レディバードブックス100点セット
 

 

幸福の王子他

〈幸福の王子〉

 昔あるところに、1人の王子がいました、その王子は、欲しいものは何でも手に入ったので、悲しむことも泣くこともありませんでした。それでこの王子は、幸福の王子とよばれていました。ああ、けれどもある日、王は死んでしまったのです。国じゅうの人びとはたいへん悲しみ、王子のことを忘れないようにと像を作りました。像はなまりでできていましたが、王子にたいへんよく似ていました、ただ、目だけは青い宝石で作られ、服は金で作られていたのです。人びとはそれをみんなが見ることができるように、町のまん中の高い柱の上にのせました

 さて、その国は冬がたいへん寒く、毎年秋になると、ツバメたちは、日が照っている暖かいところへ飛んでいくのでした。ところが今年は、1羽の小さなツバメだけ、他のツバメたちといっしょに飛んでいかなかったのです。そのツバメは、湖のまわりの、アシが生えているところに残っていました。アシは背が高く、美しく、ツバメはそのアシのうちの1本を好きになってしまったので、アシと別れて飛びたつことができませんでした。
でもとうとうツバメは、自分が最後に残ったツバメだとわかると、そのアシに別れを告げ、飛びたっていきました。

その夜、ツバメは町にやってきました、そして、疲れていたので、止まって休むことにしました……どこで休んだと思います? なんと、高い柱のてっぺんの、ちょうど幸福の王子の足の間だったのです! 小さなツバメがちょうど眠ろうとしていたとき、しずくが1つ顔に落ちてきました。ツバメは空を見上げましたが、何1つ見えません。そのとき、またもう1つしずくが落ち、続いてもう1つ落ちてきました。ツバメはもう一度見上げ、彼をぬらしたのが雨でないことを知りました。それは、涙だったのです! 涙は、像の目から落ちてきていたのです!
「あなたは誰なんですか?」 ツバメはききました。
「私は幸福の王子だよ」 像が返事をしました。
「それなら、なぜ泣いているのですか?」 ツバメがききました。
「この町の中に見える、不幸なできことのために泣いているのだ。私が宮殿にいたころは、こんなことはまったく知らなかった。でも、この上にいるとすべてが見え、私をたいへん悲しませるのだよ」
「何が見えるんですか?」 ツバメがききました。
「はるか遠くのみすぼらしい路地に、窓の開いている家がある。部屋の中には女の人がいて、女王の侍女たちが舞踏会に着ていく美しい服を縫っているんだ。彼女のそばのベッドには、小さな息子が寝ている。その子はとても具合が悪いのだが、医者に来てもらうお金がないのだよ。子どもに、水以外の何ものも与えることができないんだ。このぶんでは、あの子は死んでしまうと思う。小さなツバメくん、私の剣のつかから赤い宝石を取って、母親のところに届けてくれないか? それを売れば、食べものが買えるだろう。私の足はこの柱にくっついているから、自分で持っていってやれないんだよ」 と、王子は言いました。

 「でも、私はこれから南へ行くところなんです」 と、ツバメは言いました。
「みんなもう行ってしまっているんです。私も早く行かないと、迷ってしまうでしょう」
「お願いだ、小さなツバメくん、たった一晩でいいからここにいて、私の言うとおりにしておくれ」 王子は頼みました。
「私は男の子たちがあんまり好きじゃないんです。石を投げてきたりする子がいるし」 と、ツバメは言いました。
「この子はものすごく具合が悪いんだよ。お願いだ、小さなツバメくん」
「わかりました。それじゃあ、一晩だけですよ」
そこで、ツバメは赤い宝石をつついてとり出すと、くちばしにくわえて飛んでいきました。途中、女王の侍女が住んでいる大きな家のところを通りました。「舞踏会までにドレスができてるといいんだけれど。あのなまけものの奥さんは本当にのろいんだから。もっと早く仕事をしてくれなくちゃ、間に合わないわ」 ツバメは、彼女がこう言っているのをききました。
小さなツバメはさらに飛んでいき、あの貧しい家にやってきました。男の子は寝返りをうっていましたが、母親はあまりに疲れていたので、テーブルの上に顔を伏せて眠ってしまっていました。ツバメは窓から入っていって、彼女の指ぬきの近くに赤い宝石をおきました、そうすれば、彼女が目を覚したとき、それが目に入るからです。それからツバメは、病気の子どものベッドへ飛んでいって、羽であおいでやりました。
「ああ、なんて涼しいんだ!」 と、男の子は言いました。「きっとぼくはよくなっているんだ」そして、その子は眠りにつきました。

