レディバードブックス100点セット
 

 

ピーターパン

〈決して大人にならなかった少年〉

 この物語は、小さいときに家を飛びだしてネバーランドに住み、決して大人にならなかった少年、ピーターパンのお話です。
ネバーランドというのは、子どもたちが夢の中で訪れる島のことで、ここではどんなことでも起り得るのでした。ここへ行くには、飛ぶことができなくてはなりません。
ピーターは飛べたのです。ときおり彼はさびしくなると、人間の世界へ帰ってきました。そして子ども部屋の窓のところで、お母さんが子どもたちにおやすみの物語を話してきかせるのを聞きました。彼は、いつかきっと遊び友だちをネバーランドへ連れていこう、と思っていました。

ウェンディ、マイケル、そしてジョンという、ダーリング家の3人の子どもたちは、お父さんお母さんとともに、ケンジントン公園の近くで幸せに暮していました。(ケンジントン公園は、ピーターのお気に入りの場所の一つで、あなたもそこへ行ってみれば、ピーターの像が見られますよ)。
子どもたちには、ちょっと変った子もりがついていました、大きなニューファンドランド犬のナナです。彼女は、子ども部屋の中にある犬小屋で寝て、夜中に誰かが泣きだせば、いつもすぐに起きあがるのでした。ナナは雨が降っているときは、かさを口にくわえて、子どもたちを学校にも連れていきました。
ピーターが子どもたちを誘いにきた夜、もしナナが見張りをしていたら。この物語は決して始まらなかったでしょう。

〈ピーター現れる〉

ダーリング夫人は幸せな人で、子どもたちをみんな愛しており、しょっちゅうキスしたり抱いてやったりしていました。ダーリング氏は、もう少し堅苦しい人でした。彼は、ミルクの請求書に頭を悩まし、そして、子どものおもりに犬をつけるなんて、あまりいい考えではないなと思っていました。
ダーリング夫人は、毎晩、子どもたちにおやすみの物語をしてあげていました。それから子どもたちをベッドの中に入れ、安全のための終夜燈をつけるのです。子ども部屋をかたづけながら、みんなどんな夢をみているのかしらと考えたりしました。
子どもたちは、ネバーランドの夢をみていたのです。もしみんなの心の中をのぞいたなら、きっと、きれいに彩られた島の地図が見えたでしょう。
その地図には、湾、海賊船、そしてフラミンゴやサンゴ礁がありました。野生の獣や原住民たち、それに人里離れたかくれ家や、もしかしたら魔法使いや化物の1人や2人はいそうな、そんな森もあったのです。ジョンは砂浜の上にひっくり返っているボートの中に住み、マイケルはインディアンのテント小屋に、そしてウェンディは葉っぱの家に住みました。
昼間、テーブルの下やいすの脚のかげなどで、ネバーランド遊びをするのは安全でした。でも夜になって子ども部屋で、子どもたちがもう寝ようというときは、ネバーランドはほとんど現実のものとなってきます。そんなとき子どもたちは、終夜燈があってよかったと思うのです。
ダーリング夫人は、子どもたちがしょっちゅうピーターパンという少年のことを話しているので、不思議に思っていました。ピーターパンは、妖精たちといっしょに住んでいるんだと、子どもたちは言いました。ダーリング氏は、それはきっとナナが子どもたちに言った、くだらない話にちがいないと思いました。「犬を子もりになんかしているからだ!」 彼は不機嫌そうに言いました。
ある日、ダーリング夫人は、おかしな形をした葉っぱを、子ども部屋の窓の下でみつけました。
「ピーターが、私に会いにきたとき、落していったんだわ。なんてだらしがないんでしょう!」と、ウェンディが言いました、ウェンディは一番年上で、とてもきれい好きな女の子だったのです。
「でもどうやってここまで上がってこれるの? ここは3階よ!」 ダーリング夫人は不思議に思いました。「あなたはきっと、夢をみてるのよ」

〈影〉

でも、ウェンディは、夢なんてみていなかったのです。その翌晩、ダーリング夫人は、子ども部屋の暖炉のそばで編みものをしていて、眠ってしまいそうになっていました。窓がさっと開くと、部屋に1人の少年が入ってきたのです!

 その子は、葉っぱの服を着ていました。小さな不思議な光がその子の後を追ってきて、まるで生きもののように部屋じゅうを飛びまわっていました。それでダーリング夫人は目を覚し、夫人はすぐに、その少年がピーターパンだとわかりました。
夫人はおどろいて声をあげました。ナナがうなりながらとんできました。ナナは、窓からとびだそうとしている少年にとびかかりました。そして、窓は閉めたのですが、ピーターをつかまえるのには間に合いませんでした。でも、ピーターの影はとらえました。パタン、と窓が閉まり、ピーターの足もとのところで影を切り離したのです。
ナナはそれを口にくわえて、ダーリング夫人のところへ持っていきました。夫人はそれを丁寧にまるめると、引出しにしまいました。

 次の金曜日には、ダーリング夫妻は、数軒離れた家の夜のパーティに招待されていました。ダーリング氏は、ナナに対してたいへんご機嫌ななめなようすでした。そして彼は、ナナを庭の鎖に結んでおくことにしました。ダーリング夫人は、ナナがほえ続けるので、心配になってきていました。
「あれは、いつものほえ方じゃないわ」 夫人は言いました。「危険があるときだけ、あんなほえ方をするのよ!」
「はかばかしい!」と、ダーリンク氏は言いました。「さあ、早くおし、でないとパーティに遅れてしまうよ」
玄関の戸が閉まると、小さな見張り番の終夜燈が静かに消えていきました、1つ、 そしてまた1つ……。
突然、あやしげな明るい光が、子ども部屋に現れ、全部の引出しや食器だなを飛びまわり、そして、洗面台のコップの中にまでも入っていきました。それがちょっとじっとしていれば、光ではなく、妖精のティンカーベルだということがわかるでしょう。

 次の瞬間、ピーター自身が窓からすべりこんできました。「コップから出ておいで、ティンク!」 彼は言いました。「そして、ぼくの影がどこにあるのか教えておくれ!」
ティンカーベルはピーターに、影はたんすの中にあると言いました。彼女は、小さな鈴をふるような、チリンチリンという輝くような声で話しました。
ピーターは、自分の影を引っぱりだしました。それから、ティンカーベルがまだ中にいるのも忘れて、引出しを閉めてしまいました。ピーターは床にすわりこんで、影をもとのようにくっつけようとしました。水でやってみたり、せっけんでやってみたり。でも、どれもだめでした。がっかりしていると、ウェンディが目を覚しました。
「どうしたの?」 と、彼女は聞きました。
「影がくっつかないんだ!」 ピーターは文句を言いました。
「かしてごらんなさい。私が縫いつけてあげるわ!」 と、実用向きのウェンディは言い、裁縫箱をとってきました。
ピーターは、影がもとどおりになったので大喜びし、彼女にお礼を言うのを忘れてしまいました。とんだりはねたりして 「ぼくは、なんてかしこいんだ!」 と、得意になっていたのです。

