レディバードブックス100点セット
 

 

おやすみ前の話〔青〕

〈うなる亀トンガ〉

 あなたはうなる亀のことを知っていますか。そうです、うなるのです。とにかく、トンガはうなりました。彼はドウソンさんの一家と住んでいた亀で、一家の人たちは彼にたいへん親切でした。
ただひとつ困ったことがありました、彼らはビフという名の子犬を飼っていたのです──そしてその犬こそトンガがうなるようになった理由でした。ビフはいつもトンガと遊ぼうとしていました。そして、ときにはちょっとばかり手荒なこともありました。もちろん彼に悪意があったわけではありません──彼はほんとうにとてもいい子犬でした。彼はただ遊びたかったのです、そしてトンガよりもずっと大きく強かったのです、トンガは重い甲羅のために、すばやくは動けませんでした。
ビフは、芝生に出て静かに草をかじって楽しんでいるトンガの方へかけてきて、彼をボールのように何回も何回もころがしました。ときにはトンガを空中に投げ上げようとしたこともありました。
かわいそうに、トンガはどうしてよいかわかりませんでした。何回も何回もころがされて、彼は気分が悪くなりました。空中に投げ上げられるのは恐ろしいことでした。それをされるとくらくらして、地面に落ちたときには、かわいそうに、トンガの頭はぐるぐるとまわるのでした。
トンガにとってはほんとうにとても苦しいことでした、亀はふつう何の声も立てられないので、彼はビフの荒っぽいいたずらをどうやって止めさせたらよいかわかりませんでした。彼は芝生の上で遊ぶのが大好きでした──しかし、気分を悪くされるのでは、楽しむどころではありません。
トンガはそのことについて考えぬきました。彼にもできることが、何かあるにちがいありません。

 彼はビフが出す声に聞き入りました。彼はうれしいときには吠え、きげんの悪いときにはうなるような声を出しました。
ああ、もしトンガもうなることができて、ころがされたり投げ上げられたりするのはいやだと、ビフに示すことができさえすればなあ。他には方法はない、とトンガは決心しました。彼はうなることができるようにならなければなりませんでした。
彼にも、それは容易なことではないだろうとわかっていました。実際、それはとても難しいものになりました、まずうなるための声をみつけなければなりませんでしたから。しかし彼は決心しました──それをやりとげようと。そして、トンガが何かをやろうと決心すると、それがどんなに難しいものであろうと、また、どんなに時間がかかろうと、彼はそれをやりとげました。

 あたりに誰もいないとき、トンガは熱心にはげみました、そして次第に、何とか、少しうまくうなれるようになりました。うなり声は甲羅の真下から出るのでした、そしてうなる用意ができると、トンガは頭を突き出し──目をぐるぐるとまわし──頭をふるわせ──口を開けてグルルル……とうなるのです。すると、ほんとうに特別上等のうなり声が出てくるのでした。
とうとう、たくさん練習をつんだ後、トンガは、ビフの乱暴を止められるくらい上手にうなり声を立てられるようになったと思いました。
次のとき、ビフがトンガに向かって突進してきて、彼の鼻で押しはじめたとき──トンガはグルルル……とうなりました。

 ビフはたいへんびっくりしました──彼は信じることができませんでした。彼は何回もトンガを鼻で押しました──グルルル……とトンガはうなりました。いちだんと上手に。
かわいそうなビフ。彼はじっとしていましたが、そのうちトンガのそばにそっと寄っていって、彼の甲羅をやさしくなめました。トンガはそうされるのが気に入りました。彼は頭を突き出して、とてもやさしくうなりました。ビフは、トンガが仲良くして遊びたいのだけれど、空中に投げ上げられたり、ころがされたりするのはいやなのだと、わかりはじめました。
そしてそれから後は、彼らはお互いをたいへんよく理解し、いっしょに遊んで何時間も楽しく過しました。
もしあなたが子犬で、ドウソンさんの家の庭を通りかかることがあったら、ちょっと寄ってトンガにこんにちはと言ってください──トンガは友だちといるのが大好きです。とくに今は、あなたに話しかけることができるのですから。

