レディバードブックス100点セット
 

 

フランケンシュタイン

 ビクター・フランケンシュタインは、1770年に生れました。彼は両親の間にできた最初の子どもだったので、両親はやさしさと愛情をもって育て、彼の幼年時代はとても幸せなものでした。これはとりたてておどろくほどのことではなかったのです、なぜならフランケンシュタイン一家はいい人ばかりで、貧しい人たちにもやさしく寛大でしたから。一家の住んでいたジュネーブには、多くの友人がいました。
ビクターが5歳のとき、彼は変った贈物をもらいました。彼が休暇で両親といっしょにミラノにいたとき、ある朝、母親が彼を呼びました。
「ビクター、あなたにすてきなプレゼントがあるのよ」
母親といっしょに立っていたのは、彼と同じ年ころの美しい金髪の少女でした。
「こちらはエリザベスよ」 と、母親は言いました。
最初に会ったときから、ビクターはエリザベスを自分のもののように感じて、彼女をいつも愛し、面倒をみると約束しました。母親は後で彼に、あの少女はいい家の娘さんだったけれども、両親が死んでしまったのだと言いました。彼女には身寄りがなかったので、い、っしょに暮すことになったのです。2人の子どもはいっしょに大きくなりました。エリザベスはおとなしくてやさしい声の少女になり、ビクターは、ときどき、きまぐれではありましたが、2人とも幸せで苦労もなく、お互い深い愛情をもっていました。
ビクターが7歳のとき、弟のアーネストが生れ、その後少しして.一家はしばらくの間、ベルリーヴの別荘に住むことになりました。この別荘はジュネーブの街の門から近く、湖の東岸にありました。
「ぼく、うれしいんだ」 と、ビクターはエリザベスに言いました 「ジュネーブの人ごみは好きじゃないんだ。でも、静かなべルリーヴで1人でいるのは好きさ」

エリザベス以外の、彼のただ1人の友人は商人の息子のへンリー・チャーバルでした。しかし、ビクターには少し変ったところがありました、ビクターはこのことは誰にも言いませんでした。エリザベスやヘンリーにさえもです。
それは、エリザベスがスイスのいなかの自然を愛し、ヘンリーはよろいに身をかため、冒険や戦さをしている騎士のお話にわくわくしていたのに、ビクターの興味は自然の暗い部分にあったということなのです。彼は、生と死の神秘や謎について深く考えていました。
彼の心はそのことでいっぱいだったので、いかに生命を作るか、死んだ後の魂はどうなるのか、などといった本を1人になって読むことに、できるだけ時間を費やしました。そしてやがて、幽霊や悪魔の研究について調べはじめました。1年ほどして、2番目の弟、ウィリアムが生れ、そのころにはビクターは、自分の研究にとりつかれていました。
彼が15歳くらいのとき、ある晩、彼は強い衝撃を受けるものを見ました。
ジュラ山脈の上で雷雨が発生し、家や湖の上に激しく砕けちっていました。そして稲妻が、家の近くの木を打ち砕いたのです。ビクターには、吹き飛ばされた切り株の光景や電気の威力が忘れられませんでした。
彼は17歳になっていて、インゴルシュタットの大学で研究を始めるところでしたが、そのころ、大切なものを失うことになったのです。母親がしょうこう熱で亡くなったのです。死に際に、彼女は彼の手とエリザベスの手を合せました。そして 「子どもたちよ、あなた方がいつの日か結婚するのが私の夢でした。私の愛するエリザベス、幼いウィリアムやアーネストの母親になってやってちょうだい」 と言いました。彼女は安らかに死にました。
数週間が過ぎ、ビクターは、大学までの長くてくたびれる馬車の旅の準備をしました。悲しみのうちに彼は、父親、エリザベス、2人の弟、そしてヘンリー・チャーバルに別れを告げました。
「何度も手紙を書いてね」 と、エリザベスは涙ぐんで言いました。

 大学に着いて数日後、フランケンシュタインは、未知の力や生命創造の深い謎を探ることに時間を費やそうと決心しました。彼はとても興奮してしまって、眠れませんでした。他の何ものも彼の心に入ってきませんでした。エリザベス、父親、友人のへンリー、そして弟たちのことも忘れていました。まる2年もの間、彼はみんなのことを思い出しませんでした、それほど実験に没頭していたのです。まずはじめに、彼は生命の医学を勉強しました。墓地や埋葬室を訪ねて、死が身体に与える影響を観察しました。
いつも彼の心は、雷雨と電気の激しい力にもどっていったのです。それは、破壊するのと同様、創造することもできるのでしょうか? 何か月もの実験の後、彼はその力を使って、死んだものに生命を吹きこむ方法を発見したのです。彼は、自分の得たこの力をどう使おうかと考えました。そして人間を作ることにしたのです!

