レディバードブックス100点セット
 

 

おやすみ前の話〔緑〕

〈ただの5本の棒〉

 むかし、いっしょに住んでいる5本の棒がいました。はじめの棒は大きくて強く、手助けするのが好きでした。他のものが何をしていても、彼は 「おお、ぼくに手伝わせてください」 と言うのでした。他のものたちは、いつでも彼をあてにできることを知っていました。
2番目の棒は、ほっそりしていて、神秘的なところがありました。ときどき、誰もやりたがらない、うんざりするようなつまらない仕事があるときなど、彼は 「ぼくにまかせておけ」 と言うのでした。そして、たちまち──その仕事はできあがっているです──しかも誰も、彼が何かをするのを見ることはありませんでした。
他のものたちは目をみはり、まごつき、びっくりするのでした。「君はどうやってそれをしたの?」 と、彼らはびっくりしてきくと、その不思議な棒はうれしそうに、にやりと笑うのでした。彼は彼らをおどろかすのが大好きでした。
3番目の棒は他の棒とはちがっていました。彼は中ががらんどうで細く、少しばかり怠け者で、つき合いにくい棒でした。彼は自分に割り当てられた仕事をするのをいやがりました、そして誰かが何かをするように言うと、彼はぶつくさと 「ばかばかしい」 と言うのがつねでした。そして、それはいいことではありませんよね。
ふたごの棒は小さくてきちんとした、とてもきれいなかわいい棒でした。
彼らは何でもいっしょにやりました、そして何かをするときにはいつでも踊りながらそこへ行き、踊りながら帰ってくるのでした。
ある日、棒たちは立身出世を求めて旅に出ようと決めました。
「ばかばかしい」 と、中ががらんどうの棒が言いました。彼は怠け者で、めんどうなことをするのがきらいだったのです、しかし、不思議な棒が言いました 「きっと、君だってひとりぼっちでここにいたくないだろうね。何もかも自分でやらなくてはならなくなるよ」
「ばかばかしい」 と、中ががらんどうの棒が言いました、しかし強い棒が 「来いよ、助けてあげるから」 と言いました。そこで、冒険への道を出発した連中に、彼らもついていくことになりました。
5本の棒が小さな町に着くと、1人の老人がとてもゆっくり歩いているのに出会いました。彼は弱くなった背中を支えるために片手をうしろにのばし、もう一方は体を支えるために前にのばしていました。
「おお、お手伝いさせてください」 と強い棒は叫んで、老人の前にのばした手の下にとびこみました。
「おやまあ、おまえさんはまさに私が必要としているものだ」 と老人は叫びました、そして棒を支えにして具合よく歩いていきました。

 他の棒たちは市場の広場のまわりを歩いていました。
「ばかばかしい」 と、中ががらんどうの棒がつぶやきました。彼はもはや頼れる強い棒がいなくなってしまったので、きげんが悪くなっていました。
そのとき棒は、指につかまれるのを感じました、誰かが彼を持ち上げたのです。
「ばかばかしい」 とびっくりして、中ががらんどうの棒はささやきました、すると、その男はほんとうに吹きました (原文“oh blow”には「吹け」という意味もある) ──彼は棒に息を吹きこんだのです。
「ホー」 と、棒はおどろいて言いました。
「おまえはすばらしい笛になるよ」 と、その男は言いました。彼はその棒にいくつか穴をあけて、また吹きました。
「くすぐったいよ」 と棒は叫びました、しかし、彼の声はちがうひびきになり、彼は愉快になってクスクス笑いました。
男は吹き続けました。彼は人びとを歌わせる歌を吹き、人びとを踊らせるジッグ舞曲を吹きました。ジッグ舞曲を聞くと、ふたごの棒は、今までに見たこともないほど上手に踊りました、そしてドラマーの少年がふたごの棒を見ました。

 「ああ」 彼は言いました。「君たちはぼくのドラムにぴったりだ」
彼はふたごの棒の足にドラムの皮をトントンとたたかせ、ふたごの棒は大喜びしました。彼らは笛吹きのとなりで、ドラムの上で踊りました。
しばらくすると、笛吹きとドラマーは少し休みました、集まっていた人たちは、何かほかにすることはないかとあたりを見まわしました。
疲れた様子の老人が広場の反対側にいて、人びとに注意を呼びかけていました。不思議な棒の興味をひくものが、その老人にはありました。「私は袖に何も持っていませんよ」 と、その男はほんとうのことを言っているのだと見せるために、袖をばたばたと振りました。「私の手にも何もありません」 と彼は言い、ほっそりした長い指の白い両手を見せました。
「しかし、さて……」 と、彼は片手をあげました──しかし、彼が陶器の卵をその手の中に落とさないうちに、人びとは拍手かっさいしはじめました。人びとにはわかりませんでしたが、手品師も人びとと同じようにびっくりしました、彼の上にあげた手の中に、不思議な棒がにぎられていたのです。

 人びとの顔に浮かんだ驚嘆の表情こそ、不思議な棒がいつも大好きなもので、彼はたいへんうれしくなりました。老手品師の目の中にあるおどろきの表惰が、もっとも彼を喜ばせました。そのショウの間じゅう、彼はそこにいて老人の手伝いをしました。彼らはいっしょになって、ウサギを帽子から出したり、すずの筒から、教えきれないほどのハンカチを出したり、紙を細かく裂いてまた元どおりに見えるようにしたりしました。ショウが終ると、手品師は、これからいっしょにいてショウを手伝ってくれと彼に頼みました、そして、不思議な棒はそれを承知しました。このため手品師はたいへんうれしくなりました。彼のショウは長いこと、そんなにうまくいっていなかったのです。
棒たちは立身出世を求めて旅に出て、なんと幸せだったことでしょう。
今や彼らは──ステッキになり、ドラムをたたく棒になり、音楽を奏でる笛になり、手品師の棒となったのです。それは、ただの5本の棒でいるより、ずっとずっとおもしろいことでした。

