レディバードブックス100点セット
 

 

柳にそよぐ風

《1 川岸》

 モグラは午前中ずっと、自分の小さな家の春の大そうじで、とても忙しくしていました。彼の黒い毛には、白ペンキのしみがあちこちについていました。背中は痛いし、腕もだるくなっていました。
 外の世界はもう春でした。モグラには、新鮮な空気と日の光が、暗い地下の穴ぐらにいる彼に呼びかけているのがわかりました。
 不意に彼は、はけを放りだしました。
「チェッ、いまいましい!」と、彼は言いました。「どうにでもなれ!」とも言いました。「春の大そうじなんて腹が立つな!」彼は家から逃げだすと、入口の前の急でせまいトンネルをよじのぼっていきました。
 彼は始終「さあのぼるんだ! さあのぼるんだ!」とつぶやきながら、自分の小さな手で掘ってひっかいて、手さぐりで進んでいかなければなりませんでした。ついに――ポコン!――と鼻づらが日の光の中にとびだし、彼は広い牧草地の暖かい草の上に寝ころんでいました。

 「これはすてきだ!」彼はひとりごとを言いました。「ペンキ塗りよりいいや!」
彼はうれしそうに牧草地をとびまわりながら、生けがきのすきまのところにやってきました、そこで「うちの私道の使用料は6ペンス!」と言っている、かなり年配のウサギとすれちがいました。畑をわたると、突然川岸に出ました。
彼は今まで、川なんて見たこともありませんでした。水は、生きているものと動いているもの、ひらめきと輝きときらめき、そしてせせらぎと泡立ちとで満ちていました。モグラはうっとりして、そのそばを川に沿ってくたくたになるまで走っていきました。
 それから岸辺の草むらに腰をおろして、水の音を聞きました。彼が向う岸をながめると、黒い穴が目につきました。何か小さくて光るものがちらちらしていました。それはまばたきをし、モグラはそれが目だということに気づきました! それから小さな顔が現れました。

 ひげをはやした茶色い小さな顔。
 小さな、格好のよい耳と厚いすべすべの毛。
 それは水生ネズミでした!
 2匹の動物は立ちあがって、お互いに顔を見あわせました。
「こんにちは、モグラくん!」と、水生ネズミが言いました。
「こんにちは、ネズミさん!」と、モグラが言いました。
「こっちへ来ないかい?」
「どうやって行ったらいいんだい?」川でのやり方を知らないモグラは、そう言いました。
 ネズミはかがんで、綱をほどきました。彼は、ちょうど2人用の大きさの、青と白の小さなボートの向きを変えました。そして川をこいでわたっていくと、そーっと乗るようにモグラに手をさしのべてやりました。
 2人はすぐに仲よしになりました。ネズミは、モグラが今までにボートに乗ったことがないというのを聞いて、とてもおどろきました。
「ボートに乗って、ただぶらぶらするくらいいいものは、他にないんだぜ」彼はモグラに言いました。

 そのとき、彼にある考えがうかびました。「ねえ、もし午前中特に何もすることがないんだったら、いっしょに川を下って、1日じゅうずっと楽しもうじゃないか?」
「よし、すぐ行こう!」モグラはそう言うと、やわらかいクッションに幸せそうによりかかりました。
ネズミは、小枝で編んだピクニックバスケットを取ってきました。「これを君の足の下に押しこんでおいてくれないか!」
「何が入っているんだい?」
「コールドチキンだよ」ネズミは言いました「コールドタンコールドハムコールドビーフ酢づけタマネギサラダフランスパンカラシナサンドウィッチびんづめ肉ジンジャービールレモネード――」

 「わあ、もういいよ!」モグラは有頂天になって言いました。「あんまりたくさんすぎるよ」
「そうかい?」ネズミは、まじめな顔をして言いました。「こういったちょっとした遠足に、いつもぼくが持っていくようなものなんだけどね」
ネズミは静かに川を下り、モグラは新しい景色や匂いや音に感じ入り、手をぼんやりと水の中で流していました。水生ネズミは、友だちの喜ぶのを見て楽しみました、そして、なぜ自分がそんなに川のことを気に入っているかを説明しました。
「これがぼくの世界で、他のものはいらないんだ」
「でも、ときにはちょっと退屈じゃない?」 モグラはききました。「君と川だけで、他に誰もいないなんて?」
「誰もいない! 冗談だろう! みんないっぱいいるさ――ときには多すぎるくらいにね――カワウソ、赤雷鳥、カモとかいろいろ、1日じゅういるんだ!」「あそこにあるのは何?」とモグラは、畑の向うに見える森の暗い影の方に手をひらひらさせながらききました。

 「ああ、あれはただの自然林さ。ぼくたちはあまりあそこへは行かないんだ、ぼくたち、川の住人はね」
「あの人たちは――あそこにはあんまりいい人はいないの?」モグラはイライラ気味でききました。
「うーん――リスはまあまあだな。ウサギは得体の知れない連中だし。アナグマはいいよ。誰も彼の邪魔はしないんだ。彼らは邪魔しない方がいいんだ!」
「なぜ、誰がアナグマの邪魔をするんだい?」モグラは聞きました。
「他にもいろいろいるのさ――イタチやテンやキツネやいろいろ。ある意味ではいいやつらなんだけど。でも信用はできないよ、それだけは受けあいだ」
「それから、また自然林のことだけで、あの向うにあるのは? 真青で暗くて丘のあるところで――町からげむりのようなものが出ているところだよ」
「自然林の向うは広い世界なんだ。あれは、ぼくや君には関係のないところさ」と、ネズミは言いました。