 ウェンディはやさしい少女だったので、気を悪くしたりしませんでした。
そして、彼にキスしてあげようと言ったのです。ピーターは、キスなんて聞いたこともなかったのですが、きっとプレゼントに違いないと思い、手をさし出しました。ウェンディは、かわりに銀の指ぬきをあげました、それ以後、ピーターは、キスのことを 「指ぬき」 とよぶようになったのです。
それはとても混乱してしまうことでした。
お返しにピーターは、自分のコートについていた、どんぐりのボタンをウェンディにあげました。ウェンディはそれを、首にかかっていた鎖につけました。あとで、これが彼女の命を救うことになるのです!
ウェンディはピーターパンについて、いろいろなことを知りました、どうして家を飛びだして、ケンジントン公園の妖精たちと住んでいるのか、そしてどうして、年をとらないでいられるかなどです。(彼女は、ピーターがまだ乳歯を持っているのに気づきました)。今ピーターは 「迷い子」 たちといっしょに、ネバーランドに住んでいるのでした。
「迷い子」 たちというのは、子もり娘が見ていないとき、乳母車から落ちてしまった子どもたちのことでした。誰もこの子たちを引きとろうとしなかったので、ネバーランドに送られてきたのです。
ウェンディは、妖精たちについてたずねました。
「あるとき、赤んぼうの笑い声が、何千ものかけらに割れたんだ」 と、ピーターは説明しました。「その1つ1つが、妖精になったのさ。でも最近の子どもたちは、あんまり妖精なんて信じないんだ。子どもが『妖精なんて信じないよ』と言うたびに、どこかで妖精が死んじゃっているんだ!」
この話で、ピーターは、ティンカーベルのことを思いだしました、彼女はまだ、引出しの中に閉じこめられていたのです! 彼女はひどく怒ってとびだし、部屋じゅうをものすごく速くブンブン飛びまわったので、ウェンディには彼女が見えませんでした。彼女は、鳩時計の上に、ほんの少しの間とまりました、そして、ウェンディは 「まあ、なんてかわいらしいの!」 と叫びました。

 でも、ティンクはウェンディをきらっていました。やきもちをやいていたのです。ピーターがウェンディに 「指ぬき」 をしてあげたとき、ティンカーベルは、ウェンディの髪を意地悪く引っぱりました。

〈さあ、おいで、おいで!〉

このころには、マイケルもジョンも目を覚していました。ピーターはみんなに、自分がリーダーとなっている迷い子の連中のことや、海賊との戦いについて話しました。
「迷い子のなかに女の子はいないの?」 ウェンディはききました。
「いないよ、女の子はお利口さんなので、乳母車から落ちないんだ! お話をしてくれたり、服を縫ってくれたりするようなお姉さんやお母さんは1人もいないんだ」 と、抜けめのないピーターは言いました。

 「まあ、かわいそうに!」 心のやさしいウェンディは叫びました。「私はいっぱいお話も知っているし、服も縫ってあげられるわ」
これこそまさに、ピーターが望んでいたことでした、ウェンディと弟たちをいっしょに、ネバーランドへ連れていくのです。彼はみんなに、飛び方を教えてあげると約束しました。
庭の鎖につながれていたナナは、ひどく興奮してほえていました。何かがおかしい、と感づいていたのです。とうとうナナは、鎖を引きちぎると、道をかけのぼって、パーティのある家まで走っていきました。ナナがあまり大さわぎをしたので、ダーリング夫妻が出てきました。そして、みんなでできるだけ速く、道をかけおりてきました。
このころには、ピーターは子どもたちに魔法のちりをふりかけて、飛び方を教えていたのです。
「ただ肩をゆすって、力を抜くだけでいいんだ!」 彼は部屋じゅうを飛びまわりながら叫びました。1人1人、子どもたちはベッドから飛びたち、彼の後についていきました、初めは、ちょっとぐらぐらして不安定でしたけれども。
マイケルが 「飛べた! 飛べたよ!」 と叫びました。

 ジョンは 「ねえ、見て!」 と言って、天井にぶつかっていました。彼はよそいき用のシルクハットをかぶっていて、とてもおかしく見えました。
「まあ、すばらしいわ!」 ウェンディが、風呂場のあたりの空中で叫びました。
ダーリング夫妻とナナは、通りを走ってきて、子ども部屋の窓にあかりがついているのを見ました。カーテンに、ねまきをきた3人の小さな影がくるくるまわっているのがうつりました、それも床の上ではなく、空中でです! いいえ、3人ではありません、4人でした!
みんな急いで上にあがり、部屋へとびこみましたが、もう遅かったのです。ピーターが 「ついておいで!」 と言って夜空の中へ飛びだし、ジョン、マイケル、そしてウェンディが後を追っていたのでした。

〈飛行の旅〉

 ピーターはウェンディに、ネバーランドへ行くのは簡単だと言っていました。
「2番目の道を右にまがって、あとは朝までまっすぐさ!」
でも、それはたいへん時間のかかることのように思えたし、ウェンディは、本当にピーターは道を知っているのかしらと思いました。
最初のうち、飛んでいるのはとてもおもしろいことでした。教会の高い尖塔のまわりをまわったり、雲や星の中で競争したり。でも、どんどん行くにつれ、3人は疲れてきました、それに、ねまきで飛ぶのは寒いことだったのです。おなかもすいていました。ピーターは、通りかかった鳥のくちばしから食べものをとってくれたのですが、それは、普通の食べものではありませんでした。
今度は海の上を飛びましたが、それには新たな危険がありました。もし眠ってしまえば、まるで石のように波の中へ落ちてしまうのです。ピーターは、これはとってもおもしろい、と思いました。彼は、マイケルが海に落ちようとする最後の瞬間まで待っていて、それから急降下して助けにいきました。(ずいぶんあざやかなことだけれど、不親切だわ、とウェンディは思いました)。