〈車のコリン〉

 コリンはいつも夢をみていました。夢をみていると、彼はまわりのきたないごみ捨て場を忘れることができました。そう、コリンはかわいい赤い車でした。彼の持主は、彼をあまりよく手入れをしてくれませんでした、そしてコリンがさびはじめ、タイヤがすりへってくると、彼は町はずれのゴミ捨て場に綱で引っぱられて、そこに置き去りにされました。
夢想していると、小さな車は時がたつのを忘れ、よくコリンの顔に微笑が浮かびました。とくに彼が大好きな夢は、彼がサーカスにいる夢でした。
彼が目をつぶると、リングの上にまかれたおがくずのにおいをかぐことができました。監督が大勢引き連れて、リングをパレードするときの観衆の喝采や、音楽の高らかな音を聞くこともできました。象も長い鼻としっぽをからませて、音楽に合せて行進しています。彼はまた、アクロバットをやる人たちがピカピカ光る衣装を身につけて、羽のように軽くとんぼ返りするのを見ることができました。次に猛獣使いに連れられたライオンがパレードに加わりました。毛むくじゃらのたてがみをふり立てて、彼らはなんとどう猛に見えたことでしょう──しかし、猛獣使いが鳴らすむちの音には、いつも従順でした。上を見あげて、コリンは空中ブランコをやる人たちが空中を優雅にとぶときの勇敢な跳躍や、観衆が興奮して息をのむ様子を思い浮かべました。

 それから、夢のなかの一番いいところを夢みるとき、コリンの顔にうれしそうな笑いがひろがったものでした。こっけいな身ぶりとあざやかな衣装の道化師の登場です。そして、いちばんおかしいのは──ちょうネクタイがぐるぐるまわり、ボタン穴からほんものの水が吹き出すところでした。
道化師のいたずらや、たくさんの水の入ったバケツがぶちまけられて、道化師たちがリングの中をスーツとすべりまわるときの、子どもたちのキャッキャッという声や、拍手を想像して、コリンはひとりでどんなにクスクスと笑ったことでしょう。しかし、そこで、彼はため息をつくのでした。
だって、それはただの夢でしかないからです。いったいどうやって、ガラクタの山の上からサーカスに行けるというのでしょう。まあ、少なくとも夢をみることだけはできました。
しかし、ある天気のよい日、コリンがガラクタの山のてっぺんで寝ていると、妙なゴロゴ口という音が聞えました、それは夢のなかのものではなさそうでした。その音はだんだん大きくなり、近づいてきました、そして、コリンがへい越しにのぞくと巨大な赤いトラックが近づいてくるのが見えました.トラックの横には 「トムリンズサーカス」 と書かれていました。
彼は自分の目を信じることができませんでした。サーカスがこの町にやってくるのです。赤いトラックのうしろには、トラックや、キャラバン車や、車輪のついた動物のおりの長い列が続いていました。たくさんのおりの中に、あらゆる種類の動物がいるのが見えました──大きな灰色の象、どう猛なトラやライオン、つややかな馬、すべすべしたアザラシなどが。それが夢なのかどうかたしかめようと彼は体をゆすってみました。しかし、それは夢ではありませんでした。これはほんとうに起っていることでした。
すると、長い列の中のトラックの運搬台から2人の男が出てきました。彼らは何か特別なものをほしがっているかのように、ガラクタの山をのぞきこんでいました。コリンは、自分のねじ曲がったバンパーや、粉々に割られたヘッドライトや、さびついたドアのあたりを突っつかれるので、不思議に思いました。それから彼らは、コリンにいったい何なんだろうと思わせたまま、トラックにもどっていきました。
翌日、小さい車は空中に持ち上げられているような気がして、目を覚しました。目をあげて、あたりを見まわすと、巨大なクレーンに吊りさげられて、ほんとうに空中にぶらさがっているではありませんか。次の瞬間、彼はトラックの荷台にドスンと乗せられ、ごみ捨て場から連れ出されました。町のでこぼこ道を通り抜けて、コリンは町の反対側にある大きな野原に着きました。トラックの横板からのぞいてみると、野原のまん中にとてつもなく大きなしまのテントがあるので、コリンはびっくりしました。近くにはおりがあり、その中にはからっぽのもありました。サーカスの人たちのキャラバン車も少しはなれた場所にあり、人びとは忙しそうに夕方の公演の準備をしていました。彼はサーカスに連れてこられたのでした。しかし、なぜでしょうか。コリンのような小さなこわれた車に、いったい何を望んでいるのでしょう。
数分たつと、コリンはトラックの荷台からおろされ、2人の男が仕事着をきて出てきました。彼らは重い道具箱を運んできました。彼らはコリンからねじ曲がったバンパーや、すりへったタイヤや、こわれたフロントガラスをはずしました。それから、彼らはペンキの缶や新しいタイヤや部品を使って仕事を始めました。夕方近くには、コリンはピカピカの新車のようになりました。彼はそれを信じることができませんでした。そして男のなかの1人が運転台に乗ってエンジンをかけました、ブルンブルンと大きな音を立てて、自分が野原をまわりはじめるにつれて、コリンはますます興奮しました。これはあまりにもすばらしすぎて、ほんとうだと思えないほどでした。彼はごみの山のてっぺんから救い出されて、また新車に見えるようになったのです。しかし、何のために。この人たちはコリンにサーカスの中でどんなことをさせようと思っているのでしょう。
その夜、彼にはわかりました。読者のみなさんは、この小さな赤い車にどんなことが起ろうとしているのか推量できますか。コリンを発見した2人の男はほんとうにサーカスの道化師だったのです。彼らは道化師の演技に使う車をさがしまわっていて、コリンが幸運にも選ばれたのでした。

 楽隊が演奏しはじめると、今度は衣装を身にまとい、顔に化粧をした道化師が小さな車にとび乗りました。彼らはサーカスリングに車を乗り入れました、スポットライトが、コリンのきらきら光るバンパーやつややかにペンキを塗った車体を照らしました。道化がコリンの新しい警笛を鳴らし、いたるところに水をまき散らしながらリングの上でコリンをぐるぐる走らせると、観衆はかっさいし、笑いました。コリンはたいへん誇らしく、また、うれしく、破裂せんばかりでした。彼の夢は実現されたのです。彼は世界じゅうで一番幸福な小さい車でした。

〈ジュディ──海に行ったことのない小さなボート〉

 庭のすみで
花のそばになかば身をかくし、
木の台の上にのらせれてかわいそうに
ジュディは何時間もすわっていた。

彼女は、ほんとうにたいへんスマートなボートだった──
ペンキがぬられ、みがかれ、きれいな色で、小ぎれいな。
しかし彼女の持主、サムは今や年老いて──
こぐことはとても無理だった。