〈花の王女さま〉

 あるとき、サクラソウの谷に住んでいる女王さまがいました。彼女は 「花の女王さま」 として知られていました、ですからもちろん、彼女のかわいい女の赤ちゃんは 「花の王女さま」 と呼ばれていました。
花の王女さまが1歳近くになって、もうすぐ満1歳の誕生日がくるころとなりました、そして、彼女の最初の誕生日は特別な誕生日でした。
森のすべての妖精や小鬼や小人が、彼女にかわいい贈物を買おうと思いました、しかし花の女王さまが言いました。「いいえ……誰も赤ちゃん王女のために贈物を買ってはなりません。しかし」 彼女は言いました 「あなたたちが自分の手で作った贈物なら、彼女は喜んで受け取るでしょう」
この宣言を聞いて、森じゅうが興奮してガヤガヤしました、そしてみんな、かわいい王女さまへの贈物に何を作るかを決めはじめました。誰もが一番いい贈物をしたいと思いました……そして、それこそ女王さまがそうしてほしいと思っていたことでした。というのは、彼らは近ごろ怠惰でふきげんでしたから。贈物を作るように言えば、彼らも仕事をするだろうと女王さまは思いました、そして、彼女のその考えは正しかったのです。
何を作るのか決めるのには、長いことかかりました、そしてついに、ある者たちはこう言いました。「我々は彼女のために、砂糖やアーモンドや砂糖ごろもを使った大きな美しいケーキを作ろう。すべてのケーキのなかで、一番大きく一番すばらしいケーキにしよう」
また、別の者たちはこう言いました。「ああ、ぼくたちはちがうぞ。彼女はまだあまりにも小さすぎて、ケーキは食べられないだろう。ぼくたちは美しい大きな人形の家を作ろう、王女さまはそれを好いてくれるよ」 彼らはすぐ楽しそうに木を切り倒し、のこぎりで切り、かんなをかけ、かなづちでトントンやりはじめました。
それからまた、2、3人が寄り集まって言いました。「ぼくたちは彼女に美しいパーティ用のドレスを作ってあげよう。一番みごとな絹としゅすを使って、どんな王女さまも着たことがないほど立派なドレスにしようよ。彼女はいちだんと美しく見えるだろうな」 彼らは裁断し、縫いはじめました。
「ああ、彼女は王女さまなんだ、そして王女さまは冠をかぶらなければならないぞ、だからぼくたちは彼女に金と銀でできた冠を作り、それにダイヤモンドをちりばめて、きらきら輝くようにしよう」 というグループもありました。どのグループも自分たちが贈物に何を作ろうとしているのかについては秘密にしていました。

 ノニ (名なし) と呼ばれる小さな小人がいました……実をいうと彼には名前がなかったので、そう呼ばれていたのです……それでみんなは彼のことをノニと呼びました。彼は庭師で、彼にできることは、ただ花を育てることだけだったので、彼はとてもうろたえました。彼は自分の手では何も作ることができませんでした。なるほど、彼は花の世話をしました、しかし、誰でも、ほんとうの花を作ることはできないことを知っています……自分の手では……私たちは花が育つのを助けることができるだけです。
ある日、彼がとても悲しそうにすわっていると、小さな妖精が彼のひざにとびのりました。「あなたはなぜそんなに心配そうで、また悲しそうなの?」 と、彼女は小人にたずねました。
「ぼくは何も作ることができないんだ。ぼくは庭師で、ぼくは花が育つのを助けることができるだけだ、でも、ぼくは何かをしたいんだよ」
「あなたは王女さまのために何を作りたいの?」 と、妖精はたずねました。

 「ぼくは王女さまを幸せにしたいんだ」 と、ノニは言いました。
「なんという美しい答でしょう。あなたがそうできるように、私もお手伝いするわ」
小人のノニはちょっとの間、その妖精をじっとみつめました、すると彼女はほほえみかけました。
「あなたは自分の手で何かを作るのです」 と、彼女は言いました。彼女がつえをひと振りして、地面を軽くたたきました、すると突然、小さなバイオリンと弓が出てきました。

 「あなたは自分の手で音楽を作るのですよ、ノニ」 かわいい妖精は言いました。「これは魔法のバイオリンで、あなたがそれを弾くと、花が育つんです。あなたが演奏すると、地面から芽生えて……ちょっとやってみてごらんなさい」
小さな小人はほとんど自分の目を信じることができませんでした。彼はバイオリンを取り上げて、弦にやさしく弓を当てました。
すると、彼が演奏するにつれて、バラのつるがどんどんのびるのに気がつきました、演奏をやめると、バラのつるも、とまりました。
ノニはうれしくて笑い、手をパチパチとたたきました。「ありがとう、かわいい妖精さん」彼は言いました 「これで、宮殿へ行って、王女さまに贈物をさしあげることができるぞ」
その重大な日になって、森の住人たちはみんなかわいい王女さまへの贈物を持ってきました。彼らが着いたとき、たまたま王女さまは泣いていました (何といってもまだほんの1歳なのですから)。
「王女さまがぼくたちの贈物をごらんになるまで待ってみてください」 彼らのなかのひとりが言いました。「そのときはきっと泣きやまれますよ」
そして彼らは巨大なバースデーケーキのおおいを取りました。女王さまはたいへんうれしく思い、彼らに感謝しました……しかし、かわいそうに王女さまは泣きやみませんでした。
「ぼくたちの贈物を王女さまはどうお思いになるか見ることにしよう」 と、ほかのものが言いました、そして大きな人形の家を持ち出しました。女王さまは格別お喜びなりました……しかし小さな王女さまは泣きやまず、それをほとんど見もしませんでした。
「これを見れば、王女さまも泣きやむだろう」 と、もうひとつのグループが言い、彼らが作った美しいパーティードレスをごらんにいれました。女王さまは大喜びで……彼らにありがとうと言われました……しかし、小さな赤ちゃんの王女さまはまだ泣きやみませんでした。
次に、ほかのグループが、彼らの作った美しい冠を披露しました……女王さまはなんと美しいこと、と言われました……しかし小さな王女さまは泣き続けました。

 次に、小人の小さなノニが進み出ました、すると誰かが言いました。
「おまえは何を持ってきたのかね」
ノニは言いました。「ぼくは、土の入った小さな植木鉢を持ってきました」
「王女さまに土の入った植木鉢をさしあげるなんて失礼だぞ」 と、彼らは言いました。そして、彼を押し出そうとしました……しかし、ノニは妖精がくれた小さなバイオリンを振りました。
誰かが叫びました。「ここでさし出される贈物は自分の手で作ったものだけだぞ」
ノニは答えました。「ええ、わかっています。私は自分の手で音楽を作ろうと思います……まあ、何が起るか見ていてください。この小さな植木鉢をしっかり見ていてくださいよ」

