけ、クリスマスおめでとうと言いました、みんなもスクルージさんにクリスマスおめでとうと言いました。ふと見ると、貧しい人びとのために寄付を集めていたあのふとった紳士がいました。スクルージさんはその人に近寄ると、そっと耳うちしました。そのふとった紳士はびっくりしたような顔をしましたが、すぐにそれは喜びの表情に変りました。
「今まで未払いじゃった分もはいっているのですわい」 と、スクルージさんは言いました。

 それからスクルージさんは勇気を出して甥のフレッドの家へ行き、玄関のベルを鳴らしました。
「わしじゃ、おじのスクルージじゃ。ごちそうになりに来たぞ。入っていいかね、フレッド」

 もちろん、フレッドは喜んでスクルージさんをまねき入れました。そして、手がちぎれんばかりに握手をしました。パーティは、それは楽しく、スクルージさんもおおいに楽しみました──ゲームもしたし、ダンスもしました、そしてキャロルも歌いました。

 次の朝、スクルージさんは早く事務所に行きました。ボブ・クラチットが遅刻する場所をおさえてやろうと思ったのです。案の定、かわいそうなボブは、ばれないようにそっと事務所に入ろうとします。いつもより15分遅刻です。帽子とえり巻をとるといすにとび乗り、自分の生命がこの一事にかかっているといったふぜいでせっせとペンを走らせます。
スクルージさんは今までのこわい調子を出そうと努めながら、ボブに文句を言いました。
「こんな時間に出勤するなんてどういうつもりじゃ」 と、ボブに食ってかかります。
「申し訳ありません。1年に1回だけですから」 と、ボブは遠慮がちに答えました。
「わしはもうこれ以上こんなことは我慢できん」 スクルージさんはそう言って、ボブの横腹をこづきました──「そこでじゃ──」 そう言ってもう1回こずいたので、ボブは横の事務所へよろっと入ってしまい 「──そこで──おまえさんの給料を上げてやることにした」
ボブはスクルージさんがおかしくなったと思いました。彼は、木の長いものさしをさがしてまわりを見ました。
「クリスマスおめでとう、ボブ。今までおまえさんにあげたことのないようなすばらしいクリスマスプレゼントじゃよ、いろいろすまなかったのう。さあ、火をおこしなさい──これからはちゃんと暖かくしようじゃないか──もう1ぱい石炭を持ってきなさい。おまえさん一家のめんどうはこのわしがみてやるからのう、ティム坊やのこともわしにまかせておきなさい──昼からあったかいトッディーで乾杯といこうじやないか」 と、スクルージさんは言いました。

 スクルージさんは誠心誠意つくしました。この約束を実行し、それ以上のことをしました。小さなティム (ティムは死にませんでしたよ!) にとって、スクルージさんは、もう1人のお父さんでした。
スクルージさんは古きよき時代のロンドンの町で一番、いいえ世界で一番いい人、いいお友だち、いい雇い主になったのでした。
クリスマスの精は二度とあらわれませんでした。でも、スクルージさんは他の誰よりもクリスマスを祝う心を持っていると言われるようになりました。
私たちみんなもそうありたいものです。そしてちびっ子ティムが言いましたが 「私たちみんなに神様の祝福がありますように」


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