 こうして、下宿の一番上の離れの部屋で彼は仕事にとりかかりました。彼は、屠殺場や医師の研究室や基地など、死体がみつかるところならどこからでも、体の部分を集めました。最初の年はとてもすばらしい夏だったのですが、ビクターは気がつきませんでした。彼は、上の部屋でやっていることから離れることができなかったのです。冬が来て春が来ましたが、気にもとめませんでした。彼はだんだんやせこけてきました。神経もいら立っていました。体重も減りましたが、それでも仕事を続けました。

 ある11月の陰気な晩、彼は、作り上げたものに生命を吹きこむのに成功したのです。チラチラするろうそくのあかりの中で、彼は手足がぴくぴく動くのを見ました。それは呼吸し、片方の目が急に開きました。ビクターは、自分の作ったものを見下ろしました。皮膚は黄色く、体じゅうにピーンと張られていました。そいつはばかでかかったのですが、黒い髪の下の目は潤んでいました。顔の肉はしなびて、唇は一文字で黒ずんでいました。
成功した今、フランケンシュタインが感じたのは嫌悪以外のなにものでもありませんでした。ひと目見ただけで、我慢できないほど恐怖が募りました。その怪物を見るのに耐えられなかったのです。
彼は恐ろしくて部屋をとびだしました。自分の寝室に入り、自分自身を落ち着かせようとしました。服を着たままベッドに横になりましたが、うつらうつらと眠っただけでした、彼は、虫や死んだ母親の恐ろしい悪夢をみていたのでした。突然、彼は目を覚しました。額は汗でじっとりとし、歯はガタガタ鳴っていました。
ベッドの足元には、背たけ8フィートほどもある化物が、恐ろしい目で彼をじっと見すえて立っていたのです。そいつは話そうとして口を開けました。ビクターはベッドからとび起きると下へかけおりて中庭に隠れ、自分が生命を与えた悪魔のような死体に出会いはしないかと、一晩じゅう恐れていました。

 あたりが明るくなって、門番が中庭の門を開けると、フランケンシュタインはインゴルシュタットの通りに逃げ出しました。彼はどんどん歩き続け、朝の空気が心の重さを和らげてくれるのを願いました。少しして彼は、馬車が止まっている宿屋の前に来ているのに気づきました。何かが彼を立ち止まらせました。そうしていると、懐かしい声が 「やあ、ビクター、君に会えてうれしいよ。ちょうど着いたときに君が通るなんて、なんて運がいいんだ」 と言いました。
へンリー・チャーバルでした。ビクターは喜びました。「君に会えてどんなにうれしいか知れないよ、ヘンリー、でもここで何をしてるんだい?」
「ぼくは父を説得して、君といっしょにこの大学で勉強できるようにしてもらったんだ」 それから2人は、家族のことや友人のことを話しました。
「君のお父さんや弟たち、それにエリザベスは元気でとても幸せそうにしているよ、ビクター、でもみんな、君がもっと手紙を書いてくれたらと願っているけどね」 と、ヘンリーは言いました。「でも君は具合が悪そうだし、青白いね、まるでいく晩も眠らなかったみたいだぞ」
「そうなんだ。君の言うとおりさ。ぼくは長いこと1つの実験にかかりきりで、よく休んでいないんだ。それはもう終ったよ、たぶんな、だからこれから体には気をつけると約束するよ」
そう言うとフランケンシュタインは、友人を大学の方へ連れていきました。彼は、まだ下宿にあの化物がいるのではないかと内心おびえていました。そいつをまた見るという思いが、彼を不安でいっぱいにしましたが、それよりももっと、ヘンリーがそいつをみつけるのではないかと恐れていました。2人が階段の下まで来ると、ビクターは 「ちょっとここで待っていてくれ、ヘンリー」 と言いました。そして1人で上に行きました。踊り場のところで少し気を取り直したのですが、それでもなお恐怖に震えていました。彼はドアを押し開けると中へ入りました。部屋はからっぽでした。
恐ろしい怪物はいなくなっていました。ビクターはほっとして、ヘンリーのところへ走り下りていきました。

 「朝食をとろう」 と、彼は叫びました。でも、ビクターはとても興奮してしまってじっとすわっていることができず、しばしば席を立ち、笑いながら部屋を歩きまわりました。
へンリーは心配になってきました。「ねえ、ビクター、いったいどうしたんだい?」
「何でもないよ」 と、ビクターは答えました。そのとき、ふと彼は、怪物が部屋にこっそりもどってきたことを思い浮かべてしまいました。それでこの恐ろしい想像のショックのために、彼は倒れてしまいました。

倒れた後、ビクターは神経熱のため数か月間死んだようになっていました。ずっとその間も友人のへンリーが看病をし、見守っていました。
へンリーは、ビクターの父親とエリザベスには心配をかけまいとして、彼がどんなに具合が悪いかを知らせませんでした。春になって、寝室の窓の外で木々が芽を吹きはじめるころ、ビクターはほとんど完全に元気になっていました。
「君はやさしくていい友だちだよ、ヘンリー、冬じゅうずっとぼくを看病してくれたんだから。どうやって恩返ししたらいいんだろう?」
「まず、君のお父さんとエリザベスに手紙を書いてくれ。ぼくも何回か書いたんだが、君の自筆の手紙を受け取った方がみんなも安心するだうう」
何か月かたち、この2人の友人は、夏を研究に費やしました。
それに続く冬は厳しく、ビクターの帰省は5月までのばさなければなりませんでした。彼がジュネーブを出てからもう3年近くになろうとしていました。彼が出発の準備をしていると、父親からの手紙が届きました。その中に書かれていた知らせを読んで、彼は苦しみと深い悲しみに泣きました。