そこで2年もの長い間、我々のジュディは
庭のへいによりかかって、
しおからい波と風を夢みながら、まだ
海へ出されたことがなかった。

やがて初秋のある日
嵐の雲が空いっぱいにひろがった。
強風が海のかなたから吹き、そして
波が打ちつけた、山のように高い波が。

 ヒュウヒュウ鳴る風はさらに吹きつのった。
さあ、恐怖が小さな町をおしつつんだ。
風と潮と風がみんないっしょになって
防波堤を破壊した。

水がどの通りにも押し寄せた。そして
家々にひたひたと押しよせた、後から後からと。
人びとは2階の寝室に避難した──
しかし、平屋造りには2階はない。

サムは立って、水が靴や靴下まで
あがってくるのをじっと見た、
彼はふるえだした。
すると、急を告げるノックが聞えた。

風や悪天候の物音をついて
ノックの音はさらに大きくなった。
正面の窓から外をのぞいて
サムはいとしいジュディの名を息を切らせて呼んだ。

 そのがんじょうな小さなボートは
骨折ってやっと台からはなれ、水に浮かんだ。
今、彼女は冷静に落ち着いて待った
老いたサムを海から救い出すために。

上下にゆれながらジュディは進んだ、
どしん、どしんとドアにぶちあたって。
子どもも、大人も、犬も猫も叫んだ
「ありがとう」 と、中にころげこみながら。

ジュディのかわいい上を向いたへさきは
より高い地面へと向かって進んだ。
そしてついに、夜明けには、みんな
無事、つつがなく発見された。

その後、近くからも遠くからも、リポーターや
カメラマンやらの一団が来た──
まわりに集まって、勇敢なジュディを軽くたたいた、
ジュディは自分の働きで得た名声を楽しんだ。

今、あなたが彼女に会いたいと思ったら、
ボートクラブに彼女はいるだろう。
人びとはサムを司令官にして
彼はお茶を入れるのをまかされている。

どんな天候のときでも、雨天でも、晴天でも、
誰かが、いつでも、彼女に乗りたがる。
クラブハウスから、金モールを光らせて、
老いたサムは誇りをもって眺める。

そこで、今では毎日、かわいいジュディは
日が暮れるまで走る。
それから彼女は、安全に、港につながれる──
彼女は町のマスコットなのだ。

〈光り輝く竜〉

 「さあ。こんなふうにゆっくりと息を吐くんだ」
竜のダンディは、お父さん竜の大きい鼻の穴から、噴流のような2本の長いほのおが吹き出るのを見守りました。大きな雲のような煙が城壁のあたりにうずまいていました。若い竜の勉強時間でした。
ダンディは大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出しました。とても小さな煙の輪が、彼の鼻のどの側からもチョロチョロと出てきました。たったひとつの火花も出ませんでした。
ダンディは何度もやってみましたが、火を吹くことはできませんでした。
他の生徒たちは火花の洪水を作っていました。赤、青、緑、黄、オレンジ色のほのおが中庭じゅうをとびはねました。
まもなく、城壁は煙の厚い雲にかくされてしまいました。ダンディはひとりになりたくて庭へこっそり出ていきました。

 「さあ、早く」 父のドレッドノート(猛者) がクラスの生徒にどなっている声が聞こえました。「王さまとそのご家来が新しい門番を明日お選びになる、そして、おまえたちのうち一番上手なものが選ばれるのだ。ずっとうまくなったぞ、ドナルド。ほのおをもっと多く、煙をもっと少なく」
ダンディはそれを聞いてため息をつきました。「誰も城の外にぼくを置きたいなどと思わないだろうな」
彼は長いしっぽを頭のまわりに巻きつけ、競技会がはじまったとき、彼らが自分を忘れてくれたらなあと思いました。
ダンディは体じゅう銀灰色でかなり小さい竜でした。彼は体の色が彼の友だちダンカンのような美しい緑色か、すばらしい父親のドレッドノートのような黒と金色ならばなあと思いました。
竜の国の王さまと、すべての貴族は番人の竜を飼っていました。彼らは敵をおどかして追い払うために必要なのではありませんでした──そこはたいへん友好的な国でしたから、彼らはお客を歓迎するために飼われていたのです。
毎年、若い竜のうちの誰が最上の演技をするかを見るために、大競技会が開かれました、そして勝った竜が王さまの宮殿の番人に選ばれるのでした。貴族たちは彼らがもっとも気に入った竜を選びました。
「おまえはできるかぎりスマートに見えなければなりませんよ」 と、ダンディの母親ドーラが、その翌日、彼のうろこをみがきながら、やきもきして言いました。「私はおまえが一番小さい竜で、まだ火も吹けないことを知っていますよ、しかし、おまえが清潔でスマートに見えれば、誰かがおまえを選んでくれるかもしれません。そんなにイライラするものではありませんよ」
ドーラはうろこを1枚1枚、それが光り輝くまでみがきました、そして他の競争相手のなかに送りこみました。
この年には、若い竜は5頭いました。
「ダンディ、おまえは一番小さい。列の終りに並びなさい」 ドレッドノートはいかめしそうに生徒たちに話をし、それを王さまや貴族や貴婦人たちが見守っています。日光が、興奮した若い竜たちの輝くうろこの上に、また、競技会が行われる大きな野原のまわりにはためくあぎやかな色をした旗の上に、きらめきました。
1頭ずつ、期待に満ちた若い竜が順番に競技会のまん中にドシンドシンと進み出て、火を吐くのです。
ダンディの友だちのダンカンが最初でした。彼は激しく火を吹きました。先端が銀色の青いほのおが、彼の緑色のうろこがある背中から、しっぽの先端まで走りました。
「わしはあれをとろう」 王さまが叫びました。「わしはあのようなものは見たことがない。たとえ彼が勝利者とならなくても、わしはあれをとるぞ」
「私をごらんください」 竜のドナルドの金色のほのおが、彼の大きい鼻の穴から何条かに分れた稲妻のようにほとばしりました。貴族の1人がすぐ彼を選びました。
ダーモットという名のあざやかな青色の若竜は緑色の火を吐きました。へクター卿が彼をほしがりました。
竜のデイビッドは2本のまっすぐな赤いほのおが上がるだけでしたが、そのほのおは遠くまで続きました。貴族たちや貴婦人たちはすばやくその行く手から逃げ出さなければなりませんでした。彼はアラベラ夫人に選ばれました。
「みんな選ばれた」 ダンディは悲しくなりました。「たとえ彼らは勝たなくても、行く場所はあるんだ」