 彼らはみんな植木鉢をじっとみつめ、小人のノニは演奏しはじめました。突然、植木鉢の土がもちあがりはじめました……それから、花のつぼみが顔を出しました……そして小さな小人が演奏するにつれて、見たこともないほど美しい花が人びとの目の前で咲きはじめました。
音楽の音が聞えたので、かわいい王女さまは泣きやみました、そして、花が咲くのをじっとみつめました。それから王女さまのベッドカバーに刺しゅうされた小さな花も咲きはじめ……壁紙の花さえも咲きはじめました……そして彼らが窓の外を見ると、庭じゅうに花が咲き乱れていました。

 女王さまにはまったく信じられないことでした。彼女はノニに、彼の贈物こそもっともすばらしい贈物で、花の王女にふさわしいものだと言いました。「名前は何というのか、小さい人よ」 と、彼女はたずねました。
「ノニと呼ばれております、私には名前がありませんので」 と、彼は答えました。
「ばかげたこと」 女王さまは言いました。「おまえには名前だけでなく、立派な仕事もあります。以後、おまえを宮廷の庭師に任命しましょう……さらに私たちは愛情をこめて、おまえをグリーン・フィンガーズ(園芸の名人) と呼ぶことにしましょう」
そして今日に至るまで、庭の草花の栽培の上手な人は、グリーン・フィンガーズと呼ばれています……それは、王女さまを幸せにしたいと思った小さな小人……グリーン・フィンガーズと呼ばれた小さな小人をたたえてのことなのです。

〈ベン、ハリネズミを助ける〉

 ベンは注意深く5つの牛乳の空きびんをかごの中に入れました。次に彼はアノラックのチャックをあげ、長靴をはいて、牛乳を取りに門に通じる道を歩いていきました。夜じゅう雨が降っていたので、ザブザブと渡らなければならない大きな水たまりが、そこここにありました。

 最初のキャトル・グリッドに着くと、彼は片手でかごをしっかりとにぎり、片手で木の手すりをにぎりました (キャトル・グリッドとは、地面に深い穴を掘って、その上に鉄格子を並べたもので、人や車はその上を通れますが、牛などは通れないようになっているものです)。ベンは注意深くその上を渡りながら、下の穴を見おろしました、すると、なかば泥と草にかくれて、丸くて茶色っぽいとげだらけのボールが見えました。それはたいへん奇妙なものでした。ベンは今までにキャトル・グリッドの中にこんなものを見たことはありませんでした。
ベンはぬかるんだ道をかけおりて、毎日箱の中に牛乳びんがおいてある小道へと急ぎました。野原には数頭の牛と、年とった馬が1頭いました、しかし、馬はずっと向うの方にいて、草を食べるのに忙しく、ベンを気にもとめませんでした。
ベンは箱のふたを開けて、新鮮な牛乳のはいった5本のびんを取り出しました。それから、次に、かごから空のびんを取り出し、朝になって牛乳屋が集めてくれるように、それを箱の中に入れました。それから彼はかごの中に牛乳がはいったびんを入れ、道に引き返しました。
彼は大きな水たまりをすべてバシャバシャと通りすぎ、丸い石をみつけたのでけとばすと、キャトル・グリッドのあたりまでとどきました。彼がグリッドを渡ろうとしたとき、彼は思い出して、さっき見たとげだらけのおかしなボールを見ようとしました。しかし、それは前のところにはありませんでした。
彼はよくよく見ました、それから、鉄の棒の間をつっつくための長い棒をさがしにいきました。それはちゃんとそこにいました。彼はそのかわいい黒い目まで見ることができました。彼はお母さんとお父さんをさがしに、道の最後の部分をかけていきましたが、牛乳のことを思い出し、かごを取りにもどらなければなりませんでした。

 彼はまずお父さんをみつけました。彼は倒れた古木をのこぎりでひいていました。
「ベン、たきぎを積むのを手伝ってくれるかい」 と、お父さんは呼びかけました。
「あとでね、でも先にちょっと見にきてくれない」 と、ベンは言いました。
「キャトル・グリッドの中で何かをみつけたの。ぼく、あそこに落っこちて出られないのじゃないかと思うんだ」
「ふーん、どんなかっこうをしているのかね」 お父さんはたずねました。

 「見にきてよ。それにはとげがいっぱいあって、黒い光る目をしているんだ」 と、ベンは案内しながら言いました。
「ヘッジホッグ(ハリネスミ)のようだな」 お父さんは言いました。「もしそうなら、厚い手袋がいるな、手袋をしないと、とげがあるんでつかみあげるのがとても難しいよ」
彼らはキャトル・グリッドの中をのぞきこみました。すみの方にとげだらけの茶色のボールがいました。
「たしかにヘッジホッグだ」 お父さんはベンに言いました。「ヘッジピッグ(ピッグはぶたの意味) とも呼ばれているんだよ。さて、いくつか必要なものがあるぞ。わらを入れた箱とパンと牛乳を入れたおわんが必要だ。お母さんにそれをもらいにいきなさい、私は厚い庭仕事用の手袋をさがしてこよう」