 ある晩、彼の父親は、エリザベスとビクターの2人の弟といっしょに散歩に出かけました。小さなウィリアムはかけていって、木の中に隠れました。兄のアーネストが探しにいったときには、ウィリアムはもう見当りませんでした。夜になってきたので、エリザベスとビクターの父親は、少年の探索を続けるためにジュネーブの家からたいまつを取ってきました。明け方5時ごろ、彼らはウィリアムの死体をみつけたのです。彼は殺されていました。首のまわりには殺人者の指の跡がついていたのです。
ビクターは急いで家に馬車を走らせました。彼は家の近くの山や湖に着くと、うれしさのあまり涙を流しました。後で、夜が彼を包みはじめると、悲しみと恐れの念が彼をおそいはじめました。ジュネーブの街の門は夜には閉められ、ビクターは近くの村へ行かなければなりませんでした。彼は眠れなかったので、ウィリアムが殺された場所まで歩いていってみました。
彼がそこに着く前にあらしが吹きはじめ、まもなく稲妻が山々や木々の上に光りだしました。それは美しい光景でした。雷が頭上で鳴り響きました。
一瞬の閃光のなかにビクターは、大きな人影が彼をじっとみつめているのを見ました。あの怪物だったのです!
次の稲妻のときには、もうそれはそこにはいませんでした、でも今やフランケンシュタインは、あの怪物が幼いウィリアムを殺したのだと確信しました。そう考えただけで、気分が悪くなりました。
彼は夜が明けてすぐ家に着き、アーネストに会いました。「ビクター兄さん、お父さんもエリザベスも悲しみで具合が悪くなっているんだ。もっとひどいことに、ぼくたちの愛する人が殺人罪でつかまってしまったんだよ」

 ビクターはほう然として、口をきくことができませんでした、なぜなら、訴えられた人というのは、フランケンシュタイン家に長年いる、かわいくてやさしい少女ジュスティーヌだったからです。彼女はビクターの母親が最後の病の床についたとき、たいへんな愛情をもって看病をしてくれたのでした。
「エリザベスは、どんな証拠があろうとも絶対に信じないと言っているよ」
と、アーネストは言いました。
「かわいそうなあの娘は無実だ」 ビクターは同意しました。「彼女は釈放されるべきだ」
「裁判は今日なんだよ、ビクター兄さん。彼女には状況が不利のようなんだ。ウィリアムがみつかった朝、彼女は病気で5、6日床についていたんだ。
その間に、召使がジュステイーヌの服の中からロケットをみつけたんだ。ウィリアムがいなくなった日に、エリザベスがそれを彼にあげていたんだよ」 と、アーネストは言いました。
「いいかい、彼女は無実だ」 ビクターはくり返しました。

 彼の父親は、ほんとうに久しぶりに彼に会えて大喜びでした。エリザベスもそうでした。彼女は今までよりもっと美しくなっていました。彼女は悲しんではいましたが、比類のない愛情をビクターに示しました。
「裁判官がジュスティーヌを有罪と決定しないことを期待しましょう。もし有罪となったら、私は一生悲しむでしょう。私たちは愛するウィリアムは失ったけれど、そのために無実の人が罰せられてはならないわ」 と、彼女は言いました。
ひとたび裁判が始まると、ビクターは苦悩の日々を過しました。彼は、思いきって打ち明けることもできないのです。誰が彼のいうことを信じるでしょうか?  彼は殺人現場を見たわけでもないし、殺人者を突き出すこともできないのです。ジュスティーヌは落ち着いているように見えましたが、傍聴者たちはこれを感情が欠けている印で、彼女の有罪をいっそう証拠づけるものであると考えました。何人かの目撃者が呼ばれました。彼女に不利な重大な証拠が2つありました。彼女は死体がみつかった場所の近くで目撃されていて、もう1つは、その後ウィリアムの母親の写真が入ったロケットが、彼女の服からみつかったことでした。

 ジュスティーヌは、殺人のあった夜は、ジュネーブの街の外にある村に住んでいるおばさんを訪ねていたと裁判官に言いました。9時ごろ帰ってみると、1人の男の人が彼女に、ウィリアムがいなくなったと話してくれたのです。彼女は何時間も彼を探していて、ジュネーブの街の門が閉まる時間になってしまい、家に帰れなくなったのでした。夜明けまで彼女は納屋で休み、うつらうつらと浅い眠りにつきました。
「私は偶然、ウィリアムが死んだ場所の近くを歩いていたのです。それに、どうしてロケットを持っていたか、まったくわかりません」 彼女はそう申し立てました。
ジュスティーヌのことは悪く言わないような人びとも、殺人者の友だちと思われるのが恐くて、進んで話そうとはしませんでした。エリザベスにはそんな恐れはありませんでした。彼女はジュスティーヌのために、満員の法廷で弁護し、少女の立派な人柄と彼女の寛容さとやさしさについて述べました。彼女は傍聴人たちに、ジュスティーヌは亡くなったフランケンシュタイン夫人を愛情と心遣いをもって看病し、ウィリアムをまるで自分の子どものように愛していたことを思い起させようとしました。
「ジュスティーヌが写真のために彼を殺すなんてことはありません。彼女は、私たちが彼女のことをたいへん大切にしているので、ほしければそれをもらえただろうということは知っているのです」 と、エリザベスは言いました。
法廷にいた人びとは、エリザベスの寛大な哀訴に心を動かされはしましたが、ジュスティーヌが無実だという気にはなりませんでした。人びとは、彼女の腹黒い恩知らずなところだけを考えていました。ビクターは裁判官の顔を見て、苦悩のあまり法廷をとびだしていきました。彼はその夜を、みじめで眠れぬまま過しました。次の朝、法廷では、ジュスティーヌは有罪と決りました。その翌日、彼女は処刑されたのです。