 「さあ、行きなさい」 と、ドレッドノートは鼻息でダンディを押し出しました。小さな竜は、自分のしっぽにつまずき、競技場のまん中にころがり出ました。彼はとてもきまりの悪い思いをしました。
「ちっぽけなのね。見る価値はないわ」 と、1人の貴婦人が大声で言いました。彼女はお茶の用意がしてあるテントの方に歩き去ろうとしました。
「彼はとてもきれいよ」 ダンディにかわいい少女の声が聞こえました。
彼は少し勇敢になりました。父に教えられたとおり、深く息を吸って、彼はゆっくりと吐き出しました……
とても小さな煙の輪が両方の鼻から、チョロチョロと出ました。
しばらくの間、静かでした。
そのうち、誰かが笑い出しました。すぐに、居あわせた人たちすべてが笑い出しました。王さまさえもうっすらと笑いを浮かべました。
そのうち、笑いのなかから怒った声が叫びました 「彼のことを笑わないで、一所懸念やったのよ」
それは、彼のことをきれいだと言ったあのかわいい少女でした。彼女はフイオナと呼ばれていました。
「彼にもう1度チャンスを与えてください」 と、彼女は王さまに頼みました。
ダンディは恥しくて頭をたれました。彼はきまりが悪くて、すべてのうろこが熱くなりました。彼は泣き出すまいと身ぶるいしました。

 それから、彼は長い長いため息をつきました、すると、さまざまな色の光が目の前にチラチラしました。
笑い声はやみました。
その静けさの中で、ダンディはさらに大きなため息をつきました、彼がそうすると、彼の全身が明るい光に輝きました。彼のまわりの空気はあらゆる色合の光に輝きました。光は、たえず変化するいろいろな美しい模様を描いてきらめき踊りました。
「おーおー」 と、誰もがため息をつきました──今度はよるこびのため息でした。「もう1度。もう1度、ダンディ」 と、彼らは叫びました。

 小さな灰色の竜は目を開け、涙にぬれた目でまわりの人びとを眺めました。
まわりじゅうのうれしそうな顔をみて、彼はさらに大きく喜びのため息をつきました──そしてさらに明るく輝きました。彼は自分の光り輝く足を見おろし、楽しそうに笑いました。
「お願い、彼を家に連れて帰っていいでしょう。お願い、お父さま、彼を連れていっていいでしょう?」 と、フィオナは頼みました。
「王さまが彼をほしがるかどうかを確かめなければならないよ」 お父さんが彼女を見おろして言いました。「彼が勝ってもがっかりするのではないよ。王さまは、いつでも勝った竜を宮殿にお連れになるからね」
若い竜をみんな1列に並べて持たせておいて、審判員たちが話し合っているのを、フィオナは見守りました。彼女は小さな灰色の竜が勝ってほしいと思っていました──しかし、彼女は自分も彼を家に連れ帰りたかったのです.
ついに王さまは立ちあがり、みんな王さまの方を向きました.
「今年の競技会の勝利者は」 彼は発表しました 「ダンカンである。我々はこれまであのような美しい火は見たことがない」
王さまがダンカンの首にメダルをかけると、人びとはみんな拍手しました、しかし、なかにはおどろいている人もいました。彼らはダンディが勝ったと思っていたのです。
「若い竜のダンディは、我々にたいへんすばらしいショーを見せてくれた、我々はみな彼を自分の城に連れていきたいと思っていると私は確信している、しかし、我々は彼に賞を与えなかった、それは彼が火を吐く竜ではないからだ。私は彼が落胆しないように望む」 王さまはダンディにほほえみかけました 「なぜならば、我々は、竜の国が誰も見たことがなかった光り輝く竜を生み出したことをたいへん誇りに思っているからである」
フィオナは父親の袖を引いたので、急いで彼は、ダンディを城の番人に選びたいと大声で叫びました。彼を連れていきたいという人たちはほかにもたくさんいましたが、彼らは遅すぎました──フィオナはすでにダンディを連れ去っていたのですから。

 その後、フィオナの父親の城の門番を見るために、人びとがいたるところからやってきました。すばらしい色が空中高く、形を変え、色を変えながらいつまでも舞いあがりました。夜、ダンディが鼻からしっぽの先まで輝き、不思議な模様が空中にゆらめくのを見るのはすばらしい眺めでした、そして、ダンディが寝てしまうまでは、誰も家に帰りたがりませんでした。
フィオナは大人になると、王子さまと結婚しました、そしてダンディは、それまでに作ったこともないほどすばらしい光の舞を見せながら、結婚式の行列の先頭に立ちました。それから彼らはみんな王子さまの国へ行き、そこに住みました。
ときどき氷にとざされた国の夜空に、不思議な光がゆれ動き、輝きます。
人びとはそれを 「メリー・ダンサーズ」(楽しい踊り子) と呼びます、しかし、もしかすると──ほんとうに、もしかするとですが──それは遠く遠く離れたフィオナの家を守っているダンディかもしれません。

〈もうひとりのジョウゼフ〉

 ダニィはお母さんがプレイ・スクールへ迎えにきてくれたとき、とても興奮していました。彼はお母さんを迎えに出て、叫びました「ぼく、クリスマスの劇に出るんだよ、ママ、ぼく劇に出るんだよ」
「それはよかったこと」 お母さんは言いました。「何の役をやるの」
「宿屋の主人なんだ」 ダニィが言いました 「ぼく『部屋はありません、部屋はありません』と言わなくちゃならないんだ。ティムソン先生は、ぼくに長いローブを着て、頭に何か巻きなさいと言ったよ」
ダニィはとても興奮して、おやつも食べられないほどでした。「ぼくがパパに言うまで待っててね。パパ、おどろくよね」
「おやつをおあがり」 お母さんはほほえみました。「宿屋の主人は、食べないと仕事ができませんよ」
お父さんが帰ってくると、ダニィは彼に話しました、そして次の日の朝、牛乳配達のピーターに、そしてその次の日には、郵便配達のビルに話しました。実際、彼はほとんど会う人ごとに話しました。