 ピーターはいろいろ見せびらかし、人魚や星とおしゃべりするために遠くへ飛んでいって、みんなを置き去りにしたりしました。でも最後には、いつももどってきたので、みんな彼の後を、ときどき雲にぶつかりながらついていきました。
それからやっと一行は、下にネバーランドをみつけたのです! 日の光が何万もの金の矢となって、それをさしていました。もうそれは、想像どおりの島でした。湾や原住民たちのテント小屋、そして野生の動物たちが見えたのです。
ところがそのとき、日がかくれてしまい、すべてが闇につつまれて恐ろしげになりました。3人は、子ども部屋にもどって、ナナや終夜燈のそばにいた方がよかったなと思いはじめていました。一行は、木のてっぺんを通り抜けて低く飛んでいました。何かが子どもたちを持ちあげているような、島から遠ざけようとしているような、奇妙な感じがありました。
「あいつらは、ぼくたちに島に着いてほしくないんだ!」 と、ピーターが目を光らせて言いました。
「誰が?」 ピーターは答えませんでした。
「まず冒険がいいかい? それともお茶にする?」 ピーターがききました。
「この茂みの中に、海賊が寝ているんだ。もしよかったら、ちょっと行ってやっつけてくるよ!」
「お茶の方がいいです!」 と、ジョンがおずおずと言いました。

 それからピーターは、海賊と、その恐れられているリーダー、キャプテン・フックの話をしました。みんな、フックのことはきいていました、スパニッシュメイン (カリブ海の南北東岸に沿う海域で、昔海賊がよく出た) にいつも航海している、もっとも残忍な海賊だと。
「ぼくは、やつの右手を切ってやったんだ!」 と、ピーターは誇らしげに言いました。
「それじゃあ、もう戦えないの?」 ウェンディが聞きました。
「いや、戦えるよ──手のかわりに鉄のかぎをつけて、まるでつめのように使うのさ!」
子どもたちはふるえあがりました。
「1つだけ約束してくれなくちゃいけないよ」 と、ピーターは目をきびしく光らせて言いました。「もしキャプテン・フックと真正面からわたりあうことになったら、ぼく1人にまかせてくれ」
ちょうどそのとき、ティンカーベルが飛びたち、警告をチリンチリンと鳴らしました。海賊が、大きな長距離砲の 「ロングトム」 をつみこみ、撃とうと待ちかまえていたのです。ティンカーの光によって、海賊は、ピーターとその仲間がどこにいるかわかっていたのでした。そこで子どもたちは、ティンクをジョンのよそいきのシルクハットにかくし、ウェンディが持ちました。
突然、ドカン! という、ものすごく大きな音がしました。大砲がぶっぱなされたのです。この一発でみんなひっくり返ってしまい、離ればなれになってしまいました。ティカーベルとウェンディは、他の人たちから分れてしまったのです。

 ティンカーベルにとって、これは大きなチャンスでした。彼女はウェンディをきらっていて、追っぱらってしまいたかったのです。そこでティンクは、さも友だちのような顔をして、美しい鈴のような声で、ウェンディをまったく違う方向へ連れ去っていきました。

〈島、現る〉

 さて、ピーターがもどってきたということで、ネバーランドは活気づきました。迷い子たちは、リーダーを探しに出発しました。海賊は迷い子たちを探していました。インディアンたちは、海賊にこっそり忍び寄り、野生の動物たちは、インディアンの後をつけていたのです! みんな、島をぐるぐるまわり、お互い誰にも追いつきませんでした。
迷い子たちは6人いました。トートルス(運の悪い子)、ニプス(明るい子)、スライトリー(うぬぼれやさん)、そして、いたずら小僧のカーリーです。カーリーは、しょっちゅうもめごとを起していたので、しまいには、彼のやったことでないことまで認めていたのです! そして最後にふたごがいました。6人は短剣をにぎりしめて、茂みのうしろで一列になって、足音を忍ばせて歩いていきました。

 それから海賊がやってきました、黒いひげをはやし、恐ろしげな顔をしていました、ある者は金貨のイヤリングをしたり、またある者は、体じゅうにほりものをしていました。みんな、スパニッシュメインで恐れられている、悪名高き悪漢どもでした。それぞれ、チェッコ、ビル・ジュークス、スカイライト、そして紳士のスターキーという名前がついていました。一番の悪いやつは、水夫長のスミーでした、なぜなら、おとなしそうで、優しそうに見え、眼鏡をかけていたからです。彼は、ジミー・コークスクリューという名のそり身で幅広の短剣を持っていて、相手の傷口にグリグリとさしこむのに使っていました。
彼らのリーダーである、キャプテン・ジャス(ジェイムスの省略形) フックは、なかでも一番腹黒い悪漢でした。彼は、何ものも恐れませんでした。ただ、汚い色をした彼自身の血を見ることだけは別でしたが。彼は、手下のものたちを、まるで犬のように扱い、変ったキセルを使って、一度に2本のたばこを吸うのでした。
フックは、黒ずんでやせていて、しかめつらをしており、まき毛の長くて黒い髪を持っていました。彼は自分で、チャールズ二世に似ていると思いこんで、いつも彼と同じような服装をしていました。目はブルーで、その中のひとみは赤く狂気をおびていて、彼の手のかぎを使うときは、いつもギラギラと光っていました。

 もし手下の誰かがやっかいなことを起せば、彼の鉄のかぎが振り下ろされるのです。何かが裂ける音、悲鳴が一声、それから死体が放り出されるのでした。フックは、口からたばこを取り出すことさえしませんでした。この人こそピーターの最大の敵だったのです。
海賊たちの通ったあとに、戦いに備えてまさかりを持ったインディアンたちが忍びよってきていました。インディアンたちの体は、油と絵の具で光っていました。彼らの首長は 「偉大なる大きな小豹」で、タイガーリリーが王女でした。彼女は美しく誇り高い少女で、どんな戦士にも負けないくらい勇敢だったのです。
その次は、野生の動物の行列がやってきました、人食いライオン、トラなど、みんなえさを求めて、舌を突きだしていました。一番最後には、ものすごく大きなワニもいました。
迷い子たちは、森の中の、地下の家にたどり着きました。この家は、7本の高い木の根の下に掘られたほら穴でした。それぞれの木の幹に穴があいていて、それは、1人の男の子がもぐりこめるくらいの大きさでした。