 ビクターは、良心のかしゃくに苦しみました、なぜなら、彼の邪悪な実験がウィリアムの、そしてジュスティーヌの生命を奪う事態を引き起したのですから。彼は眠れなくなり、健康を害しました。父親は、ビクターの悲しみを誤解していました。ある日、彼は 「ウィリアムのことばかり考えてはいけない。みんなが苦しんでいるんだよ、ウィリアムを愛していたからね、しかし、生きている者のことを考えるのが我々の務めじゃないかね」 と言いました。
少しの間、ビクターは死のうという気に強く取りつかれました。でもそういうとき、エリザベスと父親と弟のことを考えたのです。いったいどうして、愛する人たちを、あの化物から守らないで放っておけるでしょう?

 忘れようとして、ビクターは休暇を近くのアルプスの谷間で過すことにしました。最初彼は馬に乗って出かけました。それから道がでこぼこで荒れてきたので、もっと足の確かなロバに変えました。
8月の中ごろで、彼は山々や岩や滝を楽しみました。高く登れば登るほど、景色はすばらしくなっていきました。山々には雪が残っていて、氷河がほぼ道路の近くまで迫っていました。遠くでなだれのとどろく音が聞えました。
やっとビクターは平和な気持になり、その晩、村の宿屋でぐっすり眠ったのです。朝になり、自分を取り巻く環境のなかで、彼はたいそう落ち着いて幸せだったので、もっと高く登ることにしました。お昼ごろには、彼は氷の大きな広がりを見下ろしていました。

 突然、彼は少し離れたところから、大きなものがおどろくべき速さで彼の方に走ってくるのに気がつきました。ビクターは震え出しました、というのは、その物影が近づくにつれ、それが彼がこの世に生み出したあの醜い化物だということを見て取ったからです。
「この悪魔め!」 彼は叫びました。「あんなことをしておいて、よくも出てこられたもんだ。地獄の苦しみでさえも、おまえにはなまぬるすぎるだろう!」
「私はとてもみじめなんだ」 悪魔が答えました。「私はすべての人間からきらわれ、憎まれているんだ。あなたは私を作ったのに、私を殺したいと思っている。もしあなたが私の言うとおりにしてくれたら、あなたも、あなたの家族も無事、そっとしておくことを約束しよう。もしいやだと言ったら、みんな残らず殺してやる、1人ひとりな」

 ところがビクターは激しい怒りにかられ、怪物にとびかかっていきました、しかし怪物はやすやすと身をかわしました。
「落ち着いて。私の話を聞いてくれ」 怪物は嘆願しました。「私はもう十分苦しんだではないか? いいか、あなたが、私をあなたより大きく強く作ったんだし、私はあなたが生み出したものなんだぞ。もし私の言うことを聞いてくれたら、おとなしくやさしくなろう。どこへ行ってもやさしさと幸せはあるのに、私はそれを分ちあうことが許されないのだ。フランケンシュタイン、私を幸せにしてくれ」
「いやだ。おまえは邪悪な化物だ」
「お願いだ、フランケンシュタイン。私はひとりぼっちなんだよ。みんないやがって私から逃げていくんだ。氷のほら穴や風や雨の方が、人間よりもやさしいくらいだ」
「おまえに生命を吹きこんだ日なんて呪われるといい!」
「私は邪悪にはなりたくないんだよ、フランケンシュタイン」
「私だってみじめになりたくはない。でもおまえが私にそうしたんだ、この憎むべき悪魔め」 と、ビクターは答えました。

 「私の話を聞いてくれ、フランケンシュタイン。そうすれば、私が静かな人生を送るか、あなたたちを破滅させるかどうかは、あなた次第ということになるだろう」
ためらった後、ビクターは 「よかろう、聞いてやる」 と言いました。
2人は氷を渡って、小屋に入りました。化物は火をつけて、話を始めました。
「ずいぶん前のあの晩、インゴルシュタットのあなたの部屋からとびだしたとき、私はまだできたてで、私の感覚は混乱していた。私には明るいことも暗いことも暖かさもわからなかったので、森の中に隠れたんだ」
「どうやって生きていたんだ?」
「森の中の小川の水を飲み、イチゴなどの果実をとって食べていた。暗闇のなかで私は寒くて恐ろしかった、そして、どうすることもできず、みじめだった。日中は、森の音、特に鳥たちの歌を聞くのを喜びとしていたんだ」

 「誰かおまえを見たか?」
「最初は誰も。でも、火をみつけたから近くに人がいることは知っていた。その暖かさが私に喜びを与えてくれたが、炎のなかに指を入れたら、それは私を傷つけた。私は果実の他にも木々の実や根っこが食べられることを知ったんだ」
「なぜ森を出たんだ?」
「食べものを探しに。私は何日もさまよった。まもなく寒い天候になって、雪が降ったんだ。ある日、私は小屋をみつけた。ドアが開いていたので中へ入っていったんだ。1人の年寄りがすわっていた。彼は私を見ると悲鳴をあげ、小屋をとびだして、畑の向うへ行ってしまった」