 プレイ・スクールでは毎日、子どもたちは劇のけいこをしなくてはなりませんでした。覚えることはたくさんありました、せりふを覚えるばかりでなく、クリスマスキャロルも覚えなくてはなりませんでしたから。
お母さんは隣のブリッグ夫人に、ダニィは朝も昼間も夜も──
「まぐさおけの中に、子ども用の寝台もなく、小さな主イエスはそのかわいい頭を横たえていました」 と歌っているのですよと話しました。
ある日、ティムソン先生は言いました 「私たちはウェンディ・ハウスを宿屋として使うことにします。ダニィ、あなたは中にすわっていなさい、そしてジョウゼフがノックするまで出てきてはいけません」 それから、彼女は部屋の中を見わたして言いました 「さあ、あの3人の王さまは、いったいどこにいるのでしょう」
ウェンディ・ハウスの中には、ダニィが小さな椅子にすわっていられるだけの十分な余地がありました。外には羊飼いたちの話し声が聞えましたが、姿は見えませんでした。
しばらくして、彼はウェンディ・ハウスの小さな窓から外がのぞけ、羊飼いたちの声を聞くだけでなく、その姿も見えることに気づきました。3人の王さまが入ってくる入口も見えました。彼らはほとんどいつも遅れるので、ティムソン先生はときどき少し不機嫌になりました。
「あなたたち3人の王さまは、ちゃんと聞いていなくてはいけませんよ。あなたたちは廊下で少し騒ぎすぎているんです。ジュディが『東方から3人の王さまがみえました』と言ったらすぐに入れるように、用意していなければいけません」
「ママ、ナレーターってなに」 と、ダニィはある日、家に帰るとすぐにたずねました。
「ナレーターというのは、お話の語り手のことよ」 と、彼女は説明しました。
「ジュディはそれなんだ」 ダニィは言いました。「彼女はとてもたくさんの言葉を覚えなくちゃならないんだ」

 ある日の午後、ごみ集めの人たちが来ると、ダニィはかけだしていってジョゥゼフに劇のことを全部話しました。2人は大の仲よしでした。というのは、ジョウゼフは、いつでも小さな男の子の話をよく聞いてくれたからでした。
「宿屋の主人とは、いい役をもらったと私は思うよ」 彼は言いました。
「大役じゃないけれど、重要な役だもの」
「ほんとうにそう思う?」 と、ダニィはとても誇らしげに言いました。
「もちろんそう思うよ。もしもあの宿屋の主人がいなかったら、彼らは眠るところがなかったからね。そうだろう?」 と、ジョウゼフは門をしめながら言いました。
お父さんが帰宅したとき、ダニィは彼に話すのを持ちきれないほどでした。「ごみ集めのジョウゼフが、宿屋の主人はとても重要な人だと言ったよ」 と、彼は叫びました。
「ジョウゼフはいい人だね」 と、お父さんはテーブルごしにお母さんにほほえみかけました。
週を追うごとに、リハーサルはだんだん長くなりました、そして発表会の1週間前、たいへんなことが起りました。3人の王さまの1人が王冠をなくしたのです。王さま役の子どもたちは、ほかの物といっしょに大きな段ボールの箱に彼らの王冠をしまっていました、ところがどうしたことか、王冠がひとつなくなってしまったのです。みんな熱心にさがしましたがみつかりませんでした。
3人の王さまはとても心配しました.すると、ティムソン先生が、発表会にまにあうように別の王冠を作ると約束しました。
やがて、わくわくする当日が来て、ティムソン先生が言いました 「さあ、みなさん、けさはきちんと衣装をつけてリハーサルをします。みんなが歌を歌います、そしてあなたがた3人の王さまはジュディの声が聞こえたらすぐ入れるように準備しておきなさい。ダニィ、あなたはジョウゼフがノックしたら外に出てくるのですよ。さあ、始めましょう」
ダニィはわくわくして、じっとしていられませんでした。彼は歌うことも忘れなかったし、羊飼いたちの声も聞えました。やがて突然、大きなノックの音がしました。ダニィはたいへんびっくりしました、ジョウゼフとマリアの出番はまだでしたから。彼は小さな窓からのぞきましたが、自分の目を信じることができませんでした。ごみ集めのジョウゼフが戸口に立っていたのです。彼はティムソン先生のそばに行って言いました 「すみません、ティムソン先生、ごみいれのそばの紙くずの中にこれがあったんです、だいじなものだと思ったもんですから」
彼が行方不明だった王冠を高くかかげると、子どもたちがわっとどよめきました。
お父さんはその晩お茶の時間にその話を聞くと、言いました 「ほんとうに生きているジョウゼフがノックするなんて、すてきじゃないか。来年、ティムソン先生はクリスマスの劇に、ごみ集めの人の役も作らなければならないだろうと私は思うよ。おまえはどう思うかね」

〈のろまのシマウマ ゼベディ〉

 アフリカの平原で
ある暑い天気のいい日、
黒と白の小さなシマウマが数頭、
夢中で遊んでいた。

彼らの大好きな遊びはかくれんぼ、
というのは、みつからずに
木から木へと無事走り、なお
草の中にかくれていられたから。

勇敢な若者、ゼベディは、
(お母さんはゼブと呼んでいたが)、
ほら穴によじのぼってかくれた
くもの巣のうしろに。

友だちは誰もみつけられなかった。
そして、彼らは彼の名前を呼んだけど、
ゼブは静かにじっとしていた、
それで彼はゲームに勝った。

「ぼくが勝った、ぼくが勝った」 彼は喜んで叫んだ。
「ぼくが勝つってことは、いつもわかってたんだ」
そのとき、足をふみはずして──落っこった、
そして、ドシンと地面に落ちた。

ジャングルの仲間たちが助けにきた。
泣き出しそうな仲間もいた。
しかし、ゼブはとんで立ち、笑って、
言った 「心配はないよ、みなさん」

「どこにもけがはしなかったよ、
ぼくは何でもないよ」
「おお、そうじゃない」 友だちはみんなやじった。
「君は、とってもひどい様子だよ」

というのは、ゼブはほら穴に落ちたとき、
たいへんこわい思いをしたので、
彼の美しいしま模様は粉々になり
黒と白の四角い模様に変っていた。

 「おお、めちゃくちゃだ」 かわいそうにゼブは泣きわめいた。
「ぼくはどうしたらいいだろう」
「行ってしまえ」 友だちが言った。
「ぼくたちはおまえとは遊ばないぞ」