 これは、ほら穴の入口でした。入口は、男の子たち1人に1つずつあり、ピーターパンのもありました。今のところはまだ、海賊はこれをみつけていないようでした。
海賊は、木々の間を逃げていくニブスをつかまえようとしましたが、フックがとめました。
「やつらを残らずつかまえたいんだ。1人じゃだめだ!」 と言って、手下どもが森の中を探すのを、大きなキノコに腰かけて待っていました。
フックはスミーに、自分はピーターを憎んでいる、なぜなら、あいつはおれの手を切り落したからだ、と言いました。
「やつは、おれの手を通りがかりのワニにくれてやったんだ」 フックはうなりました。ワニのやつ、それが気に入ったみたいで、それ以来、後をつけまわして、おれの体の他の部分も食っちまおうと舌なめずりしているんだ! 何回も食われそうになったんだが、幸い、やつは時計を飲みこんじまったんだ。その時計がコチコチ、というので、やつが来るのがわかり、逃げられたというわけさ」
「いつか時計はとまって、ワニのやつがおかしらを食っちまいますよ!」 と、スミーは言いました。
「そうよ、そいつを恐れているのさ」 フックは言いました。
突然、フックは飛び上がりました。「おれのコートのしっぽが! 燃えちまう! このキノコは熱いぞ!」 と、彼は叫びました。
すぐにフックは、そのキノコは本当は、ほら穴の煙突なんだ、と気づきました。少年たちはいつも、敵が近くにいるときは煙突をこのキノコでかくしていたのでした。
そのとき、フックの耳に、聞きなれた音がきこえてきました。
コチコチコチコチ──ワニです!
フックとスミーはすっとんで逃げていきました、それから少年たちがかくれ家から出てきました。ニブスが、空を指さしながら、走ってもどってきました。大きな白い鳥のようなものがこっちへ飛んでくるというのです。
それは、実はねまきを着たウェンディだったのですが、みんなそんなことは知りませんでした。
ティンカーベルが、ウェンディのまわりを飛びながら、彼女をあざができるほどつねっていました。ウェンディは 「かわいそうなウェンディ!」 と、1人で嘆いていました。
「ウェンディなんて鳥いたかな?」 ニプスが聞きました。
「おーい、ティンク!」 少年たちは大声でよびました。
ティンクは 「ピーターは、ウェンディを矢で射ってほしいと言っているわ」 と返事しました。
少年たちは、いつもピーターの言うとおりにしていたので、急いで弓矢を取りにいきました。トートルスが一番最初にもどってきました。「早く、トートルス、早く!」 ティンクは叫びました。「ピーターはきっと喜ぶわ!」
トートルスは弓に矢をつがえました。そして、放ちました。ウェンディは、胸に矢をさしたまま、パタパタと地面に落ちました。

〈小さなお家〉

 少年たちは、射落した鳥を見に集まってきました、 そしてすぐに、それが女の人だったことに気づいたのです。
「やっと面倒をみてくれるお母さんが来たんだ。それなのにトートルスが射落しちゃったんだ!」 ふたごが言いました。
これもすべてトートルスの不運のうちの1つだったのです。彼は逃げてしまいたかったのですが、ちょうどそのとき、ピーターがやってきました。
「お母さんを連れてきたんだよ!」 彼は自慢げに言いました。

 「見かけなかったかい? こっちへ飛んできたはずなんだけど」 迷い子たちは道をあけて、ウェンディを見せました。
「死んじゃってる!」 ピーターはきびしい声で言いました。「誰がやったんだ」
「ぼくだ!」 と、トートルスは勇気をもって言いました。「さあ、ぼくを殺してくれ!」
ピーターが矢を取りあげると、ウェンディが手をあげました。「かわいそうなトートルス!」と、彼女はうめきました。
「生きているぞ!」 ピーターは叫び声をあげました。矢は、 ウェンディの首にかかっている、どんぐりのボタンにささり、一命をとりとめたのです!
「ティンクに耳を傾けてごらん」 カーリーが言いました。「ウィンディが死ななかったものだから、泣いているよ」
みんなはピーターに、ティンカーベルが何をしたかを話しました。
「どこかへ行ってしまえ、ティンカーベル、永久にね!」 ピーターはどなりました。「もうぼくは、おまえの友だちなんかじゃないんだ!」
でも、またウェンディが手をあげたのです。
「まあ、永久じゃなくてもいいよ──1週間だ!」 ピーターはかわいそうになって言いました。
ティンカーベルは、これで感謝の念を持ったと思います? いいえ、とんでもない! 今ほどウェンディをつねってやりたいと思ったことはなかったのです。妖精というのは、おかしな生きものですね。
さあ、ウェンデイにみんなは、何をしてあげられたでしょう? ほら穴の中へ連れていくことはできません。
「そうだ!」 ピーターが言いました。小さな家を作ってあげるんだ!」
少年たちはすっとんでいって、小枝や敷きわら、そしてたき木を取ってきました。マイケルとジョンもいっしょに来ました。

 緑のこけのカーペット、赤い壁にドアや窓など、少しずつ家はできあがっていきました。まわりにはバラも植えました。
そのとき、ピーターが 「煙突はどうした?」 と言いました。
そして、ジョンのよそいきのぼうしのてっぺんをうち抜いて、屋根に取りつけたのです。煙突はすぐに煙をはきだしました。ピーターがドアをノックすると、ウェンディが出てきました。
「これが君の小さなお家だよ!」 ピーターは言いました。
「そして、ぼくたちはみんな、あなたの子どもなんだ!」 と、迷い子たちは言いました。
ウェンディはにっこりしました。「入っていらっしゃい。シンデレラのお話をしてあげましょう」 と、彼女は言いました。

〈地下の家〉

ピーターは、新しく来た人たちのために、木を測って、ぴったりした穴を作ろうとしていました、そうすれば、いつでも好きなときに、ほら穴の中へ下りていくことができるからです。
ほら穴は、1つの大きな部屋になっていて、まん中に生えていたネバーの木を切ってテーブルにしていました。(この作業は、毎朝やらなければなりませんでした、一晩ですぐのびてしまうからです)。

 ウェンディは、部屋にひもをわたして、洗たくものをかけました。壁には、大きなベッドがぶらさがっていて、夜になるとそれは下へおろされました。迷い子たちはそのベッドで、まるでかん詰のイワシのようになって寝ていたのです。
ティンカーベルは、小さなカーテンで仕切られた、小さな自分の部屋を持っていました。部屋は、長いす、化粧台、そして鏡などで、すてきに飾られていました。ガラスのシャンデリアもありました、彼女は、美しい部屋を、自分自身の光で照らしていましたけれど。
ウェンディが全部、食事の仕度をしました。みんなで、豚の丸焼き、パンノキの実、そしてバナナなどの島の食べものを食べました。ウェンディは夜、子どもたちがみんな寝てしまった後、火のそばでみんなのくつ下を縫うのが好きでした。
何週間もたつうちに、ジョンとマイケルは、ウェンディが本当のお母さんではないんだ、ということを忘れはじめました、ウェンディがどんなに思いださせようと頑張ってもだめでした。
こうした日々のうちにも、少年たちはピーターに連れられて、冒険に出かけてしまいました、でもここでは、それについてほんの少ししか話す時間がありません。

