レディバードブックス100点セット
 

 

不思議の国のアリス

《ウサギの穴の中へ》

 アリスは草の茂った土手の上で、お姉さんのそばにすわっているのにあきてしまいました。何もすることがなかったのです。お姉さんは、さし絵も会話もない本を読んでいました。その本は、とてもつまらなさそうに見えました。
暑い日でしたので、アリスは眠くなりました。アリスは起きあがってヒナギクの首飾りでも作ってみようかと思いましたが、そのとき、ふいに、ピンク色の目をした白ウサギが彼女のすぐそばをかけていきました。
「こまった、こまった、遅刻しちゃう」と、白ウサギが言いました。ウサギはチョッキのポケットから時計を取り出してながめ、急いでかけていきました。アリスは今までに、チョッキのポケットを持っていたり、そこから取り出す時計を持っていたりするウサギを見たことはありませんでした。彼女はとび起きてそのあとを追いかけました、そして垣根の下にある大きなウサギの穴に、それがとびこむところにやっと間に合いました。アリスはウサギを追って穴にとびこみました、どうやったら穴から出られるだろうかとは考えもしないで。
ウサギの穴はしばらくトンネルのように続き、それから急に落ちこみました。

 アリスはとても深い井戸の中を落ちていきました。彼女はゆっくりと落ちていったので、あたりを見渡して、落ちていく途中にある棚や戸棚の上のいろいろな種類の面白いものを見る時間がありました。
「何千マイルくらい落ちたかしら」と、彼女は考えました。「私はきっと地球の中心の近くにいるのだわ。たぶん、地球をつき抜けて反対側まで落ちるのよ」
しかし、ちょうどそのとき、ドシン、ドシンと彼女は葉っぱの山の上に落ちました、どこにもけがはありませんでした。アリスには、ずっと前方の長い通路の向うはしに、白ウサギが急いでいるのが見えました。「おお、こまったぞ。たいへん遅くなっちゃうな」と、ウサギが角を曲がりながら言うのがアリスに聞こえました。

《金のかぎ》

 アリスが曲がり角についたときには、白ウサギの姿は見えませんでした。アリスが立っているのは、天井にランプのついた長い広間の中でした。まわりじゅうにドアがありましたが、それには、かぎがかかっていました。どうしたら彼女は外に出られるのでしょうか。
そのとき、ガラスでできた小さな3本足のテーブルが目に入りました。その上には金のかぎが置いてありました。しかしそのかぎは小さすぎて、どのドアにも合いませんでした。次にアリスは背の低いカーテンに気づきました。そのうしろには、たった15インチくらいの高さの小さなドアがありました。かぎはそのドアにぴたりと合いました。

 アリスがそのドアからのぞくためには、膝をつかなければなりませんでした。見たこともないような美しい庭に続く、小さな通路がありました。しかし、アリスは大きすぎて、その戸口に頭を入れることもできませんでした。「私が望遠鏡のようにちぢまればいいのになあ」と、彼女はひとりことを言いました。
彼女はガラスのテーブルのところにもどりました。おどろいたことには、前にはなかったびんがその上にのっていました。首のまわりにはってあるラベルには「おのみなさい」と、大きな文字で書いてありました。アリスは一口すすりました。それはおいしく、アリスの大好物をみんな合わせたような味がしました。そこで彼女はすっかり飲みほしてしまいました。
「なんだかへんな気持」と、アリスは言いました。「私は望遠鏡のようにちぢんでいるにちがいないわ」 たしかに彼女はちぢんでいたのです。やがて、彼女の高さはたった10インチほどになりました、小さなドアを通り抜けて美しい庭に行くのにちょうどいい高さです。
かわいそうなアリス、彼女はガラスのテーブルの上に金のかぎを忘れていたのです。今や、彼女は小さすぎて、それに手が届きません。彼女はすべすべしたガラスのテーブルの脚をよじのぼろうとしましたが、とうとう疲れ果てて、すわりこんで泣きだしてしまいました。