 化物は、その暖かい小屋にいて、テーブルの上にあったパンやチーズ、ミルク、そしてワインを飲んだと、フランケンシユタインに言いました。
「ワインはあまり好きじゃなかった。その後、私は小さな村へ歩いていった。友だちになりたかったのだが、子どもたちは恐ろしさに悲鳴をあげ、1人の女の人は私を見て気絶した。男たちは私に石を投げつけた、とうとう私は傷つき、おびえて逃げ出してしまったのだ。少し離れたところに私は、使われていない小屋をみつけて、そこで夜を過した」
朝になって彼は、すぐ近くに農家があるのをみつけましたが、前の日の村人たちの仕打ちを思い出して、姿を現しませんでした。彼は、できるだけ小屋の中に隠れていようと決めました。彼にとってはそれは宮殿にも等しかったのです。
農家には、老人とその息子と娘が住んでいました。怪物は、小屋のすき間から彼らをのぞいて、じっとうかがいました。彼らは幸せではありませんでしたが、お互いに愛情をもっていました。

 「フランケンシュタイン、私は初めて暖かさとやさしさと愛を見たんだ。少女が楽器を取ってそれを奏でると、鳥たちが歌うよりもっとやさしい音楽が聞えるんだ。私は涙でいっぱいになった」
フランケンシュタインは化物を見ました。「おまえを幸せにするために何をしろというんだ?」 と、彼は聞きました。
「待ってくれ、フランケンシュタイン。私の話はまだ終っていないんだ。彼らは見ているとやさしく美しくて、私もいっしょに加わりたいと思ったのだが、そんなことはできなかった。毎日彼らの話に聞き入り、彼らのすることを観察した。老人は目が見えなくて、2人の子どもたちはとても貧しくみじめだった。ときには、自分たちの食べるものがないこともあったが、それでも父親には自分たちの食べものを与えていた」

 「なぜ、そんないい人たちのそばを離れたんだ?」 フランケンシュタインは聞きました。
「そうしたくはなかったんだ、だって彼らからいろいろなことを学んだのだから。ひと冬過ぎ、少女のアガサも少年のフェリックスも、とうとう私をみつけられなかったんだ」
彼らが不幸なとき、怪物も不幸で、彼らが喜びに満ちているときは彼もうれしかったと言いました。ある日、化物は、水たまりに自分の影を見て顔をそむけました。
怪物は、フェリックスが妹に白い花をあげるのをよく見かけ、彼もそうしたいと思いましたがそんなことはできませんでした。それでもときどき夜の間に、彼はたき木や食べものを彼らに持っていってやったりしました。
彼らは不思議に思っていましたが、誰がやったのかはどうしてもわかりませんでした。怪物はそのささやかな家族のことを思い、彼らは優秀な生きものなんだと感じました。

 それからある日、魅力的な少女が馬に乗ってやってきました。彼女の両親は死んでしまい、フェリックスとアガサは以前に彼女と親しくしていたようでした。フェリックスは彼女を愛していて、彼女を彼の 「かわいいアラビア娘」 と呼んでいました。怪物にはすぐに、そのアラビア娘、サフィーという名でしたが、彼女が彼らの言葉を学ぼうとしているのがわかりました。
彼らが話しているのを聞いて、怪物はさらにたくさんの言葉を覚え、彼らがいないときに農家に忍びこんで、彼らの使っている本を見たりしました。彼はすばやく学びとりましたが、その得た知識は彼を悲しませました。

 「フランケンシュタイン、それは私に教えてくれたんだよ、私が自分の出生のことを知らず、友人も親戚もお金もなく、何ひとつ自分のものはないということを。とてつもない力と少しの知能の他に、私が持っていたのは恐ろしい顔と醜い体なんだ。私はいったいどこから来たんだ? 私には父親も母親もいない。私は子どもであったこともないし、兄弟も姉妹もない。私は誰かに愛されたこともないんだ」
ビクターは自分の幸せな子ども時代を思い出し、初めて哀れみをもって怪物を見ましたが、何も言いませんでした。
「私はずっと今の私のままだったが、そのときまで私は悪というものを知らなかった」
怪物はフランケンシュタインを恐ろしい顔で見ました。
「私がどうやって作られたかを考えると、たまらなくいやになった。そのために私はいく度となく、あなたを呪った」

 彼はしばらく沈黙していました。それからある日、農家に父親が1人でいたとき、ドアをたたいて入っていったことを話しました。彼はその老人に、自分には友人もなく、おびえているのだと言い、さらに自分は一生放浪者のままだろうと話しました。盲目の老人は思いやりがあり、すぐにいっしょに話しはじめました。
そのとき、何の前触れもなくドアが開き、フェリックスがサフィーとアガサといっしょに入ってきたのです。すぐにサフィーはとび出し、アガサは気絶してしまい、フェリックスは父親を引っぱって遠ざけました。化物が老人に腕をまわそうとすると、フェリックスは棒で彼を撃退しました。