涙がゼブの碁盤じまの鼻を流れ落ちた、
彼はたいへん悲しかった。
友だちはみんな彼を見捨てた──
ほんとうにひどいことだった。

彼はいい場所をさがしにさまよい出た
人びとが笑わない場所を。
ジャングルの仲間たちはとても不親切だった──
そうだ、キリンさえも。

彼はとうとう町にやってきた
人びとは立ちどまり、じっと見た
シマウマが通っていくのを
黒と白の碁盤じまのシマウマが。

すると誰かが彼の耳にささやいた、
「私はおまえがいるべき場所を知っている
私といっしょにおいで、奇妙な若い友だちよ。
私はおまえを動物園に連れていってやろう」

 動物園はまさにゼブの居場所だった。
子どもたちは彼の基盤じまを愛した──
十文字並べ、チェス、チェッカーなど、
彼らはいっしょになって遊んだ。

そしてゼブのます目がいっぱいになると、
彼は力をこめて洗った。
すると子どもたちがみんな集まって、
また彼の上で遊ぶのだ。

こうして、ゼブは幸せをみつけ
今はもうゆううつではない。
彼は黒と白のゲームをしている
動物園にぴったりのゲームを。

〈ごちゃまぜデー〉

 誰もが退屈していました。動物たちさえも退屈していました。彼らはみんな、ワクワクするようなことが起ればいいなと思っていました。
「何かが起るだろう」 と、彼らは期待を持って言いました──しかし、何も起りませんでした。
「何かお祝いがしたいな」 と、彼らは言いました──しかし何を祝っていいのかわかりませんでした。
何日かたちました。人びとはますます退局になりました。太陽さえも輝こうとしませんでした。
郵便屋さんは、毎日手紙や小包を配達しながらため息をついて 「やれやれ」 と言いました。
パン屋さんは、毎日パンやケーキや甘パンを焼きながら、ため息をついて言いました 「やれやれ」 と。
バスの運転手は毎日同じ道を運転しながら、たいへん退屈していました。
彼はバスの停留所がどこにあるのか忘れるほどでした。バスの乗客もため息をついて 「やれやれ」 と言いました。
やがてある日、市長のタンクルさんがうまいことを思いつきました。彼は町じゅうの人びとを呼び集めて言いました 「ごちゃまぜデーのお祝いをしよう」
誰もが奇妙に思いました。「ごちゃまぜデーって何をするのですか」 と、彼らはたずねました。
タンクルさんは、ごちゃまぜデーにはすべてがいつもとは違うのだと彼らに話しました。
誰もがいつものことをしてはいけないのでした。
人びとは、その日は仕事を変えることができました。
子どもたちは、みんな学校が休みになりました。
動物たちまでも、いつもとは違った鳴き声をたてることができました。
そして──広場で大きなパーティをやることになりました。「フレー、フレー」 みんなが言いました。「それなら、退屈しないだろうな」

 彼らは次の月曜日を、ごちゃまぜデーにしようと決めました、そして準備を始めました。
月曜日の朝には、太陽が明るく輝きました。旗が通りにはためき、2階の窓からは風船がゆれました。広場には長いテーブルが並べられ、その上はおいしい食べものでいっぱいでした。誰も退屈だとは思いませんでした。
「さあ、お祝いをしよう」 と、彼らは陽気に言いました。そして、お祝いが始まりました。
気分転換のために、郵便屋さんが牛乳を配達しました。
気分転換のために、パン屋さんがパンやケーキのかわりにソーセージや肉を売りました。
気分転換のために、バスの運転手さんは子どもたちを小馬や軽馬車に乗せて、公園に行きました。
誰もが幸せな気分で、大笑いしていました。しなければならないことをするかわりに、人びとはしたいことをしました。広場のパーティは1日じゅう続き、人びとはタンクルさんが作った、ごちゃまぜデーのための特別な歌を歌いました。それは、ごちゃまぜデーにふさわしい歌でした、韻なんか全然ふんでいませんでしたから。

 郵便屋さんが牛乳を配達し
牛乳屋さんが手紙を持ってきた。
パン屋さんが肉を売り
肉屋さんがパンを売った。
きょうはごちゃまぜデー
お祝いをしてるんだ。
みんな逆立ちをしているみたいだ。

ネコがワンワンと吠えはじめ
イヌがニャーニャーと鳴きはじめ、
牛がヒヒーンといななきはじめた

そして誰もが言う
きょうはごちゃまぜデー
お祝いをしてるんだ、
みんな逆立ちをしているみたいだ。

翌日、人びとはいつもの仕事にもどりました。
子どもたちは学校にもどりました。
動物たちの鳴き声もいつものとおりになりました。
しかし、誰も気にしませんでした.
「これはいいや」 と郵便屋さんは、手紙や小包をまた配達しながら言いました。
「これはいいや」 とパン屋さんは、パンやケーキや甘パンをまた焼きながら言いました。
バスの運転手さんは時間どおりにいつもの道順を運転し、停留所も全部思い出しました。バスの乗客たちも言いました 「これはいいや」
町の人びとは1年に1度ごちゃまぜデーを祝うことに決めました、その日は、人びとをふたたびたいへん幸せに、そして愉快にしたからです。市長のタンクルさんも喜びました。今や人びとはいつも期待して待つことがあるのです。
誰も退屈を感じることはもうないでしょう。

〈マンディと月の妖精〉

 マンディはたった5歳でしたが、世界じゅうでもっとも誇らしい少女でした。彼女は秘密を持っていました、そして、もしそれを誰かに話しても、信じてもらえないとわかっていました。そこで彼女はそれを心に秘めていました、しかし、おとぎ話の本を読むときはいつも、うれしくて微笑しました。彼女は、その本がどの本よりも広く世界じゅうを旅していることを知っていました。もっとも奇妙なことは、彼女がそれを手離してしまったのにもかかわらず、またそれを持っていることでした、どうしてそんなことになったかが、これからわかります。
ある夏の夜、お母さんが妖精の話をマンディに読んできかせました、その後、彼女は絵を見たり、たいそう長い間本のページをめくっていて、眠くなってしまいました。突然、窓のあたりにごくかすかな音がしました。
夏なので窓は開いていました、それで暗やみをのぞくと、見たこともないほど小さくきれいでかわいい妖精が見えました。妖精はチョウチョウのような透きとおるほどのうすい羽根をつけて、そこに立っていました。彼女は月の光にかすかに光るかわいいドレスを身につけて、ほんとうにきれいでした。
「ハロー」 マンディは言いました。「私は、うとうとしていたところよ」