 ベンはお母さんをみつけて、自分の胸のおどるような発見について話そうと、かけ出しました。彼は、ヘッジホッグよりもヘッジピッグの方がおもしろいと思いました、それで彼はそう呼ぶことにしました。お母さんはプラスティックの古いお皿をみつけ、細かくちぎって牛乳にひたしなさいと、パンを2切れくれました。それからベンは果樹園に行って、雌鶏のための乾燥小屋にしまってある俵から、わらを少し持ち出しました。彼は古い箱をみつけ、その中にわらを敷きました。
「あいつをどこにおいたら一番いいと思う」 と、ベンはお父さんにたずねました。
「寒すぎてはいけないし、ガレージが一番いいと思うよ。私たちは外出しないから、あれもじゃまされることはないだろう。箱をガレージにおいてそのかわいそうなやつを助けにいこう。一晩じゅうあそこにいたのなら、すっかりぬれてみじめな思いをしているだろうよ」
厚い手袋をはめて、ベンのお父さんは鉄棒の間に手を伸ばし、それが丸くちぢこまる間を与えずに、その小さなハリネズミをつかまえました。ベンはその手や足や黒い目や、かわいい黒い鼻を見ることができました。彼らはハリネズミをガレージにおいた箱の中に注意深く入れました、そして、ペンは彼が食べられるように、パンと牛乳を運びこみました。彼はずい分長い間待ちましたが、その小さなハリネズミは箱の中に丸くなったままで動きませんでした。
「しばらくはなれて、少し後でもどってきてごらん」 お父さんが提案しました。「彼にはたぶん私たちの声がまだ聞えいて、とてもこわがっているんだ」
そこでベンは、お父さんが切っておいた、たきぎを積み上げるのを手伝いました、そうしているうちにお昼ごはんの時間になりました、家に入る前に、彼がそっとガレージに入っていくと、小さなハリネズミはわらの中に穴を作って、ほとんどかくれていました。彼はまだ牛乳にひたしたパンをぜんぜん食べていませんでした。ペンはとてもがっかりしました。
昼食の後、ベンはハリネズミのことを忘れてしまいました、雨がはげしく降って、外で遊べなかったからです。外に出るかわりに、彼は兵隊と城を全部持ち出して、まもなく戦争ゲームに熱中しました。
午後はとぶように過ぎていくようでした、そしてすぐ、お茶ですよと階下に呼ばれる時間となりました。
「あとで、ハリネズミのぐあいがよくなったかどうか見にいってもいい?」 と、彼はたずねました。

 「もちろん、いいわよ」 お母さんが言いました。「びしょぬれにならないようにしなさいよ──まだ土砂降りですからね」
「うん、ぼくがグリッドの中にあいつをみつけてよかったな。今夜も外で適さなければならなかったら、あいつはおぼれたかもしれないよ」 と、ベンは言いました。
彼はやっとのことでレインコートを着て、土砂降りの中をガレージへとかけていきました。できるだけ静かにドアを開けて、お父さんが貸してくれたカンテラをつけ、さっき小さなハリネズミをおいたところへそっと近づきました。
ベンは自分の目が信じられませんでした。小さなハリネズミはパンと牛乳のはいったお皿のそばに立っていて、パンと牛乳はほとんどなくなっていたのです。それを見ていて、ベンはかわいいピンク色の舌を出したり入れたりしている赤ちゃん猫を思い出しました。ハリネズミはパンと牛乳を食べ終って、お皿をなめてすっかりきれいにしてしまうと、彼の箱のまわりを2、3分ぐるぐるまわっていい寝場所をさがし、またもとのように丸くなりました。「おやすみ、かわいいハリネズミくん」 ベンはささやきました 「またあしたの朝会おうね」
彼はそっと外に出ました、それからまた雨の中をつっ走って台所にもどりました。「ママ、パパ、ほら見て」 彼はからっぽのお皿を見せながら叫びました。「ハリネズミはみんな食べちゃったんだ、ぼく食べるのを見ていたんだよ。彼は今は眠ってる、わらの中に丸くなってね。朝ごはん用に食べものを少し置いてきてもいい、お願い」
「もちろんいいわよ、しかし急がなければだめよ」 お母さんが言いました。
「もうすぐ寝る時間ですからね」
そこで、ベンはパンの入った箱から2切れ取り出して、小さくちぎってお皿に入れ、牛乳を注いでパンをひたしました。それから雨の中をガレージまでそれを運んで、眠っているハリネズミのそばに置きました。

 次の日の朝は、お日さまが明るく輝いていました、そこでベンはとび起きて、できるだけ早く着がえました。それから彼は階下にかけおり、台所をぬけて庭のガレージへとかけていきました。しかし、ベンが箱のところに着くと、からっぽでした。ハリネズミはいなくなっていました。しかし、ハリネズミのために置いておいたパンと牛乳もなくなっていました。
「やれやれ、おまえが食べるのは見られなかったけれど、少なくともおまえに朝ごはんはあげたんだね」 ベンは少し悲しくなって言いました。「そして、ほんの短い間だったけど、少なくともぼく自身のハリネズミを飼ったんだ」 彼は家の中に入って、お父さんとお母さんに何が起ったのかを話しました。
「おまえはたぶん彼にはもう会えないと思いますよ、彼は昼間は寝ていて、夜になると、食べものをあさりに出てくるんですから」 お母さんが説明しました。「毎晩ガレージのドアのそばにパンと牛乳を少しおいて、彼がそれを食べにもどってくるかどうか見たらどうかしら」
「わあ、いい考えだな!」 ベンは元気づいて言いました。「彼は食べると思う?」
それで、ベンは毎晩それを実行しています、すると、毎夜、ベンがぐっすり眠っているときに、あのかわいい茶色のハリネズミは、いつも忘れずにパンと牛乳を食べにガレージにやってくるのです。