 ツバメは幸福の王子のところへ飛んで帰り、自分のしたことを伝えました。
「不思議なんですが、私はもう、あまり寒さを感じなくなりましたよ」 と、ツバメは言いました。
「それは君がよい行いをしたからだよ」 と、王子は言いました。
それでもやはりツバメは、彼の兄弟たちが飛んでいった暖かいところへ行きたがっていました。そこでその晩、ツバメは王子に 「さようなら、もう行きます!」 と言いました。
「小さなツバメくん」 王子は返事をしました 「まだ行かないでおくれ。私には、火のまったくないがらんとした部屋にいる、貧しい若者が見えるんだ。彼はものを書こうとしているのだが、手が冷えすぎていて、ベンが持てないんだ。それに食べるものもない」
「また、あなたの剣のつかから別の宝石を取って、私に持っていってほしいんですか?」 ツバメはききました。
「そこには1つしかなかったんだよ」 王子は答えました。「私の目を1つ取っていかなくてはならないよ。目は青い宝石でできていて、とてもお金になるんだ」
「でも、そんなことはできませんよ!」 ツバメはさけびました。
「お願いだ、私の言うとおりにしておくれ」 王子は頼みました。
そこで、ツバメは像の目から宝石を1つ、つつき出すと、屋根の煙突を飛びこえて、かわいそうな若者の部屋へ行きました。

 ツバメは屋根の穴から入っていき、宝石を、テーブルの上にあった花束の中へ落しました。若者は宝石を見たとき、彼の書いた劇を気に入ってくれた誰かが、花束といっしょに贈ってくれたんだと思いました。彼はあんまりうれしかったので、おなかがすいていることも忘れて、すぐ仕事にかかりました。
「これで家賃も払えるし、食べものも買えるぞ」 と、彼は言いました。

 ツバメは飛んで帰って、王子にこのよい知らせを伝えました。「さあ、これでお別れです」彼はこうつけ加えました。「また来年の春もどってきて、あげてしまった宝石をうめる赤と青の宝石を持ってきてあげますよ」
「まだ行かないでおくれ」 王子は頼みました。「下を見てごらん。あの少女が見えるかい? あの娘はマッチを売ろうとしていたんだが、手があまりに冷めたくて、マッチを水の中に落してしまったんだ、もうマッチは役にたたないんだよ。あの娘が家に帰れば、父親があの娘をぶつだろう。私のもう1つの目から宝石を取り出して、彼女にわたしておくれ」
「でも、もしそんなことをすれば、何も見えなくなってしまうんですよ!」 ツバメはさけびました。「見えなくなってしまいます」
「お願いだから、私の言うとおりにしておくれ」 王子は頼みました。
そこでツバメは、青い宝石を取り出し、少女の手の中に入れてやりました。「まあ、なんてきれい!」 彼女はそれを見て、にっこりしました。それから、父親にそれをわたすため、走って家に帰りました。もう、父親が少女をぶつことはなくなるでしょう。
ふたたび、ツバメはもどってきました。ツバメは王子に言いました 「あなたの目が見えなくなってしまった今、私は行ってしまうことはできません。いつもおなたのそばにいましよう、そして、もう見えないあなたの目のかわりに、私の目を使ってください」

 毎日どんどん寒くなり、ツバメは王子に、彼の兄弟たちがいる暖かい地方のことをすべて話しました。話していれば、ツバメはそんなに寒さを感じませんでした。でも王子は、ツバメに町の上を飛んでもらい、何を見たかを話してもらいたがりました。お金持が住んでいる大きな家もありましたが、貧しい人たちが住んでいる汚い小屋のある暗い路地は、もっとたくさんありました。そこに住む子どもたちは、あまりたくさん食べられないので、細くて青白い顔をしていました。ある日ツバメは、2人の小さな男の子が橋の下に横たわり、お互い暖め合っているのをみつけました。そこへ警官がやってきて、2人に家へ帰るように言いました──警官は、2人の男の子には帰るべき家がないことを知らなかったのです。2人はただ立ち上がって、雨の降る中へ、手をとりあって出ていきました。
王子はこれをきくと、とても悲しくなりました。「私には、もう宝石は残っていないんだ」彼は言いました 「でも服は金でできている。私の身体から少しはぎ取って、そのかわいそうな子どもたちに持っていってくれないか」
毎日ツバメは、助けが必要な人たちをみつけ、まもなく王子の服の金は、全部人びとに与えられてしまいました。王子は柱の上で、灰色に、みすぼらしくなってしまいましたが、子どもたちの顔はもう青白くありませんでした──額は赤みがさし、細い手足はまるまるとしてきていました。子どもたちは路地で遊ぶようになり、ものごいをしなくてもすむようになったのです。

 それから、 雪が降りはじめました。かわいそうなツバメは、だんだん冷たくなっていきましたが、王子のそばを離れようとはしませんでした。とうとうツバメは、死ぬときがきたことを知りました。「さようなら、いとしい王子様」 ツバメは像の足もとにたおれながらささやきました。
「さようなら」 王子は答えました。そして彼の中で何かがこわれました。
それは、彼の心臓でした。

 次の日、市長と町の議員が柱のそばを通りかかり、像を見上げました。
「なんてこった! 王子はなんてみすぼらしくなってしまったんだ!」 彼らはさけびました。「宝石は全部なくなっているようだし、金の服も誰かが盗んでいったらしい」
「それに見てください! 足もとにはきたならしい鳥の死骸までありますよ!
このまま放っておけないじゃないですか! すぐに捨てなくては!」
「像を降ろした方がいいな」 もう1人の議員が言いました。「かわりにもっといいのをのせよう。今度は誰の像をのせようか?」