 「私は森の中へ逃げこみ、夜までそこにいた。この世界じゅうで、私のことを哀れんでくれる人は1人もおらず、私を助けてくれる人も1人もいなかった。私はみじめな気持で夜を過した。数日後、私は農家へもどってみたが、誰もいなかった。私は二度と彼らを見ることはなかったのだ」
悲しそうに化物は、ビクターに目を向けました。
「私はあなたのことを思い起したのだ、フランケンシュタイン、私の創造者よ。あなたがジュネーブから来たことは知っていた。ここまでの旅は長く苦しく、私は夜、旅をした。何回か道にも迷った。私は復讐心に満ちていた」
化物の顔が少し和らぎました。
「ある日、私の休んでいた場所の近くの、流れの早い川に少女が落ちたのだ。私は水に飛びこんで彼女を岸にあげた」

 突然、 怪物は立ち上がって叫びました 「1人の男が私に銃を向け、肩に撃ちこんだんだ。それからやつは少女を抱き上げると、連れていってしまった。傷は治るのに時間がかかり、その間もずっと、私は自分がどんなふうに扱われていたかを考えていたのだ。私は全人額に復讐してやると誓ったのだ」
「でもなぜ罪もない弟のウィリアムをおそったんだ?」 と、ビクターは叫びました。
「全然そんなつもりではなかったんだ。ある晩、私がジュネーブの街の外で休んでいると、子どもがそばへ走ってきた。子どもは私を見た瞬間に悲鳴をあげて目をおおったんだ。私は何もしないと言ったんだが、彼は私を人でなしとか人食い鬼とか呼んで、判事をしているお父さんのフランケンシュタインに言いつけて、罰してやると言ったんだ」
「それでおまえは少年を殺してしまったんだな!」

 「そんなつもりじゃなかった。彼は私を恐ろしい言葉でののしるので、私はのどに手をかけて彼を静めようとしたんだ。すぐに彼は死んでしまった」
「そのために罪のない少女が処刑されたんだぞ!」 ビクターは叫びました。
「私は彼の首からロケットを取った。その中には女の人の写真が入っていた」
「それをどうしたんだ?」
「ひどいことさ。私は隠れるために納屋をみつけたんだが、わらの上に若い娘が寝ていたんだ。私の中に巣くっていた悪魔が、彼女に殺人の罪をきせろとささやき、それで私は彼女の服の中にロケットを入れた。それから迷ってここへきたんだ。これで私の話は終りだ」
「おまえは話を始めるとき、おまえを幸せにするために私が何かしてやれることがあると言ったな」 と、ビクターは言いました。
「そうだ。私は1人ぽっちでみじめなんだ。あなたはもう1人生きものを作らなくてはならない。私と同じように不格好で醜く、私といっしょに暮し、私を愛し、私の妻となってくれる女性をだ。あなただけがそれができる」
「断る。私はもう邪悪なものは二度と作らないんだ」
「あなたはまちがっている、フランケンシュタイン」 悪魔は答えました。
「私は人びとと仲良くいっしょに暮すつもりなのに、彼らがそうさせてくれないんだ。もし私が愛を得られないのなら、私は恐ろしいことを引き起してやる」

 彼の顔が苦悩にゆがみました。
「私のことを愛してくれる、私から逃げない生きものを作ってくれ、そうしたらあなたと仲直りしよう。私を幸せにしてくれ。私の頼みを拒まないでくれ! 私たちは2人でいっしょに遠くへ行って、二度と姿を現さないよ。誓うよ。お願いだ!」
ビクターは彼の嘆きに気が動転し、長いこと黙っていましたが、静かに言いました 「わかった。相手を作ってやろう」
「それなら行ってくれ、フランケンシュタイン、そして仕事を始めてほしい」 そう言うと怪物は去っていきました、ビクターが返事をしたり、気が変ったりしないうちに。

 ビクターは谷の方へ下りていく前に、しばらくしゃがみこんでいました。暗闇が迫っていました。途中休憩所で、彼は噴水の横にすわりました。彼は約束したことを考えて、さめざめと泣きました。明け方には村に着き、そこから家族のもとへ帰りました。
悪魔の怒りを恐れていたにもかかわらず、どんなにがんばっても、ビクターはもう1つの創造に取りかかる気になれませんでした。さらに彼の心は、今度のエリザベスとの結婚のことでもいっぱいだったのです。
「私はうれしいよ、ビクター」 彼の父親は言いました。「いつにするんだい?」
ビクターはすぐには答えませんでした。怪物がまだ彼をおどしているのに、エリザベスと結婚するということが、彼を恐怖でいっぱいにしました。
彼はまず、怪物に相手を作ってやらなければならないし、そうかといって、家にその研究室を作ることはできないのはわかっていました、みつかるのが恐ろしいのです。しかし彼の父親は彼に、健康を完全に取りもどすために長い休暇をとるように何度も勧めてきました、そして、彼はやっとそれを承諾しました。
ビクターはイギリスに少なくとも6か月はいることにし、ジュネーブに帰ったらすぐにエリザベスと結婚するということが決められました。へンリー・チャーバルがいっしょに行くことになりました。ビクターは、家族と未来の花嫁を怪物の攻撃から無防備のまま残していくのは心配でしたが、怪物が、フランケンシュタインの行くところには、どこへでもついていくと言っていたのを思い出しました。
9月になって、ビクターはできるだけ多くの化学用器具を荷造しました。それから彼とへンリーは、馬車でヨーロッパを渡りました。ロッテルダムから2人は、ドーバーまで海を越えていきました。