〈チーズが食べられなかったネズミ〉

 おとぎの国のすべてのお話のなかで──お話はいろいろあったのですが、いつも楽しませてくれるお話は、ひとつだけあるのです。
それはとても単純なお話です、それをお話ししたいのです、チーズがどうしても食べられなかったネズミの話を。

そのネズミはそんなに遠くないところにある、1軒の家に住んでいました。
彼はあまり幸せではありませんでした、夜となく昼となくからかわれていたのです。
ほかのネズミたちは彼をからかい、機会をとらえては彼を笑いましたそして、それはすべて彼がチーズを食べられなかったからです。

彼はたいへんおくびょうだったので (彼はウィスカー“ひげ”という名前でした)、ほかのすべてのネズミがよく言いました、彼がいるのは恥だと。
彼らは彼をいじめ、よくけんかをし、彼を屈従させました、
そしてそれはすべて、この小さなネズミがどうしてもチーズが食べられなかったからです。
床板の下でネズミたちは1日じゅうはねまわりました。
年とったネズミはすわって、若いネズミが遊んでいるのを見守っているのでした。
それから夜になって、すべてが暗くなると、彼らはみんな出かけてあちこち歩きまわるのでした、かわいそうな小さなウィスカーは別でした──彼らは彼を家におき去りにしたのです。

 「彼を連れにいっても役に立たないよ」 彼らは叫びました。「彼はたぶん気が変るだろうから」
「ぼくたちが、わなの中のチーズのごちそうを食べるときに」
それから、ほかのネズミは、えものをさがしに出かけてしまい、
かわいそうに、小さなウィスカーはたった1匹で後に取り残されました。

彼らは食料貯蔵室にしのびこみ、米をかじりました。
彼らはパリッとした厚いパンを食べ終り、たいへんおいしいと思いました。
そしてその間じゅう、かわいそうにウィスカーはおなかをすかしていました、どうかしてください、
ただ彼がチーズを食べられないネズミだったために。

「みんなパンの小さなかけらを持ち帰ってくれるかしら。
ベーコンの皮のおいしいかけらも食べたいな」 と、彼は言いました。
「ソーセージのかけらも食べたいな、またおいしい新鮮な豆もいいな。
みんなぼくのことを笑わなければいいんだけど、ぼくがチーズを食べられないからといって」

 時間がたって、時計が2時を打つころ、食料貯蔵室は大混乱でした。
ネズミたちはすばらしい祝宴をはりました、そして、なんとまあ、彼らのどん欲さといったら。
「若いウィスカーはごちそうを食べそこなった」 彼らは叫びました 「あいつは太れないぞ」
ネズミたちは食べるのにとても忙しくて──猫が見えませんでした。
ウィスカーは穴の中にすわって、ただひざをかかえてふるえていました、
そして、時がたつにつれて、彼はとても落ち着かない気分になりました。
ほかのネズミたちはもどってきませんでした、ウィスカーはそこにすわって、
チーズがきらいだったので、猫から助かったのだと知りました。
ウィスカーという名の小さなネズミは、ほんとうに小さいけれど、
私たちみんなの教訓になると、君たちはわかったと思います。
君たちは自分がほかの人とちがうからといって、そんなことにくよくよするのではありません。
ほかの人たちと同じことをすることが、いつも引き合うとはかぎりませんよ。

〈青い山の竜〉

 多くの商人や旅人が行き来する大通りのわきに果樹園があり、その果樹園のなかには、きれいでおいしい冷たい水が出る井戸がありました、その井戸は何マイルもの間にある、たったひとつの水源でした。果樹園のなかには、小屋もあって、ひとりぼっちの小さな男が住んでいました──水を飲みに立ち止まる旅人がいなかったら、ほんとうに彼はひとりぼっちでした。
彼は井戸に小さな鐘をつけて、旅人が井戸から水をくもうと柄を動かすとすぐ鳴るようにしておきました。鐘が鳴ると、小さな男はおいしい食べものをいっぱい入れてある食料貯蔵室に急ぎました。そこにはパイやケーキや焼いたばかりのパンやチーズがありました。彼はそれらを全部かごに入れて、井戸を訪れた旅人のところへ持っていくのでした。旅人たちは、いつもとてもありがたがりました。
「いくらお払いすればいいでしょう」 と、彼らはたずねるのがつねでしたが、小さな男はいつもこう答えました。「どうか、何かお話をしてください」 彼がお返しにほしかったのは、お話だけだったのです。
ある美しい夏の日、たいへんのどがかわいている旅人がやってきました。水をくもうと彼がバケツをおろすと、すぐリンリンリンと小さな鐘が鳴りました。小さな男はそれを聞くと、疲れた旅人にあげようとパンやチーズやパイやケーキが入った大きなかごを持って、家から出てきました。