 「むろん、私のさ」 市長が言いました。
そこで、王子の像は降ろされ、新しい像を作るために、なまりは溶かされました。ところが、仕事人が中にこわれた心臓をみつけたのですが、これが溶けないのです。そこで彼らは、これをごみの山の上に投げ出しておきました。そこには、死んだ小さなツバメもいたのです。
その夜、神様は天使たちに、「この町でもっとも貴重なものを2つ持ってきなさい」 と言いました。
天使たちは神様のところへ、こわれた心臓と死んだツバメを持ってきました。そこで神様はこう言いました 「おまえたちは正しいよ。これで、この小鳥は天国でいつも歌い、幸福の王子は、永遠に私の名をたたえるであろう」

〈星の子〉

 昔あるところに、2人のきこりがいて、1日の仕事を終えて家に帰るところでした。2人は疲れて、とてもとても寒がっていました、季節は冬で、地面には雪が深くつもっていたからです。2人が森から野に出ると、頭上の空はもうまっくらになっていました。突然2人は.稲妻のような光を見ました。
「願いごとをしてごらん!」 1人のきこりが言いました。「流れ星だ──幸運をもたらしてくれるのさ!」
「あっちの茂みの方に落ちたぞ」 と、もう1人が言いました。「もしかしたら、星が落ちたところに金のつぼでもあるかもしれないぞ。最初にみつけた者のものだ!」

 2人は茂みの方に走っていき、あたりを探しました。そしてそこで、白い雪の上にある、金のように光る何かをみつけたのです。最初にそこへ着いた男が 「金の星をちりばめた白いコートだ」 と声をあげました。中に何が入っているのだろう、と開いてみると、そこには、よく眠っている男の赤ん坊がいたのです。たくさんのお金をみつけて金持ちになろうと思っていた彼は、がっかりしてしまいました。
「もうこれ以上、子どもはいらないんだよ」 彼は言いました。「今のままでも十分に食べられないんだから。この子はここへおいておこう」
「そんなことはできないよ、寒さで死んでしまう」 もう1人が言いました。
彼は赤ん坊を抱き上げると、家に連れて帰りました。彼の妻は玄関の戸を開けて、夫の帰りを喜びました。夫が腕に何か抱いているのを見て、彼女はききました 「何、それは?」
「森の中でみつけたんだ」 眠っている子どもを見せながら、彼は言いました。
「そんなもの、どこかへやって!」 彼女はさけびました。「私たちの子どもだっているのよ。また別の子どもなんて、どうやって食べさせていくの?」
「この子は星の子なんだよ」 彼は答え、そして、どうしてみつけたかを話しました。
「どこかへやってください!」 彼女はまた言いました。「ここにはおけないわ」

 きこりは、妻がやさしい心を持っていることを知っており、ただ単に、家が貧しいから 「いけない」 と言っているのがわかっていました。だから彼は待ちました。彼女は彼に背を向けて、火のそばへ行きました。開け放したドアからは、凍りつきそうな風が吹きこんでいて、彼女は 「こんな寒い夜に、あの子を放り出すことが、どうしてできましょう」 と思いました。
大声で彼女は言いました 「ドアを閉めて」

 夫は中に入ってきて、眠っている子どもを妻の腕の中に入れました。赤ん坊にキスをしている彼女の目には、涙があふれていました、それから彼女は、ゆりかごの中の自分の赤ん坊の隣にその子を入れました。
次の日の朝、夫婦は、星くずのついたコートを箱に入れました。それに、星の子の首のまわりには金の鎖がついていたので、それも入れました。
「これを売れば、食べものが買えるわ」 と、妻が言いました。
「これは、おれたちのものじゃないんだ。もしかしたら、ある日誰かがこの子を探しにくるかもしれない、そうしたら、これを返してあげられるんだ」 と、きこりは答えました。

 こうして星の子は、きこりとその妻といっしょに、まるで彼らの子どものように暮しました。でも、他の子どもたちはみんな黒髪で黒い目をしていたのに、その子の目は青く、髪は金髪で、肌はミルクのように白かったのです。彼は、見た目はたいへん美しかったのですが、行いはあまり美しくありませんでした。いつもきこりの子どもたちに、自分の父親と母親は王様と女王様であり、こんな貧しい小屋でなく、星の上にすんでいるんだと自慢していたのです。そして、誰の助けをしたこともなく、いつも一番よいものをねだりました。彼はまた、たいへんなうぬぼれやでもありました。よく庭の井戸のそばに横になり、水にうつる自分の姿を見ていました。
そして、いつもにっこりして 「ぼくはなんて美しいんだろう!」 と言っていました。
彼は、鳥や他の動物たちにもたいへんいじわるでした。石を投げつけ、当ると大笑いをしました。本当にこの少年は恐ろしい子だったのです!
ある日、この村に、ぼろの服を着た貧しい女の人がやってきました。その人はとても疲れていたので、足を休めようと木の下にすわりました。
「あの女を追っぱらってやろう、みにくくて汚い女だ」 と星の子は言い、女の人に向かって石を投げつけました。
「やめろ!」 少年がしていることを見て、きこりがさけびました。「この人は、おまえに何も悪いことはしていないだろう」