 こうして2人は、ピクニックのお弁当を食べはじめました、モグラは、朝ごはんからだいぶたっていたので、おなかいっぱいつめこみました。
 2人が食べていると、川岸の住人2人に出会いました。1人は魚をつかまえに水にもぐっていたカワウソでした。彼は岸に上がって体をブルブル震わせると、2人と一言二言、話していきました。ひげには、水のしずくが光っていました。
 もう1人は、しましまの頭を、突然とげだらけの生けがきから突きだしたアナグマ氏でした。彼は「エヘン! お客さんか!」と、ぶつぶつ言いながら行ってしまいました。

 カワウソが言うには、ヒキガエル氏も川にいたそうです。突然、彼が真新しい競争用の小舟に乗ってさっと通りすぎていきました。彼は背が低く太っていて、水をひどくはねあげ、小舟をふらふら横に揺らせていました。
「やつは絶対、ボートをうまくこげるようにはならんよ」ネズミが言いました。
「まだ十分安定していないよ」カワウソはそう言うと、魚の後を追って急に消えてしまいました。彼の後には、水面の一筋の泡だけが残っていました。
「ヒキガエルのやつは、いつも新しいものに挑戦しているんだ」ネズミは説明しました。「去年は、屋形船を持っていたんだぜ。でもすぐに飽きてしまうんだ」
 ネズミとモグラは、川岸にあるネズミの居心地のよい家にもどり、あかあかとした火のそばのひじかけいすに腰かけて、さかんにおしゃべりしていました。ネズミはモグラに、残りの夏をいっしょにここで過さないかと誘いました。喜んだモグラは、気持のいい寝室で眠りました。彼の新しい友だちとなった川は、岸にチャプチャプと打ちよせていました、そして彼には、柳にささやいている風の音が聞こえました。

《2 広い道》

 次の日、ネズミはモグラをヒキガエル氏のところに連れていきました、ヒキガエル氏は、近くのヒキガエルホールと呼ばれる立派な古めかしい家に住んでいました。その家は、やわらかな赤色のレンガでできていて、川まで続いている芝生がありました。ヒキガエルは割とお金持ちでしたが、あまり賢明な生きものではありませんでした。ネズミとアナグマがいつも気をつけていてやらなければなりませんでした。ヒキガエルは気はよかったのですが、見せびらかす癖があり、それでいつもごたごたに巻きこまれていたのです。
2人は、ヒキガエルが庭のデッキチェアーに腰かけて、道路地図を見ているのをみつけました。彼は、車体が明るい黄色で、車輪が緑色のジプシーのほろ馬車を買ったのです。それを引く年老いた灰色の馬もいました。ヒキガエルは最初の旅の計画をたてていて、モグラとネズミにいっしょに行こうと説得しました。

 ヒキガエルは、広い道路――その自由さと新鮮な空気に大喜びで、そこらじゅうを飛びまわっていました。「今日はここにいるけど、明日は違うどこかにいるんだ! でこぼこの草原を越えてね!」 彼は興奮して叫びました。
 3人は出発しました、ところが、そう遠く行かないうちに災難がふりかかってきたのです!
 3人は田舎道を、馬を引いてとても幸せそうに歩いていたのでした。すると突然、大きくブーッ! ブーッ! という音が聞こえてきました。
厚板ガラスとクロムでできた大きな自動車が、目を開けていられないような砂ぼこりをあげて、さっと通りすぎていきました。そして、それはすぐに走り去って、遠くの方の点になってしまいました.
 かわいそうな馬はおびえて、急にかけだしました。ほろ馬車はひっくり返ってみぞに落ちました。窓は粉々になり、車輪も1つとれてしまいました。

 ネズミとモグラは、かんかんになっていました。「この乱暴者め!」 2人はこぶしを振りまわしながら怒鳴りました。ところが、ヒキガニルはボーッとした目をして、ほこりの中にすわったまま 「ブーッ! ブーッ!」 と、つぶやいていたのです。もう、こわれたほろ馬車のことなどおかまいなしでした。彼はすでに、自動車を運転したらどんなにすてきだろうと考えていたのです。
次の日、川岸では、みんな最新のニュースを話しあっていました。
「聞いたかい? ヒキガエルは、けさ早く汽車でロンドンへ行ったんだって。
そして注文してきたんだ――何をだと思う?――大きくてとても高い自動車だとさ!」

《3 自然林》

 長くて暑い夏がやっと終りました。今はもう冬でした。モグラはまだ、川岸でネズミといっしょにいました。
 ある寒い日の午後、モグラは自然林に行ってアナグマ氏を訪ねることにしました。アナグマはネズミの友だちの中でただ1人、モグラがちゃんと会ったことのない人だったのです、それはアナグマがあまり社交的ではなかったからです。冬の間、たいていの動物たちは、活動的な夏の後なので家にいて休んでいました。ある者はほとんど眠りっぱなしで、そういう連中に何かしてもらうよう説得するのは無理なことなのです。