 「そうね、私にはわかっているわ」 妖精は答えました。「私はあなたを見守るためにつかわされたのよ」
「私を見守るためですって」 と、マンディはたずねました。
「そうよ、私は月の光っていう妖精よ、それが私の仕事だし、私もそれが大好きなの」
マンディはちょっとの間、まごつきました。「もしあなたが私が眠っている間も見守っていなければならないのなら、あなたはいつ眠るの」
妖精は笑いました。「あら、私は昼間眠るのよ。ほら、私は月の妖精でしょ、だからお月さまが輝くときだけ出てくるの」
「私も月の妖精だといいのになあ」 マンディは言いました。「眠るよりは、あなたのように外に出たいわ」
かわいい妖精はしばらく考えていました。「お月さまへ行って、月の妖精を訪ねたい?」 と、彼女はたずねました。
「ええ、ぜひそうしたいわ」 と、マンディは熱心に言いました、それから思い出して 「お願い」 とつけ加えました。
かわいい妖精月の光はほほえんで言いました 「連れていって、彼女たちみんなに会わせてあげましょう」
「どうしたらそこへ行けるの」 マンディは少し心配になってたずねました。
「簡単なのよ」 妖精月の光は答えました 「ただ私の手につかまっていればいいの、そうすれば、私といっしょに飛べるわ」
マンディはすぐにベッドからとび出して、ふと立ち止まりました。「ちょっと待ってて」 彼女は声をあげました。「月の妖精たちに贈物を持っていきたいの、何があげられるかしら」彼女はちょっとの間、あたりを見まわしました。「ああ、あったわ」 彼女は言いました。「この本を持っていくことにするわ。中にかわいい絵があるし、みなさんも気に入ると思うわ」
月の妖精は微笑しました。「私も彼女たちは気に入ると思うわ、たいへんいい考えね」 彼女は答えました。「さあいらっしゃい、私の手にしっかりとつかまってちょうだい、出発しますからね」

 夜のやみのなかを彼女たちは上へ上へと飛んでいきました、マンディはしっかりと月の妖精の手をつかんでいました。どんどん高く彼女たちは飛んでいきました、すると、マンディはとても不思議なことに気がつきました──高くあがればあがるほど、本が重くなってくるのです。
「もうすぐ着きますよ」 妖精が叫びました。「すぐそこまで来ています」
やがて、彼女たちは渦巻く雲のなかを通り抜けて暗やみのなかに入り、夜空に着きました。「さあ、着きましたよ。あれが見える?」 と、妖精が大きな声で言いました。
マンディが見上げると、とても明るいものが見えました。「あれは何ですか」 と、彼女はたずねました。
「あれは天の川よ」 と、妖精が大声で答えました。突然、そっと彼女たちは明るい星に下り立ちました。今はすべてがとても静かでした、すると妖精が言いました 「もう大声を出す必要はないわ──私たちは小声でお話ししなければならないのよ」
「どうして小声でなければいけないの」 と、マンディはたずねました。
「すぐに教えてあげるわ」 彼女は言いました。「しかしまず、月の妖精たちが仕事をしているのを見に行きましょう」
彼女たちは、星の小さな道を少しつま先で歩きました、すると、何十人というかわいい月の妖精たちが熱心に働いているのが、マンディに見えました。

 彼女たちは、よく光るように星をみがいていました。
「これはこれは」 マンデイは言いました。「あなたたちがすべての星をみがき上げなければならないなんて、知らなかったわ」
「もちろんみがきたてるのよ。私たちは星をみんな明るくしておかなければならないの、それに星がいっぱいあるので、私たちの時間はそれに全部とられてしまうのよ。それはそれはたいへんな仕事なの。それに私たちは夜にしかそれができないのよ」
マンディは、空には何百万という星があるので、妖精たちはただみがいて一生を終らなければならないのだと思いました。
「さあ、用意はできた?」 妖精が突然ささやきました。
「何の用意?」 と、マンディはたずねました。彼女は一瞬、妖精が自分にみがくのを手伝わせるつもりなのかと思いました。
「昼間の妖精を見る用意よ──でも、私たちはとても静かにして、小声でしゃべらなければならないのよ」 妖精月の光は言いました。「ほら、昼間の妖精は昼間じゅう働かなければならないの、だから夜眠るのよ」
「わかったわ」 マンディは言いました。「あなたは月の妖精でしょ、そして、夜働いて昼間眠るのよね」
「そのとおりよ」 と、彼女は言いました。
「えーと、昼間の妖精は何をしなければならないの」 と、マンディは知りたがりました。
月の妖精は笑いました。「すぐにあなたにもわかるわよ」
そう言いながら彼女はマンディの手をつかみ、彼女たちはすべてが柔らかで絹のような大きな白い雲の渦巻きの方へ飛んでいきました。月の妖精は雲をやさしく押しました、すると雲の切れ目ができました。
「ここにそっとお入りなさい、とても静かにね」 と、彼女が言いました。
マンディは彼女に続いて雲の中に入りました──すると、なんとすばらしい眺めが彼女の目に映ったことでしょう。雲全体に銀色の裏がついていて、たいへん柔らかでした。

 「私の手を離してはいけませんよ、離すと落ちてしまいますからね」 妖精月の光がささやきました、それから、彼女が雲の2番目の層をそっと持ち上げると、マンディにその中がよく見えました。何列も何列ものデッキチェアが彼女の目にも映りました、そしてどのデッキチェアにも昼間の妖精がぐっすり眠っていました。どのデッキチェアの足もとにもペンキのちっぽけなかわいいかんがありました。
「まあ、かわいいこと」 マンディは言いました。「妖精が雲のなかで眠ってしまうなんて、私知らなかったわ」
「そうなのよ、昼間の妖精はそうするのよ」 妖精が話してくれました。
「これは昼間の妖精なのよ、彼女たちの仕事は昼間虹にペンキを塗ることなの。彼女たちの仕事も、とてもだいじな仕事なのよ」
「彼女たちはすごく疲れているにちがいないわ」 マンディは言いました 「彼女たちを起してはいけないわ、でも、ただ私がここに来たことを知らせるために、彼女たちに何か贈物を置いていきたいわ」
そう言いながら、彼女はちっぽけなかわいいデッキチェアの足もとに、彼女の本を置きました。しかし、なんということでしょう、彼女が本を離すやいなや、それは雲をつき抜けて視界から消えてしまいました。それは重すぎたのにちがいありません……そして、この話のなかでもっとも不思議なところがここです。マンディが贈物に置いていこうとした本は、地上に落ちました、そして、マンディがあくる朝目を覚したとき、なんということでしょう、その本はそれが持ち出されたところ──つまり彼女がそれを読んでいたベッドの足もとに、ちゃんとあるのを彼女はみつけました.
たぶん、あなたもいい子ならば、ある夜月の妖精があなたを訪問するかもしれません。彼女は虹にペンキを塗る妖精や、星をみがく妖精を見せにあなたを連れていってくれるかもしれません。