 「ぼくにそんな口をきくな!」 星の子はさけびました。「ぼくをとめられっこないんだ。ぼくは自分のしたいことをするんだ。あんたはぼくのお父さんじゃないだろう」
「そのとおりだ。でも、私がおまえを森でみつけたとき、おまえをここへつれてきてやり、妻と私は、おまえを自分の子どものように面倒をみてきたんだ」
こじきの女のひとは、これをきいて飛びあがりました。「この子を森の中でみつけたと言いましたね? どのくらい前ですか?」 と、彼女はききました。

 「ちょうど10年前です」 と、きこりは答えました。
「この子は、首のまわりに金の鎖をつけていませんでしたか? それに、金の星をちりばめた白いコートにくるまっていませんでしたか?」
「そうです」 きこりは答えました。「大事にとっておくように、箱の中に入れてあるんです。中に入って、見てください」
こじきの女の人は箱の中のものを見ると、さけびました 「この子は私の子にちがいないわ! 何人かの悪者たちが10年前、森の中でこの子を私からうばっていったのです。それ以来、私はずっとこの子を探し続けていました。とうとうみつけたんだわ!」
きこりの妻は星の子をよびました 「すぐにいらっしゃい! お母さんが来ているのよ!」

 星の子は喜んで走ってきました。ところが、みすぼらしい服を着たこじきの女の人を見ると、彼は乱暴にどなりました 「この人はぼくのお母さんじゃない! ただのみにくいこじきだ。迫っぱらってしまえ!」
みすぼらしい女の人は手をさしのべ、こうさけびました 「おまえは、長いこといなくなってしまっていた私の息子なのだよ。そばへきてキスをしておくれ」
「へびにキスした方がましだ!」 少年はさけび声をあげました。「そこをどいてくれ!」 そして彼は、女の人を押しのけました。

 彼女は悲しそうに森の中へもどっていきました。星の子は、他の子どもたちと遊びに外へ出ました。ところがみんな 「おまえは誰だい? おまえなんか知らないよ! なんてみにくいやつなんだ! どこかへ行ってしまえ」 と言いながら、彼から逃げていくのです。
「なんでそんなことをいうんだろう? ぼくは美しいのに」 星の子はつぶやきました。そして、庭の井戸のところへ行って見てみました。そこで見たものに、彼はふるえあがりました! 美しい顔はカエルのようにみにくくなり、白い肌は魚のうろこのようになっていたのです。
「誰がこんなことをしたんだ?」 彼はさけびました。「きっとぼくが、ぼくの母親だと名のったあの女の人に不親切だったから、こうなったんだ。あの人をみつけて、あやまらなくては」

 彼は森へ行き、走りながら 「お母さん! お母さん!」 とよびました。そして鳥たちに、母親を探すのを手伝ってくれるよう頼みましたが、鳥たちは、「あなたはよく、私たちに石を投げつけたでしよう。あなたなんかきらいですよ!」 と言って、遠くへ飛んでいってしまいました。そこで彼は探し続け、夜になって、葉っぱのベッドの上に横たわり、眠りました。
次の日、彼はまた探しはじめ、出会う動物みんなに、母親を見たかどうかききました。もぐらは 「なんで見ることなんてできるんですか? あなたはおもしろがって、私の目を見えなくしてしまったんだから」 と言いました。
そこで、こんどは小鳥に 「高く舞い上がって見てくれないか? そうすれば遠くまで見えるだろう」 と頼みました。
でも、小鳥は 「あなたが私の羽を切ってしまったので、もう遠くまで飛べませんよ」 と答えました。
そして、リスは 「あなたは私の母親を殺したんですよ、それなのに、どうしてあなたの母親を探すのを手伝わなければならないんですか?」 と言いました。

 森を過ぎて、彼はある村にやってきました。ここで彼は、子どもたちみんなにからかわれ、石を投げつけられました、彼があまりにみにくかったからです。けれども彼は、探すのをやめませんでした。母親がどこにいるのかをききながら、あちこちどんどん歩き続けましたが、誰も母親の行方を知りませんでした。こうして、長い3年間が過ぎていったのです。
ある晩彼は、高い壁にぐるりとかこまれた町にやってきました。門のところには2人の見張り番がいて、彼が入ろうとするのをとめました。「何の用だ?」 と、2人はききました。
「ぼくのお母さんを探しているんです」 彼は言いました。
2人は彼を笑いとばし、1人が 「おまえがいなくなったんで、さぞかし母親は喜んでいるだろうよ、おまえがそんなにみにくいのではな。とっととどこかへ行ってしまえ! ここはおまえの来るところじゃない!」 と言いました。