 だから、もしアナグマ氏に会いたかったら、こちらから訪ねていかなくてはならないことが、モグラにはわかっていたのです。
彼はネズミの暖かい居間を抜けだして、戸外へ出ました。空は銀のように冷たく、きびしいようすをしていました。田舎はがらんとしていました。モグラの足もとで、小枝がパキパキ鳴っていました。木々はみにくく腰が曲がったような形になっていました。日の光が薄くなってきました。モグラはだんだんこわくなってきたのです。
 そのときたくさんの頭――小さくて悪魔みたいでくさび形をした顔、顔、顔が穴からのぞきはじめ、そしてまた消えていきました。モグラは同じ歩調で歩きながらあたりを見まわして、どの穴にも顔があるのを見ました、どの顔も、邪悪なするどい目つきで彼をじっと見ていました。

 それから口笛が始まりました。とてもかすかなそしてかん高い口笛が、うしろで、そして前でも聞こえていました。モグラは1人ぽっちで、助けてもらうなどおよびもつきませんでした、しかも、夜が近づいてきたのです。
 そのとき、パタパタという足音が響きはじめました。彼を追ってくる小さな足が、落葉の中をカサカサと抜けていきました。彼は走りだし、あちこち木にぶつかりはじめました。
 一方、ネズミはモグラが家にいないのに気づきました。彼は外で、自然林に向かっているモグラの足跡をみつけました。そして、じょうぶな棒をつかむと、すばやい足どりで彼のあとを追いに出かけました。やっと彼はモグラを、古いブナの木の穴の中にみつけたのです、モグラは体じゅう震えていて、友だちが来たのを見て大喜びしました。
 そしてその後、雪がひっきりなしに降りだしました。すぐに地面は白いカーペットでおおわれ、道も道標もみんなわからなくなってしまいました。

17ページ
 ネズミとモグラは自然林の中を苦心して進みました。そのときモグラが、何か硬い物につまずいて足を切ってしまいました。それは、玄関の靴ぬぐいでした。
「靴ぬぐいがあるところには玄関があるはずだ!」ネズミは賢くもそう言いました。掘ってみると、ドアマットがみつかり、続いてとてもがっしりした玄関口をみつけたのです、戸口には「アナグマ氏」と書かれた真ちゅうの板と、古風なベルの引き綱がありました。2人はそれを引っぱりました。
ベルがずっと下の方で、ガチャガチャ響いているのが聞こえました。アナグマは古びたスリッパをはいて、厚ぼったい部屋着を着て、戸口のところに来るまで少し時間がかかりました。彼は初め、邪魔されたことに少し不機嫌でしたが、2人を火の燃えた台所へ迎え入れてくれました。

 大きなスモークハムと丸まるとした茶色いタマネギが、頭の上で垂木(たるき)にぶら下がっていました。アナグマは2人においしい夕食をふるまい、それから3人はそばにすわって、ヒキガエルについて、また彼が自動車に夢中なことなどをおしゃべりしました。冬が終ったらそれを何とかしなけりゃならんな、とアナグマは言いました。
 朝には、みんなでおかゆを朝食に食べました、学校に行く途中で迷ってしまった、2匹のハリネズミの子どももいっしょでした。アナグマは、彼のすみかから外に通じる、すべての裏口を見せてくれました、それはトンネルの迷路を通って、森のはずれに続いていたのです。
 振り返ったとき、モグラとネズミは雪を背景にした黒くて、おどすような気味の悪い自然林を見ました、そして急いで家に帰っていきました、ふたたび、安全で親しみのある川岸へ。

《4 懐かしのわが家》

 そろそろクリスマスの時期でした。モグラとネズミは田舎を探険に出かけていました。2人が田舎の村を通りすぎたときは、もうあたりは暗くなりはじめていました。火のあかりや、ランプのあかりが、四角い窓ガラスを通して、暗い外の世界を照らしていました。2人には、子どもたちが寝かしつけられるのや、男の人がくすぶる丸太のはしっこでパイプをたたいて灰を落しているのが見えましたし、ある1つの窓には、自分の羽毛にくるまった眠そうな鳥のいるかごの影が映っていました。2人は疲れた足で、寒さと心細さを感じていました、そして家路ははるかでした。
 2匹の動物は畑をとぼとぼと渡っていきました。モグラは地面に岸をつけたまま、ネズミの後を歩いていました。彼がくんくんかいでいると、何か電気ショックのようにチクリとするものを感じました。動物というのは、人間が決して感じることのない匂いから信号を感じることができるのです。この特別な匂いは、モグラにとって「わが家」を意味していたのです。
彼は新しい生活の興奮のうちに、自分の小さな家のことを忘れてしまっていたのです。でも今、すべてがよみがえり、彼はネズミに立ち止まってくれるよう呼びかけました。

 ところがネズミには聞こえなくて、「おーい、早く来いよ、モグラ君! 遅れるなよ! まだ先は長いんだぞ」と、彼は叫んでいました。
 かわいそうなモグラは道に突っ立っていました。彼はたまらなくその匂いをたどっていきたかったのですが、友だちを放っておくわけにはいきません。彼は苦労して、ゆっくりと歩きだしました。
 少ししてネズミには、友だちがひどく静かで、足を引きずりながら歩いているのに気づきました。そのとき彼は、鼻をすする音とつまるようなむせび泣きを聞いて、それですべてがわかってしまいました。
「ただのみすぼらしい、小さいところだってことはわかっているんだ」 モグラは手を目に当てて泣きました 「君の居心地のいい家や、ヒキガエルホールとは違うってことはわかっているんだ。でもぼく自身の家だったし、気に入っていたんだ」
 ネズミは彼の肩を軽くたたきました。「ぼくはなんて自分勝手な、がんこ者だったんだろう」彼はそう思いました。そしてモグラの向きを変えると、2人は匂いをかぎとりに、もと来たところへ引き返しました。
 何度か出だしを失敗した後、やっとモグラはみぞを越えて、生けがきを通りぬけ、トンネルにとびこみました。そのつきあたりには小さな玄関口があって「モグラの居場所」と書かれていました。モグラがカンテラをつけると、こぎれいな前庭に庭いす、シダのつりかご、そしてビクトリア女王のせっこうの胸像が置いてあるのが見えました。