〈人魚の湾〉

 島のはずれには、あざやかな青色をした湾があって、そこでは人魚たちが泳いだり、浜にうち寄せる波の音が聞えたりしていました。人魚たちは、長い髪をとかしたり、子どもたちが近くにくると、尾で水をはねたりして、岩の上でのんびりしていました。にわか雨の後には、海の虹色の泡であそぼうと、浮かびあがってきました。月の晩には、不思議な悲しみの歌をうたいました、こういう晩に、湾に近づくのは危険なことだったのです。
ネバー鳥が浜辺近くの木に巣を作っていて、6個の卵を産みました。ある日、巣が落ちてしまい、湾の方へ流されていったのです。母鳥はそれでも巣にすわり続け、まるで小さなボートのように、巣の中にすわって漂っていました。ピーターは少年たちに、鳥のじゃまをしないよう言いつけました。
海に突き出して、1つの大きな黒い岩がありました、それは、満ち潮のときにはいつも水をかぶっていました。

 海賊が、よくそこに囚人を縛りつけておいて、おぼれさせていたので、その岩は 「島流し人の岩」 とよばれていました。
ある日の午後、ウェンディと少年たちがその岩の上で昼寝をしていると、暗い影が集まってきました。日がかげり、湾は冷たく、敵意に満ちたものになってきていました。ウェンディは、恐がったりしないよう努めました、ボートが近づいてくる音を聞いたときでもでず。
いつも警戒していたピーターは、危険をかぎとりました。そして 「海賊だ! みんな海へ飛びこめ!」 と叫びました。
次の瞬間には、岩の上にはもう、人っ子1人いませんでした。
スミーとスターキーがこいでいる、海賊の小舟が近づいてきました。海賊たちは、タイガーリリーをつかまえたのでした、タイガーリリーは、口にナイフをくわえて、海賊船に乗りこもうとしたところをつかまってしまったのです。海賊たちは、彼女の手足を縛り、あの岩の上に置きざりにして、おぼれさせるつもりでした。彼女は何の恐れも見せてはいませんでした。首長の娘でしたから。
ピーターは、タイガーリリーを助けてやりたいと思いました、それと同時に、少し楽しんでやろうとも思いました。彼は、キャプテン・フックの声をまねすることができたのです。「おーい、そこのひよっこ水夫ども! そのインディアン娘を放してやれ!」 と、よびかけました。
「でもキャプテン、あなたはさっき……」 と、スミーが言いかけました。
「すぐにだ、わかったか?」 ピーターは叫びました 「さもないと、わしのかぎをおみまいするぞ!」
「キャプテンの言うとおりにした方がよさそうだな!」 スターキーが緊張したようすでつぶやきました。

 そこでタイガーリリーのひもを切ってやると、彼女はまるでうなぎのように、海の中へすべりこんでいきました。
突然、海の向こうから叫び声が間えてきました。「おーい、そこのボート!」 それは、2人の海賊のところへ行こうと泳いできた、本物のキャプテン・フックでした。スミーがカンテラをかかげると、水をポタポタたらしながら海から上がってきたフックの残忍な顔が、ウェンディには見えました。フックは、ピーターとその仲間をつかまえるための計画を話そうと、やってきたのでした。
「やつらに、面倒をみてくれる母親ができたんじゃ、もう勝ち目はない!」 彼は憂うつそうに言いました。
「そうだ! ウェンディをつかまえれば、彼女をおれたちの母親にさせられますぜ!」 と、スミーが言いました。
(ウェンデイは 「絶対いやよ!」 と言いそうになり、あやうくみつかるところでした)
「そいつはすばらしい!」 と、フックは目を光らせながら言いました。
「でもまず、少年たちをつかまえて、板の上を歩かせてやらなけりやな!」
そのときフックは、タイガーリリーのことを思いだしました。そして、手下どもが彼女を放したことに、カンカンに怒りました。「そんな命令はしていないぞ!」 彼は言いました。
そして、あの不思議な声のことを聞くと、フックは恐ろしくなってしまいました。「こよい、この暗い湾にとりついている霊よ、私の声が開えますか!」 と、フックは海に向かってよびかけました。

 ピーターは黙っていることができませんでした。「がらくたどもめ、しっかり聞いているともさ!」
「あなたは誰ですか?」 フックはかすれ声で聞きました。
「おれは、ジョリーロジャー船のキャプテン、ジェームズ・フックだ」
「あなたがフックなら、私は誰なんです?」
「おまえはタラだ!」
フックはこの侮辱に真青になりました。そしてだんだん、誰がいたずらをしているのかがわかってきたのです。「あなたは少年ですか?」 彼はよびかけました。
「当ててごらん」 と、ピーターは大得意で言いました。
「あなたはすばらしい少年でしょう?」フックは巧みに聞きました。
「そうだ、そうだ!」 と、ピーターは自慢して言いました。「そうだとも! ぼくはピーターパンだ!」
ただちにフックは、手下どもに攻撃するよう命じました。「海に飛びこめ! やつをつかまえろ、生かしてでも殺してでもかまわん!」

 ピーターが少年たちに口笛で合図すると、手に短剣を持った8人の少年たちが助けにやってきました。少年たちはよく戦いました。まもなくスミーとスターキーは、トートルスやカーリーやジョンに打ち負かされて、命からがら海賊船まで泳いでもどりました。
ピーターは少年たちに、フックは自分にまかせると言っていたので、みんな、海賊の小舟に乗って浜にもどりました。
ピーターとフックは、息をするために、同時に浮きあがってきました、そして、ちょうど 「島流し人の砦」 の反対側から顔を出し、お互いの厳しい顔をみつめあっていたのです。2人は岩にはい上がり、ピーターは、フックのベルトからナイフを抜きとりました。それから彼は、正々堂々と戦えるよう、フックに手をかしました。ところが、卑法なフックは、ピーターの手にかみついたのです。ピーターはこの卑怯な行為にひどくショックを受けてしまい、すきを見せてしまいました、そしてその間に、フックは二度もかぎづめでたたいたのです。