 まもなく、床の上に小さなガラスの箱があるのにアリスは気づきました。その中にはケーキがあって、その上には干しブドウで「お食べなさい」と書いてありました。
「たぶん、これを食べると大きくなるのよ」と、アリスは思いました。彼女はそれをかじり、しまいには全部食べてしまいました。

《涙の池》

 「へんだわ、ますますへんだわ」と、アリスは叫びました。「こんどは、世界一大きい望遠鏡みたいに伸びているわ」
彼女の足はずっと遠くにあったので、アリスは靴や靴下をどうやってはいたり、ぬいだりしたらいいかしらと思いました。それから、頭が天井にぶつかりました。アリスは9フィート以上の高さになっていたのです。

 彼女は小さな金のかぎをとりあげ、庭へ続くドアのところへ急ぎました。しかし、かわいそうなアリスは床の上に寝ころんで、片目で庭をのぞくことができるだけでした。彼女はすわりこんで、また泣きだしました。「おまえさんはなんと大きい赤ちゃんなのでしょう」と、彼女は自分を叱りつけましたが、泣きやむことはできませんでした。やがて彼女のまわりには、広間の半分くらいの深さの涙の池ができました。

《白ウサギがもどってくる》

 遠くの方でパタパタという足音がしました。アリスは涙をぬぐいました、すると、あの白ウサギがまた見えました。彼は扇と白い手袋を持って「ああ、侯爵夫人さま、ああ、侯爵夫人さま、こんなにお待たせして、お怒りにならないだろうか」と、つぶやいていました。
アリスは「どうか、手をかしていただけませんか」と、おずおずと言いました。しかしウサギは彼女を見ると、扇と手袋を落して、全速力で走り去ってしまいました。アリスはうさぎが落したものを拾いあげました。たいそう暑かったので、彼女は扇であおぎはじめました。なんだか変な気持になってきました。
「私はいつもの私とは全然ちがうわ」と、アリスは思いました。「たぶん、私はだれかほかの人になってしまったんだわ。学校で習ったことをまだ覚えているかどうか試してみましょう。4×5は12、 5×6は13……」と、彼女は言いました。「ロンドンはパリの首都で、パ,リはローマの首都で……そんなのちがってる。私はほかのだれかなんだわ」と、彼女はすすり泣きました。
やがて、白ウサギの小さな手袋をなんとか手にはめてしまったのにアリスは気づきました。「私はまた小さくなったんだわ」と彼女は叫び、庭園のドアのところへかけていきました。しかし、そのドアはしまっていて、金のかぎはガラスのテーブルの上でした。
「前より悪くなっちゃった」彼女は足をすべらせ、バシャンと音をたてて、涙の池の塩からい水にあごまでつかってしまいました。

《ネズミの話》

 アリスはやがて、池の中にいるのが自分だけではないのに気づきました。ネズミが少しはなれたところで泳いでいたのです。アリスにはそれが、カバと同じくらいの大きさに見えました。
「ねえ、ネズミさん」と、彼女はていねいに言いました。「この池から出る道を知っていますか」 ネズミは答えませんでした。
「たぶん、これはフランスのネズミなんだわ」と、アリスは思いました「そして英語が話せないのね」彼女は、学校で習ったフランス語の文章をたったひとつだけ知っていました。「ウ、エ、モン、シャ(私のネコはどこにいますか)」と、彼女は通じることを期待しながらたずねました。ネズミは水からとびあがりそうになり、おそろしさのあまりふるえあがりました。
「ああ、ごめんなさい」と、アリスはあやまりました。「ネズミはネコがきらいなのを忘れていたわ」
「あなたが私だったら、ネコやイヌが好きでしょうかね」と、ネズミは怒ってわめきました。
「きらいでしようね」と、アリスは言いました、そして彼らはいっしょに岸へ泳いでいきました。