 悲しそうに彼は立ち去りかけましたが、そばに立っていた老人が 「あの子のかわりに、あなたたちにワインをあげましょう。あの子を私のところで働かせたいのです」 と言いました。
「いいだろう!」 と、門番たちは返事をしました。
その老人は、実は魔法使いで、星の子を連れて町のせまい路地を行き、壁にある小さいドアのところまで来ました。魔法使いは少年を中に連れていき、じめじめした暗い地下室へ閉じこめました。そして、少しばかりのパンと水を与えました。それから、星の子を1人にして鍵をかけ、どこかへ行ってしまいました。

 朝になって魔法使いがやってきて、こう言いました 「この町の近くの森に、金のかけらが3つかくされている。1つは白い金、もう1つは黄色い金、そして3つめは赤い金だ。おまえは、白い金を探して、ここへ持ってくるんだ。もしみつけられなかったら、この棒で100回たたいてやる。ついてこい !」
彼はドアを開けて、星の子を外へ出しました。「日が沈むまでにもどってくるんだぞ」 と、彼はおどしました 「さあ、行け!」
森はそう遠くはなかったので、星の子はすぐ着き、白い金を探しはじめました。そこらじゅうを探したのですが、みつけることはできませんでした。どんどん時間がたち、とうとう彼は、西に日が沈みかけているのを見ました。白い金なしで、魔法使いのところへもどらなければなりません、そうすれば、ぶたれることはわかっていました。
ちょうど森を出ようとしたとき、彼は苦しんでいる声をききました。家に帰るのが遅くなり、それがますます魔法使いを怒らせることになるのがわかっていながら、彼は、何かを助けることができるかどうかを見に、もどりました。そして、野うさぎがわなにかかっているのをみつけたのです。
「かわいそうに」 わなを開けてやりながら、彼はこう言いました。「すぐに放してあげるからね」
「ありがとう」 野うさぎは言いました。「あなたに、何かしてあげられることがありますか?」

 「ぼくは白い金を探しているんだ」 少年は言いました 「でもみつけられないんだ。それを主人のところへ持っていかなかったら、ぼくは、ぶたれるだろう」
「私についていらっしゃい」 野うさぎは言いました。「それがあるところを知っていますよ」野うさぎは星の子を、幹のわれ目に金がかくされている1本の木へ連れていきました。うさぎに礼を言うと、星の子は金を持って町へもどりました。門のところで彼は、みすぼらしいこじきに出会いました。その人は 「パンを買うお金を少しください、そうしないと私は死んでしまいます」 と、泣きさけびました。

 「ぼくはかけら1つしかもっていないんです、そしてこれは、主人のところへ持っていかなくてはならないんです」 星の子は言いました。
「もう何日も、私は何も食べていないのです。お願いします!」 こじきは頼みました。
そこで星の子は、彼に白い金をわたしてやり、何も持たずに主人のところへもどりました。魔法使いは大そう怒りました。星の子を地下室へつれていくと彼をたたき、彼が泣きながら寝入ってしまうままにしておきました。
次の日の朝、魔法使いがやってきて、彼にこう言いました 「今日は、黄色い金をみつけて、日が沈むまでに私のところに持ってかえるんだ。もしできなかったら、おまえを300回むちで打ってやる」
ふたたび少年は、1日じゅう金を探し回りましたが、みつけることはできませんでした。日が沈みはじめるのを見ると、彼はすわりこんで泣きはじめました。手ぶらで帰るのが恐かったのです。
「なぜ泣いているのですか?」 という声がしました。それは前の日、彼が助けてやった野うさぎでした。
「ぼくは1日じゅう、主人のために黄色い金をさがしたんだけど、みつけられなかったんだ」
「ついていらっしゃい」 と野うさぎは言い、少年を小さな池に連れていきました。その池の水の底に、黄色い金が光っていました。少年はお礼を言って、その金を持って町へもどりました。走っていると、彼は、1人のこじきが足をひきずって歩いているのを見ました。
「助けて! 助けて下さい!」 その人は星の子を見ると、そうよびかけました。「人びとは私を町から追い出し、私は行くところがないのです。今晩寒さのために、私は死んでしまうでしょう。泊るために支払うお金を少しください」
「ぼくは、かけら1つしか持っていないんです」 少年は言いました 「そしてこれは、主人のところへ持っていかなければならないんです、そうしないと、ぼくはむちで打たれてしまうんです」
しかし、男はものごいを続け、とうとう少年は、彼に黄色い金のかけらをわたしてしまいました。魔法使いは、少年が手ぶらで帰ってきたのを見ると、前の晩よりもっとひどく、もっと長くぶち、食べものなしに地下室に放っておきました。