〈ジェインの子ネコ〉

 ジェインは6歳の誕生日に階下におりてきたとき、自分の目を信じることができませんでした。台所の片隅に、気持よさそうなかわいいかごに、ちっぽけな黒いネコがいたのです。
「こ……これはどこから来たの? 誰の子ネコ?」 と、彼女はたずねました。
「あなたのよ。お誕生日おめでとう、かわい子ちゃん」 ママがにこっと笑って言いました。
目をぱちくりさせ、おずおずとジェインを見上げている、そのかわいいふわふわした生きものを、ジェインはやさしく抱き上げました。
「私にですって?」 ジェインは小さな声で言いました 「おお、かわいい子ネコ。でもパパは、家ではペットを飼わないといつも言っていたと思うけど」
「えーと、パパの気が変ったのよ、そうでしょう、あなた」 ママはパパに目くばせしながら言いました。
「そうだよ」 パパはうなずきました。「おまえがあまりほしがるものだから、ママに説き伏せられたのさ。しかし、世話はおまえがしなければならないよ」
「はい。もちろん私が世話するわ」 ジェインが、ママから子ネコを取ってその柔らかい頭をなでながら言いました。彼女は腕のなかにそれをしっかりと抱きしめました。
「ありがとう」 彼女は言いました。「これは今までで一番の誕生日の贈物よ」

 「さて、子ネコが行儀よくしてくれればいいが」 とパパが、いかめしそうなふりをして言いました。
「きっと行儀よくすると思うわ。彼はそんなにいたずら好きには見えないわ」  ママが言いました。「近いうちに名前をつけなくてはならないわよ」
子ネコはまたジェインを見上げました。その小さな顔がたいへんこっけいなので、ジェインはすぐに名前を考えつきました。
「スキャンプ(お茶目) と呼びたいわ」 ジェインは叫びました。「ぴったりの名前でしょう。そう思わない?」
「それなら、その名にふさわしい行動をとらないでほしいな」 パパは笑いました。「さて、郵便屋さんがけさ何か配達してくれたかどうか見てくるのはどうかね。きょうは何しろおまえの誕生日なんだから」
「ああ、そうだったわ」 と、ジェインは甲高い声で言いました。彼女は興奮して、ほかのことは忘れていたのです。彼女はスキャンプを注意深くかごにもどすと、玄関へかけていきました。玄関マットの上に、たくさんのバースディカードと小包が2つありました。
ジェインはそれをすべて台所に持ち帰り、バースディカードを見ようと急いで封筒を開けました。次は小包の番でした。
パパとママが手伝ってひもをきりました.おじいちゃんとおばあちゃんが、すべりぶたがつき、上の仕切りの部分が回転する、美しい木の鉛筆箱を送ってくれたのを見て、ジェインは喜びでぞくぞくしました。その中にはいろいろな色の鉛筆や、消しゴムや、赤い鉛筆けずりでいっぱいでした。
そして、ふたの上には彼女の名前が飾り文字で印刷されていました。彼女はそれを学校へ持っていって自慢することでしょう。
もうひとつの小包には、ポーリンおばさんからのジグソーパズルが入っていました。何のジグソーだと思いますか。ジグソーの絵は、スキャンプのかごとほとんど同じようなかごから外をのぞいている、いたずら好きの2匹の子ネコの絵でした。ほら、みんなジェインが子ネコ好きなことを知っていたのです。ポーリンおばさんは、とても注意深くジグソーパズルを選んだのでした。
ちょうどそのとき、ジェインはなにか柔らかいものが足にふれるのを感じました。

  それはスキャンプでした。彼はテーブルからひもがぶらぶらしているのを見ていて、じゃれつくのを抑えることができなかったのです。彼はふざけて足でひもにじゃれついていました。次に彼はそれをテーブルから引っぱりおろして、ころげまわり、ひものなかにがんじがらめになってしまいました。ジェインは大笑いしました。ママもパパも笑いました。みんな、まちがいなく、この小さな子ネコのおかげで愉快に過せるでしょう。
ママはジェインに、スキャンプのための小さなおもちゃの作り方を教えてくれました。彼女は新聞紙をまるめて、そのまわりにひもをしばりつけました。
ジェインがひものはしを持って、床の上に紙をゆさぶると、スキャンプは興奮して気違いのようになりました。彼は足でそれをもてあそび、あたりじゅうそれを追いかけまわしました。彼は低く身をかがめ、それがまた動くまで見張りながら待っていました。それから彼はそれがネズミででもあるかのように、それにとびかかり、足でそれをころがし、さらに空中に投げ上げ、落ちるとまたとびかかるのでした。

 「この子ネコに何か食べるものをあげる時間だと思うけど」 ママが言いました。「あんなに遊んだので、おなかがすいたでしょう」
「おいで、スキャンプ」 ジェインは言いました。「ち、ち、ち」 と、彼女は子ネコを呼んで、ママがクリームの多い牛乳を注いでくれている、お皿のところへ連れていきました。スキャンプは疑わしそうに、はじめは匂いをかぎました、しかし、すぐにそれをなめつくしてしまいました、彼の小さなピンク色の舌が、目にも止まらないほど早く、出たり入ったりしていました。
子ネコが牛乳を全部飲んでしまうと、ジェインは身をかがめて、この新しい友だちをなでました。それから、彼女は彼を抱き上げ、その毛におおわれた頭とあごをくすぐりました。スキャンプは満足気にのどをゴロゴロ鳴らし、ジェインに身をすり寄せました。そして、ジェインが彼をかごにもどすと、子ネコは居心地よさそうに身をまるくし、目を閉じて、ぐっすり眠ってしまいました。彼は遊び疲れていたのです。
朝食の後、ジェインは幸せそうな気分で、学校へスキップしていきました。けさは先生や友だちに話すことが、ジェインにはいっぱいありました。
これは今までで最良の誕生日でした。


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