 鳥や動物たちの妙な一団がそこに集まっていました。彼らは体をかわかすためにかけっこをしていました、アリスとネズミは彼らといっしょになりました。ネズミは息がつけるようになると、アリスになぜ「ネの字とイの字」がきらいなのかを話しはじめました、ネコやイヌがうろついていないかと、びくびくしてあたりを見渡しながら。
「私の話は長くて悲しいお話です」と、彼は言いました。
アリスは彼が話している間、彼のしっぽを見ていました。「たしかに長いわ、しかし、なぜ悲しいしっぽなのかわからないわ」と、彼女は言いました。(ネズミは“tale=話”だと言ったのですが、アリスは“tai=しっぽ”と聞いたのです) そこで、ネズミが話を始めても、その話はアリスの頭にこんなふうに聞えてきたのでした。
    家の中で会った
   とき、イヌが怒って
ネズミに言った
「いっしょに法廷
  へ行こう。おまえ
   をうったえるの
    だ。さあ来いよ、
    いやだとは言わ
   せないぞ、裁判だ
  けさはうまいぐ
あいにおれには
仕事がないのだ」
ネズミがイヌに
  言いました
   そんな裁判
    なんてひどい
    陪審員も
     判事も
    いない
   なんて
  時間の
むださ
  「私が
   判事で
   陪審員さ」
  とイヌが
 言った。
「おれが
 裁判の
  全部を
 やるのだ。
そして
 おまえを
死刑に
 して
やる」

 「きみは聞いていないじゃないか」と、ネズミは怒って言いました。
「聞いていますよ。あなたは5つ目の曲り角に来たところよね」と、アリスは言いました。
「まだ(not)だよ」と、ネズミはぴしりと言いました。
「結び目(knot, notと発音が同じ)ですって?」と、いつでも手伝うのが好きなアリスが言いました。「私にほどかせて」 しかし、ネズミは怒ってしまい、話を終わるまでそこにとどまろうとはしませんでした。

《イモムシの忠告》

その間に、白ウサギの扇と手袋は消え失せてしまいました、涙の池も、広間も、ガラスのテーブルも消えていました。アリスは森のはずれに立っているのでした。
彼女は草や花の間をかけぬけて、自分と同じくらいの大きさの、キノコのところに着きました。そのキノコの上には大きな青いイモムシがいて、腕を組んで静かに水ぎせるをすっていました。(水ぎせるとは、長いうず巻きの形をしたトルコのパイプの一種です) イモムシはアリスに関心を示しませんでした。

 しばらくすると、イモムシは口から水きせるをはなして、眠そうな声でたずねました「おまえさんはだれかね」
かわいそうにアリスは、自分がだれなのか少しも確信を持てませんでした。「前には知っていたことが思い出せませんし、10分と同じ大きさでいられないんです」 と、彼女は言いました。
「どのくらいの大きさになりたいのかね」と、イモムシがたずねました。
「今より少し大きいくらい。3インチなんてばかみたいですもの」
イモムシは立ちあがって、体をぎりぎりまで伸ばしました。その高さはちょうど3インチでした。それから、それは這ってどこかへ行きはじめました。

 「片方なら背が高くなるし、もう片方なら背が低くなる」と、それが言いました。
「なんの片方なのですか」と、アリスはたずねました。
「もちろんキノコだよ」と、イモムシは不機嫌に答え、這ってどこかへ消えてしまいました。
 アリスは、両腕をできるだけ伸ばして、キノコのかさのまわりにまわして、かけらを2つむしりとりました。彼女は両方をかわりばんこにかじって、背の高さをやっとのことでちょうど9インチにしました。それから、彼女は歩きはじめて、やがて1軒の家に着きました。
アリスは戸口へ行って、おずおずとノックしました。中ではとても変な音がしていました――わめき声、くしゃみの音、そして、ときどきお皿が割れるようなガチャンという音がしていたのです。返事がなかったので、アリスはドアを開けて中に入っていきました。