 潮が急激に満ちはじめていたので、フックは船に向かって泳ぎだしました、ピーターを傷ついたまま置き去りにしてです。そのときウェンディが、何とか岩の上にはい上がり、ピーターの腕の中にたおれかかりました。
「もう島まで、泳いでも飛んでもいけないや! 君は疲れきっているし、ぼくはけがをしているんだもの」 と、ピーターは言いました。
「私たち、ここでおぼれてしまうの?」 ウェンデイが聞きました。
ちょうどそのとき、何かが軽くピーターに触れました。それは、けさマイケルがなくした、凧のしっぽで、湾をわたって飛んできたのでした。
「これで1人運べるぞ!」 ピーターは叫んで、しっぽをウェンディにまきつけました。それから彼女を押しだすと、彼女は空へ舞いあがっていきました。
ピーターは、岩の上で1人、とり残されてしまいました、岩は今や、もうほとんど満ち潮でおおわれていました。もうすぐ彼はおぼれてしまうでしょう。彼には、人魚たちが月に向かって悲しみの歌をうたっているのが聞こえました。心臓が太鼓のように鳴りました。妙な笑みが彼の顔に浮かびました。彼はこう思ったのです──「死ぬのは、ものすごい冒険だぞ」 と。
でも、ピーターは死ななかったのです! ネバー鳥が巣に入ったまま近くを通りかかり、彼を助けたのです。彼がほら穴に帰ると、 そこに、キャンプの火がちらちらしているのを見ました。ピーターが、タイガーリリーを助けてあげたので、インディアンたちが、少年たちを海賊から守りにきてくれていたのです。もはや、インディアンたちは、彼のためなら何でもするつもりになっていました。

〈ウェンディのお話〉

 安全なほら穴の中で、子どもたちは、お茶会ごっこをするために集まりました。みんなとても興奮してしまって、けんかを始めたので、ウェンディはみんなを静めるために、お話をしようと思いました。
そのとき、ピーターがもどってきました。彼はワニのところへ、正しい時間をききにいっていたのでした。
「お話の時間より」 ウェンディは言いました「そして彼女はお話を始めたのですが、それはピーターのきらいなお話でした。それは、ナナという子もりのついた3人の子どもたちのお話で、どうやって3人がある晩家をとびだしたか、そしてどんなに両親がさびしがったかといったものでした。
「からっぽのベッドを見たとき、2人はどんなに悲しんだでしょうか!」 彼女は言いました。

 それから、次が、ピーターの一番きらいな部分でした。彼女は、母親というものがどれほど子どもたちを愛しているかを話すのです。「お母さんは、子どもたちが飛んで帰れるように、いつも窓を開け放しておいたの。だから、子どもたちは、何年も遠く離れて、楽しむことができたのよ」
ピーターはひどく興奮していました。「ウェンディ、お母さんたちについて、君はまちがっているよ!」 彼は言いました。それから彼は、自分が家に帰ったときのことを話しました。「ぼくは、君が考えたと同じように、ぼくのお母さんもいつもぼくのために窓を開け放しておいてくれていると思っていたんだ。だからぼくは、何年も遠く離れていたんだ。でも、ぼくが飛んでもどったとき、お母さんはぼくのことなんか忘れていたんだよ。窓は閉められていて、ぼくのベッドには、別の小さな男の子がいたんだ」
マイケルとジョンが泣き出し、ウェンディは2人をなぐさめました。2人とも、自分のお母さんも、2人を忘れてしまうのではないかと不安だったのです。2人はウェンディに、家へ連れて帰ってくれるよう頼みました。

 迷い子たちも、いっしょに行きたがりました、そこでウェンディは、ダーリング夫妻に、みんなを養子にしてくれるよう頼んであげると約束したのです。
ピーターの心は、とても傷ついていました、でも彼は誇り高い少年だったので、そんなようすは見せませんでした。ウェンディの気持ちにそむいて、彼女をここへとどめておくわけにはいきません。そこで彼は、何とも思っていないふうに装いました 「インディアンに森の中を連れていってもらうことにしよう、それから海をとんでわたるときは、ティンカーベルが案内できるだろう」
「でも、あなたも来るんでしょう?」 ウェンディは言いました。
「いいや、とんでもない! 大人にさせられてしまうもの。ぼくはいつまでも少年でいて、楽しみたいんだ!」
ピーターは握手をしました。彼はウェンディに 「指ぬき」 さえしてあげませんでした。
ウェンディは、薬を目盛のところまで入れると (それは単なる水でしたけれど)、彼はベッドのわきにあるたなに、そのコップを置きました。「ちゃんと飲むと約束してちょうだい!」彼女は、 母親のような口調で言いました。
「約束するよ! 連れていっておやり、ティンカーベル!」 と、ピーターは命じました。
ティンクは、近くの木まで矢のように飛んでいきましたが、誰もついていきませんでした。なぜなら、ちょうどそのとき、海賊がインディアンにひどい攻撃を加えたからです。あたりは悲鳴やわめき声や、金属のぶつかりあう音で満ちていました!
地下の家では、しんと静まりかえっていました。ウェンディはひざまずき、少年たちはみんなピーターの方を向き、手をさしのべていました、そうして、自分たちを見捨てないでと頼んでいたのです。ピーターは、たよりの剣を取ると、戦いにいきごみを見せていました。

〈子どもたち、連れ去られる〉

 フックとその残忍な手下どもは、インディアンにふいうちをかけて、夜おそってきました。誰もが知っているように、攻撃は夜明けと決まっていたのです、だから、海賊は、卑怯な先制攻撃をかけたのです。タイガーリリーと、少数の戦士が最初に彼らをみつけました。武器をつかむと、ときの声をあげたのですが、すでに遅かったのです。
一族はほとんど全滅しかかっていました。首長とタイガーリリーと、少しの戦士だけが戦いながら逃げのびることができたのです。
フックは、手下どもから少し離れて、勝ち誇って立っていました、手下どもは、短剣の血をぬぐうのに忙しくしていました。でも、夜のうちにやってしまう仕事はまだ終っていなかったのです。ピーターパンへの憎しみが、フックのどす黒い胸の内にありました。
海賊のなかで、木の幹の穴を下りていけるほど細い者は、1人もいませんでしたが、地下で少年たちが話していることは聞こえたのです。

 「どっちが勝ったのかな、インディアンかな、それとも海賊だろうか?」
「もしインディアンが勝ったのなら、タムタムを鳴らすはずだ」 と、ピーターは答えました。
フックは、タムタムに腰かけていたスミーに合図しました。スミーは残忍な笑いを顔に浮かべて、タムタムを二度鳴らしました。
「インディアンの勝利だ!」 ピーターは叫びました。
少年たちは元気づいて、ほら穴を出発するために荷物を取り上げると、ピーターに最後のお別れをしました。
少年たちが上がっていくと、1人ずつ海賊につかまえられて、手から手へとわたされ、フックのもとへ送られました。そこでさるぐつわをはめられ、にわとりのように手足を縛られてしまいました。
ウェンディだけが大切に扱われました。フックは恐ろしく丁重に帽子をぬいであいさつし、手をさしだすと、他の人たちのところまでエスコートしていったのです。