 そこには、ベンチやテーブルのついた九柱戯(木製の円盤を投げて9本の柱を倒す英国の遊び)場や、とり貝のからでふちどられた金魚の池もありました。
 中にあるものはみんなほこりをかぶっていて、ちょっとみすぼらしい感じでした。モグラは友だちをこんなところに連れてきたのを恥じて、また泣きだしました。でもネズミはあちこちへ走りまわり、ランプやろうそくをつけて、部屋と食器だなを調べました。モグラがそうじ道具を使って忙しくしている間に、火をおこしました。
「なんてすばらしい小さなおうちなんだ!」ネズミは楽しそうに叫びました。「こぢんまりとして、よく考えて作ってあるよ!」
「でも夕食に何もないんだよ!」モグラは声をあげて泣きました。

 「ばかな」ネズミは言いました。「イワシのかんづめ用缶切りをみつけたから、どこかにイワシがあるはずだ」 彼らはビスケットも少しみつけて、ちょうどイワシを開けようとしたとき、前庭のところで足を引きずって歩くような音がし、せきをしたり、かわいい声でクチャクチャ言っているのが聞こえました。
「あれは何だい?」ネズミが聞きました。
「きっとノネズミたちだ」モグラが答えました。「彼らはこの時期になると、あちこちへ行って喜びの歌をうたうんだ」
 ドアを開けると、そこにはカンテラの灯の下に、8匹から10匹ほどのノネズミが半円になって立っていました。

 みんな赤いニットのえりまきを首にまいて、足を暖めるため、上下に跳びはねていました。
「いち、にの、さん!」と、一番年上のノネズミが言うと、彼らのかん高くてかわいらしい声は、昔からの喜びの歌になっていきました、それはべツレヘム(キリスト生誕の地)の鳥小屋にいる動物たちの歌でした。
「クリスマスと最初に叫んだのは誰でしょう?
 そこに居あわせた動物たちみんなでしょう、
 みんなが住んでいる馬小屋の中
 朝には喜びがみんなのものになるでしょう!」

 彼らがちょうど歌い終ったとき、遠くの教会の鐘がトンネルまで流れてきました。
モグラとネズミは小さな歌い手たちを中に迎え入れ、ネズミはそのうちの1人に、かごとお金を持たせて食べものを買いにいかせました。他のネズミたちは火のそばのベンチに腰かけてしもやけを暖め、暖かいパンチを飲んでいました。使いの子がもどると、みんなすばらしい夕食を食べました。
彼らはぺチャクチャとしゃべりながら、家族へのプレゼントを持って、ようやく家に帰っていきました。モグラとネズミは、手ごろな寝台の中にもぐりこんで寝ました。目を閉じる前にモグラは、火に照らされている懐かしい部屋をうれしそうにながめました。
 彼の友だちの優しさのおかげで、懐かしい自分の家でのモグラの喜びがもどったのです。「誰でも、もどってこれるような自分の家が必要なんだな」彼は眠りにつく前に、うとうとと、そう考えていました。

《5 ヒキガエル氏》

 初夏のあるまばゆい朝、アナグマは、ネズミとモグラを訪ねるという約束を守ってやってきました。
「そうそうヒキガニルのやつをどうにかしないとな」彼はぶつぶつ言いました。「あいつは近所のつらよごしだ。私の古くからの友人、やつの父親なんだが、彼がやつのおこないを見たら何と言っただろうかなど、考えるのもいやだ。やつの自動車熱は、警察ともいざこぎを起してるんだ」
「そうなんだ。もう5、6回ぶつかってるんだよ」ネズミが相づちを打ちました。「今週、また新しい車を注文したそうだ」
 3人はヒキガエルホールに向かいました。案のじょう玄関のところに、ピカピカの真新しい、明るい赤色をした自動車が置いてあったのです。ヒキガエル氏は、ゴーグル(ちりよけのついた眼鏡)−帽子、深靴、そして大きなオーバーコートなどで身をかため、皮の大きな運転用手袋をはめながら、階段をいばっておりてきました。

 「やあきみたち、楽しいひと走りにちょうどいいところに来たね!」彼は陽気に呼びかけました。
「おっと、そうはいかんのだよ!」アナグマは荒々しく言うと、彼のえり首をつかんで家に連れもどしました。モグラとネズミは彼のこっけいな自動車用の上着をはぎとり、アナグマはたっぷりとお説教しました。
 ヒキガエルが車の運転をやめるという約束をしようとしなかったので、3人は考えなおさせるため、寝室に閉じこめてしまいました。

 ところがずる賢いヒキガエルは具合の悪いふりをし、みんなが医者を呼びにいっている間に窓からとびだして、村の方へとびはねていきました、自分の賢さに高笑いし「ブーッ! ブーッ!」 とつぶやきながら。
 ある宿屋の庭で彼は、すばらしい自動車をみつけました、その持主は、中で昼食をとっているところだったのです。ヒキガエルは試してみたくてもう我慢できませんでした。そして始動ハンドルを回すと、車のうしろにとびのって、白いほこりの中を走り去りました。
飛ぶように走りながら、彼は自分がいかに利口かという、ちょっとした歌をうたいました。