《ブタとこしょう》

 ドアを開けると、そこは煙がもうもうとたちこめた大きな台所でした。侯爵夫人が赤ん坊をあやしながら、まん中の3本足の腰かけにすわっていました。料理人は火の上に身をのりだして、スープがいっぱい入った鉄のなべをかきまわしたり、その中にこしょうをふり入れたりしていました。
まわりじゅうにこしょうがたちこめているようでした。侯爵夫人はくしゃみをしていました、赤ん坊はかわりばんこにわめいたり、くしゃみをしたりしていました。料理人だけがくしゃみをしていませんでした。炉の前の敷物の上にすわって、耳までさげたようににやにや笑っている大きなネコもくしゃみをしていませんでした。
「なぜ、あなたのネコはあんなふうににやにや笑うのですか」と、アリスはたずねました。
「あれはチェシャーネコだからだよ」と、侯爵夫人は言いました。「このブタめ」
アリスはびっくりしました。彼女は侯爵夫人がアリスのことをそう呼んだのかと思ったのです、しかし、夫人は赤ん坊のことをそう呼んだのでした。それから料理人はなべを火からおろして、スープを届くかぎりのものの上にぶちまけはじめました。

 スープが全部なくなると、彼女は、火箸とか火かき棒とかシチューなべとかいろいろなお皿などを、侯爵夫人と赤ん坊めがけて投げつけました。
「おお、どうか、あなたのしていることに気をつけてよ」と、アリスは叫びました、大きなシチューなべのふたが、赤ん坊の鼻先をヒューとかすめたのです。
侯爵夫人は全然気にもとめずに、赤ん坊に子守歌をうたってやりはじめました。彼女は歌いながら、赤ん坊をほうりなげ、1節の終りごとにはげしくゆすりました。

 おまえの小さな坊やをどなりつけろ
   くしゃみをしたらぶんなぐれ
くしゃみをするのは困らすため
   からかうためにやるんだよ
合唱
   (料理人と赤ん坊も加わって)
   ワー、ワー、ワー。
「ほら、よかったら、少しの間この子の面倒をみさせてあげるよ」と、侯爵夫人はアリスに言って、彼女に赤ん坊を投げてよこしました。「私は女王さまとクロケー(ゲートボールによくにた遊び)をする仕度をしにいかなくてはならないのよ」
アリスは赤ん坊があんまり身をよじらせるので、それを抱いているのがやっとでした。彼女は赤ん坊を外に持ち出して、その顔をのぞきこみました。赤ん坊の鼻はひどくそりかえっていて、とても小さい目をしていました。突然それはブーブーと鼻をならしました。アリスはびっくりしてそれをみつめました。それはブタになっていました。
彼女はすぐにそれをおろすと、それはうれしそうに森の中へとことこ走っていきました。「もしもあれが大きくなったら、みにくい子になったでしょうね」と、アリスは思いました。「しかし、ブタならハンサムなブタになるわ」

《チェシャーネコ》

 次の瞬間、チェシャーネコが木の枝にすわって、アリスににやにや笑いかけているのを見て、彼女はびっくりしました。
「だれかほかの人たちがこの近くに住んでいるの」と、アリスはたずねました。
「あっちの方に」ネコは右足を振って言いました「帽子屋が住んでいるよ。そしてこっちの方には」と、左足を振りながら言いました「3月ウサギが住んでいるよ。どちらでも訪ねてごらん。両方とも気狂い。ここにいるのは、みんな気狂い。私も気狂い。おまえさんも気狂いさ」

 「どうして私が気狂いだとわかるの」と、アリスは憤然として言いました。
「おまえさんは気狂いにちがいないさ」と、ネコは言いました「気狂いじゃなかったら、ここには来なかっただろうからね。おまえさんは、きょう、女王さまとクロケーをするのかい」
「私はまだ招待されていないわ」と、アリスは言いました。
「そこで会おう」と、ネコは言って、消えてしまいました。
アリスが、ネコのいた場所をまだじっと見ていると、ネコが突然また姿を現しました。