 海賊は、子どもたちを、小さなウェンディの家に押しこみました。4人がそれを肩にかついで、ジョリーロジャー船まで持っていきました、あとの者は少し遅れて、あの悪意に満ちた海賊の歌をうたいながらついていきました。
フックは1人残っていました。彼は、注意深く木々を見まわし、そのうちの1つが他のものよりもくぼんでいるのをみつけました。それは、何とか、体を押しこむことができるほどのものでした。下におりていったところで、彼はドアを開けることはできませんでしたが、のぞきこむためのすきまをみつけたのです。中で、ピーターが、大きなベッドの上で安らかに眠っているのが見えました、そして、ほんの少しの間だけ、フックの冷たい心は動揺しました。それから彼は、なんとか手の届くところにあったコップの薬をみつけだしました。
フックはいつも、恐ろしい毒を持ち歩いていました。すきまから手をのばすと、コップの中にそれを5滴入れました。
彼は、悪魔のように、木をのぼって出ていきました。そして、帽子を目深にかぶると、黒いコートに身をつつみました。そして、ひとりことを言いながら、木立の中へこっそり消えていきました。

〈妖精を信じますか?〉

 ピーターはその夜、10時まで眠り続けました。そしてドアの小さなノックの音で目を覚したのです。
それは、泥だらけになって、顔をまっ赤にしたティンカーベルでした。
彼女はピーターに、ウェンディと少年たちがつかまって、海賊船に連れていかれたと言いました。
「助けにいくぞ!」 ピーターは叫ぶと、剣をつかみました。「でも、まず薬を飲まなくちゃ!」
「だめよ! だめよ!」 と、ティンカーベルは金切り声をあげました。「毒が入っているんだから!」 彼女は、フックが森の中をそっと逃げていくときにひとりごとを言っていたのを聞いていたのです。
「どうしてそんなことができるんだい? 誰もここまで来なかったよ」と、ピーターは言いました。
彼は、コップを口に持っていきました。勇敢なティンカーベルはコップと口の間に飛んでいくと、一気に毒を飲んでしまったのです。
「本当に毒が入っていたんだわ!」 彼女は叫びました。「私は死んでしまうわ!」

 「ああ、ティンク!」 ピーターはあえぎました。「ぼくを助けるために飲んでしまったのかい?」
「そうよ!」
「でもなぜ?」
「おばかさんね」 ティンクはかわいらしくそう言うと、自分の小さな部屋の小さな長いすまで、弱々しくははたいていきました。そこにあえぎながら横たわっているうちに、彼女の光はだんだん弱くなっていきました。そしてまもなく消えてしまったのです。
彼女は何かささやいていました。ピーターは聞きとろうと、かがみました。「もし十分な数だけの子どもたちが妖精を信じてくれるなら、私はまたよくなるかもしれないわ!」
ピーターに何ができたでしよう? もう子どもたちは寝てしまっています。
そのとき、彼は、ネバーランドの夢をみている子どもたちのことを思いつきました。
そして 「もし妖精を信じているなら手をたたいておくれ! かわいそうなティンクを死なせないで!」 と、よびかけました。

 しーんとしていました。それからかすかに、手をたたく音がパラパラとしました。それはだんだんと大きくなり、ほら穴いっぱいになったのです。
すると、始まったのと同じように突然、それはやみました。でももうティンクは助かっていました。声もしっかりしてきていました。そして今までと同じくらい、元気に部屋の中を飛びまわりました。
「さあ、今度はウェンディを助けなきゃ!」
ピーターは木の中をのぼって、月の光が照っている森の中へ出ていきました、危険な探索へ出発です。あたりには誰もいませんでした。ただ1匹のワニだけが決して眠らずに、地面をはいつくばっていました。
ピーターは恐ろしい誓いをたてたのです──「今度こそ、フックかぼくかだ!」

〈海賊船〉

 ジョリーロジャー船は、河口にとめられていました、海賊船は、ななめになったマストをたて、船尾にグリーンのあかりを1つつけた、汚い船でした。疲れきった海賊は、甲板に寝そべったり、樽の上にかがみこんで、トランプをやったりしていました。フックはというと、つまらなさそうに行ったり来たりしていました。彼は、自分の野望を達したには違いなかったのですが、自分が誰からもきらわれ、恐れられていることがわかっていたからです。
腹立ちまぎれに、少年たちを船倉からひきずりだしてくるよう命じました。そして、少年たちに、もし給仕として手下に加わるなら、2人だけ助けてやってもいいと言いました。
「後の6人は、板の上を歩いてもらわねばならんのだ!」 彼は、たばこをプカプカふかしながらわめきました。

 少年たちは、勇敢にも、この申し出を断ったのです。
「手下になっても、国王のもとの、自由な臣民でいられるの?」 ジョンはききました。
「おまえは『王なんかやっつけろ!』と言わねばならんね」
「じゃあ、ぼくたちは断る!」 というのが返事でした。
「板を持ってこい!」 フックはどなり声をあげました。「それからこいつらの母親も連れてくるんだ!」

 ウェンディは、少年たちが死の待つ塩辛い海へと歩かされるのを見るために、連れてこられたのです。
「おまえさんの子どもたちに、何か最後に言うことはないかね?」 と、フックはあざ笑いました。
ウェンディは、海賊たちを軽べつしました。そして、きっぱりと言ったのです。「あなたたちのお母さんはきっと、真のイギリス人らしく、勇敢に死ぬようにと望んでいるわ!」
「彼女をマストに縛りつけておけ!」 フックはどなりました。
少年たちの目は、板に注がれていました。歩くのもこれが最後です。あたりは、ぞっとするような静けさにつつまれていました。そしてそれは、不思議な音によってやぶられたのです──ワニのコチコチコチコチ、でした! 
みんなフックの方を見ました。この冷酷な男は、恐怖におののいていました。音はだんだん近づいてきます。フックは甲板にひっくり返りました。
そして、できるだけ遠くへはいずりながら、手下にしわがれ声で叫びました 「おれをかくしてくれ! かくしてくれ!」
手下どもは、彼のまわりを囲みました。少年たちは船べりをのぞいてみて、みつけたのです──ワニではなく、ピーターパンを! コチコチ言っていたのはピーターだったのです!

