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紫式部 1/8

学問好きの父と子

 いまからおよそ1000年ほどまえの平安時代のなかば、京都に藤原為時という人がいました。朝廷につとめる役人で、身分はひくいけれど、たいへん学問のできる人でした。為時は妻を失ってからというもの、おさない子たちのゆくすえが気になってしかたがありません。

 「子どもたちには、せめて学問だけはしっかり身につけさせたいものだ」

 為時は、しごとをおえて朝廷からもどってくると、むすこの惟規に漢文の読みかたを教えました。

 まいにち夕方になると、本を読む惟規の元気な声がおくのへやから聞こえてきます。

 本といっても、中国のえらい学者が書いた『史記』という歴史の書物です。むずかしい漢字ばかりの文ですから、なかなかうまくは読めません。とまどうたびに父が手本を示して、ゆっくり読んできかせます。

 ある日、朗読のけいこをおえた父と子がへやを出てくると、おかっぱ頭の女の子が、ろうかにちょこんと座っていました。

 「なんだ、おまえ、こんなところで何をしておる?」

 「おにいさまのおけいこを聞いておりました」

 「ハハハハ、おまえがか?」

 まだ人形遊びがにあいそうな7歳ぐらいの少女です。為時がわらうのも無理はありません。

 「あら、おとうさま……じゃあ、きょうのところを、わたし、いってみましょうか」

 わらっている父と兄のまえで、少女は目をつむると、『史記』の暗唱をはじめました。おさない口もとから次つぎに出てくることばがあまりにも正確なので、聞いているふたりはわらってなどいられなくなりました。

 「どこでそんなにおぼえたのか」

 「だって、まいにちここで聞いていましたもの」

 (この子が男の子だったら、きっと立派な学者になれるだろうに……)

 為時は、わがむすめの頭に手をおいて、心からそう思いました。


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