 「赤ん坊はどうなった。わしはたずねるのを忘れていた」と、ネコが言いました。
「あれはブタになったわ」 と、アリスは言いました。「そんなに急に消えないでほしいわ。私、目がまわってしまう」
「いいよ」と、ネコは言いました。そして、こんどはたいへんゆっくりと消えました、しっぽの先から消えはじめ、最後ににやにや笑いが消えました、にやにや笑いはほかの部分が消えたあとも、しばらくの間のこっていました。
「まあ、にやにや笑わないネコには何回も会っているけれど」 と、アリスは言いました。「でも、ネコがいないにやにや笑いなんて見たこともないわ」

《気狂い帽子屋のお茶の会》

 アリスは3月ウサギの家に着いたとき、すぐにそれが3月ウサギの家だとわかりました。煙突が耳の形をしていましたし、屋根は毛皮でふいてあったのです。
家の前のテーブルでは、3月ウサギと帽子屋がお茶を飲んでいました。ヤマネが彼らの間にすわっていました。ヤマネは眠っていて、ほかの2人はそれをクッションがわりに使って、ひじをのせ、その頭ごしにしゃべっていました。テーブルはとても大きいものでしたが、3人はすみの方にかたまってすわっていました。

 アリスがやってくるのを見ると、彼らは 「あいてないよ、あいてないよ」 と叫びました。
「席はいっぱいあるじゃないの」とアリスは怒って言い、大きなひじかけ椅子にすわりました。
「ぶどう酒を飲むかね」 と、3月ウサギが言いました。

 「そんなものないじゃない」と、アリスはあたりを見ながら言いました。
「ああ、ないさ」と、3月ウサギが言いました。
「ないものをすすめるなんて、ずいぶん失礼じゃない」 と、アリスは怒って言いました。

 「すわれと言われもしないのにすわるのも、かなり失礼じゃないのかね」 と、3月ウサギが答えました。
次に、帽子屋が話に加わりました。
「なぜ、カラスは書きもの机と似ているのかね」と、彼はアリスにたずねました。
「わかると思うわ、ええと……」と、アリスは考えはじめました。
「答えをみつけられると思うって言いたいのかね」と、3月ウサギが言いました。
「そのとおりよ」と、アリスが言いました。
「それでは、考えたことを言うがいいさ」と、3月ウサギが続けました。
「そうするわ」と、アリスは答えました。「少なくとも、私の言うことは私の考えていることだもの、だから同じことよ、そうでしょう」
「同じことなんかじゃないさ」と、帽子屋が言いました。「そうだとしたら“私は食べるものを見る”というのと、“見るものを食べる”というのは同じことになるよ」
「“私は手に入るものがすきだ”というのと“私はすきなものを手に入れる”とが同じことになるよ」と、3月ウサギが付け加えました。

 アリスはこの言葉にどう反論したらよいかまったくわかりませんでした。それから、気狂いの帽子屋が時計をとり出してながめました。彼はそれをときどき振って耳に当てました。
「2日狂っている」と、彼は言いました。「バターはこの機械に合わないと言ったじゃないか」 と、彼は言って腹立たしげに3月ウサギを見やりました。
「一番いいバターなのに」と、3月ウサギが言いました。
「うん、パンくずが入りこんだのかな」と、帽子屋が言いました。「パン切りナイフで入れなければよかったんだ」

 3月ウサギは時計をとりあげて、ゆううつそうにながめました。それから、茶わんにそれを浸してから、またながめました。「話題をかえよう」と、彼は言いました。「若いお嬢さんが話をしてくれると思うよ」
「話なんかひとつも知らないわ」と、アリスは心配になって言いました。
「それじゃ、ヤマネにしゃべらせよう」と、2人が叫びました。「おい、起きろよ、ヤマネくん」 彼らは両方から同時にヤマネをつねりました、そして帽子屋は熱いお茶をヤマネの鼻にそそぎました。
「眠ってなんかいないよ」と、ヤマネはつぶやきました。「君たちの言うことはみんな聞いていたもの」