 イギリスでビクターは、新しい創造のために必要な材料を集めはじめました。何週間か過ぎ、それから2人は、スコットランド訪問の招待を受けました。これはビクターにとってはいい機会でした、仕事がずっと遅れていたからです。彼はヘンリーに、スコットランドでしばらく1人になって元気を取りもどしたいと言いました。彼は、スコットランドの海岸の沖合いはるかな孤島に行き、仕事にとりかかろうとしました。島には他に5人しかいませんでした。
この仕事は彼の気分を滅入らせ、彼は落ち着かなく、神経質になっていきました、そして、あの怪物が現れるかもしれないとおびえていました。
もし作り上げた女性が、彼女の相手よりももっと凶暴になったら? もしその2人がお互いを気に入らなかったら? もし彼女が遠くへ行くことを承諾せず、フランケンシュタインを放っておいたら? もし2人が子どもを産んで、その子どもも怪物だったら? こういった懸念が彼の心に重くのしかかっていました。
ある晩彼が仕事をしていてふと目を上げたとき、恐ろしい笑みを浮かべた悪魔が窓から彼を見ているのに気づきました。突然、フランケンシュタインは自分が何をしているか気がつき、かっとなって今まで作ってきたものをバラバラに引きちぎってしまいました。
窓の外で怪物がわめきました。「こんなに長く待たせた後で、おまえは約束したものを壊してしまった。おまえは私の創造者だ、フランケンシュタイン、しかし今では私がおまえの主人なのだ。復讐してやる。覚えておくがいい、フランケンシュタイン、おまえの婚礼の晩に会いにいくぞ!」
彼が行ってしまうと、ビクターの心は混乱してしまいました。怪物の言葉が頭の中でうずまいていました。「おまえの婚礼の晩に会いにいくぞ」
その夜は過ぎていきました。フランケンシュタインは眠れませんでした。

 朝になると、漁師が彼に手紙の束を持ってきました。そのうちの1つはヘンリー・チャーバルからで、ビクターに、彼といっしょに来るようにと勧めているものでした。ビクターはそうすることにしました。
しかしまず、彼は自分の実験室に行って、半分仕上がった生きものの残りの部分を大きなかごに入れました。真夜中過ぎ、彼は小さなボートに乗り、浜からおよそ4マイルほど離れたところに来ると、重い石をおもりにつけたそのかごを海の中へ沈めました。
2日後には彼は、ヘンリーが滞在している町に着き、友人の宿へと向かいました。でも遅過ぎたのです! 悪魔が先に来ていました。へンリーは首に怪物の指の跡をつけて、死んでいました。ビクターは、友人の生命のなくなった体を見ました。そして激しく震えると、熱に浮かされて倒れてしまいました。

 彼は死体のそばでみつかったので、殺人者の疑いをかけられて、告訴が準備されました。2か月もの間彼は独房にいて、気違いのようにうわごとを言っていました。治安判事は彼に尋問しようとしたのですが、うまくいきませんでした。
ビクターは健康を取りもどすにつれ、無実の罪で処刑されたジュスティーヌのことをたびたび考えました。たぶん、彼も同じ報いを受けるでしょう。それからある日、治安判事がまたやってきました。
「あなたが最初病気になったとき、私はあなたのポケットに入っていた紙を調べて、あなたの家族を探し出すことができたのです。私は2か月ほど前に、ジュネーブに手紙を書きました。今、あなたがチャーバル氏の親しい友人であり、彼が殺されたショックでまたあなたが病気になったことがわかりました。あなたのお父さんがいらっしゃって、あなたを家に連れて帰りたいとおっしゃっていますよ」 彼はこう説明しました。

 ビクターが最初に言ったことは 「エリザベスとアーネストはちゃんと守られていますか?」 でした。父親は2人とも無事だと言って、彼をなだめました。
法廷はビクターに対する件を却下し、彼は父親とともに刑務所を出ました。途中父親は、今度のエリザベスとの結婚の話をして彼を元気づけようとしました。ビクターに考えられることは、怪物を永久にやっつけるまで、愛する者たちを守るということだけでした。
ある日、家に帰る旅の途中で、彼は父親に、ウィリアムやジュスディーヌやへンリーが死んだ原因は自分にあるのだと言いましたが、父親は耳を貸しませんでした。
「愛する息子よ、もうそんなことは言わないでおくれ」 彼はやさしく言いました。
そこで、ビクターは黙っていましたが、怪物の言葉がよみがえってきました。「おまえの婚礼の晩に会いにいくぞ」 その日の夜、化物が彼を殺そうとすることを彼は確信していました。
エリザベスは彼がやせて弱々しくなったのを見て、目に涙を浮かべました。彼女はいつものとおり、やさしく寛大でした。ビクターは狂おしいほど彼女と結婚したいと思いました。結婚式の準備が着々と行われている一方、彼は、弾をこめたピストルと短剣をいつも手の届くところに置いて、気をつけていました。
2人は新婚旅行を、エリザベスの両親が住んでいた、湖のそばの別荘で過すことにしました。結婚式の後、新婚の2人はジュネーブから湖(を渡る路線) で出発し、その晩エビアンで過すことになっていました。宿にもどる前に、2人は岸辺を歩いていましたが、怪物の言葉がビクターの心から離れませんでした。
「おまえの婚礼の晩に会いにいくぞ」