 ヒキガエルが次に現れたときには、びっこを引いて、治安判事の法廷の被告席についているみじめな囚人となっていました。
 彼は、危険な運転、自動車泥棒、そして一番悪い、警察に生意気な口をきいた罪で告発されたのでした。治安判事は事態を重くみて、彼に20年の禁固刑を言いわたしました。
 哀れなヒキガエルは手錠をかけられて、広場をわたって古いお城まで連れていかれました、お城には高い塔と不気味なとりでがあって、兵士たちと番人によって見張られていました。彼はアーチ門を通り、中庭を通って引立てられました、中庭では、大きな警察犬が、つないである鎖を引っぱっていました。それから石のらせん階段をおりていって、途中、拷問部屋や親指ねじしめ器のある部屋をすぎ、一番下の地下室にやってきました。びょうを打った重いとびらの前には、鍵がたくさんついた束を持った、古くからの看守がすわっていました。
 ヒキガエルは、絶対にここから出ることは望めないのです、イギリスじゅうで一番見張りのきびしい刑務所でしたから。
 不幸なヒキガエルは、自分がなんてばかな動物であったのかに気づきました。
「みんなの尊敬する、人気者で賢いヒキガエル氏はいったいどうなってしまったんだろう?」彼はすすり泣きました。「わあ、哀れな動物よ、当然の報いを受けたのだ!」
 彼は食べものをすべて受けつけず、ベッドにふぬけたように横たわっていました、彼のたるんだほおには大つぶの涙が流れていました。

《6 ヒキガエルの脱出》

 看守の娘は、動物好きのやさしい少女でした。彼女はヒキガエルを気の毒に思い、バターをぬった暖かいトーストを少し食べるようにやさしく説得して、ヒキガエルホールのことを話してくれるよう頼みました。すぐにヒキガエルは少し元気を取りもどし、得意になって自分の家や財産のことを自慢しはじめました。
彼のうぬぼれにもかかわらず、少女は彼のことをかわいそうに思いました。動物が閉じこめられているのを見るのがいやだったのです。そこで彼女は、彼の脱走を助ける計画を考えました。彼は、彼女のおばさんの服を着るのです。
 彼女のおばさんは洗たく女で、お城に週1回やってきていました。彼女は背が低くて太っていました(まるでヒキガエルみたいに!)。そして、長い綿のドレスに、ショールと古くさいブルーのボンネットを身につけて、洗たく物でいっぱいのかごを持っていました。ヒキガエルは、貧しいおばあさんの格好をするのにあまり気乗りしませんでしたが、結局、少女にお金をいくらか払って、彼女を縛りあげることに賛成しました、そうすれば、彼を助けたというごたごたに巻きこまれないからです。
 看守の娘は、ヒキガエルのあごにボンネットのひもを結んでやりながらくすくす笑いました。
「本当におばさんそっくりだわ!」と笑いました。(ヒキガエルが腹立たしいほどに)。「さようなら、それから幸運を祈るわ! 見張り番と口をきくときは気をつけてね!」

 ヒキガエルが出ていくとき、少しはらはらした瞬間もありました、特に、見張り番が失礼なことを言ったときです。でもヒキガエルは、そのものになりきっていました、自分を俳優だと思いこんでいたからです。まもなく彼は刑務所の門をくぐり抜けて、日の光の中に出て、とうとう自由になったのでした。

 彼は鉄道の駅に向かい、切符を買おうという段になって、お金を全部入れたチョッキを独房においてきてしまったことに気づきました。さあ、どうすればいいのでしょう? そのとき、彼は機関士をみつけました、彼はひとつかみの綿くずで蒸気機関をみがいていました。
「ああ、だんなさま」彼は泣きだしました「私は財布をなくしてしまった哀れな洗たく女なんです。どうやって家に帰ったらいいんでしょう? 私の小さい子どもたちは、私がいなくてどうしたらいいんでしょう?」
 やさしい機関士は「こうしよう、奥さん、機関士の立つところに乗せて、連れていってあげるから、家に着いたらおれのシャツを何枚か洗ってくれたらいいよ」
 ヒキガエルは喜んで受け入れ、ニンジンの上にとび乗りました。汽車は蒸気を吹きだすと出発しました。まもなく汽車は、白い煙を残し汽笛をならしながら地響きをたてて、線路を走っていきました。
 不意に、機関士が振り返りました。「別の汽車がおれたちを追いかけてきてるぞ!」 彼は叫びました。「人がいっぱい乗ってるよ――警棒を持った警官に、山高幅と傘を持った私服刑事、それからこん棒を持った刑務所の見張り番――みんな、止まれ! 止まれ! 止まれ! と叫んでいるぞ」
 ヒキガニルは石炭の中にひざまずいて、助けを求めました。「私は洗たく女ではないんです」 彼は白状しました。「私はかの有名な、大胆きわまる犯罪者のヒキガエル氏なんです。お願いです、私を助けてください」