 「しゃべれよ」と、3月ウサギが言いました。
「どうぞ、お願いよ」と、アリスが言いました。

《ヤマネの話》

 ヤマネの話は3人の小さな姉妹の話でした。
「彼女たちの名は、エルシー、レイシ一、ティリーといいました。彼女たちは井戸の底に住んでいました」
「なにを食べて生きてたの」と、アリスは好奇心にみちてたずねました。
「彼女たちは糖みつを食べて生きていました」と、ヤマネは言いました。
「そんなのじゃ生きられないわ」と、アリスは言いました。「病気になっちゃうじゃないの」

 「彼女たちは病気でした」と、ヤマネは言いました。「重病でした」
「お茶をもう少しお飲み」と、気狂いの帽子屋がアリスに言いました。
「まだ全然飲んでないわ、どうしてもっと飲めるの」
「もっと少し飲めないというつもりじゃないのかね」と、帽子屋は言いました。「ゼロよりもっとたくさん飲むのなら簡単さ」
 アリスはヤマネの方を向きました。「なぜ、彼女たちは井戸の底に住んでいたの」 と、彼女はたずねました。
「それは糖みつの井戸でした」と、ヤマネは言いました。「この姉妹は汲み方を習っていました」
「なにを汲んでいたの」と、アリスがたずねました。

 「糖みつですよ」と、ヤマネが言いました。
「わからないわ」と、アリスは言いました。「どこから糖みつを汲むの」
「あなたは、水の井戸から水を汲むでしょう」と、帽子屋が言いました「だから糖みつの井戸から糖みつが汲めるじゃないか」
「しかし、彼女たちは井戸の中にいたのよ」と、アリスが声をあげました。
「もちろん、井戸の中にいましたよ」と、ヤマネは言いました。「うんと深いところにね」 彼はまた眠くなりました。
「彼女たちはMではじまるものならなんでも汲みました」と、彼は眠そうに続けました 「ねずみとり(mousetraps)、お月さま(moon)、たくさん(muchness)とかさ。あなた方は“物が似たりよったりだ”と言いますよね――あなた方は似たりよったりというものを汲みあげるのを見たことがあるかい」
「見たことはないと思うんだけど――」と、アリスが言いはじめました。
「それでは黙っているがいい」と、帽子屋がかみつくように言いました。
 この言い方は、アリスにはがまんのならないものでした。そこで彼女は立ちあがって、森の中へ歩いていきました。振り返ると、2人はヤマネをお茶のポットに押しこもうとしていました。

《女王さまのクロケー競技場》

 アリスは目の前に、幹にドアがついた木があるのに気づきました。彼女はドアを開けました、すると、ガラスのテーブルと金のかぎのある、あの広間にもどっているではありませんか。
「こんどはどうすればいいか、わかっているわ」と、彼女は言いました、そして、キノコを少しかじって小さくなり、小さなドアを通って花だんや噴水のある美しい庭へ入っていきました。
 アリスは、3人の庭師がいそがしそうに白いバラを赤く塗っているのを見てびっくりしました、庭師がトランプの札だとわかったときには、さらにおどろきました。彼らは長方形で平べったく、四すみから手足が出ていました。彼らの名前は、2と5と7でした。
「ねえ、お嬢さん、ここのバラは赤じゃなくっちゃいけなかったんです」
と、2が説明しました。「女王さまにみつかると、私たちはみんな首を切られてしまうんでさぁ」

 「シィー」と、5がささやきました。「女王さまだぞ」 そして3人とも顔を地面につけて平伏しました。アリスはあたりを見まわしました。まず、こん棒を持った10人の兵士がやってきました。次にダイヤモンドに身を飾った10人の廷臣がやってきました。それから、上着にハートの飾りをつけた10人の王子、王女がやってきました。

 次はお客さんたちで、そのなかには侯爵夫人と白ウサギもいました。次にはハートのジャックが、赤いベルベットのクッションの上に王冠をのせて運んでいきます。この大行列のしんがりはハートの王さまと女王さまでした。