 3日目の朝、魔法使いは彼にこう言いました 「今日こそは、赤い色の金を持ってこい。もし持ってこなかったら、おまえを殺してやる」
1日じゅう、星の子は森の中で赤い色の金を探しましたが、何もみつけることはできませんでした。夕方になると彼はすわりこんで泣きました。
まもなく、また野うさぎがやってきて、彼のすぐうしろにある小さなほら穴を探すように言いました。その中のすみっこで、彼は赤い色の金をみつけ、それを持ってうれしそうに帰っていきました。ところが少し行くと、またこじきに会ったのです。星の子は、こじきが大そう具合が悪いのを見てかわいそうになってしまい、赤い色の金もわたしてしまいました。

 「これでとうとう、ぼくも終りだ」 と彼は言い、ゆっくりと町へ帰っていきました。門のところへ来たとき、門番が前へ進み出て彼におじぎをし、「閣下」 とよびました。
彼は2人がからかっているのだと思いました、けれど、彼が町の通りを進んでいくにつれて、大勢の人びとがまわりに集まってきて、お互いに、「なんてあの人は美しいんだ!」 と、言いあっていたのです。
人びとは動こうとせず、あまりに大勢の人がいたので、彼は、魔法使いの家のドアがみつけられませんでした。そのかわり、目の前に宮殿の門が見えました。何人かの人が出てきて彼を迎え 「あなたをずっとお待ちしておりました、おお、美しき王子よ」 と言いました。
「ぼくは、こじきの女の人の息子なんです」 彼は言いました。「それに、ぼくがみにくいっていうことはわかっているんです。なぜ美しいなんて言うのですか?」

 そこで、1人がピカピカの盾を差し上げ 「これをごらんなさい」 と言いました。
そして星の子は、自分の顔が、井戸の水にうつして見ていたころと同じように美しくなっているのを見ました。
「あなたは、私たちの王様にちがいありません」 人びとは言いました。
「私たちの王様が今日やってくるだろうと、賢者が言ったのです」
「いいえ、ぼくは行かなければなりません。お母さんを探しているんです」
彼は言いました。「お母さんは女王様ではなく、ただのみすぼらしいこじきなんです」 そして彼は、町の門の方へ引きかえそうと向きを変えました。
するとそこには、彼の母親だと名のった、こじきの女の人がいて、彼の方へ歩いてくるところでした。彼女といっしょに、彼が3つの金のかけらをあげた、こじきの男の人がいました。喜びの声をあげて、彼は2人の方へ走っていきました。彼は、こじきの女の人の足もとにひざまずくと 「お母さん、許してください!」 と泣きました。
彼がそこにひざまずくと、こじきの女の人とこじきの男の人の2人は、彼の頭の上に手をのせて 「立ち上がりなさい!」 と、ひとこと言ったのです。

 彼は立ち上がり、2人を見ると、もうこじきではなく、金の冠をかぶった王様とお妃様になっていました。
「この人が、おまえのお母さんだよ」 王様は言いました。
「そして、この人がお父さんですよ」 お妃様が言いました。
2人は彼を抱きしめて、キスをしました。れから、彼を宮殿の中へ連れていきました。2人は彼に美しい服を与え、頭上に金の冠をのせました、彼が、その町の王様となるはずであったからです。
その次の日、彼は、きこりと妻とその子どもたちに、たくさんの贈物をしました。悪い魔法使いは、遠くへ追い払われました。そしてその後、星の子が生きている間、町の誰1人として貧しかったり飢えたりすることなく、みんな幸せに暮しました。

 

〈若い王様〉

 年老いた王様が死ぬ少し前、彼は、 後を継ぐはずであった孫のところへ使いをやりました。そのときまで少年は、一度もおじいさんに会ったことがありませんでした。なぜなら、年老いた王様は、少年の母親である彼の娘に腹を立て、宮殿から追い出してしまったからです。娘は遠くの森へ行き、そこで赤ん坊が生まれたのでした。彼女は赤ん坊を、近くの小屋に住む、貧しい夫婦にわたしました。2人は赤ん坊に親切で、まるで自分の息子のように面倒をみました。今や少年は16才になり、背の高い好青年となっていました。
彼は宮殿に来たとき、みすぼらしい羊飼いの服を着て、つえを持っていました。紳士淑女たちが美しく着飾っているのを見ると、目を見張りました。彼のいたみすぼらしい小屋に比べれば、何を見ても、すべてたいへんすばらしく見えたのです。彼は、高価なカーペットやカーテンに見入りました、そして、壁の絵、金のしょく台、花でいっぱいの銀の花びん、絹のクッションやすてきな飾りものにも目をうばわれました。
彼は、古い上着と羊飼いのつえを取り去られ、新しくてすばらしい服を与えられたとき、喜びました。
「これであなたは、王子様らしく見えますよ」 と、人びとは言いました。確かにそう見えたのです!
彼は、自分が新しい王様になるのだときかされたとき、冠を受けるときに何を着たらいいのか、ということしか考えられませんでした。そして、金の糸で織られた礼服と、赤いルビーのついた冠がいいと思いました。王座につくとき、手に持つしゃくは、てっぺんに、本物の真珠の輪がついていなければならないと思いました。冠を受ける前の晩、こんなことを考えながらなかなか寝つかれず、ようやく寝入ったとき、夢をみはじめました。