 彼の心はすっかりかき乱され、エリザベスが部屋にもどると、彼は怪物の居所を探さなくてはという気持になりました。まず、彼は宿屋の通路を歩き回り、曲がり角ごとに怪物がいるのではと待ちかまえました。彼がそうしていると、エリザベスの恐ろしい悲鳴が聞えたのです。
ビクターは自分の部屋にとびこみましたが、間に合いませんでした。彼の花嫁は、悪魔の指の跡を首につけ、息絶えてベッドに横たわっていました。開け放されていた窓からのぞいていたのは、恐ろしい殺人者でした。彼はエリザベスの死体を指さして笑いました。
フランケンシュタインは窓のところへ走っていってピストルを撃ちましたが、化物は光のようにすばやく動き、湖にとびこみました。ピストルの音が人びとを部屋に呼び寄せました。ビクターが湖を指さすと、彼らはボートに乗って殺人者の後を追いました。が、無駄でした。数時間後に彼らはもどってきました。

 フランケンシュタインは疲労で倒れ、ベッドに寝かされました。今までに起ったことの恐怖全体が、彼の心の中で大きくふくれ上がっていきました。ウィリアムの死、ジュスティーヌの処刑、ヘンリーの殺害、そして彼の妻の死。彼の父親と弟のアーネストが危険だという思いがビクターをおののき震えさせました──そして、すでに行動に移させたのです。
彼はただちにジュネーブにもどりました。今まで起ったことの知らせは、ビクターの父親をひどく悲しませました、彼はエリザベスを自分の子どものようにかわいがっていたからです。数日後、彼はビクターの腕の中で死にました。
絶望のなかでビクターは、怪物を殺すまで追い続ける決意を固めました。
ジュネーブを発つ前に彼は、ウィリアム、エリザベス、そして父親が眠る墓地に、最後の訪問をしました。彼が草の上にひざまずき、あの呪われた怪物をみつけだし殺せるよう力をかしてくださいと、声に出して祈っているうちに、あたりは暗くなっていきました。

 まるでそれに答えるかのように静寂のなかから、邪悪な大きな笑い声が聞えてきました。それから、怪物は静かに言いました。「私は満足さ、フランケンシュタイン、今やおまえがみじめで不幸になったのだから」 そう言うと、彼はおどろくべき速さで消えていきました。
何か月もの間、ビクターは、ほんの小さな手がかりだけをたよりに怪物を追いましたが、決して追いつくことはできませんでした。彼は、川の曲がりくねった岸辺沿いに、あるいは地中海の海岸線のいくつかの地点に沿って怪物を追い、たどっていきました。
国から国へ、悪魔はビクターより1日早く動き、船で黒海を渡って、次にはタタールの原野やロシアの荒れ地のまっただ中にいました。つねに彼は、人の多いところを避けました。
ビクターが跡を見失うたびに悪魔はもどってきて、何か印を残していくのです。悪魔は、自分が与えている苦しみを楽しんでいました。ビクターには、眠っているとき以外、平穏なときはありませんでした。でも日中は、復讐の気持が彼に追い続けさせていたのです。
ある夜、彼は暗闇のなかに声を聞きました。「おまえは今度は、北方の氷と厳しい寒さの方へ私を追ってこなければならんのだ。そこでおまえはもっと苦しくみじめなときを堪え忍ぶのだ、おまえが十分に苦しんだと私が満足するまでな、私の敵よ」

 ビクターは追跡を続けました。そして寒さが我慢できないほど厳しくなったとき、彼は遠くに1つの点を見ました。彼が敵に追いついたかのように見えたちょうどそのとき、風が吹き上げ、海が荒れ、氷にひびが入って割れたのです。彼は砕けた氷のかけらの上に残され、漂流していました。
恐ろしい何時間かがたちました。氷はやっと停止したのですが、ビクターはもうこれ以上進めませんでした。彼の心は、ウィリアム、ジュスティーヌ、ヘンリー、エリザベス、そして父親のことでいっぱいでした。彼は自分の一生のことを思い、いかに自分の才能を無駄に使ったかを考えました。力がだんだん弱くなってきました。彼は完全に消耗しきっていました。そして氷の上に横たわったまま目を閉じました。
その次の日、怪物は、もはや追いかけられていないのに気づいて、追手を探しにもどりました。彼は迫りくる闇のなかでビクターの凍った体をみつけたとき、涙が出そうになりました。
「許してくれ、フランケンシュタイン。私はあなたの愛する者をすべて破壊してしまった。でも私自身、大変な苦痛を味わったのだ。あなたには、私がこう言うのが聞えないだろう、でも私は、あの人たちを殺したくはなかったのだ。今、すべてが終った。あなたが最後の犠牲者なんだ」 こう言うと、彼はみじめな思いに頭をうなだれました。
「なぜフェリックスは私を農家から追い出したんだろう? なぜ私が子どもを救ってあげたのに、あの農夫は私を撃ったんだろう? なぜ私は愛しい者や力のない者を殺したのだろう? フランケンシュタイン、あなたはもう死んでしまった。私に何が残っているだろうか、死ぬこと以外に?」
怪物は向きを変えると、暗闇のなかへ消えていきました。


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