 アリスは女王さまにおじぎをして名のりました。「なにもこわがることはないわ」 と、彼女は思いました。「たかがトランプの1組じゃないの」
 女王さまは平伏している庭師たちをながめました。「やつらをひっくり返せ」と、彼女はジャックに命令しました。庭師たちはとび起きて、だれにでもペコペコとおじぎをしはじめました。
「やつらの首をはねよ」と、女王さまは叫び、行列は動きだしました。
「あなたたちの首を切らせるものですか」と、アリスは言って、彼らが兵士たちにつかまらないうちに、彼らを大きな植木鉢の中に入れてやりました。

《クロケーの試合》

 アリスは走って、行列に追いつきました。「位置につけ」 と、女王さまが雷のような声で叫びました。
 アリスが、そんな奇妙なクロケー試合を見たのは、生れてはじめてでした。球は丸まったハリネズミでした。球を打つ槌はフラミンゴでした。兵士たちは、アーチになるように、体を折り曲げて手をついていなければなりませんでした。アリスがフラミンゴをわきの下にかかえて、その頭を球を打つ位置に持ってこようとすると、彼女のハリネズミが体を伸ばしてはい出してしまいました。
 競技者たちは頂番を待たず、ハリネズミのことでけんかをする始末でした。女王さまは足をふみならして、2、3分おきに 「この者の首をはねよ」 と、叫んでいました。
 やがて試合は終りました。すべての競技者たちが、王さまと女王さまとアリスを除いて、死刑の宣告を受けてしまったのです。アリスは、王さまが彼らに「おまえたちみんなをゆるすぞ」と、ささやいているのを聞いて、ほっとしました。
 アリスが侯爵夫人に話しかけていると、ラッパが遠くの方でなりました。

 「裁判が始まるのよ。いらっしゃい」と、侯爵夫人がアリスの手をとって言いました。
「なんの裁判ですか」と、アリスは彼女の後を追いかけながら、あえぎあえぎ聞きました。

《だれが果物入りのパイを盗んだか》

法廷は小さな鳥や動物で混雑していました、もちろん、トランプの札も全部集まっていました。ハートの王さまと女王さまは玉座にすわっていました。王さまが裁判官でした。彼はかつらをつけ、その上に王冠をのせていました。
 王さまのそばには白ウサギが立っており、片手にラッパ、片手に羊皮紙の巻物を持っていました。ハートのジャックが鎖につながれて立っており、その両側に兵士がいました。
 テーブルの上には、果物入りのパイの大血がのっていました。(アリスは食べさせてくれればいいのにと思いました)。

 陪審席があり、そこには12匹の生きもの、動物たち、鳥たち、小さなトカゲのビルがいました。彼らはみんな石板になにか書いていました。「彼らは自分たちの名前を書いているんだ、忘れるといけないのでね」 と、侯爵夫人が、とがった小さなあごをアリスの肩にうずめながらささやきました。

 「ばかばかしい」と、アリスは大声で言いました。
「法廷内は静かに」と、白ウサギが叫びました。陪審員はいそがしそうに 「ばかばかしい」と、石板に書いていました。
 トカゲのビルの石筆がキーキー鳴っていました。アリスはその音にがまんできなかったので、そっとうしろにまわって、石筆をとりあげてしまいました。かわいそうに小さな陪審員はそれをさがしまわりましたが、ないので、指で石板に書こうとしました。しかし、もちろん、なにもあとは残りませんでした。
「進行係、起訴状を読みあけよ」と、王さまがおごそかに言いました。
 白ウサギはラッパを3回吹きならし巻物をひろげて読みました。
  ハートの女王さまはパイを作られた
   夏の日、1日かかって
  ハートのジャックがそのパイを盗んだ
   そしてすっかりどこかへ持っていった

 「評決を考えよ」と、王さまが叫びました。
「まだでございます、陛下」と、白ウサギが急いでさえきりました。「審理が先でございます」
「最初の証人を呼べ」と、王さまが言いました。