 彼は、たくさんの男女、そして子どもたちが働いている大きな部屋にいる夢をみました。そこは何かの工場のようで、人びとはみんな機のそばに立ち、布を織っていました。みんなみすぼらしく、ぼろの服を着ていました。子どもは、糸が切れたら、その細い指で端どうしを結びあわせるようにと、機の下にすわっていました。子どもたちは青白い顔をして、細い腕をしており、あまり十分に食べていないように見えました。部屋は、機のガチャガチャいう音でうるさかったのですが、誰もおしゃべりしたり、笑ったりしていませんでした。若い王様は、織っている人たちの1人の近くに立ち、何をしているのか見ました。
「なぜ私を見ているのですか?」 その男の人はききました。「ご主人様が、私たちのところへスパイでもよこしたのですか?」
「あなたたちの主人というのは誰なんですか?」 と、若い王様は言いました。
「彼は、私と同じような人間ですが、私がぼろを着ているのに、彼は立派な服を着ているのです。彼には、食べきれないほどの食べものがあるのに、私の子どもたちはひもじい思いをしているのです」 と、男の人は答えました。
「では、なぜ彼のために働くのですか? あなたは奴隷ではないでしょう?」 と、若い王様はききました。
「私が自由だとでも思っているんですか」 男の人は言いました 「私は貧しいので、奴隷みたいなものなんです。この仕事をしなければ飢死してしまいますよ」
男の人は話しながらも、織るのをやめませんでした。下糸入れが行き来し、若い王様は、その糸が金であることに気づきました。「これは誰のために作っているのですか?」 と、彼はききました。
「あした冠を受ける若い王様のためですよ」 男の人は答えました。「早く仕上げないと、間に合わないんです」
若い王様はこれをきくと、男の人に、やめろ、とさけびました。それで目が覚めたのです。寝室の窓から月の光がさしこんでいるのを見たので、まだ夜だということがわかりました。彼は寝返りをうつと、ふたたび眠りにつきました。そして、また、夢をみはじめたのです。

 こんどは、彼は船の甲板の上におり、その船は、足に鎖をつけた100人の黒人奴隷によってこがれていました。まん中には、長いむちを持った男がすわっていました。もし奴隷が少しでもこぐのをやめたなら、その男は、奴隷のはだかの背中をむちうつのでした。まもなく、小さな入江にやってきて、ここで船はいかりを降ろし、帆を下げました。
それから、1人の男が海へもぐらされました。彼が水面にもどってきたときには、手に真珠を持っていました。奴隷船の船長はそれを取り、むちをひとふりして、また、彼をもぐらせました。毎回彼は真珠を持ってあがってきて、船長はそれを取ると、小さな袋に入れました。何度も何度も、かわいそうなその男はもぐっていきました。もぐるたびに時間がかかるようになり、あがってくるたびにだんだん疲れてみえました。最後に彼が持ってきた真珠が、一番大きく最高のものでした。船長はそれを取りあげると言いました 「あした、若い王様のしゃくのまん中には、真珠の輪がはまっているだろうよ!」 それから奴隷たちに、いかりをあげて、全力でこぐように言いつけました。もぐっていた男をおいていったのです──もう死んでしまっていたからでした。
眠りの中で、若い王様は大声をあげ、それで目を覚しました。しかし、窓を通して夜空に星が見えたので、眠りにつき、また夢をみました。

 彼は自分が1人で、森の中を歩いている夢でした。そして、かつては川があったのに、今ではかわいて水がまったくないところへ来ました。
ここの川底の方で、大勢の男たちが砂の中を探っていました。日が彼らの頭に照っており、みんなたいへん疲れたようすでしたが、誰も手をとめませんでした。彼は、みんなが何を探しているのかわからなかったのですが、ときどき人がたおれ、二度と起き上がらないのを見かけました。こうしたことが何回か起こり、若い王様は、その人たちが死んでしまっているのを知りました。そのとき、黒いハゲタカが頭上の空に集まってきて、谷底の土と泥の中からは、竜や恐ろしいへびが出てきました。若い王様は、恐ろしくなってしまいました。
「この人たちは誰なんだ? 一体何を探しているんだ?」 彼はよびかけました。
「この人たちは、王様の冠につける赤いルビーを探しているんだ」 と、彼のうしろで声がしました。

 彼がふり向くと、手に鏡を持った男がいました。「どの王様のためのですか?」 彼はききました。        I
その男は、鏡を差し出しました。「ごらんなさい──その王様が見えるでしょう」 男は言いました。若い王様は自分の顔を見ると、大声をあげ、ふたたび目を覚しました。今度は、もう朝になっていて、窓からは日の光がさしこんでいました。
そのとき、寝室に役人たちが入ってきました。彼らはおじぎをすると、小姓に言いつけて、金の礼服、冠、そして、 しゃくを若い王様に見せるため、持ってこさせました。彼はそれらを調べ、たいへんきれいにできあがっているのがわかりました。そのとたん、彼は3つの夢を思い出したのです、そして、こう言いました 「こんなものはどこかへやってくれ! ぼくは着ないから」