 旅人は大喜びでした。「おいくらでしょうか」 と、彼はたずねました。
「1ペニーもいりません」 小さな男は答えました。「しかし、何かお話をしてくださいませんか」
「私はお話は知りませんが」 旅人は言いました 「でも、2、3日前、青い山のふもとの村を通りかかると、おかしなことが起ったのです。その村は、ふつうの村とはちがって、幸せそうでも陽気でもなかったのです。その村は静かで、私が会う人は誰でもこわがっている様子なのです。そこでパンを買いにいったとき、パン屋に、なぜみんなそんなにびくびくしているのかとたずねました。
『竜のせいですよ』と、彼は答えたんです。
『竜のことは聞いたことがありますが』と、私は言いました『しかし、そんなものはきっといないですよ』
『いや、たしかにいるんです』と、パン屋は言いました。『その竜は、ここと山のてっぺんの雪とのまん中あたりにある、ほら穴の中に住んでいます。それでみんなこわがっているんです、竜が何をするか、私たちにはわかりませんからね』
『竜は人を傷つけるのですか』と、私はたずねました。
パン屋さんは言いました『いいえ、今まで人を傷つけたことはありません、しかし、羊飼いの少年が羊や、ヤギを追って山に登っていくと、竜はときどき出てきてほえるのです、恐ろしい大声で。それから竜はほのおを吹き出すのです、すると、羊飼いの少年も羊もヤギも恐ろしくなってしまい、村の私たちもこわくなってしまいます。竜が山から下りてきたらどうしよう、いったい何が起るのだろうか、と』
『竜は今でもそこにいるのですか』と、私はたずねました。
パン屋は考えこんでいるようでした。『それがね、おかしいんですよ。このところしばらく竜の姿を見ないんです。数週間前気候が暖かくなって、ちょっとなだれがあったんですが、その後竜の姿を見ていません。二度と見ずにすみたいものです』
旅人の話を聞いているうちに、小さな男は実際とても興味をおぼえてきました。

 「その生きものを見にいかなくてはならないぞ」 彼は言いました。「私は竜のことを聞いたことはあるけれど、そんなものがいるなんて信じたことはありません。こんなすばらしいお話をしてくださってどうもありがとう。青い山までどのくらいあると言われましたか」 と、彼はたずねました。
「大通りを東の方へ14日ほど歩いたところにあります。7日かそこらで川に着くはずです。その川にそって山の方へ行くと、その村に着きますよ」
旅人は去っていきました、そして小さな男は自分自身の旅へと出発しました。
旅人が話してくれた小川に着くまで、歩いて7日かかりました。このときには水がとぼしくなっていました、しかし、小川にはかわきをいやす水がたくさん流れていました。13日目までには、食べものは何にもなくなり、彼は疲れはてて小川のへりに横になって、眠ってしまいました。
翌日彼が目を覚すと、パンを焼くにおいがしてきました、それで、探している村が近いということがわかりました。パンのにおいをたどっていくと、村のまん中にパン屋がありました。
「どちらにおいでかね」 と、パン屋がパンを手渡しながら、彼にたずねました。
「あの」 小さな男は言いました 「私は竜をさがしているんですよ。竜のような生きものがほんとうにいるのかなと思って」
「たしかにいるんですよ」 パン屋が言いました。「まあ、たしかにいたというべきかな、このところ姿を見ていませんから」
「さて」 小さな男は言いました 「私は登っていって、竜を見たいんです、まだ見たことがないのでね」

 「おまえさんは勇気がありますね」 と、パン屋は言いました。
「旅人は、竜は誰も傷つけたことはなくて、ただほえたり、ほのおを吹き出すだけだと言っていましたが」
「それはほんとうです」 パン屋は言いました。「あの竜は誰も傷つけたことがありません」
「じゃあ、どうして彼が人を傷つけるだろうとわかるんですか?」 小さな男は言いました。「たぶん竜は誰も傷つけたくないんだと思いますよ。そんなふうに思ったことはありませんか?」
「うーん、そう思ったことはありません」 パン屋は言いました 「しかし、羊飼いの少年が山に登るたびに、なぜやつはほえるんでしょう」
「私にはわかりません」 小さな男は言いました。「なぜ犬は出てきてほえるんでしょう。なぜ鳥は歌うんでしょう、何かわけがあるにちがいありません。だから私はどんなわけがあるのか知りたいんですよ。それで、私はそこに行きます」

 小さな男がほら穴に着くまでには、山登りにまる1日かかりました、そしてほら穴のそばにかくれ場所をみつけて、彼は眠りました。
次の朝、彼は早く目が覚めました、そして、ほら穴の入口に行きました。
彼は叫びました 「おーい、竜くんはそこに住んでいるかい」 ゴロゴロ鳴るような音がしました。「おーい、おーい」 彼は叫び続けました。「私はここに竜が住んでいて、それは、ほえて羊飼いの少年をこわがらせる大きな竜だと聞いたんだ。竜くん、どこにいるのかね、そこにいるのかね」
ちょうどそのとき、奇妙な音が聞えました。それは 「ブーフーフー」 というような音で、次に、ビシャッという音がしました。

 「そこではいったし、何が起っているのかね」 と、小さな男はたずねました、そして彼はほら穴の中へ入っていきました。
「おれだよ」 悲しげに泣いているような声がしました。「竜だよ」
「竜だって? 少しも竜らしくないじゃないか。私は竜はどう猛な動物だと思っていたのに」
「おれはどう猛だぞ」 と、竜は泣き声で言いました。