《証言》

 最初の証人は気狂い帽子屋でした。彼は片手にティーカップ片手にバター付きパンを持っていました。
「おまえはお茶をすませておくべきであったな」と、王さまは言いました。
「いつ始めたのじゃ」
「3月の14日だったと思います」と、帽子屋が言いました。
「15日です」と、3月ウサギが言いました、3月ウサギも法廷にいたのです。
「16日ですよ」と、ヤマネが言いました、彼はアリスの隣にすわっていました。
「それを書きとめておけ」と、王さまが言いました。陪審員たちは熱心にそれを書きとめて足し算をしました。
 「証言をいたせ、ビクビクするでない」と、王さまは言いました 「さもないと、ただちに死刑にするぞ」
 帽子屋が証言をしている間、ヤマネはアリスにぶつぶつ言っていました
 「そんなにギュウギュウ押さないでほしいんだがなあ」
 「どうしようもないのよ」と、アリスは言いました。「私、大きくなっているんですもの」
 「それでは、どこかほかのところで大きくなっておくれよ。ここで大きくなる権利なんてないんだから」と、ヤマネはぶつぶつ言いました。

 「次の証人を呼べ」と、王さまが言いました。
 白ウサギは小さなキーキー声で名前を呼びあげました 「アリス」

《アリスの証言》

 「はい」とアリスは叫び、自分がどんなに大きくなっているかを忘れて、いきおいよく立ちあがりました。彼女は陪審席をひっくり返してしまい、陪審員たちは群衆の中にころげ落ちてしまいました。アリスは彼らを拾いあげて、陪審席にもどしてやりました。
 「われわれは、すべての陪審員たちが定められた位置につくまで、先に進めないのじゃ」 と、王さまはきびしい声で言いました。
 アリスが見ると、トカゲのビルがさかさまになっていました、そこで彼女はトカゲをきちんとおきなおしてやりました。
 「おまえはこの事件について、なにか知っておるか」と、王さまがたずねました。
 「なにも存じません」と、アリスは言いました。
 「それはたいへん重要なことじゃ」と、王さまが言いました。
 「重要でないと、陛下は言われたのです」と、白ウサギが心配そうに言いました。陪審員の中には「重要だ」と書きとめるのもいれば「重要でない」と書きとめるのもいれば、両方とも書きとめるのもいました。
 そのとき、王さまが大声で読みあげました「規則第42条――身長1マイル以上のものはすべて法廷より退場しなければならない」みんながアリスを見ました。

 「それは正式の規則ではありません。あなたが今お作りになったのです」
と、アリスは言いました。
 「この本の中の一番古い規則じゃ」
 「それでは、第1条のはずですわ」と、アリスは言いました。
 「評決を考えよ」と、王さまが言いました。
 「いいえ」と、女王さまが言いました。「宣告が先、評決はあとです」
 「ばかばかしい」と、アリスは大声で叫びました。「宣告を先にしようなんて」
 「お黙り」と、女王さまは紫色になって叫びました。
 「黙りません」と、アリスは言いました。
 「彼女の首をはねよ」と、女王さまはありったけの声をはりあげて叫びました。
 「だれがあなたの言うことなんか聞くものですか」と、アリスは言いました。(アリスはこのときまでに、ふだんの背の高さにもどっていました)
 「あなた方はたかがトランプの札じゃないの」
 これを聞くと、トランプの札はぜんぶ空中に舞いあがって、彼女めがけてとびおりてきました。

《アリス目覚める》

 アリスは、こわいやら、しゃくにさわるやら、小さな叫び声をあげて彼らをはらおうとしました。
ふと気がつくと、彼女は草の茂った土手の上で、お姉さんのひざを枕にして寝ていました。お姉さんは、アリスの顔の上に落ちてきた枯葉をやさしくはらいのけていました。
「起きなさい、アリス」と、彼女は言いました。「ずいぶん長い間、眠っていたわね」


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