 機関士は、動物が迫害されるのを見るのがきらいでした。「心配しなさんな、助けてあげるよ」 彼は言いました。「このトンネルを通り抜けたら少し速度を落すから、おまえさんはとびおりて森に隠れるんだ」
 彼らはスピードをあげるために、もっとたくさん石炭をくべました、地響きをたててトンネルを抜けるとき、火花がとびちりました。それから、汽車は速度を落しました。ヒキガエルはとびおり、土手をころがって森の中へ入っていきました。彼は、武器を振りまわして「止まれ!」と怒鳴っている警官や見張り番をたくさん乗せた、もう1台の汽車が疾走していくのを見て笑いました。
 それから古い木をみつけて、木の葉のベッドに横たわり、朝まで待ちました。

《7 パンの笛》

 一方、川岸ではみんな心配していました。カワウソの子どもが家からいなくなってしまったのです。今までに、こんなに長いこと家に帰らなかったことはありませんでした。捜索隊が探しにでかけたのですが、どこにもみつかりませんでした。
モグラとネズミはとても気が動転していました。
「カワウソは、浅瀬のほとりで探しているよ」と、ネズミが言いました。「あそこは、彼が子どもに泳ぎを教えた場所なんだ。あそこは、かわいいポートレーのお気に入りの場所だったからね。カワウソは、もしかしたら子どもがあそこに帰ってくるんじゃないかと思っているんだ。一晩じゅう待っていたんだぜ」
 そろそろ夜が明けるころになって、モグラが言いました「行こう、ネズミ君、彼のことを考えると眠れないんだ。ぼくたちも探そうよ」
 こうして2人はボートに乗り、日がのぼって鳥たちがさえずりだす中を、静かに川を上っていきました。何もかも新しく、緑の香りがしました。
 2人は、今までに来たこともないような上流まで上り、小さな島にやってきました。
「聞いてごらん!」ネズミがオールを船にしまいながら言いました。「音楽が聞こえるかい?」モグラは近くまでこぎました。彼には何も聞こえませんでした。ネズミの目はきらきら光っていました。彼はまるで魔法にでもかかったように、うっとりと夢をみているようでした。

 「もっと近づこう!」ネズミは言いました。2人は船をつなぐと、アシの茂みを抜けて草の生えている土手へ向かいました。もうモグラにも音楽が聞こえていました。
 それは、とても澄んだ高い笛の音でした。その笛の音は2人を、木々の下の小さな空地に導いていくようでした。2人はまるで神聖な場所にいるような感じを受けました。
 そのとき、パン(ギリシア神話に出てくる牧神)の笛を手にした、すべての動物の守り神が木の下にすわっているのを見たのです。2人は、彼の角、強くやさしい顔、茶色い胸に、毛深いやぎの手足を見ました。彼のひづめの間には、赤ちゃんカワウソのずんぐりした子どもらしい体が気持よさそうに寝ていました.
 少しの間、2人はこの光景を見て、音楽を聞いていました。すると突然、それは消えてしまい、空地には何もかもなくなっていました。赤ちゃんカワウソは目を覚し、泣きながら、いなくなってしまった友だちを空地で探しました。
モグラとネズミは、カワウソが辛抱強く待っている浅瀬にポートレーを連れて帰りました。少し離れたところで2人は、幸せな再会を見ていました。それから、その日、2人に何かとても特別なことが起きたことを不思議に思い、それをたしかに何かあったと感じながら家に帰りました。しかし、それを思いだすことはできませんでした。

《8 さらにヒキガエルの冒険》

 ヒキガエルはだんだん家に近づいていました――彼はまだ洗たく女の変装をしていたのです。(今ではもう着ふるしていましたけど)。少しして彼は、運河に沿って走っている、引き船道にやってきました。年老いた馬が、派手にペンキを塗った屋形船を引っぱって、とぼとぼ歩いていました。その中には大きくて太った女の人が、かじの柄にそのたくましい腕をかけて、すわっていました。
 ヒキガエルは、乗せてもらうチャンスだと思い、財布をなくしてしまい、子どもたちのもとへ帰らなければならない、という筋書きを話しました。
「もし私のよごれ物を洗ってくれたら、ヒキガエルホールまで乗せていってあげよう」と、屋形船のおかみさんは交渉しました。ヒキガエルは、自分がどんなにうまい洗たく女であるか自慢していたのでした!

38ページ
 屋形船のおかみさんは山のような洗たくものと、石けんと、大きなおけに入ったきれいな水を渡しました。ヒキガエルは、どう取りかかったらいいかまったくわかりませんでした。まもなく彼は、ハアハアとあえぎながら、打ったりこすったりしていましたが、服はちっともきれいになりませんでした。
 屋形船のおかみさんは近よって、彼をよく見ました。
「おまえは洗たく女じゃないね!」と、彼女は金切り声をあげました。「おまえは汚くてみにくいヒキガエルだ――私のきれいな船から出ていけ!」
 ヒキガエルはあまりに腹が立ったので、船からとびおりると引き綱をほどいて、おかみさんがこぶしを振りまわしているのを尻目に、馬に乗って走っていきました。
 彼は馬を全速力で走らせながら、自分はなんて賢いんだろうと考えていました。そのころになると、彼はおなかがすいてきていました、そして、生けがきを通りすぎたとき、最高においしそうな匂いが漂ってきたのです。ジプシーが火にかけた鉄なべで、ウサギとキジとタマネギのシチューを作っていたのです。急いでヒキガエルは取引をしました。彼は、2、3ペニーとシチュー一杯のかわりに馬を渡しました。
 彼は、もとの自分にもどったような気がして、自分の冒険について自慢だらけの歌を作りはじめました。
 「世界には偉大な英雄がたくさんいた、
  歴史の書物が示すように、
  でもヒキガエル氏に匹敵するほどの
  名誉を持った者はかっていなかった――」
彼がこう歌っていると、聞きなれた音が間えてきました。