 「私にはさっぱりどう猛そうに思えないね、なんだか泣いているように聞えるよ」 小さな男は言いました。「なぜ泣いているのかね。竜も泣くことができるなんて、これっぽっちも考えたこともなかったよ。どうしたのかね」
「おれはもうほえられないんだ、それからほのおも全部なくなってしまった」 竜が言いました。「このあいだおれがほら穴の入口にいたとき、雪がどさりと落ちてきたんだ。何が起ったのかと振り向いたとき、雪をのみこんで、ほのおが全部なくなっちゃったんだ。のども痛くなって、それ以後ほえることもできないんだ」
「それは竜の風邪らしいな。ところで、どうしてほえたりほのおを吹き出したりしたいのかね」 と、小さな男が言いました。
「だって、竜はそうするものと思われているからな、ほかにできることもないし」
「いや、私はそうは思わないね」 小さな男は言いました。「誰かと友だちになろうとしたことがあるかね」
「誰もおれとは仲良くしたがらないんだ」 と、竜はすすり泣きました。
「ほえたり、ほのおを吹き出したりする竜とは、誰も仲良くしたがらないと思うよ。これは何とかしなければならんぞ」 と、小さな男は考えこみながら言いました。
「しかしまず最初に」 彼は続けました 「君のためにせきどめの薬を作ってあげよう」 そして彼は出ていきました。しばらくすると、彼はさまざまな薬草と黒スグリを持ってもどってきました。ほら穴のすみにどんぶりと大きなひしゃくがあるのをみつけると、彼は持ってきたものをみんなまぜ合せ、水を少し入れました。

 それから、彼は竜に言いました 「さてそれでは、口を開けて、舌を出して、私がその上を歩けるようにしてほしい。ひしゃくにせきどめの薬をいっぱい入れて、君の舌のところに持っていって、君ののどに流しこむから、動いたり、すぐ口を閉じたりというようなばかなことはしないでくれよ」
「ああ、わかったよ」 竜は言いました。「もちろんそんなことはしないよ」
そこで、小さな男は薬をスプーンにいっぱい入れてやさしく竜の舌の上を歩いて、スプーンを傾けました。彼は竜にスプーン何杯か飲ませ、それから竜に眠るように言いました。小さな男は、一晩じゅう竜のそばについていて、竜の世話をし、たびたびせきどめの薬を飲ませました。
翌日、彼らは両方とも早く日が覚めました。「おはよう」 と、竜が言いました。
「いいぞ、君の声はもとにもどったようだな」 と、小さな男は言いました。
竜は言いました 「そうだね、しかし、おれのほのおはどうだろう。どうやったら取りもどせるのかな」
「そうだね」 小さな男は言いました 「ほのおがもどってきたら、それをどうするつもりかね。これからは羊飼いの少年や、羊や、村の人びとをこわがらせないと約束してくれるかな」
「約束する、約束する」 と、竜は言いました。そこで、小さな男はまた薬草を使って仕事を始め、今度は強い酒のような水薬を作りました、彼はそれをまた竜ののどに流しこみました。次に、彼は棒の先に麦わらをしばりつけ、火をつけて、竜ののどに突っこみました。フーという大きな声がしました。そして竜が息を吐き出すと、大きなほのおが彼の口から出てきて、小さな男は命からがら、とびのかなければなりませんでした。「もっと注意してくれよ、竜くん」 彼は言いました。「もう少しでやけどをするところだったよ」
「すみません」 竜は言いました。「そんなことになるとは思わなかったんだ。とてもすてきだったけど、もう二度とやらないよ。外に出て新鮮な空気を吸おうよ」
外に出て、2、3分もしないうちに、羊飼いの少年が山腹を登ってくるのが竜の目にとまりました、すると、彼はほえはじめ、ほのおまでも吹き出しはじめたのです。

 これで小さな男はとても不愉快になりました、竜が彼との約束を被ったからです。彼は全速力で山腹をかけあがり、すぐに大きな雪の玉をみつけました。彼はそれをどんどん速くころがして山腹をおりて、叫びました 「竜、竜、こっちを見ろ」 竜は振り向きました、そして振り向いたとたん、雪が彼の口の中にとびこんできました。ヒュウと水蒸気が立ち、プシュッという音がして、竜のほのおがまた消えてしまいました。竜は困ってうろたえ、泣き出しました。
「まあ待て」 小さな男は言いました。「そんなに取り乱すな、そして泣くのをやめろ。ふもとの方が洪水になってしまうぞ」
「だって、あなたのしたことを見てくださいよ。おれは前にもどってしまったじゃないか」と、竜は言いました。
「君は約束しておきながら、その約束を被ったんだ」 と、小さな男はきびしい調子で言いました。

 「申し訳ない」 竜が言いました 「ほんとうに、そんなつもりじゃあなかったんだ、しかし、どうしていいかわからないんだよ。竜はほのおとほえ声をどう使ったらいいのかね」
「私はほえ声についてはわからないが、ほのおを使って何ができるかはわかるよ──たくさんあるよ」 小さな男は言いました。「しかし、まず村人をこわがらせるかわりに、彼らと仲良くしたいとどうして思わないのかね。その方がたしかにいいと思うよ」
「おお、おれだって友だちがほしいんだ」 竜が言いました 「しかし、誰もおれに話しかけてくれないんだ」
「私が話せば、村の人たちはそうしてくれると思うよ」 小さな男は言いました。「さて、君のほのおを取りもどそう、その後で山をおりて村の人たちに会ってくるよ。私が村に行っている間は、ほえたり、ほのおを吹き出したりしないと約束してくれ、そうしないと、君はまた村人たちをすっかりこわがらせるだけだからな」 小さな男は竜のほのおをまた取りもどして、山腹をおりて村へと向かいました。