〈今度こそ、フックかぼくかだ〉

 ワニの時計はとうとうこわれてしまい、ピーターがそのまねをしていたのでした。彼は少年たちに、黙っているように合図し、甲板の上にすべりこむと、キャプテンの船室にかくれました。
コチコチ音がやんだので、フックはまた気を取り直しました。そして、少年たちをむち打ちのために一列に並ばせると、ジュークスに言って、彼の船室から 「9本のひも付きむち」を取りにいかせました。ジュークスは暗い部屋に入っていきました。それから、恐ろしい叫び声がして、続いてぞっとするような雄鳥の鳴き声がきこえました。ジュークスは、ピーターによって殺されたのでした!
続いてもう2人海賊が行ったのですが、やはり同じような目に会いました。
「誰かあのいまいましいオンドリッコめをつかまえてこんのか?」 フックはいら立ちました。このころにはもう、手下どもはみんな気遅れがしていたのです。誰も、あえて行こうとするものはいませんでした。

 そこでフックは、8人の少年を中へやりました。「あいつらに、お互い殺しあいをさせてやろう!」 と、フックは残忍そうに言いました。
これは、まさにピーターが計画していたとおりのことでした。彼は、船室でみつけた鍵で少年たちの鎖をはずすと、フックの武器をみんなにわたしました。それから、みんな、海賊がこちらに背を向けている間に、甲板をこっそりと抜けだしました。ピーターはウェンディを放してやると、かわりに自分が彼女のマントを着て、マストに縛りつけられていました。
そして彼は 「ワニよ」 と、すさまじい声をあげたのです。
海賊たちはうろうろしはじめました。「かぎの手を持っているキャプテンのいる船なんて、運の悪い船だ!」 みんなこう叫びました。
「これは女が乗っているからだ。あいつを海に投げこめ!」 と、フックはあわてて言いました。
「もう誰もあんたを助けてくれんよ、娘さん!」 と、少し優しい海賊の1人が悲しそうに言いました。
「ここに助けられる人間が1人いるぞ! それはピーターパンだ!」 ピーターはこう叫ぶと、マントを脱ぎすてました。

 激しい戦いが始まりました。長い剣と短い剣がぶつかりあい、何人も海に落ちました。スライトリーは11人まで数えていたのですが、まもなく、フックだけしか残らなくなりました。彼の剣は、炎の幹のようにきらめきました。
「こいつはぼくにまかせろ、みんな!」 ビーターは叫びました。
ピーターの腕は、フックより短かったのですが、彼の方がすばしこくて、すぐにフックに傷を負わせました。自分のみにくい血を見て、フックは真青になり、剣を落としてしまいました。彼は、火薬庫に火をつけて、船をふきとばしてしまおうと急ぎました。勇かんなピーターは飛んでいって彼の手からたいまつを奪いとると、海に投げこみました。
フックは、じりじりと追いつめてくるピーターから後ずさりし、手すりにのぼりました。ピーターは、彼をけとばそうと、ねらいをさだめました。
フックはバランスを失うと、海へとすべり落ちていったのです。

ピーターの後をついてきたワニはしんぼう強く、下で持っていました。
ワニは口を大きく開けると、フックの体を晩ごはんに食べてしまいました。

〈家へ帰る〉

 その晩、少年たちは、海賊船の作りつけ寝台で眠りました、そして翌朝、ウェンディはみんなに、船の端から端までみがかせました。それから、ピーターをキャプテンとして、故郷のイギリスへ出発したのです。
一方ロンドンでは、ダーリング夫妻は、いまだに、からっぽの子ども部屋と、いなくなってしまった子どもたちのことを嘆き悲しんでいました。
ダーリング氏にいたっては、すべては、ナナを鎖につないでしまった彼の責任であると確信していたので、償いとして、ナナの犬小屋で寝ていたのでした。彼は、仕事場に行くときでさえも、その中に入ったままでした。
ある晩、彼は、子ども部屋の犬小屋にもぐりこんで、とてもみじめな気分でいました。そこでダーリング夫人に、隣の部屋でピアノを弾いてくれるように頼んだのです。

 「窓を閉めてくれないか!」 彼は言いました。「この犬小屋は風通しがよすぎていかん!」
「そんなことできないのはわかっているでしょう、あなた!」 ダーリング夫人は言いました。「子どもたちが帰ってくるかもしれないのよ!」
夫人は、みんながこちらへ向かってきているなんて、夢にも思っていませんでした。ダーリング氏が寝てしまうまで、子どもの遊び部屋の方でピアノを弾いていました。
子どもたちはすでに海をわたってしまい、残りの少しの道のりを飛んでいました。ピーターとティンカーベルは、先頭を飛んでいました、ピーターには、あるたくらみがあったのです。2人は、開け放された窓を見て、飛びこみました。ピーターは、窓を閉めてしまうつもりだったのです、そうすればウェンディは、お母さんが彼女のことをもう忘れてしまったものと思い、いっしょにネバーランドへもどるかもしれないからです。
ところが、ダーリング夫人が涙を流して、悲しそうにピアノのところにすわっていました。

  「この人も、ウェンディを愛しているんだ!」 ピーターはみじめな気持で考えました。「2人が同時にウェンディをそばに置くことはできないし。どうするのがいんだろう?」 それから彼は言いました 「ああ、ティンク、おいで。みんなを中へ入れてあげよう」
こうして、ウェンディとマイケルとジョンは、子ども部屋にこっそり入りこみましたが、お父さんが犬小屋にいるのを見て、とてもびっくりしてしまいました。3人は、ベッドに入り、今までどこへも行かなかったようなふりをすることにしました。
だから、ダーリング夫人が、夫が寝ているかどうかを見に子ども部屋に来たとき、ベッドには、ちゃんと人が寝ていたのです! 夫人は、これは夢だと思いました。そのとき、子どもたちが夫人に話しかけたのです。夫人は、みんなを抱きしめました、そして、喜びをわかちあうため、夫とナナをよびました。

 ピーターパンは、他のどんな子どもたちも味わえないような、不思議な体験をたくさんしてきました、でも、今窓ごしに見ている幸せは、決して彼には味わえないものだったのです。
ピーターは、ある日もどっていきました。ダーリング夫妻は、迷い子たちを養子にしました、そして、ダーリング夫人は、年に1回、ピーターの春の大そうじを手伝いに、ウェンディがネバーランドに行くことを許しました。彼は、ウェンディの小さな家に住んでいたのです、その家は、彼のために、妖精たちによって、木のてっぺんに取りつけられていました。
ピーターには時間の観念があまりなかったので、毎年やってはきませんでした。あるとき、あまりに長いこと来なかったので、ウェンディは大人になってしまい、ジェインという自分の小さな娘までできていました。
もう、どうなったかおわかりでしょう! ジェインはピーターといっしょに行きたがりました、そして、ウェンディはそうさせてやったのです。
ピーターは、決して大人にならなかったので、ある年は、ジェインの娘が、彼といっしょに行きました。子どもたちと、ネバーランドと、そしてピーターパンがいるかぎり、こうしてずっと同じことが続いていくのです!


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