 国道に沿って、1台の自動車がやってきました、しかもそれは、ヒキガエルが盗んだあの自動車だったのです!
 ヒキガエルが気絶したふりをしていると、車が止まりました。乗客たちは彼を哀れな洗たく女と思いこみ、前の席にすわらせました、そこなら新鮮な空気が彼を元気づけるだろうと思ったのです。すぐにヒキガエルは元気を取りもどして、嘆願しはじめました。
「私はいつも、自動車を運転できるかどうか試してみたかったんです。お願いですから、やらせてください!」と、彼は強く望んで言いました。
 乗客たちは、つつましやかな洗たく女が運転したがっているのを聞いて、たいへんおもしろがりました。「やらせておあげなさいよ!」 みんなは運転手に言いました。

 ヒキガエルは車を走らせました、最初はゆっくりでしたが、だんだんスピードをあげていきました!
「気をつけて、洗たく屋のおかみさん!」みんなはそう叫びました。
「ぼくは洗たく屋のおかみなんかじゃないぞう! ぼくはあの偉大で有名なヒキガエルだ!」そう言うと彼はもっとスピードを出して、乗客をこわがらせ、ついに曲がり角を遠く走りすぎて、まっすぐ池につっこんでしまいました。
彼はとびだすと、彼の自慢の歌の別の一節を歌いながら、畑へとんでいきました、腰まで泥水につかって立ちつくしたままの乗客を残して。
 「オックスフォードのお偉方
  知るべきことは何でも知っている
  でも賢いヒキガエル氏の半分も
  ものを知っている人はいないのさ!」
ところが彼が振り返ると、運転手と2人の警官が追ってきたのが見えました。

 哀れなヒキガエルは、あえぎながら走りました。彼はとても太っていたので、すぐにみんなが追ってきました。あんなに見せびらかすなんて、なんてばかだったんでしょう! 突然、彼はつまずきました。彼は川岸に来ていて――ポチャン!――と水の中に落ちたのです。
 あえぎながら泳いで、岸辺の穴までやってきました。彼は川べりにしがみつくと、中をのぞきました。
小さな明るいものが光って、彼の方へやってきました。顔がそのまわりに現れました。
ひげを生やした茶色い小さな顔。
格好のよい耳とつつしみ深くて丸い顔。
 それは水生ネズミでした!

《9 ヒキガエルホールの戦い》

 ヒキガエルがすっかり乾かされ、ネズミの服をあたえられると、ネズミは、彼のいない間に何が起ったかを話しました。
 自然林の住人たちがヒキガエルホールを取りあげてしまったのでした。
イタチや白イタチ、そしてテンがそこに住んで、ヒキガエルの食べものを食べたり、飲みものを飲んだりして、やつはもう帰ってこないとみんなに言いふらしていました。
 ヒキガエルはすぐに行って、やつらを追いだすかまえでした。が、ネズミの説明によると、彼らは武装した見張り番を置いていて、どの入口も監視されているということなのです。彼とアナグマとモグラは、ホールを毎日見まわったのですが、入れるところはありませんでした。
 そのとき、2匹のくたびれてみすぼらしい動物が入ってきました。アナグマの服は泥で汚れていました。
 彼は重々しく「おかえりヒキガエル、ああ、私は何を言っているんだ? これ,は悲しい帰宅だよ。不幸なヒキガエル」と言いました。そしてすわりこむと、コールドパイをひときれ切りました。
 しかし、毛に干草やわらくずをいっぱいつけたモグラは、ヒキガエルのまわりをうれしそうに踊りまわり、「抜けだしてきたんだね! ああ、賢いヒキガエル!」と言いました。

 この言葉で、ヒキガエルは自分の冒険を余すところなく話し、感心しているモグラに自慢しだしました。
「モグラ君、彼をおだてちゃだめだよ」ネズミが言いました。「これからどうしたらいいか考えなくては」
 彼らは一度に話しはじめ、アナグマにたしなめられました。
「静かに、みんな」彼は怒って言いました。彼はパイを食べ終り、また話しはじめる前にチーズをひときれ食べました。
「ヒキガエル、おまえはどうしようもないやっかいな生きものだ! 恥しいと思わんのかね? おまえのお父さんは、私の友人だが、もしおまえのおこないを知ったら何と言っただろうね?」
 ヒキガエルは長いすに顔をふせて、泣きだしました。
「もう心配するな!」アナグマは言いました。「過去のことは水に流そう。ヒキガエルホールを取りもどす私の計画を話したいんだ。地下の通路があるのさ――」 そしてアナグマは、自分の計画のあらましを、熱心に聞いている者たちに話しました。
 その秘密の通路は、ヒキガエルホールの中の、大宴会場の隣にある食器室に出るのでした。その晩、イタチの親分の誕生パーティがあることになっていました。地面の中で、外に立っているわずかな見張り番を除けば、全員が宴会場で楽しんでいるはずです。
 アナグマとその仲間たちはすきなく武装して、トンネルの中を忍びよっていき、ホールの中にとびだして、自然林の住人たちの不意をおそうのです。
 アナグマは、武器を大量に持っていました、そしてネズミはそれを、4つの山に小分けしました。彼は武器の山から山へ走りまわりながら「これがネズミの刀、これがモグラの刀、これがヒキガエルの刀、これがアナグマの刀! これがネズミのピストル、これがモグラのピストル――」などと、忙しそうにぶつぶつ言いました、そして武器が全部えりわけられるまで続けました。
 それから彼らは、焼き豆とマカロニチーズの夕食をとりました。暗くなると、ベルトやピストルや刀を身につけ、秘密の通路を進んでいきました。アナグマが太い様を振りまわしながら先頭を行きました。