 彼が村で最初に会ったのは、あのパン屋でした、パン屋はまた彼に会えて、とてもおどろきました。パン屋は起ったことを開くと、すべての村人を呼び集めてその話をしました、しかし村人たちもどうしたらいいのか、あまり確信が持てませんでした。
「たしかに」 小さな男は言いました 「竜にいつもビクビクしているより、彼と友だちになった方がいいよ。彼は君たちのためにいろいろ役に立つだろう」
村の若者たちは同意しました。そろそろ、竜と協定を結ぶころだと、彼らは考えたのです。彼らは竜に会いにいくことに決めました。
そこで、村の若者たちが小さな男といっしょに山を登りはじめました。
彼らが半分ほど登ったとき、竜がほら穴から頭を突き出しました。竜は小さな男を見ました、小さな男は、彼に手を振って叫びました 「オーイ、おりてこいよ」

 「いいんですか」 と、竜はたずねました。そこで小さい男は若者たちに向かって言いました「いいですか」 すると若者たちがみんな 「いいよ、いいよ、おりてこいよ」 と叫びました。
竜は喜びました、そして山腹をくだりはじめました。どんどんと大またでおりたので、そんなに時間はかかりませんでした。すぐに彼は村の若者たちのところにやってきました、すると小さな男が言いました 「さあ来たよ、君たちがたいへんこわがっていた竜だよ。彼は、ほんとうは少しもどう猛な竜ではないんだ。彼がほしいのはただ友だちなんだ。彼の友だちになってくれるかね」
村の若者たちみんなが言いました 「ああ、君がぼくたちの友だちになってくれれば、ぼくたちも君の友だちになるよ」 竜は言いました 「おれはほんとうに君たちの友だちになりたいんだ。おれはずっと、仲良くしたかったのに、今までは友だちが1人もいなかったんだ」
彼らはみんな大喜びし、それから言いました。「さあ、村へもどろう」
「おれの背中に乗れよ」 竜は言いました 「みんな乗せていってやるよ」
そこでみんな竜の背中に登り、彼はみんなを村へと連れていきました。
彼が村に着いたときには、誰も見えませんでした。村人たちは、へいや家や教会のうしろにかくれていました。
「出ておいで」 若者たちが言いました。「出てきて、ぼくたちの友だちの竜を出迎えてよ」 すると、1人、また1人と村人たちは竜を迎えに出てきました、老人も若者も子どもたちも。
「そら」 小さな男が言いました 「あれが友だちをほしがっている竜ですよ。あなた方は彼の友だちになってくれますか」

  村人たちはいっせいに大声で叫びました 「はい、私たちは彼の友だちになるよ。私たちは彼の友だちになりたいんだ」 竜は大声でほえてから言いました 「すみません、ほえるつもりじゃあなかったんです、ただほんとうにうれしくてほえてしまったんです」
「心配するな」 村人たちが言いました。「君が幸せならば、それはすばらしいことだ、私たちもみんな幸せになれるもの」
「もちろん、そうだよ」 と、小さな男が言いました、そして、あたりを見まわしました。「パン屋はどこだ?」
「ここだよ」 パン屋が言いました。「私はちょうどパンを焼くところだ」
「もう火はつけたかい?」 と、小さな男はたずねました。「いや、まだだよ」 が答でした。「それじゃあ、きみの出番だよ、竜くん。ちょっとした仕事があるよ──あそこの大きなドアから頭をさし入れてくれ。あそこの穴が見えるだろう。あれがかまどの火なんだ。ほのおを少し吹き込んでくれ」
「ほのおを少しだって。あなたはほのおを吹き出すなと言ったじゃないか」 と、竜はまごついて言いました。
小さな男は言いました 「今度だけはあそこの穴にほのおを吹き出してもいいんだ」
そこで竜は、フゥーッとぼのおを吹きました、するとすぐにコークスは熱くなり、パンやケーキが焼け、すべてのものの準備がほぼ整いました。
「ああ、うれしい」 竜は言いました。「ほかに私にできることはないですか」
小さな男はあたりを見渡しました。「誰かあの湖で泳いだ人はいるかね」
と、彼は湖を指さして言いました。
「いいえ」 少年たちが言いました。「とても冷たくて泳げないよ」

 「君の出番だよ、竜くん。小さな少年たちと仲良くなりたかったら、水を温めてくれ」 竜はすぐに大きなほのおを湖に吹きかけました、フウーッ、フウーッ、フウーッと。「もう温かくなったかな」
1人の少年が水の中に手を入れました。「ああ、ちょうどいいや。ありがとう」
2、3分もすると、少年たちはみんな水に入ってザブザブと遊びまわっていました。竜はいろいろと役に立つことをやり続けました、それですぐ村じゅうの人が彼を好きになりました。
小さな男もたいへん満足していました、というのは、彼は新しい友だちみんなといっしょにその村に住むことにしたからです。
こうして、彼らはみんな、その後ずっと幸せに暮しました。


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