 役人たちは、彼が冗談で言っているのだと思い、部屋を出ていきませんでした。ところが彼はまた言ったのです 「持っていってくれないか! この礼服は苦しみの機で織られた。ルビーには血が、そして真珠には死がこめられているんだ」 そしてみんなに、3つの夢のことを話しました。
役人たちは、お互いに顔を見あわせていました 「王様は頭がおかしいんだ! 夢なんて、単なる夢にすぎないじゃないか。それがここにあるものと何の関係があるというんだ?」
1人が王様に言いました 「王様、この礼服を着なくてはなりませんよ。王様らしく装っていなければ、国の人たちに、あなたが王様だということがわからないじゃないですか」
「王様というのは、冠をかぶっているときだけ王様なのだろうか?」 若い王様はこうききました。「ぼくは、王様はつねに、行いにおいて王様であるべきだと思っていたんだ。でも君が正しいのかもしれないね。とにかくぼくは、この礼服も着ないし、この冠もかぶらないよ」そして、彼は1人の小姓を残して、役人たちを全部追い払ってしまいました。
「ぼくが初めてここへ来たときに着ていた服を持ってきておくれ」 彼はこう言いました。そしてそれを着て、羊飼いのつえを手に持ちました。
「でも王様、冠がありませんよ」 と、小姓が言いました。
そこで若い王様は、部屋の窓のまわりに生えていた赤いバラの小枝をつみました。そして、それを輪に折りまげると、頭の上にのせました。「これがぼくの冠だよ」 と、彼は言いました。
それから彼は、貴族たちがみんな待っている大きな広間へ行きました。みんな彼を見ると「王様! 国の人びとは王様を待っているんですよ、それなのに、あなたはこじきのように見えるではないですか。それでは、私たちの恥になります」 と、さけびました。
彼はこれに答えずに、階段を下り、門の外へ出ていきました。ここで馬に乗ると、教会へと向かいました。小姓がそばを走ってついていきました。

 通りにいた人びとはみんな笑い 「王様の道化者だよ! 私たちにふざけてみせているんだ!」と、言いました。
しかし、若い王様は馬をとめ、人びとに言いました 「いいや、ぼくが王だ」 それから、3つの夢のことも話しました。みんなには、彼の言うことが理解できず、1人がこう言いました「あなたが金の服を着ないということが、何の助けになるんですか? お金持ちは、私たち、貧しい者に仕事を与えてくれるんです、もし私たちが働けなくなったら、飢死してしまいます!」            
「もっと何かよい方法があるはずだ、ぼくは、それをみつけだすよ」 若い王様はこう答えました。そして、また馬を進めました。

 彼が大聖堂の大きな入口に着くと、見張りの兵士が 「おまえは中に入ってはならない。若い王様以外、誰もこのとびらから入ることは許されんのだ」 と言って、彼をとめました。
「ぼくが王だ!」 彼は言い、兵士たちの剣を押しのけました。
彼に冠を授けようと待っていた主教は 「なぜこじきの格好をしてきたのです? あなたが金の礼服をつけるまで、冠は授けられませんね」 と言いました。

  「そんなことが、ここでよく言えますね」 若い王様は言いました。「私たちの主が貧しい大工の息子で、馬小屋で生れたということを忘れたのですか?」 そして、彼は主教に3つの夢のことを話しました。
「わが子よ」 と、主教は悲しそうに言いました 「私は年をとっているので、この世には、たくさんの悪いことがあるのを知っています。でもそれを防ぐことはできないのですよ。だから、宮殿へ帰って、金の礼服を着ていらっしゃい、そうしたら、あなたに冠を授け、この真珠のしゃくをわたしましょう」
若い王様は主教を通りすぎて、高い祭壇の階段をのぼっていきました。
そこで彼は、まわりに白いろうそくが燃える中、ひざまずいて祈ったのです。彼がひざまずいている間、兵士が剣を持って入ってきて、こうさけびました 「こじきの王様はどこにいる? 殺してしまえ! あいつは我々の王様にふさわしくない!」
そのとき若い王様は立ち上がり、彼らの方を向きました。そして、なんということでしょう! ステンドグラスを通して、日の光が彼にあたり、日光は、彼の体のまわりに礼服を織ったのです、それは、彼のために作られた金の礼服よりもはるかに美しいものでした。手に持っていた羊飼いのつえには、王のしゃくの真珠よりも白い、ゆりの花が咲いていました。頭上の冠のバラは、どんなルビーよりも赤かったのです。

 彼がそこに、完全に王の姿をして立っていると、兵士たちは剣をしまい、畏敬の念に、ひざまずきました。主教が言いました 「私よりはるかに偉大なお方が、あなたに冠を授けたのです」
それからトランペットが鳴り響き、合唱隊の少年たちが歌いはじめると、若い王様は、高い祭壇から降りてきました。でも、誰も彼の顔をはっきりと仰ぎ見ることができませんでした、なぜなら、その顔は、天使のようだったからです。


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