 一行は暗闇の中で、しょっちゅう立ち止まって何回もお互いにぶつかりあいました。これが一番最後にいたヒキガエルをひどくおどろかせました。でも、まもなく一行は、頭の上に宴会の騒ぎを聞きました――小さな足を踏みならす音や、グラスのカチャカチャなる音、そして喝采。
「さあ、みんな、いっせいに!」とアナグマが言い、一行は上げぶたを持ちあげました。食器室に上がると、イタチの親分が感謝の演説をしているのが聞こえました。
「私は、親切な主人、ヒキガエル氏について一言述べたいと思う」彼はくすくす笑いました。「善良なヒキガエル! 謙遜なヒキガエル! 正直者のヒキガエル!」
 みんな笑いました。「彼のもてなしのお返しに、私はちょっとした彼の歌を作った!」

 それからイタチの親分は、とても失礼な歌をうたいはじめました、自動車のこととか、刑務所のことなどを、彼の小さなキーキー声を張りあげて。
「ぼくにやつをやらせてくれ!」ヒキガニルは言いました。
「今だ!」アナグマが叫び、一行は、武器で激しく打ちまくりながら大宴会場になだれこみました。
 おやまあ!
 どれほどのキーキー声や悲鳴や金切り声がそこらじゅうに満ちあふれたことでしょう!

 恐れをなしたイタチどもは、テーブルの下にもぐりこみました。白イタチどもは大あわてで暖炉に走り、煙突につまって、どうしようもなくなってしまいました。
力の強いアナグマは棒で戦いました。モグラは「モグラだ! モグラだ!」と、恐ろしいときの声を張りあげました。ネズミはピストルを振りまわしました。いつもの2倍にふくれあがったヒキガエルは、まっすぐイタチの親分に向かっていきました。彼らはたった4人でしたが、自然林の住人たちにとっては軍隊のように思えたのです。
 とうとう部屋はきれいに誰もいなくなり、イタチどもはみんなキーキーなきながら自然林に帰っていきました、ただ、モグラは何人かにほうきとエプロンを渡して、ホールをかたづけさせるために残しておきましたけれど。

《10 放浪者のお帰り》

 次の日、ヒキガエルは帰宅を祝って、友だちや近所の人たちために宴会を開きたいと思いました。彼は午前中ずっと、プログラムを作りました、プログラムは、いろいろな歌(ヒキガエルによる)や、「我々の刑務所のシステム」とか「馬の扱い方」といったようなテーマの演説(ヒキガエルによる)でいっぱいでした。
友だちはこれを見ると、自分たちは彼のことをどう思っているか彼に話しました。「新しいプログラムを作らなければだめだよ、ヒキガエル」彼らは言いました。「そして、見せびらかすのはやめろ!」
「演説はなし?」
「演説はなし!」
「歌はだめ?」
「歌は一つもだめ!」

 かわいそうなヒキガエル! 彼は、改心すると約束させられました。でも2階の自分の寝室で、鏡を見ながら彼は自分をほめたたえて、最後のちょっとした歌をうたいました。その歌は「ヒキガエルが家にもどったとき」というものでした。
  「ヒキガエルが家にもどった!
   客間では混乱が、宴会場ではわめく声がおこった、 
牛舎ではなき声が、畜舎では叫び声がおこった、
ヒキガエルが家にもどったとき!

ヒキガエルが家にもどったとき!
窓は打ちこわされ、ドアはくずれ落ちた、
イタチは追いまわされ、床に倒れた、
ヒキガエルが家にもどったとき!

ドーン! 太鼓がなる!
トランペットがプープーなって、兵士は敬礼する、
大砲をならし、自動車の警笛がブーブーなる、
英雄がやってくるとき!

叫べ――万歳!
群衆一人ひとりに、高らかに万歳を叫ばせろ、
みんなが当然誇りに思っている動物に敬意を表して、
それはヒキガエルの最高の日なのだから!」

 ヒキガエルは、これを表情豊かに大声で歌い、最後までくると、またもう一度歌いました。それから静かに下へおりて、お客さんたちにあいさつをしました。彼は、勝利を自分の功績にしようとはしませんでした。「いやいや、これはすべてアナグマの案なのです。モグラとネズミがほとんど戦ってくれたんです」と、彼は謙虚に言いました。モグラとネズミは頭を見あわせました。確かにこれは、改心したヒキガエルでした!
 あの看守の娘と機関士には、感謝の手紙と贈物が届けられました。ヒキガエルは異議を申し立てたけれど、屋形船のおかみさんには、馬の代金が送られました。ジプシーには何も送られませんでした、彼はちゃんと取引をしたのですから。
4人の友だちは、夏の夕方などによくいっしよに自然林の中を散歩しました。礼儀正しいイタチの母親たちは.子どもたちにその4人を指さして、いい子にしないとあの厳しい大きな灰色のアナグマがつかまえにきますよと言いました。子ども好きのアナグマには、これはちょっとかわいそうでした。けれども、このおかげで子どもたちが言うことをきかないことは一度もありませんでした。


もどる